魏編 邪教崇拝 上
魏編 邪教崇拝 上
徐州にてカマキリの卵を間配りを終えた鄧艾と鍾会は陣を敷き野営をしていた。
鄧艾「徐州と言っても広いな……間配ったカマキリの卵が無事に蝗害を防ぐ手段になればいいけど」
鍾会「それよりもあの武装集団討伐を何とかしないと……」
鄧艾「まったく当てがないんだ。尻尾が出るのを待つしかない」
鍾会「カク昭は留守番か……羨ましいわ」
鄧艾「仕方がないだろう。熱を出したんだから」
鍾会「私も熱っぽいって言えばこんな田舎に来なくとも良かったのに……見てよ何にもないわよ? ここ」
鄧艾「今はなくとも昔はあったんだよ……徐州はあの呂布が死んだ場所だ」
鍾会「知ってるわよ。曹操様にえぐい水攻めで負けたのよね。それからと言うもの何年も水害で土地は荒れ、ようやく緑が少しづつ戻ってきた」
鄧艾「だが人が住めるようになるにはまだまだ先だろうな……」
鍾会「いるのは虫くらいね……」
鄧艾「作業も終わったことだし最後の野営にして明日、許昌に戻ろう」
鍾会「賛成」
鄧艾と鍾会は蝗害対策として徐州にカマキリの卵を配り終え許昌に戻ろうとしていた。
多くの兵を率い作業を進めた為、数日で終わった。天幕を張り兵達も休みに入った。日は沈み陣営を照らすのは松明だけとなりパチパチと燃える音を鳴らす。
鍾会「ねぇ鄧艾。湯を沸かすけどどうする?」
鄧艾「風呂? そんなに多くの水を使っては駄目だろ」
鍾会「違うわよ。ちょっと汗臭いから服を……」
鄧艾「ああ。そういうことか……だったら俺のもお願いしようかな」
鍾会「じゃあ沸かすわね」
鍾会は大きめの窯に水を張り火を起こした。窯の水が沸騰する。
鍾会「着替え。あるんでしょ?」
鄧艾「当たり前だろ。じゃなきゃお願いしない」
鍾会「着た服を適当に窯に入れておいて。あなたの方が脱ぐの早いでしょ?」
鄧艾「分かった」
こうして鄧艾と鍾会は脱いだ服を窯に入れる。二人とも寝服に着替えていた。
鍾会「ねぇ鄧艾。お師匠様が言ってたわよね。どうして水は沸騰するんだって」
鄧艾「俺も同じことを考えていたよ」
二人は窯で煮られる服を見る。
鍾会「どうして湯に煮ると匂いがなくなるのかしら……」
鄧艾「どうしてだろうな……」
鍾会「私ね。お師匠様は本当は軍師じゃなくて物事の真理を解き明かす研究者になりたかったんじゃないかと思うの」
鄧艾「そうかもな。でもこんな乱世じゃそんな研究している余裕もない。曹操様が乱世を終わらすことは争いのない世界がくるだけじゃない。きっとその他の事柄にも多大な恩恵をもたらすことになる」
鍾会「そうね……何だか複雑だわ……」
鄧艾「乱世が終わってしまっては今までの勉強が台無しだもんな」
鍾会「その時が来たら専業主婦にでもなりたいわ」
鄧艾「意外だな。退屈を最も嫌っている鍾会からそんなことを聞くなんて思わなかったよ」
鍾会「ぐーたらしたい時があるのよ」
鄧艾「問題は相手がいるかどうかってことか」
鍾会「そこよね……鄧艾は私に伴侶が見つかるまでは相手を見つけちゃ駄目だから」
鄧艾「どうして!」
鍾会「私が独り身になりそうな時はあなたにもらってもらうから……いいでしょ?」
鄧艾「ええ……そしたら一生、鍾会と一緒にいることになるのか……別にいいけど。でも出来るだけ頑張ってくれよ!」
鍾会「まかせて! 最高にいい男をものにして見せるわ! それで司馬懿さんに見せつけてやるの!」
鄧艾「ははははは! それはいい! その時は俺も呼んでくれよ!」
鍾会「まかせて! カク昭の三人で楽しみましょ! せっせと働く司馬懿さんの前で全力で幸せな女を見せつけてやるわ!」
魏軍兵士「鄧艾様! 鍾会様!」
鄧艾「どうした。何かあったか?」
魏軍兵士「東に光が飲み込まれておると報告が!」
鄧艾「何だそれは……どういうことだ」
魏軍兵士「物見の報告では幽霊ではと……」
鄧艾「馬鹿馬鹿しい。その物見がいる場所はどこだ。直ぐに行く」
鍾会「服はどうするの?」
鄧艾「このまま行く。悪いが鍾会。煮えたら俺の服も干してくれないか」
鍾会「そのくらいはやっておくわ。いってらしゃい」
鄧艾「ありがとう」
こうして鄧艾は光が飲み込まれると言う場所に向かった。そこには物見が腰を落とし遠くを見ている。
鄧艾「お勤めご苦労さん」
魏軍兵士「鄧艾様」
鄧艾「幽霊さんは何処かな」
魏軍兵士「あちらになります」
兵が指さした方には一列に火の玉の様なものがゆっくりと移動している。
鄧艾「随分と遠いな……ここからでは何も分からないぞ。松明の光じゃないか?」
魏軍兵士「ですが……この方向は……」
鄧艾「そういうことか……この先は河だな……」
魏軍兵士「船で移動しようにも、あれほど均等な間隔で動けるものではありません」
鄧艾「そうだな。船ではない」
魏軍兵士「呂布軍の亡霊ではないでしょうか」
鄧艾「もし亡霊がいるならこの世は亡霊だらけだ。今日は戻っていい。明日、明るい時に調べよう」
魏軍兵士「分かりました」
こうして鄧艾は陣に戻る。鄧艾と鍾会の服が干され雫が地面を濡らしていた。
鄧艾「鍾会はもう休んでいるか……少し話したかったが起こすのは悪い。明日にするか」
鄧艾は自分の天幕に戻り体を休める。そして夜が明け日が昇る。
鍾会「鄧艾。起きてる?」
鍾会は鄧艾の天幕に顔をのぞかせた。鄧艾からの返事はない。鍾会は折り畳んだ鄧艾の服を鄧艾の横に置く。
鍾会「すぅー……」
鍾会は鄧艾の横に立ち大きく深呼吸し大きく手を振りかざし鄧艾の頬をはたいた。
バチン! という音と共に鄧艾が目を覚ます。
鄧艾「痛ったぁ……鍾会……もう少し優しく起こしてくれないか……もしかしたら未来の旦那さんかもしれないんだぞ……」
鍾会「何言ってるのよ。大将が寝坊だなんてありえないわ。もしこれが私の亭主なら、そんなぐうたらな亭主には鉄拳制裁の愛情で襟を正させるわよ」
鄧艾「これは何が何でも鍾会にはいい男を見つけてもらわないとな」
頬を押さえ鄧艾はこぼす。
鍾会「でも。珍しいわね寝坊なんて。どうしたの?」
鄧艾「実は昨晩、鍾会の元に行くかどうか迷ってね」
鍾会「なに? 案外まんざらでもないんじゃない」
鄧艾「そういう意味じゃない。幽霊が出た場所で色々と辻褄を合わないことが多くてね。鍾会と話したかったんだ」
鍾会「鄧艾……あんた。女にもてないわね」
鄧艾「え? どうしてさ」
鍾会「今は嘘でも私に会いたかったといいなさい」
鄧艾「だから会いたいって意味で言ったんだが……」
鍾会「もういいわ」
鍾会は頬をはたいた手に痛みが残る手を振りながら呆れた。
鄧艾「結局、一人で色々と考えている内に寝れなくなくなって気がついたら頬を叩かれ起こされた」
鍾会「ふーん。じゃあ考えるのは終わりね」
鄧艾「ああ。日が昇った今なら直接、確かめてみる」
鍾会「じゃあ。昨晩のこと道中、聞かせてね」
鍾会はそう言って天幕を出た。鄧艾が着替え天幕を出ると既に他の天幕は片づけられ鍾会が兵をまとめていた。鄧艾と鍾会は昨晩の物見の先の河に向かった。
鍾会「ここがその火の玉の行列がいた場所? 間違いじゃない?」
鄧艾「間違いなくここだ」
鍾会「そんなこと言ったって……完全に河よ? 本当に火の玉だったんじゃない?」
鄧艾「鍾会まで何言ってるんだ。火の玉も幽霊も存在しない。必ず何かある。お師匠様なら原因究明に必ず理を組立、分析するさ」
鄧艾「何人かの兵と河を調べるよ」
鍾会「船はないわよ。どうするの?」
鄧艾「泳ぐ。鍾会も一緒にどうだい?」
鍾会「遠慮するわ。私はここで残った兵と昼食の準備をするわ」
鄧艾「もうそんな時間なのか?」
鍾会「どこかのお寝坊さんのせいでね」
鄧艾「耳が痛い」
鄧艾はそう言って服を脱ぎ兵達と共に河にはいる。緩やかな水の流れを鄧艾は河を横切るように進む。河の中央辺りに差し掛かってところで鄧艾は異変がに気付く。
鄧艾「あれ……ここ足が着くぞ」
岸からは水面は太陽の光の反射で気がつかなかったが河の中央は浅瀬になっていた。
鄧艾「なるほど……ここを何者かが通っていたのか……」
魏軍兵士「鄧艾様! 鍾会様の元に軍勢が向かっております!」
鄧艾「!」
鄧艾は岸にいる鍾会の方に目を向ける。遠目でしか分からないが軍勢が砂塵を巻き起こしそれがかなりの数だと分かる。
鄧艾「いかん! 急いで戻るんだ!」
鄧艾は兵達と共に岸を目指し泳いだ。
岸に辿り着いた鄧艾を鍾会は迎える。
鍾会「鄧艾。お帰り何か分かった?」
鍾会は身体を拭く為の布を差し出す。
鄧艾「あれ……鍾会。ここに軍勢が向かって来ていたと思ったんだけど……」
鍾会「ええ。それは……」
許チョ「鄧艾。お魚は取れたか……」
鄧艾「許チョ殿! 何故ここに!?」
許チョが現れたことに鄧艾が驚く。
鍾会「何でも武装集団によってまた輸送部隊が襲われたようなの。それで許チョ殿がそれを撃退する為に追いかけていたってこと」
許チョ「鄧艾……お魚は?」
鄧艾「許チョ殿……お魚は……ですね……」
許チョ「取れなかった……のか……」
許チョは悲しそうな顔をした。
鄧艾「うっ……実はこれから捕るところですので少しお待ちを……」
許チョ「そうか……楽しみにしているぞ……」
許チョに笑顔が戻る。
鄧艾「すまないが至急、魚を取ってきてくれないか」
曹操軍兵士「分かりました。何匹ほどでしょうか?」
鄧艾「許チョ殿の分だけでいいから……二、三匹でいいかな」
許チョ「八匹」
鄧艾「すまん。八匹で頼む……」
曹操軍兵士「わっ分かりました……」
兵達は魚を捕まえに河に入っていった。
鍾会「許チョ殿。後少しで昼食の準備が出来ますのであちらにどうぞ」
許チョ「そうか……許チョはさっき食べたばかりだが……鍾会がそう言ってくれるのなら……」
鍾会「……」
鍾会は許チョが昼食を摂っていないと思っていただけに少し呆れた。
許チョは窯の前で米が炊けるのを待っている。
鍾会「で? 何か分かったの?」
鄧艾「河の中心が浅瀬になっていた。岸からでは分からなかったよ」
鍾会「中心に? どういうこと?」
鄧艾「割と長い距離で上流に続いている。土が流れて自然に出来たのかなぁ……でもそこそこ広い河だし……そんな風になるのか……?」
鍾会「そこよね……」
鄧艾と鍾会は顔を曇らせた。
鄧艾「今、分かっているのは火の玉の正体は浅瀬を歩く何者かの松明だってこと」
鍾会「わざわざ浅瀬を……許チョ殿の話では武装集団は追いかけている途中で行方が分からなくなったそうなの」
鄧艾「だったら。その浅瀬を通って行った行った可能性は高いな」
鍾会「そういうことね」
曹操軍兵士「鄧艾様。魚を捕ってきました。許チョ殿にお出ししてもよろしいですか?」
鄧艾「ありがとう。しっかり焼いて骨と腸を取ってから出してくれ」
鍾会「後、塩も多めに降ってあげて」
曹操軍兵士「ではその様に致します」
鍾会「私達も昼食を済ませて浅瀬を辿りましょう」
鄧艾「ああ」
こうして鄧艾達は昼食を摂り少し休息をとった。
許チョ「鄧艾、鍾会。ご馳走様」
鍾会「お口に合いましたか?」
許チョ「うん……少し足りないけど……満足だ……」
鍾会「それは良かった」
許チョ「これからどうするんだ……」
鄧艾「これより武装集団が通ったと思われる河の浅瀬に向かいます。船がない為、泳いで行くことになりますが」
許チョ「だったら……許チョも一緒に行こうか……」
鄧艾「それは心強い。よろしくお願いします」
鍾会「許チョ殿が行くのに私が行かないわけにはいかないわね……」
鍾会がぼやく。
「……」
男達の視線が熱い。
鍾会「ん? 何?」
鄧艾と兵士達の顔が真剣だ。
鍾会「何よ。言っておくけどこんな場所で着替えたりしないわよ!」
「……」
鄧艾と兵士達には鍾会の声が届いていないようだ。
鍾会「え……私じゃない……みんなの視線は私の……後ろ……?」
鍾会は振り返る。
鍾会「ひぃいいいいいい!!」
鍾会の目に飛び込んできたのでは許チョがその場で服を脱ごうとしていた。
その羞恥心のない許チョの行動に鍾会は叫び声を上げた。
鍾会「許チョ殿ぉおおおお! こんな人目のあるところで脱いではいけまんーー!」
許チョ「でも……水に入るときは……」
鍾会「許チョ殿はいいんです! 元々軽装なので! 脱ぐ必要はありません!」
許チョ殿「そうなのか……でも……ここまで脱いだし……」
許チョは脱ぐのをやめない。
鍾会「男共ぉおおおお! 見るな! こっちを見るんじゃなぁあああい! 後ろを向けぇええええ!!」
鍾会は手を横に広げ許チョを男達の視線を遮る。
鍾会「許チョ殿! 早くもう一度服を!」
鍾会は懸命に許チョに服を着せる。
「ちっ!」
鍾会の耳に誰かの舌打ちが聞こえた。
鍾会「誰! 今舌打ちしたのは誰!!」
鍾会が凄い剣幕で男達に怒鳴る。だが男達は誰も返事をしない。
鍾会「誰も名乗り出ないなら全員引っぱたくわよ!!」
鄧艾「おいおい鍾会。舌打ちなんて聞こえなかったぞ? 空耳じゃないか?」
鍾会「もう一回言うはよ! 名乗り出なさい!!」
鄧艾「だからさ……」
鄧艾が鍾会をなだめようと喋る途中、後ろの兵達が一斉に鄧艾を指さす。
鍾会「お前かぁああああ!」
鍾会は腰の入った拳を鄧艾の顔に叩き込む。
鄧艾「何で!!」
突然の一撃に鄧艾は後ろに倒れる。
鍾会「あんたって男は……! 婚約を破棄するわよ!」
鄧艾「婚約って……鍾会が勝手に……」
鍾会「うるさい! 下心をごまかす男に人権はないのよ!!」
こうして鍾会の行動で許チョの裸を見られることはなく。男達の士気は一気に低下した。
許チョ「ここは……懐かしいな……」
鍾会「え? 許チョ殿は以前ここに来たことがあるのですか?」
許チョ「うん……呂布を追い詰める時……」
鍾会「そういうこと……じゃあ、あの浅瀬は曹操様が呂布の籠る城を水攻めにする時に埋めた後……どうりで河のど真ん中にあんな浅瀬があるわけだわ」
鍾会は一人納得した。
鄧艾「何で気づかなっかたんだろ」
鍾会「ほんとよね」
許チョ「先に行く……」
鄧艾と鍾会に一言伝え許チョは河の浅瀬に向かい水に入る。
鄧艾「俺たちも行こうか」
鍾会「そうね」
二人も許チョを追い河に入る。兵達も河の浅瀬を目指した。




