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雷子  作者: 三幸
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雷編 時の銅雀 上

雷編 時の銅雀 上




 姜維と鄧艾は許昌に辿り着く。


鄧艾「姜維殿。ここが許昌だ……しかし、随分と遠回りをしたな」


姜維「僕達はお尋ね者ですから隠れながら進むしかありませんでしたし。魏に足を踏み入れるのは初めてですから少し新鮮です」


 お尋ね者の二人は街道を避け道なき道を進んだことによって従来の倍以上の時間を費やして許昌にたどり着いていた。


鄧艾「そうか。では是非一度、この大都市の御感想を聞きたいな」


姜維「発展具合から見るに多くの人々の生活がここにあると感じます」


鄧艾「それだけ? 何かもう少しないのか? 『凄いよ! こんな所、初めてだよ!』とかさあ? 出来れば感嘆な声が聞きたいな」


姜維「あっ、ああ。すみません、悪気はないのですが……只……」


鄧艾「只?」


姜維「何か……こう……悪意を感じる空気が……」


鄧艾「瘴気のことか」


姜維「瘴気?」


鄧艾「姜維殿が感じているのは瘴気だろう。分かる者には分かる。姜維殿も流石といったところか……」


姜維「この瘴気は以前から?」


鄧艾「いや。曹操様が亡くなってから突如現れた」


姜維「そうですか……では、原因も分からないのですね」


鄧艾「瘴気を辿って行けば何か分かるかもしれんが……」


魏軍兵士「とっ鄧艾様!」


鄧艾「いかん! 見つかったか!」


 兵の声に鄧艾は逃げようとした。


魏軍兵士「お待ち下さい! 鄧艾様! 私は味方です!」


鄧艾「味方?」


魏軍兵士「はい。以前、鍾会様の部隊におりました。鄧艾様と鍾会様が謀反など信じておりません。亡くなったとお聞きしていました……」


鄧艾「そうであったか。俺を見たことは他言無用で頼む……え? 君はもしかして確か鍾会に決死隊に入れられた……」


魏軍兵士「おっ覚えていただいていたのですか!? ううっ……あの時、何故か任務を終えた後、急に決死隊に配属され各地の激戦に送り込まれました……」


鄧艾「そうか……大変だったな……」


魏軍兵士「許チョ様の裸をまた見たいと思い、それだけが生き残る希望でした」


鄧艾「その時のこと……後で是非、聞かせてくれないか……正直、後悔しているんだ。もう少し早く戻ればよかったって……」


魏軍兵士「はい、勿論です!」


鄧艾「少し聞きたいことがある。黄皓と言う男の行方を知らんか?」


魏軍兵士「黄皓は今、許昌にはおりません」


鄧艾「では、司馬懿さんは何処にいる?」


魏軍兵士「徐晃様と満寵様と共に、お出かけになりました」


鄧艾「そうか。ありがとう。最後に最近の魏の動向は教えてくれないか」


魏軍兵士「曹仁様と張コウ様が呉の孫権を捕らえた呉を事実上、滅ぼすことになりました。ですが……」


鄧艾「ですが? どうしたんだ何かあったのか?」


魏軍兵士「正確な情報がまだ届いておりませんので何とも言えないのですが……曹仁様と張コウ様が行方不明です」


鄧艾「また行方不明か……一体、何が起こっているんだ……」


魏軍兵士「何でも呉の南に向かった後、消息を絶ったようで捜索隊が派遣されましたが濃霧によって捜索は思ったように進んでいないようです」


鄧艾「呉の南は蛮族『越』の領土だ……そんな相手にあの二人が遅れをとるとは思えない」


魏軍兵士「鄧艾様……鍾会様の最後はご存じですか?」


鄧艾「ああ……俺は鍾会を目の前で失ったからな……」


魏軍兵士「やはりご存じないのですね」


鄧艾「まさか……生きていたのか!」


魏軍兵士「はい。致命傷を負いながら黄皓に生きたまま子宮を抜き取られ……」


鄧艾「なん……だと……鍾会は……まだ生きていたのか……」


姜維「酷い……あいつだけは……僕が必ず!」


鄧艾「姜維殿。大変申し訳ないんだが俺に止めを任せてくれないか。内臓を引きずり出し口に突っ込んでやる!」


魏軍兵士「黄皓は私たちにとっても恐ろしい男です。あの者を殺すのであれば鄧艾様に協力する者も多いかと」


鄧艾「黄皓の首は必ず刎ねる。来たるべき時まで待っててくれ」


魏軍兵士「分かりました。その時をお待ちしております」


鄧艾「ああ」


鄧艾「姜維殿。これからどうする?」


姜維「僕は許昌は初めてなので鄧艾殿の考えに従います」


鄧艾「分かった。では宮殿に潜り込むとするか……厳重な警備が敷かれているだろうが、まずはそこからだ」


姜維「司馬懿殿の帰りを待つと言うことですね


魏軍兵士「宮殿であれば、今は誰でも入れますよ」


鄧艾「そうなのか? 何か催しものがあるのか?」


魏軍兵士「はい。天下凌統一の祝いとして曹操様がお建てになられた銅雀台が解放されています」


姜維「銅雀台? 鄧艾殿。その銅雀台……見たいのですが」


鄧艾「いいでしょう。目的地は宮殿ですから姜維殿の観光も兼ねて行きましょう」


姜維「ありがとうございます」


魏軍兵士「私は先に行って警備を交代してきます。そうすれば怪しまれることもありません」


鄧艾「何から何まですまないな」


 兵は宮殿に走って向かった。


姜維「ずっと聞けなかったことがあるのですがお聞きしても?」


鄧艾「遠慮なんてしないでくれ。気遣う間柄でもないだろ」


姜維「曹操殿はどの様な方でしたか?」


鄧艾「うーん。そうだな……接することはなかったが厳しい方だったと思う。同時に優しい方でもあった」


姜維「無駄に多くの命を奪った方だったと思うのですが」


鄧艾「それは、それぞれの立ち位置で幾らでも見方も変わるでしょう。時代は乱世。曹操様がいなければ民はもっと疲弊している。現に乱世でも曹操様は多くの民の生活を守ってきたんだ。姜維殿……この話はよそう。姜維殿とは争いたくはない」


姜維「そうですね。すみませんでした」


鄧艾「今は共通の目的がある仲間なんだから」


姜維「ふふふ。おかしな関係ですが今は嬉しい言葉です」


鄧艾「では。いざ、宮殿に向かおうか」


姜維「鄧艾殿。先に行って下さい。直ぐに追い付きますので」


鄧艾「ん? そうか? では、先に行っている。ここを真っ直ぐ行ったところだ」


姜維「迷子になりようもないですね」


 鄧艾は先に宮殿に向かった。


姜維「一体、どういうことだ……曹操が築いた国は恐怖政治だとずっと思っていた……劉備様が築く世と曹操殿が築く世……何が違う……もしかしたら僕は固定観念にとらわれて乱世の本質を見落としていたのでは……鄧艾殿の言う通りかもしれない……僕は何も分かっていなかった」


 姜維は立ち止まり自問自答する。


姜維「曹操の強さは優しさであり劉備さんの優しさは強さであった。己の都合の良い立ち位置で曹操と劉備さんを理解しようとしていなかったのは僕の固定観念だ。曹操は乱世を早く終わらせる為に非情となり覇道の道を進み。劉備さんは乱世を早く終わらせる為に優しき心で王道を進んだ……強さだけでは駄目で優しさだけでも駄目でもある。対象的な二人だが実は似ている」


 姜維は許昌の街並みを見る。


姜維「強さと優しさのどちらかに重きを置くかだけの違いなんだ……おやっさんの言っていたことはこのことだったんだ……蜀が滅び気付かされるなんて……しかし、それでも曹操殿が作った世を時代が選んだのか……時代……先生が時代の流れと言っていた。時代とは何なんだ……曹操殿に味方したのは時代なのか……」


 姜維は宮殿に向けて歩き始めた。



 宮殿の前は銅雀台を一目見ようと人が溢れていた。


鄧艾「なるほど人だかりが凄いな。これなら宮殿には簡単に潜り込めそうだ」


 宮殿の前で鄧艾は奥地に潜入する為の方法を考えていた。


姜維「鄧艾殿! 銅雀台とはアレですか!」


鄧艾「おっ、来たか。そうだ、あれが銅雀台だ」


姜維「間違いない……孔雀池で見つけた銅雀だ……何故ここに……」


 姜維は自分をこの世界に導いた銅雀に驚く。


姜維「この銅雀を見つけてから始まったんだ……劉備さんと曹操殿、乱世と平和……覇道と王道……何故……何故、劉備さんは時代に選ばれなかったんだ……」


鄧艾「どうかしたのか? 一人でぶつぶつと……よっぽど銅雀台が気に入ったんだな。戦続きの乱世では公開出来なかった。待ち望んだ平和がようやく訪れた証でもある」


姜維「そうか……やっと分かった。時代とは民意なんだ……乱世で疲弊した民が早く乱世を終わらせたいと願い、時代が……いや、民が曹操殿を選んだのだ……こんなことに今頃気付くなんて……」


鄧艾「姜維殿? 本当にさっきからどうしたんだ?」


姜維「えっ? すみません。少し感傷に……」


 「!!!」

 姜維と鄧艾の肌を突き刺すような瘴気が辺りに流れ込む。


姜維「何です! この肌を突き刺す様な悪寒は!」


鄧艾「姜維殿もか! 俺もだ!」


 二人は初めての体験に驚く。


鄧艾「東から濃い瘴気が流れ込んで来る!」


姜維「一体、これは! ただの自然現象とは思えない!!」


鄧艾「嫌な予感がしてならない! 行方不明となった仲間達の原因に関わることかも知れん」


姜維「僕の中の何かが言っている……これはとてつもなく危険なものだ!」


鄧艾「一度、確かめに行ってくる!」


姜維「鄧艾殿! 行ってはいけない! あまりにも危険過ぎる!」


鄧艾「大丈夫だ! 確認したら直ぐに戻ってくる!」


 鄧艾は走り去る。


姜維「感じる……悪意の塊の存在を……どうする! このままでは鄧艾殿が危険だ! 仲間と呼んでくれた鄧艾殿を見捨てる訳にはいかない! 瘴気の根源を確かめよう!」


 姜維は鄧艾を追いかけようとした。


 キィイイイイイイ……


 姜維の頭の中に高い音が鳴り響く。


姜維「ぐっ……まただ……よりにもよって……こんな時に……」


 頭が割れる様な痛みに襲われ姜維の意識は遠のいていく。姜維の視界には銅雀が映り込み瞼を閉じる瞬間に銅雀から光が放たれた。





 『さぁ……思い出してご覧……君が望んだあの場所を……』





姜維「うっ……銅雀台が光って……そのまま光に包まれたと思ったのだが……ここはどこだ……?」


 姜維は目を覚ますが許昌の街中ではなく風通しのよい草原にいた。


張飛「あっ兄ちゃん! 寝すぎだよぉ!」


姜維「張飛! あれ……張飛は死んだはず……それに今は鄧艾殿を追いかけないと……」


張飛「兄ちゃん。張飛は生きてるよ? 変な夢でも見てたんじゃないの?」


姜維「張飛! 教えてくれ! 鄧艾殿は何処に向かったんだ!」


 姜維は張飛の肩を掴む。


張飛「何言ってんの兄ちゃん? 鄧艾って誰ぇ? もしかして寝ぼけてる? それより孔明が探してたよー」


姜維「先生が探してるって……先生もここに?」


張飛「兄ちゃん変だよー? 赤壁の戦いで頭打ったー?」


姜維「赤壁の戦い……どういうことだ……先生が僕を探してるんだよね?」


張飛「そうだよー。早くだって」


姜維「どういうことだ……? 状況を把握しなければ……張飛、早く先生の元に行こう!」


張飛「だからー。早く行こうって、言ってるじゃん!」


 姜維は張飛と共に孔明の元に向かった。




姜維「先生!」


 姜維は天幕に勢いよく入る。


諸葛亮「あっ、キョウ。来ましたか」


キョウ「!!!!」

 姜維は孔明が自分の名をキョウと呼んだことに驚く。


キョウ(先生が今、僕のことを姜維ではなくキョウと……一体どういうことだ……)


諸葛亮「どうかしましたか? そんなに驚いて……」


キョウ「すみません。先生に再会出来たことが嬉しくてつい……」


諸葛亮「キョッ、キョウも、その様な冗談を言う様になったのですね……毎日顔を合わせているではありませんか」


キョウ「冗談などではありません。先生と一緒にいる時間がどれ程大事なことか、ようやく分かったのです」


 キョウの顔は真剣そのものだ。


諸葛亮「いっ、一体どうしたのですか?! 赤壁の戦いでどこか頭を打ったのですか? 直ぐに医者に診てもらいなさい!」


キョウ「赤壁の戦い……張飛が言ってたことを先生までもが……」


諸葛亮「キョウ。少し疲れているようですね。早く軍医の所で少し休みなさい」


キョウ「先生! これから南荊州の攻略ですか!」


諸葛亮「そうです。良く分かりましたね」


キョウ「先生! お願いがあります! 少しの間、休暇を頂きたいのです!」


諸葛亮「えっええ……その方が良いと思います……あなたには休息が必要ですね」


キョウ「先生……もう二度と先生を……先生一人に負担を強いる様な状況にはしません……!」


 キョウは孔明を抱きしめる。


諸葛亮「キョウ! ほっ本当にどうしたのですか?!」


 孔明は赤面し動揺する。


張飛「あぁあああ! 分かち合いしてるぅうう!」

 

 遅れて天幕に入った張飛が現れる。


キョウ「ん? 張飛もしよっか」


張飛「え!? いいの!?」


キョウ「もちろんだよ」


 張飛とキョウは分かち合う。


張飛「あれ? 兄ちゃん苦しくないの?」


キョウ「まだ大丈夫」


張飛「兄ちゃん……離れるね」


キョウ「もう終わりでいいのかい?」


 分かち合いが終わり二人は離れる。


張飛「兄ちゃん……兄ちゃんだよね?」


キョウ「もちろんだよ。他に誰だって言うんだい?」


諸葛亮「異性と簡単に分かち合うなんて関心しませんね」


キョウ「やましい気持ちなんてありません。二人に触れたいと純粋に思っただけですから」


 「!!!」

張飛と孔明は驚く。


諸葛亮「やっぱり変です! 何かおかしな物でも口に入れたりしませんでしたか!?」


張飛「うん! おかしい! 絶対におかしい!!」


キョウ「ははははは。そんなおかしいですか? では早速、休息をいただきます」

 

 キョウは天幕を出る。


諸葛亮「一体、どうしたのでしょうか……」


張飛「孔明……気付いた?」


諸葛亮「え? 何がですか?」


張飛「兄ちゃん……身体ががっちりしてた」


諸葛亮「どっどういう意味ですか!?」


張飛「前よりも大きくなってる。筋肉の付き方とか」


諸葛亮「筋肉を増強する薬に手を出したのかも知れませんね……その副作用と思えば辻褄が合うか……」


張飛「張飛ね。分かち合いで苦しむ兄ちゃんが好きだったんだ。あんな余裕、見せられたら本気でいってもいいよね!」


諸葛亮「ええ! やってやって下さい! 先程の自信は見てて苛立ちました!」


張飛「そうだよね! やっぱそうだよね!」


 意気投合する二人の会話はこれからの分かち合いが苦難だとキョウは知ることはなかった。



 キョウは一人陣営の外に向かった。

 

キョウ「現状から推測するに恐らく僕は銅雀の力で過去に戻っている……僕には何か使命があるのか……分からない……しかし、今はやれることの全てをやってみよう」


趙雲「キョウ殿。何処かに行くんだ姜維?」

 

 警備で巡回する趙雲が声を掛ける。


キョウ「趙雲さん! あっ、ちょっと江陵に……」


趙雲「江陵? どうしたんですか?」


キョウ「呉軍・総司令官の周瑜様にお話がありまして」


趙雲「そうか……周瑜殿はお美しい方だと自分も聞いている。まさかキョウが周瑜殿に興味があることは……皆には内緒にしておいてあげよう」


キョウ「物凄い誤解をされていますが……まぁ、いいか……」


趙雲「キョウ殿! 恋が稔ると良いですな!」


 趙雲はキョウを応援する。


キョウ「良く分かりませんが行ってきます!」


 キョウは歩き始める。


キョウ「あっ趙雲さん。これからは単独行動は禁止ですから。それが仮に仲間の生死に係ることでも」

 キョウは振り向き趙雲に伝えた。


趙雲「何を馬鹿なことを。自分は張飛とは違う。単独行動などもっての他だ!」


 趙雲の返事にキョウは笑顔で応え走る去る。


劉備「趙雲さん? 今のはキョウ君……急いで行きましたが何かあったのですか?」


 二人の動向を眺めていた劉備が趙雲に問いかけた。


趙雲「劉備様。キョウ殿は青春の真っただ中です。見守ってあげましょう」


劉備「青春?」


 劉備は趙雲の言っている意味が分からない。


 その後、劉備軍は南荊州の攻略に移る。


 キョウも河を渡り江陵の近くに陣を構える呉軍まで足を運んだ。

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