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雷子  作者: 三幸
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魏編 男三人

魏編 男三人



この頃、合肥は呉軍に包囲されつつあった。呉軍は合肥を直ぐには包囲せず撤退せねば命はないと言わんばかりに徐々に距離を詰めていた。


 合肥の城内では呉軍の太鼓の音が威嚇するように響き渡る。


張遼「呉軍……我らを包囲する気か」


楽進「その様だな」


李典「ここは守りに徹するか?」


張遼「守って勝てる見込みなどあるまい」


李典「その通りだ」


楽進「では攻めるか」


張遼「楽進、李典、頼みがある」


楽進「珍しいな。何だよ」


張遼「俺は敵将を狩ることに専念したい。楽進と李典で敵を引き付けて欲しい」


李典「張遼、一生のお願いってやつかな?」


張遼「そうなると思う」


楽進「だったら構わんよ」


曹操軍兵士「報告します! 呉軍・総大将は孫権のようです!」


 兵から孫権が合肥にいることが知らされる。


張遼「孫権か……大将首を狙える機が来るとはな」


李典「敵の軍師は……いや、周瑜はここに来ているのか?」


曹操軍兵士「いえ。周瑜は江陵に向かった様です」


李典「……」

 李典は腕を組み考える。


楽進「どうしたんだ李典」


李典「いけるかも知れん……」


楽進「いけるって何がよ」


李典「周瑜がいれば包囲はして来ないと踏んでいた。しかし、呉軍は包囲する形で向かってくる。そうなれば孫権の守りも厚く出来ない」


張遼「大将首を狙えるということか」


楽進「孫権を獲ればこの戦いは勝ちだな!」


李典「張遼。俺からもお願いがある。精鋭を率いて呉軍に見つからない様に先に城を出てくれ」


張遼「どういうことだ」


李典「合肥は俺と楽進で守る。張遼は守りの薄くなった孫権を奇襲して欲しい」


張遼「お前達二人で合肥を守り切れるのか?」


楽進「だから合肥が落ちる前に張遼が孫権の首を獲ってくればいい」


張遼「ふっ……信頼されてると思ってもいいのか……」


李典「信頼しなければこんなことは言わない」


張遼「分かった。直ぐに発つ……李典、楽進、後で」


楽進「ああ」


 張遼は出陣に向けてその場を去った。


李典「楽進……すまん」


楽進「気にすんなよ。李典」


李典「俺達が生き残ることは無いだろう」


楽進「だろうな。合肥と孫権の首を引換するんだろ? 悪くないんじゃねーの?」


李典「張遼の奇襲が成功すれば呉軍は混乱し合肥も守り切れるだろう」


楽進「仮に失敗しても張遼だけは生きて帰せるしな。まっ、どちらにしろ俺達に生き残る道はないがね」


李典「そうだ。張遼が実直な男で良かった」


楽進「張遼にはまだまだ曹操様の為に働いてもらわなきゃならんしな。夏侯淵さんだったら俺達の考えも見抜かれただろうな」


李典「あの世でいいか」


楽進「あの世?」


李典「一緒に双胴船を作ろうって約束さ」


楽進「あの世に木があればいいんだがな」


李典「なければ鉄で作る」


楽進「浮くのかよ」


李典「あの世なら浮くさ」


楽進「夢があっていいねぇ! 俺達の夢に向かっていざ出陣と行くか!」


李典「ああ!」


 李典と楽進は合肥の守りを始める。




 合肥の戦いは呉の包囲網から始まった。合肥に怒涛の如く押し寄せる呉軍に楽進と李典は防戦に徹した。それは張遼の奇襲を成功させる為には出来るだけ城に釘付けにする必要があったからだ。


 呉軍の攻撃範囲は広く楽進と李典だけで防げるものではなかった。張り付かれば落城は必至の状況の中で楽進と李典は討って出ざるを得なかった。曹操軍は呉軍に対し壁のように展開する。楽進は見方を鼓舞し最前線で戦う。李典は楽進を補佐するように傷ついた兵を後方に苦し補充する。


 二人の連携に呉軍は中々前に進みことが出来ない。二人の身体に生傷が増える頃、呉軍の攻撃が収まることに気付く。張遼の奇襲が始まったことを知る。


 後少し……楽進と李典は顔見合わせる。


楽進「ははは……やっとかよ……張遼の奴……」


李典「ここを凌げば合肥は守りきれる……楽進、そろそろ逝こうか」


楽進「ああ!」


 『俺達の夢を追いかける気持ちにごちそうさまはねぇんだよ!』


 目の前の敵を倒せば終わるその戦いに対し味方の兵は僅か。楽進と李典は最後の気力を振り絞り呉軍に向かっていった。十倍を超える敵の中に……。




 張遼は呉軍の武将達を振り切り孫権を一直線に目指した。孫権を守る程普を討ち張遼の視線の先は後ろ姿の孫権のみ。


 突如、現れた盲目の老人が張遼に迫る。


于吉「張遼殿、少し私と相手をして頂こう」


張遼「邪魔をするな!」


 張遼は老人に青龍刀を振り下ろすがその時、急に黒い霧の様な錯覚を見る。


張遼「くっ! 目眩ましか!」


 張遼は一瞬の出来事に事態が分からない。


張遼「消えた……何者なんだ……」


 目が見えるようになった時には孫権も老人も姿が見えなかった。


曹操軍兵士「張遼様! 呉軍は張遼様の奇襲で混乱しております! 一度お退き下さい!」


 張遼に追いついた兵は状況を報告した。


張遼「撤退するぞ」


曹操軍兵士「はっ」


張遼「しかし……先ほどの老人は何者だ……久し振りに嫌な汗を掻いた……合肥はどうなっている」


曹操軍兵士「合肥は健在ですが楽進様、李典様共に討ち死にされました!」


張遼「そうか……分かった。楽進、李典……お前達の死は俺にとって新たな肥しとなるだろう。楽進と李典が命を懸けて守った合肥、呉軍には決して渡さん!」


 張遼は撤退する為に血路を開き合肥に到着する。合肥の熾烈な戦いは互いに大きな犠牲出し後、硬直することになる。

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