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雷子  作者: 三幸
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魏編 成都攻略戦

魏編 成都攻略戦



 五丈原の戦いにて大きく撤退した司馬懿は諸葛亮の死が事実である報告を聞き怒りよりも尊敬の念を抱いた。


 学問を学び続けた司馬懿にとって発想出来ない策は大いに学ぶべき部分が多かった。


 魏軍はその後、諸葛亮の死に安堵し無理な侵略は避けようと考えていた。




鄧艾「司馬懿さん。 やはり諸葛亮は死んでいた様です」


司馬懿「聞きました。全く……どういう頭の構造をすれば、あの様なことを思い付くのでしょうね」


鍾会「死せる孔明、生きた仲達を走らす。と言ったところですか」


司馬懿「鍾会! お黙りなさい!」


鄧艾「酷薄な撤退方法です。趙雲と己の命を犠牲にしてまで蜀軍を無事に撤退させるなんて……」


鍾会「そこなんだけど。蜀には諸葛亮の後継者がいるのでは? そうでなければ辻褄が合わないわ」


司馬懿「諸葛亮の後継者……そんな者がいるなんて聞いていませんが……あの女が選んだ者であれば油断出来ないと判断するべきか……」


満寵「司馬懿! 蜀軍が剣閣に布陣してるわ!」


 満寵が天幕に慌ただしく入る。


司馬懿「剣閣ですって! 嫌な所で防衛線を張られましたね……敵の大将の名は分かりますか?」


 剣閣は成都攻略の要所であるが広い益州の中でも最も険しい山岳地帯であった。補給を非常に受けにくく孤立すれば全滅し兼ねない危険性を持っていた。


満寵「報告によれば姜維という者の様ね」


鄧艾「姜維? 鍾会は知っているか?」


鍾会「初めて聞く名前ね。その姜維って奴が諸葛亮の後を継いだ可能性は高そうね」


司馬懿「さて……どうしたものでしょう」


鄧艾「司馬懿さん。俺は少数精鋭で剣閣を迂回して成都を攻略します」


司馬懿「人が通れる道ではありません」


鄧艾「実は陳倉の民から成都攻略の抜け道を知らせる報告がありました」


司馬懿「敵の民を信じるのですか? 人がいいのも結構ですが……」


鄧艾「本来ならば信じることは致しません。ですがカク昭からの贈り物だと思っておりますので」


 「カク昭の?」

 司馬懿と鍾会は同時に聞き直す。


鄧艾「ええ。陳倉は蜀軍の策により水の出ない枯れた城となりました。先祖から受け継いだ土地を住めなくされたのです。カク昭は撤退時に多くの水を民に残し陳倉を離れ途中、命を落としました。これはカク昭の善なる行いと蜀軍の手段を選ばぬ戦い方によって持たされた恩恵です」


鍾会「そう……まるでカク昭が導いてくれているみたいね」


鄧艾「道はかなり険しいですが俺は死んだカク昭に応えたいと思います」


司馬懿「剣閣の蜀軍の眼はどうするつもりですか。簡単には後ろは取らせてくれませんよ」


鄧艾「大丈夫です。鍾会が剣閣で蜀軍の気をひいている間に強行します」


鍾会「何よ。女の私を囮にする気?」


鄧艾「なら変わる?」


鍾会「崖の下で人生を終わらせるなんて御免だわ。剣閣で囮になるわよ」


司馬懿「いいでしょう。では鄧艾と鍾会に蜀のことは任せましょう……私は一度、許昌に戻ります。諸葛亮のいない蜀軍を相手にするほど暇ではありませんので」


 司馬懿はその場を去る。


鍾会「鄧艾。本当においしいところを持っていくわね」


鄧艾「泥まみれの行軍は嫌だろ? 鍾会」


鍾会「ここは譲ってあげる。互い連携は取れないけどどうする?」


鄧艾「九十日を目安にしてくれ」


鍾会「それ無理でしょ」


鄧艾「俺が指揮をとればやれるさ」


鍾会「私に迷惑かけないでね」


鄧艾「もちろん」



 こうして鄧艾と鍾会の成都攻略戦が始まった。鍾会は剣閣を攻めるもどこまでもその場に蜀軍を留めることに重きを置いた。


 鄧艾は漢中を遥かに東に進み一気に南下する。道なき道を進む魏軍は方向感覚がおかしくなるも鄧艾の能力によって最短距離で成都の裏を目指した。


鄧艾「いやぁ! 思っていたよりも遥かにキツイなー!」


魏軍兵士「鄧艾様。工作部隊が広い崖を通れる様にしておりますが、しばし時間がかかると思います」


鄧艾「出来るだけ急がせてくれ。鍾会が蜀軍の注意を惹き付けてくれている間が勝負だ」


魏軍兵士「分かりました」


鄧艾「残り十五日……ギリギリといったところか……」


  道なき道を歩む行軍は想像を絶した。崖を降りまた上る。鄧艾は工兵と共に険しく細い道を作り上げる。橋を作れる場所であれば作るが無理なら縄を渡し、崖を越える。何人もの兵が滑落や事故で命を落とした。




 鍾会は剣閣で攻め落とすことを目的にしないものの。自分の部隊が陽動だと知られるわけにはいかない為に適度に戦力を投入していた。


鍾会「蜀軍の連中……思ったより士気が高いわね。姜維って奴の力かしら」


魏軍兵士「鍾会様。被害が大きくなり始めました!」


鍾会「そうね。そろそろ退きましょうか。後は鄧艾が何とかしてくれるわ」


 蜀軍は姜維、孟獲、魏延と決して侮れない者達で鍾会一人で相手にするには厳しいものだった。兵の数の有利なことから鍾会は三人を相手に戦うことが出来たがもし対等な条件であれば対処しきれない。鍾会は剣閣から一度退いた。



 鍾会との約束の日まで残り二日。鄧艾は眼前に成都を捉えた。


魏軍兵士「鄧艾様! 成都までの間道が開けました!」


鄧艾「険しい道のりだったな。いくら剣閣の攻略が難しいとは言え、これ程遠回りすることになるとは……後続部隊の到着は?」


魏軍兵士「間もなく到着する頃です」


鄧艾「分かった。ならば後続が到着する前にこののまま進む」


魏軍兵士「蜀軍はまだ我らの侵攻に気付いておりませんが……いけるでしょうか……」


鄧艾「はははは! 戦いにならないよ! どれ程の軍がいるか知らないが治安維持くらいしかいないだろう。成都の防衛隊を撃破した後、勧告の使者を出せ! 降伏するなら命は奪わん、抵抗すれば皆殺しにすると伝えよ」


魏軍兵士「分かりました」


 鄧艾は成都に向けて進む。魏の旗を掲げ悠々と馬を進める道中の集落は鄧艾に投降した。


 成都の裏に到着した時、抵抗する蜀軍が現れる。この時には後続部隊が到着し鄧艾の率いる軍は成都の防衛隊と十分に戦える戦力になっていた。

 

 蜀軍に指揮官らしき指揮官はおらず鄧艾は兵を率い防衛隊を一蹴する。魏軍の精鋭との練度は明白だった。


魏軍兵士「鄧艾様! 蜀軍が投降する意を示して来ました!」


鄧艾「そうか。投降を受け入れ武装解除するように伝えてくれ」


魏軍兵士「それと成都の有力者、黄皓と申すものが面会を申し出ております」


鄧艾「いいだろう。会おう」


黄皓「成都を取り仕切っております。黄皓と申します。蜀軍の代表としてお願いにあがりました」


 黄皓は鄧艾に頭を下げる。


鄧艾「固い挨拶は抜きだ。申してみよ」


黄皓「何とぞ蜀の民の命だけは、お助け頂きたいのです」


鄧艾「民に手を下すことはない。蜀はこれより魏国となり新たな魏の民になるのだ」


黄皓「そのお言葉を頂ければ、この黄皓どのような処罰もお受け致します」


鄧艾「ん? それは魏に抵抗した経緯のことを言っておるのか? そのことであれば不問に処す。国を想い最後まで戦った者たちを責める程、魏は愚かな国ではない」


黄皓「ありがとうございます。これより魏国忠誠を誓います」


鄧艾「うむ。これからは魏国の発展の為に精進するのだ」


黄皓「ははー」


(民を守る為の自己犠牲には弱いのが武人の本質、チョロいもんですねー)

 黄皓は心の中で笑う。


黄皓「鄧艾様。最後に一つお願いがございます」


鄧艾「まだあるのか?」


黄皓「はい……剣閣におります姜維と蜀軍の残党を討たせて頂きたいのです」


鄧艾「何だと? 成都陥落の報を聞けば直ぐに降ると思うが何故討つ必要がある」


黄皓「姜維は蜀の民から多くの税を徴収し戦で浪費し続けておりました。この黄皓、姜維だけは許せないのです」


鄧艾「そうか……姜維とはその様な武将であったのか。諸葛亮の後継者ということで会うのが楽しみだったんだが……」


黄皓「私に兵を与えて頂ければ多くの剣閣の兵も降りましょう」


鄧艾「分かった。好きにするがよい……だが裏切れば成都は血で染まると思えよ」


黄皓「この場に及んで二心を抱こうとは思いません。何から何までありがとうございます」


 黄皓は蜀軍と魏軍の精鋭の一部を率い剣閣に向かった。

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