魏編 邪晶
魏編 邪晶
樊城を多大な犠牲を払い見事、関羽から守り抜いた曹操軍。関羽は呉軍の総攻撃に合い益州まで撤退しようとしていた。
司馬懿は呉の盟を無事に結び合肥に帰還した。
司馬懿「夏侯惇殿! 張遼殿!」
司馬懿は夏侯惇と張遼を見つける。
夏侯惇「司馬懿。お帰り」
司馬懿「曹操様がお亡くなりになったとお聞きしました!」
張遼「……」
夏侯惇「そうよ」
司馬懿「この様な時に曹操様がお亡くなりになるなんて……私の功績を褒めて欲しかった……」
夏侯惇「司馬懿。報告は聞いているわ。呉軍と劉備軍を決裂させるのに成功したのはあなたの手柄よ」
司馬懿「はい……関羽は呉軍からの猛追に生涯を終えるでしょう」
夏候惇「孫権は幼いと言えど呉の主。失礼はなかった?」
司馬懿「とっ当然です! 厳粛な空気の中、れっ礼を尽くしました……」
夏候惇「だったら安心ね。まぁ博識な司馬懿であれば作法も知っているだろうし」
司馬懿「もちろんです!」
夏侯惇「私と張遼は許昌に向かうから、あなたは自分で考えて行動しなさい」
司馬懿「分かりました。では一度江陵に向かい徐晃殿と共に漢中に向かいます」
夏侯惇「それがいいと思うわ。これから大変だけど期待してるわ」
司馬懿「夏侯惇殿。何故、張遼殿と許昌に向かわれるのですか? 江稜の統治を優先させるべきかと」
夏侯惇「大人の世界に首を突っ込むのは止めなさい」
張遼「司馬懿。そう言うことだ」
司馬懿「ムカ! 子ども扱いされる程、私は理解力が無くはありません」
夏侯惇「あら? そうなの? でも駄目。次に会った時に話すことにするわ」
司馬懿「まぁ、いいでしょう。とりあえず曹仁に江稜は任せるしかないか……」
張遼「司馬懿。早く行け」
司馬懿「張遼殿。その言い方! まるで私が邪魔者ではないですか!」
張遼「邪魔だ」
司馬懿「く! 分かりました! 行きます! 行けばいいんですよね!」
司馬懿は部屋を出る。
夏侯惇「あらあら。司馬懿が拗ねちゃったわね」
司馬懿の態度に夏候惇は少し困った顔する。
張遼「夏侯惇……先日の話だが信じられん」
夏侯惇「信じられなくても怪物は本当に存在するのよ」
張遼「その怪物が存在するとして、どうして殺さない?」
夏侯惇「死なないのよ……」
張遼「不死の怪物か……面白い」
夏侯惇「張遼。あなたでも殺せはしないわ」
張遼「やってみなくては分からんだろ」
夏侯惇「少し順を追って話しましょう……」
夏侯惇「邪晶の存在を知ったのは黄巾賊と戦っている頃よ。最初は孟徳も淵も私も全然信じていなかった」
夏候惇は語り始める。
夏侯惇「その後、董卓の乱が終息し袁紹との戦いが終わった後、見つけてしまったのよ……洛陽の地下から」
張遼「洛陽の地下だと?」
夏侯惇「そう。完全に忘れていたから初めて見た時は本当に驚いたわ。その時は邪晶はまだ、完全な結界に封じられ眠っていた。都の地下に得体の知れない者を置くのは気味が悪いという理由で洛陽と許昌の間の古墳に封じることにしたの」
張遼「……」
張遼は夏候惇の言葉に嘘がないと感じる
。
夏侯惇「邪晶を運ぶ道中に馬車が横転する事故が起きた……結界が壊れ邪晶が目を覚ました。その時の面々が孟徳、淵、郭嘉、私の四人。そして輸送隊……」
夏侯惇は思い出すように目を閉じる。
夏侯惇「最初に輸送隊が全員、邪晶の瘴気で死んだわ……一瞬の出来事だった……次に邪晶は怖くて動けない私の眼玉を抉り取り、そして口に運んだ……あんな奴に自分の眼玉を食われる位なら自分で食べれば良かったと思うわ」
張遼「どうして戦わなかった?」
夏侯惇「孟徳と淵が武器を振るったわ……でも斬った側から治っていくの……それも、もの凄い速さで……そし、郭嘉が自らの命を犠牲にして壊れた結界を修復した……」
張遼「では、郭嘉殿は病死ではなかったのか!」
夏侯惇「ええ。でも郭嘉の命を依ってしても邪晶の結界を完全に修復することは出来なかった。それから邪晶は内部から結界を壊そうとしていたけど、孟徳が自分の血を使って結界を修復し抑えていたの」
張遼「曹操様が……何故、曹操様が!」
夏侯惇「邪晶に近づくことが出来、瘴気に耐えることが出来るのは孟徳だけだったから……淵でも傷口から擦り込まれるように入る瘴気には長く耐えることが出来なかった。結果、結界を修復する度に邪晶の瘴気が孟徳の身体を蝕むことになった。これまでは名医・華佗から薬を調合して貰い何とかしていたわ」
張遼「夏侯淵殿でも耐えることが出来ないとは……俺でも無理なのか……」
夏侯惇「あの瘴気は術に似た特性を持っているみたい」
張遼「ちっ……一番苦手なやつか……」
夏侯惇「そして孟徳、淵と私の三人は天下統一に加えて邪晶を倒すことが目的に加わった」
張遼「倒すってどうやって?」
夏侯惇「一つだけ邪晶を倒す手掛りがあったの」
張遼「それは何だ」
夏侯惇「白紙の書物」
張遼「白紙の書物をどうするのだ?」
夏侯惇「分からない……邪晶の存在を教えてくれた人物が白紙の書物を残していった」
張遼「どういうことだ? それは……」
夏侯惇「これが事の真相の全て……後は自分の目で確かめなさい。まだ封印されているから埋めればいいだけよ」
張遼「分かった。俺に話してくれたということは……」
夏候惇「私一人ではとてもじゃないけど背負えないのよ。申し訳ないけど一緒にこの重荷を担いでくれるかしら」
張遼「まずはこの眼で確かめてからだ。夏候惇、急ごう」
夏候惇と張遼は許昌に向かった。
中華では呉が関羽を討ち、そして張飛までもが命を落としたことの話しで持ちきりになっていた。至る所で呉の裏切りや劉備の躍進が終わったなど噂が広がる。
そして曹操の死はそれ以上の出来事で盗賊の類が多く暴れる事態となり軍は治安維持に力を裂くこととなっていた。
許昌では賈クがこれからの動向を模索していた。
鍾会「お師匠様。曹操様が亡くなられて、これからはどうなさるおつもりですか?」
鄧艾「武装集団の拠点は全て潰しました。これより先は俺達も動かねばならないかと」
賈ク「逸る気持ちは分かるが曹操様が亡くなられた以上、喪に服しこれより当面戦を禁ずる」
鄧艾「分かりました。では、俺と鍾会は漢中にて喪に服しましょう」
賈ク「うむ。喪が明ければまた戦いが始まる」
鍾会「そういえば司馬懿さんが漢中に向かっているそうですよ」
賈ク「司馬懿はせっかちだのー。まぁ漢中は激戦地となる場所だが……」
鄧艾「それからお師匠様。呉軍が関羽と張飛を討ったことで劉備軍に動きがありました」
賈ク「そうか。双方がぶつかればただではすまん。こちらが喪に服すことを考えれば劉備軍と呉軍の戦いは今はありがたい」
鍾会「どちらが勝つでしょうか」
賈ク「恐らくは呉軍だろう」
鄧艾「俺もそう思います」
鍾会「そうですか? 劉備軍にも十分勝機があるかと思いますが」
賈ク「まぁ、直に分かるだろう。ああそうだ、江陵の曹仁殿に使いを出さねば」
鍾会「曹仁殿に? 何かあるのですか?」
賈ク「呉軍が有利になれば劉備軍は曹操軍に呉の背後を突くように言ってくるだろう」
鄧艾「そんなこと言いますかね?」
賈ク「少なくとも私ならそうする」
鍾会「お師匠様は諸葛亮やホウ統よりも上じゃないですか?」
賈ク「どうかのー? どうせ比べるなら張良と比べて欲しいものよ」
張良とは漢の始祖である劉邦に仕えた天才軍師である。
鄧艾「では、曹仁殿に使者を出します」
賈ク「うん、助かる。鄧艾と鍾会は漢中に向かってくれ。呉軍討伐よりも諸葛亮の動向が気になる」
鄧艾「分かりました」
鍾会「鄧艾。留守番からやっと解放されるわね」
鄧艾「本当だな。久しぶりにカク昭とも会える」
鍾会「カク昭の奴、一人で先に行くなんて……」
賈ク「まぁ、そう言うでない。あの時はカク昭が適任だったのだ。お前たちは武装集団拠点殲滅の任務の最中でもあったのだ」
鄧艾「分かっております。では先に立ちます。お師匠様」
賈ク「気を付けるのだぞ」
鍾会「はい」
鄧艾と鍾会は旅立つ。
賈ク「さてと……私は許チョ殿を慰めて来るとするか……」
賈クは許チョの元に向かう。
許チョ「……」
曹操軍兵士「許チョ様……お食事が進んでいない様ですが……」
許チョ「曹操様がいない食事は美味しくない……」
許チョは昼食をとっていた。
賈ク「許チョ殿。ここにおりましたか」
許チョ「賈クか……」
賈ク「食事が進みませんか?」
許チョ「うん」
曹操軍兵士「いつもは丼ぶり飯を十二杯は食べられるのですが……曹操様が亡くなってからというもの九杯に……」
賈ク「そっ、そうか。お主は下がってよい」
曹操軍兵士「はっ」
賈ク「許チョ殿。私は曹操様の代わりにはなれません。ですが、私も許チョ殿が幸せになれるよう尽力致します」
許チョ「賈ク……」
賈ク「あなたの姉妹である典韋殿を殺した罪が消えるとは思っておりません。しかし許チョ殿が私を許してくれる日が来るのであれば、私はどの様な努力も惜しみません」
許チョ「賈クは……知っているのか?」
賈ク「知っている? 一体、何をですかな?」
許チョ「曹操様の秘密を」
賈ク「いえ。何かある様ではございましたが……許チョ殿はご存じで?」
許チョ「知らない……でも知ってる」
賈ク「ふむ」
賈クは許チョが何かを知っていることに気付く。
許チョ「曹操様は時々、夏侯惇と二人で許昌の外れの古墳に行っていた」
賈ク「そんなことが……私は全く知りませんでした」
許チョ「戻るといつも曹操様は苦しそうだった」
賈ク「何ですと? 一体どういうことですか……」
賈クの眉間に皺がよる。
許チョ「許チョには分からない……賈ク……一緒に行こう」
賈ク「しかし、曹操様の秘密を暴くような真似は……」
許チョ「一緒に行ってくれたら……許してあげるから」
賈ク「分かりました……ではご一緒しましょう」
許チョ「ありがとう。賈ク」
賈ク「許チョ殿からその言葉を聞けるとは……! この賈クにとって、これ程嬉しいことはございません」
賈クは許チョと共に古墳に向かった。
許チョ「賈ク……あそこ……」
許チョは古墳を指さす。
賈ク「許チョ殿……引き返しましょう」
許チョ「どうした?」
賈ク「一体何なのだ……この禍々しい気は……この賈クがここまで恐怖を感じるとは」
初めて感じる冷たい気を賈クは恐れた。
許チョ「賈クは臆病だな」
許チョは先に進む。
賈ク「許チョ殿! 先に行かないで下され!」
曹操軍兵士「あっ、賈ク様、許チョ様! これより先は曹操様から、何人たりとも通してはならぬとのお達しです」
門番が道を塞いだ。
許チョ「むっ、そうなのか?」
賈ク「お主は門番か? 一人とは珍しいな」
曹操軍兵士「はい。何人かと交代で任務に就いております」
賈ク「曹操様が亡くなられ、この古墳のことは私が託されたのだ」
曹操軍兵士「そうでございましたか」
賈ク「お主はこの古墳について、何か知っておるのか?」
曹操軍兵士「詳しくは知りませんが長く留まると体調を崩す奇怪な場所で被害が出ないように見張りを命じられました」
賈ク「そうか……この門の先に一体何があるというのだ」
許チョ「賈ク。入るぞ……」
許チョと賈クは門を開け中に入る。
古墳の中は真っ暗であった。賈クは松明を片手に先に進む。
古墳は僅かに光が入ってくるように設計されており視界は悪くも何とか進めるものであった。
賈ク「何だ……この背筋が凍る感覚は……?」
許チョ「大丈夫か?」
賈ク「許チョ殿は何ともありませんか。流石は曹操軍の猛将と言ったところですな」
許チョと賈クは先に進む。
邪晶「ふふふっふふふふふ……」
突如、暗闇の先から笑う女の声が聞こえる。
賈ク「誰だ! 誰かいるのか!?」
許チョ「誰かいる」
邪晶「おや? 曹操ではないのか……」
目の前に結界に閉じ込められた女が現れる。
賈ク「何者だ……お主は……」
邪晶「曹操以外の者が来るのは久しい……」
賈ク「曹操様はここに来ておったのか……いや、お主に会いに来ておったのだな」
許チョ「賈ク。この女は誰だ……?」
賈ク「分かりません、しかし結界に封じられているようです。貼られているこの札は数百年前のものか。憶測ではございますが人ではない妖の類のようです」
邪晶「何と……美味しそうな女子がおるではないか……わらわの腹を満たす為にここに?」
賈ク「この者……人の姿をしておれどやはり人に非ず!」
許チョ「賈ク……曹操様は何故ここに来ていた?」
賈ク「分かりません……今は早くこの場から去りましょう! 調べるのは後です!」
邪晶「曹操がおらんということは……死んだのか曹操は?」
許チョ「むっ」
許チョは邪晶を睨む。
邪晶「そうかそうか。あれ程わらわを倒すと豪語しておったのに……わらわの瘴気に毒されたか……愉快愉快、ほほほほほほ」
賈ク「曹操様が貴様を倒そうとしていただと!」
許チョ「こいつのせいで曹操様が……」
賈ク「曹操様は私でさえ倒せなかったお方だ!! 私が後で成敗してくれる!」
許チョ「賈ク……許チョも戦う……」
賈ク「許チョ殿。ありがとうございます。しかし今は一旦戻り対策を立てましょう」
邪晶「わらわにご馳走を見せ、このまま無事に帰すと思うてか!」
邪晶は声を張り上げる。
邪晶「このような弱った結界など! 壊れろ! 壊れてしまえ!」
邪晶は結界を内から叩く。曹操によって修復されていない結界にひびが入る。
賈ク「こいつ……結界を壊そうと! いかん! 許チョ殿、お逃げ下され!」
許チョ「でも……曹操様の仇討ちを……」
賈ク「今はそんなことを言っている場合ではありません! 早く! ここは私にお任せくだされ!」
賈クは許チョを逃そうとする。
邪晶「喰わせろぉおおおお! わらわは空腹ぞぉおおお!」
結界が壊れ邪晶が賈クと許チョに襲い掛かる。
合肥から向かっていた夏候惇と張遼は古墳に到着した。
張遼「夏侯惇……あそこか?」
夏侯惇「ええ。そうよ」
曹操軍兵士「夏侯惇様、張遼様」
夏侯惇「見張りご苦労様」
曹操軍兵士「はい。先程、賈ク様と許チョ様が中に入られました。お二人も何かご用ですか?」
夏侯惇「なんですって! 賈クと許チョが中に入ったの!」
夏候惇は兵の報告に驚く。
曹操軍兵士「はい。曹操様から古墳を任せられたと仰って……」
張遼「どういうことだ!? 夏侯惇!」
夏侯惇「ありえないわ。孟徳がここのことを誰かに話すなんて……きっと許チョが孟徳と私を尾けていたのね……張遼、急いで中に入りましょう!」
夏候惇と張遼は急いで古墳の奥に向かう。
許チョ「か……賈ク……助けて……」
古墳の奥で許チョは邪晶によって敗れ生きたまま食われていた。許チョの肩は骨が見え邪晶は血を啜る。
賈ク「許チョ……殿……何だこの女の強さは……許チョ殿と私が手も足も出んとは……」
傷ついた賈クは身動きが出来ない。
邪晶「久しい……忘れかけるところであった……この味……わらわの腹を満たし……力がみなぎる」
許チョ「あ……ああ……」
許チョの意識が遠のく。
夏侯惇「賈ク! 許チョ!」
夏候惇が叫ぶ。
邪晶「ん? おお! お前は以前、喰い損ねた女ではないか」
邪晶は夏候惇を見る。
夏侯惇「ひっ! どっどうして結界から出ているの!」
邪晶「後で喰ろうてやる……しばし待つがよい」
張遼「許チョ! 今助けてやる!」
張遼は叫ぶ。
許チョ「張遼……夏侯惇……死にたく……ない」
夏侯惇「許チョを離しなさい!」
張遼「夏侯惇! 今は刃を振るえ!」
邪晶「わらわは食事の邪魔をされるのが最も嫌いだ……いや……これも食事の続きか隻眼の女よ」
張遼は邪晶に向けて懇親の一撃を食らわせる。邪晶の身体に青龍刀が食い込む。張遼は取ったと確信するも邪晶は青龍刀を掴み悠々と引き抜く。
そして瞬く間に傷が塞がっていく。その光景を見て張遼と夏候惇は戦慄する。夏候惇は勇気を振る絞り剣を振るう。張遼も負けずと青龍刀を振るった。邪晶は笑みを浮かべながら二人の攻撃を受ける。やがて邪晶の瘴気により二人の息が上がり始めた。
邪晶「そんなものか……これでも喰らうがいい!」
邪晶の手から瘴気の塊が張遼に当たり遠くに飛ばされる。
張遼「ぐわぁああああ! 何だ……この全身に走る痛みは!」
賈ク「張遼……身体に瘴気を流し込まれたのだ……」
張遼「賈ク! 生きていたか!」
張遼は賈クが生きていたことにホッとする。
夏侯惇「どっ、どうすればいいの!」
賈ク「あの結界は左道の一種か……禁忌・人柱の結界……私の弱った体であの怪物を封じ込められるか……」
張遼「賈ク……人の命で作るその結界……俺の命で足りるか?」
夏侯惇「張遼!」
賈ク「正気か張遼……こんな時……冗談は通じんぞ……」
張遼「俺は冗談が好きではない。やれるか?」
賈ク「やるしかあるまい……」
邪晶の女「ふー。美味じゃ……誠に美味じゃ……」
許チョ「…………」
邪晶は許チョの肩に齧り付く。許チョは出血多量で意識が遠のいていた。
賈ク「許チョ殿……」
その凄惨な後継に賈クは眼を閉じる。
邪晶「さて……少し味を変えたいな……隻眼の女よ。近くに来るがよい」
邪晶は夏候惇を呼ぶ。
夏侯惇「うっ……うぅ……」
あまりの恐怖に一つしかない夏候惇の眼から大粒の涙が零れる。
張遼「くっ! 夏侯惇……」
張遼は夏候惇を助けたくとも邪晶の一撃によって動けなかった。
夏侯惇「賈ク、張遼……私が時間を稼ぐから、必ずあいつを封じ込めて……」
張遼「夏侯惇……馬鹿な真似はよせ……」
張遼の言葉を聞かず夏候惇は邪晶に向かって行く。
邪晶「よう来た……観念したか隻眼の女よ……」
夏候惇「うぐっ……うっうっ……」
夏候惇は振るえながら邪晶の前に立つ。
邪晶「そう怖がるな……痛いの最初だけだ……さぁ! わらわの血となり肉となるがいい!」
邪晶は夏候惇の腕を掴み肘から下を引きちぎる。ブチブチと腱の切れる音が聞こえる。
夏侯惇「うわぁあああああ!! あっ……ぐっ……ああ!!」
腕を引きちぎられた夏候惇は床を転がる。邪晶は夏候惇の腕に噛みつき口から零れる血を下で舐めとる。
張遼「賈ク! 今の内だ!」
賈ク「少し時間をくれ……!」
賈クと張遼は夏候惇が時間を稼ぐ間に痛みが和らいだ。
邪晶「この女もまた美味い……」
夏侯惇「いやぁあああああ!」
邪晶は夏候惇の髪を掴み持ち上げる。
張遼「賈ク! まだか!」
賈ク「張遼! お主の命使わせてもらうぞ!」
張遼「おお!」
「うぉおおおおおおお!」
賈クは手を合わせ印呪を作り張遼の命を使い結界を作る。邪晶の周りに結界の紋様が現れ青い光と同時に邪晶は結界に閉じ込められた。
邪晶「ほほぅ……お主も結界を張れるのか。大したものではないか」
賈ク「はぁはぁ! 軍師を目指す者であれば隠術の知識は多少ある……しかし……張遼……すまない……」
賈クの体力は限界に来ていた。そして張遼の姿はそこにはない。
邪晶「ふふふ。まぁ良い……しかし、残酷な男よのー。女どもも一緒に封じるとは」
賈ク「そっ、そんな!」
結界の中には夏候惇と許チョが一緒に封印されていた。
夏侯惇「賈ク……気にしなくていいわ……こいつを閉じ込めてくれてありがとう……」
許チョ「死にたく……ない……」
夏候惇と許チョの表情は絶望に染まっていた。
賈ク「夏侯惇殿! 許チョ殿! そんなつもりでは!」
邪晶「ほほほほ! この女どもを骨までしゃぶってくれるわ!」
賈ク「わ……私は何てことを……」
邪晶「これだから男は……自分のことしか考えない愚かな生き物……」
賈ク「ぐふっ……瘴気で毒されたか……愛する妻に別れも言えんとは……」
賈クはその場に倒れこむ。
曹操軍兵士「賈ク様! しっかりなさって下さい!」
門番の兵が帰りが遅いと迎えに来た。
賈ク「お主は……」
曹操軍兵士「何なんだこれは……早く、せめて賈ク様だけでも連れ出さねば」
兵は賈クを抱え古墳の出口に向かった。
邪晶「ほほほほほ! さぁ! 楽しい楽しい食事の続きをしましょう!」
邪晶の手刀が夏候惇の腹に突き刺さる。
夏侯惇「ああぁあああああああ!」
暗い古墳の中で夏候惇の断末魔が響き渡った。
曹操軍兵士「賈ク様! しっかりなさって下さい!」
古墳の外に賈クを運び出した兵は賈クに呼びかける。
賈ク「ここを封じ……埋めるのだ……そして今日のことは決して口外してはならぬ……」
曹操軍兵士「わっ分かりました!」
賈ク「禁忌・人柱の結界……人の生命力に比例して……結界が強くなる術……張遼……お主の命であれば……誰かが封印を解かない限り、大丈夫であろう……しかし……あの怪物を最初に封じた者は誰なんだ……そして……数百年も封じ込めることが出来る人柱とは一体…………」
賈クは息を引き取った。
曹操軍兵士「賈ク様! しっかりなさって下さい! 賈ク様! もう息をされていない……何てことだ……とにかくここは賈ク様の遺言通り古墳を埋めてしまおう」
兵は一人、古墳の入り口を土で埋める。自分の身体が瘴気によって蝕まれていることも知らずに……。




