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雷子  作者: 三幸
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魏編 散会

魏編 散会



 赤壁の大敗戦は誰もが予想しないでいた事態で指揮系統は混乱を極めた。


 曹操は要所の防衛を各武将達に委ねるしか出来ない状況に陥る。



曹仁「俺様が負けるなんて! しゃーねー! 于走らせていた。于禁! 徐晃ついて来い!」


 曹仁達は江陵に馬を走らせる。


于禁「偉そうにしないで曹仁」


徐晃「私は自分より弱い奴に指図されるのは御免だ」


曹仁「もういっぺん言ってみろ! 徐晃! 于禁! 俺様は強くて偉いんだぞ!」


司馬懿「曹仁。お師匠様の言う通り相当の馬鹿ね」


 馬を走らせる司馬懿は曹仁を軽蔑の眼差しで見る。


曹仁「あーん! 誰だよオメーは!」


 馬を並走させる司馬懿に曹仁は威嚇する。


司馬懿「私は司馬懿、字は仲達。賈ク様の高弟になります」


曹仁「いい度胸だな仲達! 俺様を馬鹿扱いするとは!」

 曹仁は司馬懿にくってかかる。


徐晃「気持ちがいいくらいハッキリ言うわね」


于禁「本当に。私なんて相手にするのめんどくさいのに……偉いわね」


曹仁「おうおうおう! 新参の眼鏡娘の肩を持つんかよ!?」


徐晃「司馬懿、私は徐晃よ」


于禁「于禁です。よろしくね」


司馬懿「徐晃殿、于禁殿。初めまして司馬懿と申します。江陵の防衛に従軍するように曹操様から任を受けました! 素敵な先輩方と共に戦えて嬉しく思います」


曹仁「はぁあああ! おめー何かいらねーよ! あっち行け仲達!」


司馬懿「曹仁! 私のことを気軽に仲達と呼ぶな!」


曹仁「くぅああ! お前こそ! 様か殿を付けろ! 呼び捨てにすんじゃねー!」


司馬懿「くっ! どうして江陵に私を向かわせるか良く分かります……せめてもの救いは徐晃殿と于禁殿がいてくれることくらい」


徐晃「はははっその通り! 司馬懿。曹仁では話にならないのよ」


于禁「徐晃殿、曹仁も役には立ちますよ。囮に使えば良いのです」


曹仁「どいつもこいつも俺様のことを馬鹿にしやがって! 俺様が大将なのに!」


司馬懿「曹仁付いて来い! 今は急ぎ江陵に向かいます。徐晃殿、于禁殿宜しくお願いします」


徐晃「ああっ急ごう!」


曹仁「何で俺様の時と違うんだよ!」


于禁「そこに気付かんとは情けない……」


 司馬懿を先頭に江陵に馬を走らせるがいつの間にか曹仁は一番後ろにいた。





 重要拠点の一つである合肥には張遼、楽進、李典が向かっていた。


楽進「俺達は合肥か!」


李典「ああっ、しかし張遼と楽進と俺の三人か……随分と男臭い編制だな」


張遼「曹操様のことだ。それだけ合肥が過酷な戦いになることを予想してのことだろう」


李典「そうかも知れんな……合肥を奪われることは今後の勢力図を覆される可能性が大いにある」


楽進「曹操様に期待されてるっていうよりも死んでも守れって意味……だよな?」


李典「ならば曹操様のご期待に応えるのみだ」


張遼「李典、楽進……俺に守りは性に合わんのだが……」


 張遼は楽進と李典に申し訳なさそうに言った。


李典「張遼はそれでいいさ。守りも攻めも大して変わりはしない」


楽進「俺達三人にしか出来ない戦い方をしようじゃないか命を懸ける戦いをよ!」


張遼「ふっ……この三人で良かったとつくづく思う」


李典「だと思う。互いに気遣うのはなしだ! とことん命を張ってやろうじゃないか!」


楽進「急いで合肥に行こう! 出来るだけの準備をして盛大に呉軍を迎えようぜ!」


 張遼達は合肥に急いだ。





 赤壁の大敗後、劉備軍の後詰を逃れた曹操は北に馬を走らせていた。


曹操「くっ! 後少しのところで天下を獲ることが出来たのに」


賈ク「申し訳ございません。おそらくホウ凌統も呉の手先であったと思います」


曹操「お前一人で判断した訳ではない。最終的な判断は俺だ。気にするな」


夏侯惇「黄蓋が三人いた時はビックリしたわ」


賈ク「黄蓋のみ投降かと思えば黄蓋似の間者を紛れ込ませるとは……」


曹操「周瑜め……中々やりおる。」


夏候「孟徳。江陵はともかく。いくら張遼を向かわせたとはいえ合肥の守りは三人では厳しいと思うわ……」


賈ク「それは私も思いました。今からでも私だけでも向かった方が……」


曹操「合肥は守る為の拠点ではない。張遼と言う男の檻を最大に広げてやる為だ」


夏侯惇「それにしても本隊に戦力を割き過ぎてると思うの……」


賈ク「何とか援軍を向かわせたいところですが……率いる武将が……」


曹操「囮になっている淵と満寵が数日には追い付くだろう」


夏候惇「合肥に淵を向かわせるのね」


曹操「いや。洛陽で合流するように伝えてある」


夏候惇「洛陽!? 許昌じゃなくて!?」


 本拠地である許昌ではなく洛陽に向かうことを聞き夏候惇は驚く。


賈ク「そうか……そういうことでしたか……夏侯惇殿、ここで本体の曹操様率いる軍を多くせねば、赤壁の敗北をきっかけに二心を抱く輩が謀反を起こします」


曹操「涼州軍が動くかも知れん……あれは呉軍よりも厄介な連中だ」


夏侯惇「涼州軍……嫌な相手ね……」


賈ク「確か董卓は涼州の出身でしたな……」


夏侯惇「騎兵を主軸にした恐ろしい連中よ。涼州の華雄一人に連合軍は誰一人として前に進むことが出来なかった……多くの武将の首級を華雄に持っていかれたのは悪夢だったわ」


曹操「だがその華雄も関羽によって一刀両断された。それでも涼州軍の狼の様な気質は恐ろしい」


夏候惇「涼州軍は私達だけで戦うってことね……許チョは絶対に連れていかなきゃ」


賈ク「そういうことですな。そういえば許チョ殿は?」


曹操「許チョなら殿を任せてある。腹が減れば戻ってくるだろう」


賈ク「許チョ殿の戦う基準はそこですか……」


夏候惇「そうよ。食べた分だけしっかり仕事する。それが許チョよ」


曹操「お喋りは終わりだ。急ぎ洛陽に向かうぞ! 到着次第に大編成だ!」


夏候惇「賈ク、休む暇はないってさ!」


賈ク「こんな時です! 喜んでお受け致しましょう!」


 曹操は月明かりの道をわずかな手勢を率い馬を走らせる。


 


 曹操軍は大きく三つに分かれることになった。この時、劉備は南荊州の攻略に移る前である。もし赤壁で曹操が勝利することになっていれば歴史は大きく変わったことになったであろう。三国志の物語はここから始まったと言っても過言ではない。




 劉備軍の後詰から逃れる為に河に飛び込んだ夏侯淵と満寵は何とか陸地までたどり着いた。


夏侯淵「満寵。大丈夫か? 軽装とはいえ鎧を着たまま泳ぐのは大変だっただろう」


満寵「はぁ……はぁ……私は大丈夫です。夏侯淵さんこそお怪我はありませんか?」


 二人は暗い河を泳ぎ敵の追撃を受けることはなかった。


満寵「夏侯淵さん……私、身体が冷えてしまって……」


夏侯淵「身体を温めたいが流石に火を起こしたいがここではまずいな……どうしたものか……」


満寵「濡れた服を着ていると風邪をひいてしまいます」


夏侯淵「確かに……せめて風を遮る場所まで移動するか……」


満寵「雪山で遭難した時は人肌で温めてあうことが最も良いと聞きます」


夏侯淵「それは知っているが……」


満寵「今は緊急事態です。このままでは二人共、風邪をひいてしまいます」


夏侯淵「……」


満寵「やましい気持ち等一切ありません! これは必要なことです!」


 満寵は元気だ。


夏侯淵「やむをえないか……満寵、服を脱ぐからお前も脱ぐといい」


満寵「はい! 待ってました!」


 夏侯淵は上着を脱ぐ。満寵は意気揚々と鎧を外し服を脱ごうとした。


 ガサガサと音が聞こえる。


夏侯淵「誰だ!」


 夏侯淵は音の聞こえる方に向かって声を張る。


許チョ「その声は……夏侯淵か……」


夏侯淵「許チョ! どうしてこんな所に!?」


許チョ「迷子……」


夏侯淵「そうか合流出来て良かった。なっ満寵」


満寵「ええ……本当に……」


 満寵の声に覇気がない。


許チョ「お腹が空いた……」


夏侯淵「困ったな。今は何も持ち合わせていない」


満寵「これでよければ食べます?」


 満寵は革袋から干し肉を出した。


許チョ「いいのか……満寵……」


満寵「もちろです! 早く食べて早く曹操様の元へ向かって下さい!」


許チョ「そうする……あれ……」


満寵「どうしました?」


許チョ「満寵の身体……冷たくて気持ちいい……」


満寵「そっそうですか……確かに許チョ殿は温かいですね……」


夏侯淵「丁度いいじゃないか。満寵、許チョに温めてもらうといい」


満寵「ええ!」


許チョ「満寵……干し肉のお礼……許チョが温めてあげる……」


満寵「ありがとうございます……」


夏侯淵「うん。皆が助け合ってこそだ……これぞ曹操軍だな」


 満寵の下心は許チョの登場で砕かれ夏侯淵は満寵と許チョが寄り添う姿に一人。感動していた。

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