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雷子  作者: 三幸
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雷編 時の銅雀 中

雷編 時の銅雀 中



 キョウは江陵に一人向かう。赤壁の大勝からの追撃で呉軍の猛攻が始まろうとしていた。


 劉備軍もまた南荊州の平定に向けて動き出していた。


 キョウは呉軍の陣営に到着する。


キョウ「すみません。こちらに周瑜様が、いらっしゃると思うのですが」


 キョウは呉の陣営の入り口にいる陸遜に声を掛けた。


陸遜「あっ、はい。周瑜様はここにおりますが……あなたは……」


キョウ「申し遅れました。劉備軍軍師、いや軍師見習いのキョウと申します」


陸遜「劉備軍の方でしたか……それならどうぞ。ご案内します」


キョウ「ありがとうございます。あっ、それと呂蒙殿はこちらに?」


陸遜「はい。おりますが現在は軍務の為に出ております。お姉様と面識があるのですか?」


キョウ「いいえ。呂蒙殿とは一度、お会いして見たかった方でしたので。あなたは呂蒙殿の妹でしたか」


陸遜「血の繋がりはありません。ですがそれ以上の繋がりを持つ関係です」


キョウ「そうでしたか。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」


陸遜「陸伯言と申します」


キョウ「陸……伯言……」


 キョウは夷陵の大計を成した軍師が目の前にいる事に驚く。


陸遜「神妙な面持ちをされては困ります……どこかでお会いしましたか? 初対面ですよね?」


キョウ「申し訳ございません。そのあまりにも可愛いらしいと言いますか……その……」


陸遜「…………」

 陸遜はキョウを睨み付ける。


陸遜「周瑜様の元へご案内します」

 陸遜は短絡的に伝えた。キョウの言葉に軽薄さを感じ良い印象は抱いていないようだ。



 キョウは陸遜に周瑜のいる天幕に案内される。


陸遜「周瑜様。劉備軍のキョウ殿が参りました」


周瑜「キョウ? ああっ……諸葛亮殿と一緒にいた方ですね。通しなさい」


陸遜「キョウ殿。こちらに」


キョウ「失礼します。周瑜様、赤壁での大勝おめでとうございます」


周瑜「ありがとう。そんな祝辞を言いに来たのではないでしょう」


 周瑜はキョウが来たことに警戒していた。


キョウ「はい。その通りです」


周瑜「劉備殿の言伝があるならお聞きしましょう。それとも諸葛亮殿から南荊州を獲るにあたり、一応の筋を通しに参ったのかな」


キョウ「そのどちらでもありません」


周瑜「どちらでもない? ではキョウ殿は独断でここへ? 呉へ士官を希望であるなら筋を通しなさい。劉備殿と袂を分けてなら考えなくもありません」


キョウ「ははははは。誠に申し訳ございません。そういう意味でもありません」


周瑜「では一体、何故ここに? これより我々は江陵攻めであなたに時間を割く程、暇ではない」


 周瑜はあからさまに不機嫌な態度を取る。


キョウ「劉備軍は現在、南荊州の攻略の最中です。四郡全ての攻略を終え次第、南荊州は劉備軍が落とし呉軍に全てお渡しします」


 「!!!」

周瑜と陸遜はキョウの突拍子のない言葉に驚く。


周瑜「どういうことです? 劉備殿にとって大事な領地になり得る場所ですよ」


キョウ「確かにそうかも知れません。しかし、条件があります」


周瑜「私に条件を突き付けるとは中々の度胸です。言ってみなさい」


キョウ「江陵と合肥から撤退して下さい」


陸遜「え!」


周瑜「…………」


 周瑜はキョウを睨み付けた。


キョウ「赤壁の戦いは曹操軍の慢心があれば手に入れた勝利です。呉軍は優勢に見えますが実際の所は違う……虎を兎と勘違いしているだけです。たった一度の敗北で虎は兎にはなりません。むしろ手負いの虎はより凶暴になり危険です」


周瑜「曹操軍を虎に例えるのは結構。ですが呉軍を虎に劣るものするその言い方……侮辱と捉えますよ」


キョウ「呉軍も虎です。ですが赤壁での大勝から腹を満たされた虎が更に欲を出すのは蛇足というものです。赤壁での戦果は南荊州を呉軍が治めることで納得して頂きたいのです」


周瑜「赤壁での勝利で我らの方が慢心になっていると申すのか?!」


キョウ「江陵も合肥も仮に落とすことが出来ても維持することは難しいでしょう」


陸遜「しかし、この機を逃せば二度と大河を渡ることが出来ないかも知れません」


キョウ「そうかも知れません……ですがそれは曹操軍に固執し過ぎではありませんか? そもそも孫権様は中華凌統一の夢をお持ちなのですか? 臣下が主の器量を上回るものを提供しようとしているだけなのでは?」


周瑜「ほざくな! たかが軍師見習い風情にどうこう言われる筋合いはない!」


キョウ「いいえ。言わさせて頂きます。覇者として孫権様を飾りつけようとするのはお止め下さい」


周瑜「孫権様は大君主孫堅の子であり我が友『小覇王』孫策の弟だ! 必ずや誰もが認める君主に育てて……! 育てて……」


キョウ「分かって頂けたようですね。呉にとって曹操は侵略者でした。今は逆に呉そのものが侵略者となろうとしています」


陸遜「乱世では誰もが当て嵌まることです。姜維殿の主もまた然り」


キョウ「怨嗟を飲み込む器を持つものが許される。幼い孫権様にその器が?」


陸遜「それはあまりにも失礼ではありませんか! キョウ殿!」


 陸遜は声を張る。


周瑜「陸遜。止めなさい」


陸遜「周瑜様! 主を愚弄する言葉です! 許せるものではありません!」


周瑜「キョウ殿の術中に嵌っていることに気づきなさい」


陸遜「え!?」


キョウ「はははは! 流石は周瑜殿。バレてしまいましたか」


周瑜「私たちから冷静な判断を奪おうとしましたね。ここからは互いに冷静に本音で語りましょう」


姜維「分かりました。呉軍にとって戦うべきは曹操軍。ですが曹操軍にとって戦うべき対象は涼州の馬超、漢中の張魯、そして益州の劉障……曹操軍は必ずや西に進路を向けるでしょう。そして益州が陥落した時、呉は北と西に防衛線を張ることになります。その意味ご理解頂けるかと」


周瑜「事実上の詰みですね」


キョウ「劉備軍はこれより益州に進路を向け曹操軍を西から北上します。その動向を見守りつつ方針を向けても遅くはないかと」


陸遜「たしかにそれなら曹操の侵攻を防ぐだけではなく。曹操も簡単には南下出来ない……」


周瑜「ですが劉備殿にとって南荊州は喉から手が出る程、欲しい……」


キョウ「このことは僕一人の独断です」


周瑜「何ですって! 君主を差し置いて、その様なこと……信じられん男だ……」


キョウ「必ずお約束します。呉軍を退かせて下さい」


陸遜「周瑜様……」


周瑜「キョウ殿、少し席を外してくれ。陸遜と少し話たい」


キョウ「分かりました」


 キョウは天幕を出る。


周瑜「あの男の言うことは無茶苦茶だ……だが、妙な説得力がある。陸遜、どう思う?」


陸遜「はい。南荊州を手に入れることが出来れば我らの国力は大幅に大きくなります」


周瑜「合肥と江陵は落とせないことは無いだろうが……キョウ殿の言う通り大した戦果も挙げられない可能性もあるのは確か……時と共に奪い返される可能性が高い」


陸遜「キョウ殿に賭けてみてはいかがでしょうか? 部下の勝手な行動でも劉備殿であれば約束は守るかと」


周瑜「うむ……曹操軍は手負いの虎か……キョウ殿の言う通りだな……」


陸遜「呉軍のことを満たされた虎と表現したことは少し頭にきました」


周瑜「キョウ殿を呼んでくれ」


陸遜「はい」


 陸遜は天幕の外で待つ姜維を呼ぶ。


キョウ「相談は終わりましたか」


周瑜「一応、相応の約束が欲しい……いやキョウ殿が劉備軍でどれ程の影響力を持つのか知るだけでもよい」


キョウ「保険になるかどうかは分かりませんが……中華万民の平和を成しましょう」


周瑜「呆れた……この期に及んでまだそんなことを……」


陸遜「周瑜様。ここは私に」


周瑜「もう好きにしてよい」


陸遜「ありがとうございます。キョウ殿、あなたのその人を小馬鹿にした態度は非常に不愉快です。劉備軍全てとは言いません。呉の窮地が訪れた時、あなたは一人で駆けつけてなさい」


キョウ「約束しましょう」


陸遜「約束を反故した時は分かっていますね」


キョウ「分かっております。では私はこれで……あっそうだ……呂蒙殿と少し話をしたかったのですが、まだお戻りでは?」


陸遜「お姉様は帰還まで時間がかかります。キョウ殿に素敵なお姉様を会わせるわけにはいきません」


キョウ「それは残念です。では失礼します」


 キョウは天幕を出た。


陸遜「周瑜様……」


周瑜「ついこの間まではオドオドしていた若者にしか見えなかったんだが……度胸も頭のキレ方も別人に……大した弁士になったものです」


陸遜「そうなんですか? 私には合いません……」


 周瑜と陸遜は複雑な気持ちを持つ。


キョウ「さてと……恐らく劉備軍は長沙まで兵を進めている頃合いだな。一度、劉備様の元に戻ろう」


 キョウは急いで南荊州に向かった。



 劉備軍は南荊州四郡の内三つを既に落とし最後の一つである長沙に攻撃していた。



 キョウが長沙に到着した時、長沙は劉備軍によって落ちたばかりであった。


劉備「噂に名高い黄忠殿の武勇、私は感動いたしました。是非、黄忠さんを劉備軍にお迎えしたいのですが」


黄忠「…………」


 長沙では劉備の誘いに黄忠は黙る。


諸葛亮「曹操軍の支配下で黄忠殿が荊州の民を励ましていたと聞きました」


黄忠「…………」


諸葛亮「黄忠殿の力は一人の物ではありません。時代が黄忠殿を必要としているのです」


劉備「そうです。民を想い、曹操から民を守ることが黄家本来の役目ではないでしょうか。黄忠さん、どうかこの劉備に力をお貸してはくれませんか」


黄忠「そこまで言って頂けるのなら分かりました。劉備殿にお仕えしましょう」


劉備「ああっ、ありがとう! 黄忠さん!」


諸葛亮「それと魏延殿と申しましたね」


魏延「はっ、はい!」


 魏延は孔明に名を呼ばれ緊張する。


キョウ「劉備さん! 先生! 只今戻りました!」


 その時、キョウが現れる。


劉備「あっ、キョウ君」


諸葛亮「キョウ? 体は……いえ、頭は大丈夫ですか?」


キョウ「はい。もう南荊州を制圧されたのですね。流石は先生です」


諸葛亮「南荊州の制圧は、それ程難しいものではありませんよ。私には」


キョウ「はい。あっ、黄忠さんと魏延さんですね」


 キョウは黄忠と魏延を見る。


諸葛亮「キョウ。良く知っていますね」


キョウ「黄忠さんはもう劉備軍に?」


劉備「そうなんです! こんな可愛い子を劉備軍に迎えられるなんて私は幸せです」


黄忠「あっ、ありがとうございます……」


 黄忠は顔を赤くする。


キョウ「では、後は魏延さんですね」


諸葛亮「魏延殿は……」


キョウ「魏延さん」


魏延「はっ、はい!」


キョウ「あなたの力は強く制御しにくい力です。魏延さんを使いこなせる軍は何処にもありません」


諸葛亮「流石はキョウ……良く理解していますね」


 孔明はキョウの言葉に共感した。


キョウ「しかし! この劉備軍だけは違います! 中華の天才軍師、孔明先生であれば魏延さんの力を使いこなすことが出来ます! ようこそ劉備軍へ! あなたの居場所は劉備軍以外にありません!」


諸葛亮「キョッ、キョウ!?」


 てっきり魏延を軍に迎えないと思った孔明は驚く。


魏延「じゃあ……私も劉備軍に……?」


キョウ「ははははは! 今言ったままですよ。先生であれば魏延さんを使いこなすことが出来ると。ね、先生!」


諸葛亮「とっ当然です! わっ私の知略にかかれば。魏延殿を使いこなすなど雑作もありません!」


劉備「今日は何て素晴らしい日なんでしょう! こんな可愛い子が二人も我が陣営に加わるなんて!」

 劉備は手を叩き喜ぶ。


魏延「孔明軍師……私、頑張ります。宜しくお願いします!」


諸葛亮「えっええ! がっ頑張って下さいね……」

 孔明はうろたえる。


劉備「では早速みんなに黄忠さんと魏延さん紹介しなくてはいけませんね! 孔明、行きますよ!」


諸葛亮「はっはい!」


 劉備達は兵に新たな仲間を紹介する為に向かった。


キョウ「これで魏延さんは大丈夫だろう」


周倉「おい、キョウ! 劉備軍の新しい軍師を紹介するぞ」


キョウ「周倉君!」


ホウ統「孔明とのやり取り中々おもしろかったぞ」


キョウ「おやっさん!」


周倉「キョウ! ホウ統さんをいきなり、おやっさんだなんて! 失礼だろう!」


ホウ統「いや……周倉殿……俺は別に構わない」


周倉「ホウ統軍師とお呼びしろ!」


キョウ「ホウ統殿の方がよろしいですか?」


ホウ統「あっ、ああ別にどちらでも構わないが……おやっさんと一度呼ばれてしまった以上はおやっさんで頼むとするか」


キョウ「分かりました。ではこれから劉備軍の皆に、おやっさんと呼ぶようにさせて頂きます」


周倉「ホウ統殿? よろしいのですか?」


ホウ統「ああ、構わねえ」


周倉「そうですか。じゃあ、おいらは皆に伝えて来ますね」


キョウ「ふふっ。周倉君はせっかちだなー」


ホウ統「キョウ殿、先程は楽しませてもらったよ。孔明の慌てる姿……あれだけで旨い酒が飲めそうだ」


キョウ「ありがとうございます」


ホウ統「俺はホウ統。南荊州制圧戦から劉備軍に加わっている」


キョウ「おやっさん。僕は今、孔明先生を師と仰いでいる身です。しかし、おやっさんのことも師と仰がせて下さい。勿論、先生には内緒にしておきます」


ホウ統「なるほど、孔明のことを良く理解してのことだな。先程の振る舞いを見ても筋がいいのは分かる。いいだろう。俺に何でも聞くといい」


キョウ「おやっさんがいれば劉備軍はきっと違う運命に向かうことが出来ます」


ホウ統「はははは! 運命ってのは結果論だろ? 例えがおかしいぞ!」


キョウ「ふふっ。本当ですね」

 キョウは笑う。


関羽「おい、キョウ! 呉軍の陸遜殿がキョウに面会を求めているぞ」


キョウ「分かりました。直ぐに参ります」


関羽「私も立ち会うか?」


キョウ「はい。お願いします。後、劉備さんと先生にも立ち会って頂きましょう」


ホウ統「陸遜殿か。おれもいいか?」


キョウ「もちろんです」


 こうして陸遜の元にキョウ達は向かった。



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