魏編 今生の別れ
魏編 今生の別れ
曹操が中華の三分の一を掌握したことは誰もが驚くものであった。
それは要所を抑えるものの兵と財に関しては曹操を遥かに上回る勢力があったからである。河北の袁紹である。名門中の名門で曹操とは古い付き合いでもあった。
圧倒的な兵力で曹操を攻め曹操を苦しめるもたった一日の出来事で戦況をひっくり返すことに成功したのである。
兵糧庫を焼き払ったのである。袁紹軍数十万は飢えに飢え曹操軍に破れた。
その後、曹操は袁尚の治めていた河北に徐晃、張遼、張コウを派遣し袁紹軍の残党を排除する任務にあたっていた。
徐晃「張コウ。曹操様からの指令が届いたわよ」
徐晃は張コウに曹操からの指示を伝えたる。
張コウ「曹操様からは何と?」
。張コウは素っ気なく返事を返す。
徐晃「次の相手は荊州の劉表と呉の孫権」
張コウ「了解した」
徐晃と張コウはこの時、河北の袁紹軍の残党を殲滅する為に河北最大の都市である南皮に滞在していた。
張コウは元々は袁紹の配下であった。実力こそ曹操軍の武将に劣らない張コウであったが袁紹の元では冷遇されていた。それは袁紹の配下の二枚看板の顔良と文醜という二人の武将が居たためだ。その顔良と文醜は曹操の元に一時的に帰属していた関羽に討たれ既にいない。
徐晃「明日、早速ここを発つから。いいわね」
張コウ「……」
張コウは少し顔を曇らせる。
張コウ「徐晃。すまないが先に向かってくれないか」
徐晃「はぁ? あんた……ここに残って何を企んでいるの……」
徐晃は疑心を抱いた。
張コウ「変な勘繰りをしないでくれ。俺は曹操様に忠誠を誓っている」
徐晃「だったら何で指令に従わないのよ! ここ南皮には袁紹の残党がまだ隠れているかも知れない! あんたがそいつ等を集めて旗を揚げない保証が何処にあるのよ! あんたは袁紹の元配下なのよ!」
張コウ「それでも……どうしてもお会いした方がここにいるんだ……」
徐晃「駄目よ! 私が曹操様から大目玉をくらうわ! それにあんただって疑いの目を向けられるわよ!」
徐晃の言葉には張コウが曹操からの疑いを懸念していること感じる。
張コウ「だが……おそらく戻ってきた頃にはもう……」
張コウが下を向く。
張遼「行って来い張コウ」
張遼が現れる。
張コウ「張遼殿……」
徐晃「張遼! いきなり現れて何を勝手に承諾してるのよ!」
徐晃はキレそうだ。
張遼「別にいいだろ。数日、出発が遅れても」
徐晃「疾風迅雷の曹操軍に遅れは許されないの!」
張遼「張コウ。徐晃は放っておけ。しかし、何か理由があるのなら教えてくれ」
徐晃「むっきぃいいいいい!」
除外された徐晃はキレる寸前だ。
張コウ「張遼殿……すまない……今は話せない……」
張遼「それもそうか……うるさいのがいるからな」
徐晃「よし殺そう! 斧を取ってくるから逃げるんじゃないわよ!」
徐晃は愛斧を取りに部屋を出る。
張コウ「徐晃がいるとかではないんだ……」
張遼「大事な人か?」
張コウ「ああ……」
張コウは張遼に申し訳なさそうな顔をした。
徐晃「私の斧がないんだけど!」
徐晃が戻ってきた。斧がないようだ。
張コウ「それなら鍛冶屋に修理を頼んだんじゃなかったか?」
徐晃「あ……そうだったわね。修理……いつ終わるのかしら……」
張遼「あんなくそデカい斧の修理だ。数日はかかるだろう」
徐晃「どうしよう……斧を置いていくわけには……」
張コウ「先に行くといい。斧は俺が後から持っていこう」
徐晃「あんた……私の斧をどうしようって考えているでしょう?」
張コウ「いっ今のはどういう意味なんだろう張遼殿……」
張遼「汚いから捨てられると思ったんじゃないのか?」
徐晃「違う! 私だと思って舐めたり一緒に寝たりしようとしてるんじゃないの!? って聞いてるのよ!」
「……」
張遼と張コウは返す言葉がない。
張コウ「話を戻すがその方とは今生の別れとなるはずだ……だからどうしても……」
張遼「なら尚更行かねばな。だが俺も一緒に同行させてもらおう。そうすれば曹操様にも言い訳が立つだろう」
張コウ「ありがたい……是非、お願いしたい」
徐晃「だったら私も行くわよ! 斧の修理が終わるまでは暇だから」
張遼「暇なら暇で違う時間の潰し方を探せ」
徐晃「いやよ。絶対に付いていくから」
張コウ「分かった。気の済むようにしてくれて構わない」
こうして張遼、徐晃は張コウの為に同行することになった。
三人は肌寒い草原を馬で駆ける。
張コウ「南皮から北に向かった山岳にその方はいる」
張遼「山岳地帯にいるのか。それ程、遠くもないな」
張コウ「張遼殿。どうして俺に……その……」
張遼「俺は元々、呂布軍にいた……曹操様に敗れ仲間の死に目に会うこと叶わなかった。同じ想いを張コウにはして欲しくないだけだ」
張コウ「いなくなって初めて寂しいと思う連中……沢山いた」
張遼「戦場が己の居場所だと信じる俺達にはいらん感情かもしれんぞ」
張コウ「仮にそうだとしても人である限りその想いを絶つのは難しいのでは?」
張遼「ふふっ……それもそうか……」
徐晃「ねぇ。私も話に混ぜてよ」
張コウ「徐晃は大切な人はいるのか?」
徐晃「好きな人? いないわよ」
張コウ「いや……恋愛に限った話ではなくてだな……」
徐晃「うーん。強いて言うならみんなかしら。一応、あんた達も含めてね」
張遼「よくそんなことをサラッと言えるな……」
徐晃「戦いは常に誰かに背中を預けるんだから当然でしょ?」
張コウ「ははははは! 徐晃の言う通りだお前には敵わないよお前には」
張コウは笑う。
張遼「おい……あそこ……」
張遼は前に見える一団に気づく。
徐晃「何かしら……騎兵隊? こっちに向かっているわけではないわね……」
張コウ「あれは……袁紹軍の残党だ!」
張コウは声を張り上げる。
張遼「まだ残っていたか。刈り尽くしたと思っていたんだがな!」
張遼の目が鋭くなる。
徐晃「何処に向かっているのかした……私達と同じ方向に?」
張コウ「まさか、あいつ等も! 張遼殿! 行こう!」
張遼「当然だ!」
張コウと張遼は袁紹軍の残党を追いかける。
徐晃「張コウ! 私にも何か言いなさいよ!」
徐晃も後を追った。
袁紹軍残党「袁キ様! 我等を追ってくる者達がおります!」
袁キ「もしかしたら仲間かもしれんな。数は?」
袁紹軍残党「少数です」
袁キ「仲間で間違いないようだ。誰か迎えに行ってやるといい。袁家復興の為には兵がいるのだから」
袁紹軍配下「はっ!」
袁キの配下が張コウ達に向かっていく。だが急遽、迎えに行った兵が引き返す。そして背後から張遼に斬られたことが分かる。
袁キ「あっあれは……仲間ではないのか!」
袁キは動揺する。
袁紹軍兵士「敵は少数です! 戦いましょう!」
袁キ「うむ! 賊に尻尾を巻いて逃げては袁家の名が廃る! 皆の者行くぞ!」
袁紹軍残党は張コウ達をただの賊と思い向かって行った。
向かいくる袁紹軍残党を張コウは優れた馬術て攻撃を躱し敵の首を刎ねる。張遼は青龍刀を振りかざし青龍刀を赤く染めていった。二人が討ち漏らした敵を徐晃は愛斧よりも小さい斧で頭を叩く。
騎馬戦は正面からぶつかった場合、多くはすれ違うことが多い。だがこの場合は袁紹軍残党は迫り来る壁にぶつかるように誰一人張コウ達とすれ違うことは出来ずに絶命した。
袁キ「はぁああああ! やっと集めた我が袁紹軍の精鋭達がぁあああ!」
袁キは開いた口が塞がらない。
張コウ「そこにいるのは袁キ殿か……」
袁キ「おっお前は張コウではないか!!」
張コウ「お久しぶりです」
張遼「張コウ。知り合いか?」
張コウ「袁紹の次男の袁キ殿だよ。張遼殿」
袁キ「ひぃいいい! 張遼!!」
張遼の名を聞き袁キは悲鳴を上げた。
徐晃「ははははは! 張遼の名を聞いただけでどんだけびびってるのよ! そんなんじゃ私の名前を聞いたら窒息するわよ!」
徐晃は笑う。
袁キ「おっお前は……まさか……!」
張コウ「うん? 徐晃のことを知っているのか?」
袁キ「何だ。口だけ徐晃か。許チョかと思って損したわ」
徐晃「はい殺す! こいつは私が絶対に殺しまぁあああああす!」
徐晃は今日も元気だ。
張コウ「止めろ徐晃。張遼殿、徐晃を頼みます」
徐晃「むっきゃぁあああああ!」
張遼「落ち着け徐晃」
徐晃は張遼に羽交い締めにされる。
張コウ「袁キ殿。一体ここで何をしているのです」
袁キ「曹操軍に寝返ったお前に話すことなどないわ!」
張コウ「寝返る? 袁紹軍は曹操様に敗れ既に形あるものはない」
袁キ「父上がいなくとも袁家の血は絶たれていない! 袁尚もまだ生きている!」
張コウ「そうですか。あなたの弟、袁尚もまだ生きているのですね」
袁キ「ぐっ……しまった……」
張コウ「あなたと袁尚は指名手配されています。曹操様もさぞ喜んでくれるでしょうな」
袁キ「お願いだ張コウ! 見逃してくれ! 昔の好ではないか!」
張コウ「それはあなたが今、何処に向かっていたかによります」
袁キ「そっそれは……」
張コウ「言えないでしょうな……俺もそこに向かっていたのですから」
袁キ「なっ……!」
張コウ「あなたをここで殺しても構わないが一緒に同行していただきましょう」
張遼「だそうだ徐晃」
徐晃「ふさけないで! 何でそうなるのよ!」
張コウ「俺に考えがある。今は我慢してくれないか」
徐晃「今だけだからね!」
徐晃は今日も素直だ。
張コウ達は袁キを連れて山岳地帯に向かった。
三人は袁キを引き連れてある人物の元に向かう。
張コウ「すまないな張遼殿。もう少しだ」
張遼「袁キを捕まえることが出来たんだ。謝る必要はない」
徐晃「いい袁キ。曹操軍の中でも私の強さかなり上の方なの。実際、許チョや夏候惇と一緒に肩を並べて激戦を生き抜いてきたんだから」
袁キ「ほう。それは知らなんだ。徐晃とはそれ程に強いのか?」
徐晃「当たり前じゃない。今まで負けたことなんてないのよ?」
袁キ「なんと! それはまた凄いな……」
徐晃「そう。私、本当に凄いんだから」
袁キ「凄いは比例するのかもしれんな……」
徐晃「比例する? どういう意味?」
袁キ「美貌と強さのことよ」
徐晃「あっあなた……そんなことに気付くなんて……もしかして天才じゃないの……」
徐晃は袁キに自分がどれほど強いか説明する。割と仲よく話している。
張コウ達は山岳地帯の入り少し進むと一人の老人が立っていた。
張遼「何だ? まるで俺達を待ち構えているような老人がいるな」
張コウ「張遼殿。あの方が俺がお会いしたい方だ」
張コウと張遼は老人に駆け寄る。
張コウ「田豊様。 お元気そうで何よりです」
張遼「田豊だと!? この老人が袁紹軍の元軍師『決楔の田豊』……もし袁紹が田豊の言を用いていたならば曹操様の敗北は必至だったと言われている」
田豊「張コウよ。張遼殿は顔に似合わずお喋りが得意だの」
張コウ「田豊様は張遼殿と面識があるのですか? よく分かりましたね」
田豊「はははは。その顔の傷と重厚な鎧。他に誰がおると言うのだ」
張コウ「敵いませんね。ここにいると言うことは俺が来るのが分かっていたのですか?」
田豊「義理堅いお前のことだ必ず来ると思ってな何日も前からちょくちょくとここに来ておる」
張コウ「そうでしたか……田豊様。これより俺は荊州に向かわねばなりません。この地に帰ってくるのは遠く先になるでしょう。その前に袁紹軍の時にお世話になったあなたにどうしても別れの挨拶をと……」
田豊「世話? 世話などしておらんよ」
張コウ「いや。顔良や文醜が重用され俺はいつも蚊帳の外だった……ですが田豊様と沮授殿だけがいつも俺を信じてくれた」
田豊「はははは! これはおかしい! 袁紹軍の筆頭武将が自分だと未だに自覚がないとはな!」
張コウ「そんな! 顔良と文醜がいたではないですか!」
張コウは大きな声で否定した。
田豊「顔良と文醜は強さを履き違えた鈍将じゃて。臨機応変に動くことも出来ねば仲間との連携も取れない。その二人が筆頭の器なわけないじゃろう。張コウよ。お前は知らないかもしれないがいつも顔良と文醜が副将をお前にと取り合いしておったのだ。お前がいてこその顔良と文醜だったんじゃよ」
張コウ「!!」
田豊の言葉に張コウは驚く。
田豊「のう張コウよ。袁紹軍は財、人、天運。全てを持ち合わせていたのに……どうして負けてしまったのだろうな……儂はそれが全て自分の責任だと思ったのよ。だが、曹操の炎の如し進撃を見て別の理由だとはっきりと分かったわ」
張コウ「それは……」
田豊「簡単なことよ。君主として器のでかさ……袁紹は恵まれ過ぎた。曹操の味わった苦労の味を少しでも舐めておれば違ったのだろうが……」
張コウ「そうかも知れません……袁紹様の周りには媚びを売る者が多かった」
張遼「二人とも苦労したんだな」
張遼は呟く。
田豊「張遼殿の苦労に比べれば大したことはない。あなたは武の頂点『呂布』に付き従っていたのだから」
張遼殿「……」
田豊「力を求め続ける呂布の生き方は型にはまるものではない」
張遼「俺には……眩しい……呂布殿の背中は追い続け超えるべき目標だった」
田豊「まるでもう追いかけるべき目標を失ったような言い方ですな」
張遼「その通りだ。呂布殿を一騎打ちで破る者などいない……」
田豊「自暴自棄になった者が吐くようなその言葉。あなたには似合いません。少し頭の中を整理してみてみてはいかがですか? そもそも呂布が最も強いと言えるのでしょうか?」
張遼「なっ……!」
張遼は田豊の言葉に驚く。
田豊「私の知る限り関羽や張飛の強さは呂布に匹敵するものだと思います」
張遼「……」
田豊「何か関羽と張飛と戦えない事情でもお抱えのようで……」
張コウ「そうなのか張遼殿?」
張遼「男の事情だ」
張コウ「男の?」
田豊「ははははは! 男の事情でしたか! それならば仕方がありませんね!」
田豊は笑う。
張コウ「そう言えばここに来る途中で袁キを捕らえました。田豊様の元に向かっていたと思われます」
田豊「袁キか……やれやれ隠居した身の私に頼るとは……」
張コウ「こちらで処理しておきます」
田豊「袁キだけか? 袁尚の行方は?」
張コウ「分かりません」
田豊「ならばここに連れて来なさい。そうだ……私と袁キが話している間は袁キの処遇は全て任せてもらいたい」
張コウ「俺は構わないが……張遼殿は……」
張遼「あんな小者。どうでもいい」
田豊「よろしい」
張コウは袁キを連れてくるが徐晃と楽しく話している邪魔をされ少し不機嫌そうだ。
徐晃「張コウ。誰、このおじいちゃん」
張コウ「失礼な言い方をするな徐晃! 田豊様だ!」
徐晃「田豊? 誰それ? ねぇ田豊って呼びにくいからおじいちゃんでいいかしら?」
田豊「ははははは! どうぞどうそ! 急に孫が出来たようで嬉しい限りです」
徐晃「話の分かるおじいちゃんで良かったわ。張コウ、あんたは頭が固いのよ。ばーか」
張コウ「……」
納得がいかない張コウであった。
袁キ「田豊。久しいな」
田豊「袁キ様。大きくなられましたな」
袁キ「うむ。父上のことは聞いていると思う。お前を頼り袁家復興の為に来たが裏切り者の張コウに捕らえられこのざまだ」
田豊「袁キ様。希望はまだ捨ててはなりません。袁キ様の処遇はこの田豊に任せて頂いております」
袁キ「なんだと! では……」
田豊「まだ袁家復興の実現は可能です」
徐晃「そうなの張コウ?」
張コウ「ああ。徐晃、少し考えがあってな少しの間、事の運びを静観していてくれないか」
徐晃「まぁいいけど」
今日も徐晃はやっぱり素直だ。
袁キ「田豊よ! 頼む! 私と共に来てくれ! 袁家の復興が果たされた時、お前には好きな褒美をとらせようではないか!」
田豊「袁キ様。私は袁紹様に仕え、曹操を討つ絶好の機を提言させていただきました。だが子が風をひいたと理由でそれは成らなかった。そして曹操を討つと言い出した時、私は止めた……だが袁紹様の耳には入らなかった。私は最後の手段として河を渡る為の船を焼き払った……それでも袁紹様は止まらなかった。そして……袁紹様の刺客が私を襲い命を奪おうととした。偶然にも張コウが駆けつけ命を落とすことはなかった。私の命は既に張コウのものなのです」
袁キ「そっそれは父上のしたことであって……」
田豊「分かっております。共に行くことは出来ませんが昔のよしみです。二つの道をお教えします。片方が袁家復興の近道です」
袁キ「それは一体何なのだ!」
田豊「自力で立つことは不可能です。二人のどちらかの人物を頼ってくだされ。一人目は袁紹軍と共闘した劉備。二人目は遼東の公孫康です」
袁キ「劉備と公孫康……ならば選択の余地はない。流浪の厚かましい劉備に頼るなど袁家の誇りが許さぬ! 公孫康の持つ騎馬軍を用いて袁家の復興を成せということだろう田豊! 簡単な選択だ!」
遼東は中華の北端の海に隣接した土地で涼州と同じく良馬が多く繁殖される。涼州とは違い駆けることに長けスラリとした馬は軍事に限らず貴族の馬車にも使用された。
田豊「私が出来ることはここまでです。張コウの気が変わらぬ内に行きなされ」
袁キ「うむ! 徐晃よ! 袁家復興が成った時には妾の一人に加えてやろう! それまで生きながらえろよ!」
徐晃「あんたが私より強くなったら考えてあげる」
袁キ「力では敵わぬわ! 袁家の威光で落としてみせようではないか! ははははは!」
そう言って袁キは走り去った。
徐晃「私を欲しいだなんて見る目はあるけど……威光? 脳みそ腐ってるのかしらね」
田豊「張コウ。曹操に伝えるといい。時期に袁キと袁尚の首が届くと」
張コウ「それは……どういう意味ですか?」
田豊「公孫康は曹操を恐れておる。曹操に袁家の者を匿っておると疑われてはたまらんだろう。公孫康は袁キと袁尚を殺すことでその疑いを晴らす。行方の分からない袁尚も殺され一石二鳥とは正にこのこと」
張コウ「田豊様の知には驚かされます。それにしても袁キの奴、田豊様に礼も言わずに行きやがった……」
張遼「もし仮に劉備の元に向かえば復興は成ったのか?」
田豊「劉備次第でしょう。袁家に手を差し伸べてくれるのは……劉備の大器は曹操と比べても劣るものではありません」
張遼「……」
田豊「それよりも張遼殿。先ほど徐晃殿がとてもいいこと言ってくれました」
徐晃「えっ何? 私いつもいいことしか言わないけど」
田豊「徐晃殿。あなたは自分よりも強い者であればと言いましたね」
徐晃「ん? 妾の話? 誰かの妾に何てならないけど……私より強いことは最低条件ね。だって私武人だもの」
田豊「だそうですよ張遼殿」
張遼「田豊殿……よくぞ教えてくれた……新たな目標が明確に見えた。感謝する」
張コウ「田豊様。そろそろ行きます……」
田豊「最後に会えて良かった。別れの挨拶はいらんぞ。先にあの世に行っておるだけだ」
張コウ「はい……」
張コウは背を向け去っていく。
田豊「張遼殿、徐晃殿。張コウを宜しく頼みます」
張遼「俺が守る必要などない程、あいつは強い……知っているだろう」
田豊「はははは。そうでしたな」
張遼「田豊殿。あの世で男の事情の結果は報告させてもらう」
田豊「実るといいですな」
張遼は張コウを追いかける。
徐晃「あの二人。本当に挨拶なしで去るなんて」
田豊「さぁさぁ徐晃殿も急がれよ。二人に置いていかれますよ」
徐晃「そうね。私はあの二人とは違うから。じゃあね! おじいちゃん!」
田豊「はい」
元気よく別れを告げる徐晃に笑顔で返す田豊であった。そして徐晃は二人を追いかけた。
田豊「さて……誰もいなくなったか……出て来られてはいかがですかな」
袁キ「よく分かったな田豊よ」
田豊「あなたの事はよく分かっております」
袁キ「ならば話は早い。私と共に来るんだ。でなければどうなるか分かるな」
田豊「お断りします」
袁キ「死を選ぶか田豊……」
田豊「私は袁紹軍の軍師です。引退した身ではありますが責任を取らねばならないと思っておりました。数十万の兵が命を落とした責任を」
袁キ「殊勝な心掛けだ。だが貴様、一人の責任とは己を高く評価したものだ」
田豊「若造の貴様には分かるまい! 私の過ちは袁紹に仕えたことから始まったのだ! 名声に溺れた君主を正すことが出来なかったこの無念! 死んでも死に切れんわ!」
袁キ「袁家の誇りを理解出来ない糞爺が! 私を見下すその眼には苛立ちしかないわ! あの世で父上に詫びるがいい!!」
袁キは剣で田豊の首を刎ねる。
田豊はその場で骸となった。袁キの笑い声が山岳に響き渡る。
張コウ達は南皮に到着し荊州に向かう準備をしていた。
張コウ「すまなかった。色々と付き合わせてしまって」
張遼「一緒に行けて良かった。謝る必要はない」
徐晃「これで曹操様に怒られたらあんた達のせいだからね!」
徐晃は強い口調で言った。
張コウ「そう言えば……徐晃。斧の修理は……」
徐晃「あっ……」
徐晃の顔が青ざめる。
張遼「張コウ。先に行こう。電光石火の曹操軍がこれ以上、遅れるわけにはいかんだろう」
張コウ「そうだな」
徐晃「ちょっ! ちょっと待ってよ! 一人だけ遅れるなんて嫌よ!」
張コウ「仕方がないだろう。曹操様を待たせるわけにはいかないんだから」
徐晃「一緒に怒られよう!? 三人で怒られるんだったら私も怖くないからさ!」
今日も徐晃は必死だ。
張遼「鍛冶屋に行って急ぎでどれくらいかかるか聞いて来い」
徐晃「うん! あっ……でも先に行かないでね! 絶対に先に行かないでね!」
そう言って徐晃は鍛冶屋に向かった。
張コウ「行こうか張遼殿」
張遼「言われるまでもない」
二人は荊州に向かった。
その後、二人が先に行ったことを知り修理途中の斧を回収して必死に追いかける徐晃であった。




