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雷子  作者: 三幸
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魏編 江陵防衛戦

魏編 江陵防衛戦




 昼夜、馬を走らせた曹仁達は江陵に到着していた。手勢にして数千、そして江陵の防衛隊を合わせても万に届かない兵で呉軍の追撃を耐えなければならない状況であった。



 江陵の城内では作戦会議が始まっていた。


曹仁「呉軍の連中が来るまでには少し時間がありそうだが……どうすっかなぁ……」


于禁「最終的に江陵は捨てざるを得ないでしょうね。全てにおいて不足しているもの」


徐晃「そうね。一時しかもたない……時間稼ぎしか出来ないわ」


司馬懿「いいえ。江陵は呉軍に渡しません」


曹仁「仲達! 良いこと言うじゃねーか! 呉軍なんざに曹操様の領土は渡せねーわな!」


于禁「司馬懿。気持ちは分かりますが、いささか無理があるかと……」


徐晃「私も于禁の言う通りだと思う……ほとんどの兵を赤壁で失ったのよ」


司馬懿「断言します。呉軍は全力で攻めることはしません」


于禁「どうしてそう思うのです?」


司馬懿「呉軍は江陵を容易に落とせる……いえ、我らが早々に退却すると考えているでしょうから」


徐晃「本当にそうなら何かムカつくわね」


曹仁「はぁー!? あいつら阿保じゃねーの! 俺様が簡単に退く訳ねーだろ!」


司馬懿「呉軍は我らを殲滅するよりも、曹操軍を退却させた方が実害が少ないからです。それに内陸に進む為に少しでも兵力を温存したいはず」


曹仁「へへへ。俺様が本気出せば呉軍なんて、あっと言う間に片付けてやるよ」


 「……」

 于禁、徐晃、司馬懿は『うっとしいなこいつ』と思った。


于禁「司馬懿。曹仁は無視していいわ」


司馬懿「そうさせて頂きます。いちいち、こいつの言葉を拾っては話が進みません」


曹仁「おい! 今、俺様のことこいつって言った? こいつって言ったのかなぁあああ!?」


司馬懿「呉軍には赤壁での勝利から慢心が生まれています。城攻め程、被害が多くて物資の消耗が激しい戦いはありません」


 曹仁は無視された。


徐晃「なるほど。では討って出ないのね」


司馬懿「いいえ。敵に油断あれば当然討って出ます。しかし初戦は守りに徹しましょう」


于禁「分かりました。相手の出方を見ることは大事なことですものね」


徐晃「じゃあ私は兵糧・備蓄の確認を急がないとね」


司馬懿「徐晃殿、お願いします」


于禁「では私は城壁の補修に使う資材の確保をしましょう」


司馬懿「于禁殿と徐晃殿はどこぞの馬鹿と違って頼りになります」


曹仁「ははは! ここにいる連中は、俺様を筆頭に皆頼りになるからな!」



「……」

 『どこぞの馬鹿とはお前のことを言ってんだよ!』 女性陣の心の叫びである。


司馬懿「曹仁は……」


曹仁「おう! 何をすればいいんだ?」


司馬懿「何もしないで下さい」


曹仁「おうおう! 仲達、俺様を出し惜しみか? まぁ俺様の力が必要ならいつでも声を掛けてくれや」


司馬懿「そうですね……何か、あ・れ・ば! 声をかけますね」


 司馬懿は笑顔で答える。


曹操軍兵士「報告します! 南方より砂塵! 呉軍のものだと思われます」


 呉軍の接近が知らされる。


司馬懿「分かりました。呉軍も陣を敷くのに時間がかかるでしょうから早急に準備に移りましょう。ただ北門に守備は置かなくて結構です」


徐晃「北を捨てるの?」


司馬懿「呉軍は我らに退路を残す為、北からの攻撃は無いでしょう」


于禁「司馬懿殿の作戦は大胆ですが説得力がありますね!」


司馬懿「そんな……大胆だなんて……このくらいの決断をしなくては軍師は務まりません」


徐晃「では、南へは私が向かおう」


于禁「東は私が」


曹仁「俺様が西だな!」


司馬懿「私も西の守りに同行します」


曹仁「なんだ仲達! そんなに俺様の近くにいたいのかよ! ははははは!!」


『おめーが頼りないからだよ!』

 女性陣の心の叫びである。


徐晃「司馬懿……今度、一杯奢るわ……」


司馬懿「徐晃殿……お心遣いありがとうございます」


 呉軍が江陵を包囲する。司馬懿の考えは当たり北側に呉軍が展開することはなかった。呉軍から銅鑼がならされ江陵に突撃する。呉軍の主力は南門に押し寄せる。


 徐晃は兵に激を飛ばす。城壁から呉軍に向けて弓を射るが呉軍は木の盾でその矢の雨を受け進む。城門にたどり着く呉軍は攻城兵器が進めるように江陵の周りに隠された溝がないか調べる。その時、城門が開く。呉軍にとっては防戦一方だと思っていた江陵の門が開くとは予想だにしていなかった。門の中からは徐晃率いる曹操軍が呉軍に襲いかかる。呉軍の先鋒は弓兵で編成された部隊で徐晃に蹴散らされ南門の呉軍は撤退を余儀なくされる。

 

 東門は南門に次いで呉軍の数が多い。歩兵を中心に編成された呉軍は大木を門に打ち付け突破を試みる。于禁は弓兵を率いることを得意とするがここでは城の修復に使われる木材に油をかけ門の前に落とした。呉軍は門に近づく事が出来ない状況に持ち込んだ。于禁は敵を討ち取るのではなく時間を稼ぐことに重きを置いた。


 そして西門は呉軍に攻撃が最も薄い場所だが司馬懿は曹仁の守る西門が本命と考えていた。城壁の上で曹仁は笑いながら兵に矢を射ろと命じるが呉軍の弓兵が曹仁の守る西の城壁に射られ少しづつだが被害が出る。曹仁はお構いなしに大声で呉軍を煽った。司馬懿は曹仁の指揮の取り方に真っ青になりながらも敵の主要となる部隊を見極め指示を出す。呉軍の展開から城壁上の兵を狙う部隊と隙あらば門の突破を狙う部隊を見極めていたのである。司馬懿の采配に呉軍は西門を突破する機を見出すことが出来ずにその日の戦いは終わりを迎えた。


司馬懿「はぁっはぁっ……呉軍が退いて行きます」


曹仁「仲達! お前、息上がってんなぁ! さては運動不足だなぁ!?」


司馬懿「くっ! この脳筋め!」

 司馬懿は曹仁を睨む。


于禁「司馬懿! 大丈夫ですか!?」


司馬懿「はい……ありがとうございます。曹仁の戦い方が酷くて疲れましたが」


曹仁「俺様が守ってやったんだろーが」


于禁「守って貰ったのはお前の方だ! 馬鹿!」


曹仁「えええ!! 何でだよ! 俺様の強さがあればこそだろ!?」


司馬懿「于禁殿、ありがとうございます。こいつに何を言っても無駄です」


于禁「そうね、司馬懿殿。徐晃殿と合流しましょう」


司馬懿「ええ」


 司馬懿は于禁に肩を貸され徐晃の元へ向かった。


曹仁「おいぃいいいい! 俺様を無視して放って行くな! こんな所で一人寂しいだろ!!」


 曹仁は于禁と司馬懿を追いかけた。





 江陵の防衛が成功した時、夏侯淵は洛陽に到着していた。


夏侯淵「惇。孟徳は?」


夏侯惇「今、邪晶に向かったわ」


夏侯淵「そうか……」

 夏侯淵の顔が曇る。


夏侯惇「赤壁の敗北で内乱が起こると思っていたけど何事もなくて良かったわ」


夏侯淵「それは孟徳の為政がしっかりしているからだろう……まぁ報復を恐れている可能性もあるが……」


夏侯惇「恐怖と規律は紙一重の部分があるから仕方がないわね。それにしても淵とも随分と長い付き合いになるわね」


夏侯淵「そうだな……久しぶりに故郷に帰れると思ったが……」


満寵「夏侯淵さん、惇姉、ここにいましたか」


 満寵が現れる。


夏侯惇「どうかしたの満寵」


満寵「いえ。食事の用意が出来ております」


夏侯淵「そうか。ありがとう満寵」


満寵「早く行かないと許チョが全部食べてしまいますよ」


夏侯惇「なら許チョには好きなだけ食べさせて置きなさい」


夏侯淵「それがいい。帰り道ずっとお腹が空いたと言っていたし」


満寵「夏侯淵さんと惇姉が曹操軍にいてくれて本当に良かったと思います」


夏侯惇「そう?」


満寵「はい。お二人は曹操軍の中で素敵な兄と姉の様な存在ですから」


夏侯淵「ははは。それは嬉しいな」


夏侯惇「曹仁みたいな弟を持つのは嫌だけどね」


夏侯淵「まーそう言うな。惇はそんなことを言っても曹仁を可愛がってるじゃないか」


夏侯惇「小さい頃を知っているからかしらね……昔は可愛いかったんだけどなぁ……」


満寵「曹操様とは、ずっとご一緒なんですよね」


夏侯惇「うーん……私はそうかな? 親戚だし」


夏侯淵「俺はずっとではないかな?」


満寵「そうなんですか? では何時頃、曹操軍に?」


夏侯淵「少し長くなるんだが」


満寵「お聞きしたいです」


夏侯淵「まーいいだろう。孟徳と惇に出会う迄は長沙で暮らしていたんだ」


満寵「長沙で?」


夏侯淵「そうだ。長沙の田舎に父と妹の三人でね……毎日の様に妹を連れて狩りに出る日々を送っていた。妹の名は麗と言って弓の扱いに長けていたと思う」

 

夏侯淵は天井見る。


夏侯淵「父と妹の麗と三人で暮らす日々……あれ程退屈と感じた日々が、かけがえのない幸せだったと思う。しかし、その幸せはそう長く続かなかった」


満寵「何かあったんですか?」


夏侯淵「長沙の役人が妹の麗を城に迎えたいと言ってきた。父と俺は反対した……」


夏侯惇「懐かしいわね……」


夏侯淵「俺は役人に麗を連れて行かない様に直訴したが……聞き入れてもらえず街中で衛兵に袋叩きにあった」


夏侯惇「偶然そこに居合わせたのが孟徳と私。その役人の横暴に孟徳が淵に向かって言ったのよね」


夏侯淵「そう。『何者かは知らんが犬死する前に牙を剥いたらどうだ』と」


満寵「曹操様らしいですね」


夏侯淵「初めて人に向けて矢を射ったよ……それから俺は長沙に住めなくなり孟徳と行動を共にする様になった」


夏候惇「覚えているは……瞬く間に衛兵の眉間に矢を打ち込んだ淵の腕前。孟徳も私も驚いたもの」


夏侯淵「孟徳は『腐りきった世の中を誰もが幸せに暮らせる世にしたい』と。しかし、それは時に非情な決断をすることにもなる……孟徳は『汚名は全て自分が被る』と……そこからだ惇と共に孟徳を支える日々が始まった」


夏侯惇「そして呉を降し、妹の麗ちゃんを迎えに行く予定だったのよね」


夏侯淵「まぁ、それは自分の都合だからな……幸せでいてくれればいい」


満寵「話してくれてありがとうございます……貴重なお話しですね」


夏侯惇「何なら私のことも話そうか?」


満寵「あっ……また今度でいいです。食事が冷めてしまいますし」


夏侯惇「あらっ? そう?」


夏侯淵「食事に行こうか。惇」


夏侯惇「そうね」


 夏候惇と夏侯淵は食事に向かった。


満寵「夏侯淵さんに妹が……何て羨ましい妹だろう……私が夏侯淵さんの妹であったなら絶対に離れないのに……私も兄弟欲しかったな……曹仁みたいのならいらないけど……」



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