魏編 馬超奮迅
魏編 馬超奮迅
漢中に滞在する曹操軍の元に劉備軍が呉軍によって夷陵で大敗退する報が届けられる。
そして曹操を追うように劉備が亡くなった。
鍾会「鄧艾。劉備が死んだそうよ。国号を蜀とするみたい」
鄧艾「ああ。聞いたよ……英雄は時と共に姿を消す……時代の変わり目だ」
鍾会「夷陵の敗戦での心労かしら……数十万の戦死者を出したんだから気も病むわね」
鄧艾「まぁ、んなとこだろう」
鄧艾と鍾会は漢中に訪れていた。蜀軍の北伐阻止する為だ。
司馬懿「久し振りですね。鍾会、鄧艾」
鍾会「司馬懿さん。お元気そうで」
司馬懿「あなた達も元気そうで何よりです」
鄧艾「曹操様が亡くなられて……これからも曹操軍と名乗りますか?」
司馬懿「そのことですが。新しく国号を名乗る必要があります。『魏』と名乗りたいのですが……」
鄧艾「『魏』……ですか」
司馬懿「そうです。お師匠様にもお伝えしようと思い、使いを出したのですが……」
鍾会「お師匠様がどうかしたのですか?」
司馬懿「行方が分からないのです」
鄧艾「行方が?」
司馬懿「おかしなことに夏侯惇殿と張遼殿……そして許チョ殿までもが……」
鍾会「何かあったのでしょうか?」
司馬懿「分かりません……しかし、あの四人が勝手にいなくなるなんて考えにくい……」
司馬懿「お師匠様のことですから何か別に動いてるのかも知れませんね」
鄧艾「そうかも知れませんね。ひょっこり蜀の背後を狙っているとか?」
鍾会「司馬懿さん。今、漢中の北は張コウ殿がおり、西部には司馬懿さんがいます。お師匠様を一度探しに行きたいのですが」
鄧艾「鍾会の言うことに俺も賛成です」
司馬懿「ふむ……極秘の任務かもしれませんが連携をとる必要は確かにありますね」
司馬懿「では鄧艾と鍾会は手分けしてお師匠様を探して下さい」
鄧艾「分かりました」
鍾会「何か分かれば直ぐに知らせます」
司馬懿「そうして下さい」
司馬懿は鄧艾と鍾会を見送る。
司馬懿「お師匠様達は一体どこに……呉と戦う為に合肥に? いや、曹仁のいる江陵か……」
徐晃「司馬懿! ここに居たのね! 張コウから救援の要請よ!」
徐晃が現れる。
司馬懿「張コウ殿から?」
徐晃「ええ! 劉備軍、いや蜀軍が張コウのいる城に向かって来ているようなの!」
司馬懿「主の劉備が死んで、まだ間もないのに戦を始めるとは……冷たい連中ですね」
司馬懿は腕を組み呆れる。
司馬懿「ここは張コウ殿の救援よりも、我らは蜀軍の補給を断ちに行きます」
徐晃「補給を断つ? 援軍に向かわないの?」
司馬懿「漢中は険しい山岳地帯ですが間道も多いのです。補給線を抑えることが出来れば蜀軍は崩壊するでしょう」
徐晃「分かったわ。直ぐに発ちましょう」
司馬懿達は軍を伴い出発した。
司馬懿「この先に蜀軍の補給線の要、街亭があります」
徐晃「その街亭を抑えればいいのね」
司馬懿「そうです。ここは北伐の急所です」
満寵「司馬懿殿、徐晃殿!」
徐晃「満寵どうしたの? 陳倉にいたんじゃないの?」
満寵「ええ。カク昭が司馬懿と合流するようにって。それと蜀軍が街亭を占拠しているわ」
徐晃「流石は諸葛亮といったところね……当たり前と言えばそれまでだけど」
司馬懿「ちっ……」
司馬懿は舌打ちする。
徐晃「司馬懿? どうしたの?」
司馬懿「街亭は最重要拠点の一つです……そこに蜀軍がいると言うことは簡単には奪えないでしょうね」
満寵「そんなことはないと思いますよ」
司馬懿「満寵殿。随分大きく出ましたね。先ほども言いましたが最重要拠点ですよ?」
満寵「ええ。だって蜀軍は街亭山頂に主力を布陣し、間道には少数の部隊しかいないから」
司馬懿「なんですって! 信じられません……これが天才軍師・諸葛亮の采配なのですか? ふぃふぃふぃ……」
徐晃「司馬懿? 何その変な笑い方……」
司馬懿「この戦。勝ちました。満寵殿、蜀軍の総大将は誰ですか?」
満寵「馬謖です」
司馬懿「諸葛亮……智はあっても人を見る目は無いようです」
徐晃「あの……さっきの変な笑い方は何なの?」
司馬懿「え? 変な笑い方なんてしましたか?」
徐晃「ええ。ねぇ満寵?」
満寵「ふぃふぃふぃって……」
司馬懿「そう言えば……昔、お師匠様にも言われたことがある……勝利を確信するような場面で変な笑い方するって……」
徐晃「ふーん……じゃあこの戦いはふぃふぃふぃだ」
満寵「「ふぃふぃふぃですね」
司馬懿「やっ止めて下さい! これより街亭を包囲するのですから! 行きますよ!」
司馬懿は徐晃と満寵にからかわれることが続くのが嫌で。先に進む。
街亭に到着するなり直ぐに司馬懿は馬謖率いる蜀軍を包囲する。山頂に陣を構える馬謖に司馬懿はいとも簡単に麓を押さえることが出来た。
馬謖が孤立した時、馬超が魏軍に突撃するも司馬懿は対騎馬の丸太で道を塞ぎ満寵の率いる弓兵が馬超の騎馬隊に矢を打ち込む。馬超の奮戦に馬謖は撤退を始め山を降る。徐晃はここぞと言わんばかりに山頂を目指し逃げる蜀軍を追撃した。
麓では蜀軍の援軍と南蛮軍が現れる。司馬懿は蜀の退却に執拗に追撃する。徐晃の部隊も山を降り馬超を満寵の部隊と共に挟み撃ちした。
そして司馬懿から合図が送られ逃げ場のない馬超は逆落としをまとも向けることになり馬超の部隊は壊滅した。
司馬懿「圧勝です。正に完全勝利です」
司馬懿は嬉しそうに言った。
徐晃「「ふぃふぃふぃって言わないんだ? あっ、終わった後だもんね」
司馬懿「それ……割と嫌です……」
徐晃「可愛くていいと思うけど?」
司馬懿「同性から見ればそうかも知れませんが異性から見れば頭のおかしい女です」
徐晃「司馬懿。同性から見てもそうだから」
徐晃は司馬懿の肩を叩く。
司馬懿「もう! 徐晃殿!」
徐晃「はははは! 冗談よ!」
勝利に気分をよくする二人であった。
満寵「蜀軍しんがりを務めていた馬超を捕えました」
満寵が馬超を連れて来る。
馬超「……」
馬超は手を鎖で縛られている。
司馬懿「この男が……曹操様を追い詰めた馬超」
徐晃「お前が馬超か。潼関では生き延びたが劉備軍に仕えたのがお前の運の尽きだな」
徐晃が馬超に話かけた。
馬超「ふっ……この馬超。劉備様に出会い、素晴らしい仲間と共に戦うことが出来た。己の命よりも大切なものを見つけられた。それを運の尽きだと? 笑わせるな!」
徐晃「捕虜の分際で……よくそんな強気でいられるわね」
司馬懿「馬超殿。魏軍に降るつもりはありませんか?」
馬超「はっきりと言わせて貰おう。ない!」
馬超の言葉に迷いはない。
徐晃「何だこの堅物は……こんな男の元にいたホウ徳が報われん……」
馬超「ホウ徳だと……女、何故ホウ徳を知っている!」
馬超はホウ徳の名を聞き動揺した。
徐晃「女ではない! 私は徐晃だ!」
馬超「女ではないだと! では貴様は男なのか!」
徐晃「なっ! 私が男に見えるの! 私は女で徐晃と言うのよ! 全く……この豊満な体を見て分からんのか」
馬超「そうか……そうなのか……たしかに男にそんな無駄な脂肪はないもんな……」
徐晃「無駄って言うな! 大抵の男は大好きなのにお前は何なんだ!」
馬超「俺のことなんてどうだっていいだろう……」
満寵「何だか急に元気が無くなりましたね……」
徐晃「馬超……ホウ徳は死んだ。関羽に殺されたのよ!」
馬超「関羽殿だと? ではホウ徳は曹操軍に……」
徐晃「悔しいか……いや悔しい筈がない。お前はホウ徳を置いて逃げたのだから!」
馬超「俺は……いや……言い訳はせん。ホウ徳を守れなかったことは事実だ」
徐晃「中々、潔いではないか。なぁ満寵?」
満寵「潔いと言うか……いい男ですよね」
満寵は馬超の顔をまじまじと見る。
徐晃「ふむ。言われてみれば……まぁ確かに……ホウ徳が入れ込むのも分からんこともないか……」
満寵「ん? そういえば司馬懿殿、ずっと黙っていますが……どうかしましたか?」
司馬懿「えっ? いや、その……おほん! 馬超! 魏軍に降らないのであれば、あなた様の命は……ほっ、保証しかねます」
「あなた様?」
徐晃と満寵の声が揃う。
司馬懿「あっいえ、あなた……です。すみません……」
司馬懿は直ぐに言い直す。
徐晃「馬超。仲間を守る為に自らしんがりをかって出た貴様の心意気、それに免じて捕えた将兵を解放しよう」
馬超「そうか……では女と呼び捨てにした非礼を詫びよう徐晃殿。感謝する」
司馬懿「そっそれを私も今、言おうとしたのです!」
馬超「では司馬懿殿にも感謝しなければなるまい」
司馬懿「はっはい!」
司馬懿は赤面する。
満寵「では、最後に馬超の裁きですが……」
徐晃「馬超。お前は危険な男だ。ここでお前を逃がせば、いずれ我らの仲間が命を落とす……」
馬超「覚悟は出来ている」
司馬懿「そっそんな!」
満寵「夏侯淵さんの仇討ちも考えたら止むを得ません」
司馬懿「しっしかし! もしかしたら我らの仲間になってくれるかもしれません!」
司馬懿は馬超を何とか仲間に入れたい気持ちがあった。それは初めて抱く感情がそうさせた。
徐晃「いや。これ以上は馬超を辱めることになるわ」
馬超「徐晃殿、最後に武人として扱ってくれるか。心遣い、感謝する!」
徐晃「さらばだ馬超」
馬超「さらばだ徐晃!」
満寵「馬超を処刑台へ」
魏軍兵士「はっ」
馬超は魏軍の前で首を落とされる。
司馬懿「…………」
司馬懿は処刑される馬超に目を逸らした。
徐晃「司馬懿? さっきから変よ? どうかしたの?」
司馬懿「なっなんでもありません……」
徐晃「だったらいいんだけど。満寵、兵をまとめて街亭に陣を敷こう」
満寵「分かりました。二度と取り返せないくらいの厳重な陣を敷きましょう」
徐晃と満寵はその場を離れる。
司馬懿「馬超殿……出会う形が違っていれば私があなたを幸せに出来たのに……」
司馬懿は馬超の首に語りかけた。




