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雷子  作者: 三幸
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呉編 重臣の意地

呉編 重臣の意地



 

 先の戦いで劉備軍の関羽と張飛……劉備の妹を二人の首を取る。孫権は司馬懿との約束を守り江陵から軍を撤退させようとしたが陸遜の懸命の説得に江陵返還を少し先延ばしにした。だが孫権は全将兵を建業と南荊州の守りに就かせたのである。


 陸遜は人材確保と曹操軍との同盟を破棄し内陸に攻め込む案を孫権に提案するが受け入れられることはなかった。その原因の一つが南荊州の統治の難しさが要因だ。呉は国土が大きく成り過ぎて人材が足りなくなっていた。陸遜は南荊州の統治は捨てでも江陵と合肥の要所を抑える必要性をどこまでも孫権に唱えた。国が大きくなるということよりも将来性がある国に呉をすることで人材が集まってくる仕組みを作りたかったのだが孫権は地盤を固めることに固執した。それは于吉の入れ知恵であることは言うまでもない。




孫権「全く……陸遜の奴はどうして朕の寛容な気持ちを理解出来んのだ」


于吉「孫権様。仁君の考えは配下の者には理解しづらいものです」


孫権「そういうものなのか? 朕の唯一の理解者はそなただけだな于吉よ」


于吉「この于吉にとって、今のお言葉程嬉しいものはありません」


呉軍兵士「孫権様! 劉備軍の大軍が呉に攻め込もうとしております!」


孫権「なんだと!」


 劉備軍の報復に孫権は驚く。于吉はこれで呉が滅ぶと思ったのか口元が緩む。


孫権「一体どうすれば……!」

 孫権は戸惑う。


于吉「孫権様。慌てることはございません。呉にはまだまだ戦えるだけの戦力があります」


孫権「そうだな! 甘寧達がいるし、劉備軍には関羽も張飛もおらんからな」


于吉「劉備軍は二本の大きな柱を失い、残りは雑兵ばかりです」


孫権「ならばここで総力を挙げて、劉備軍を迎え討つ!」


 孫権は劉備軍の迎撃に全軍で当たる様に伝令を出した。




 建業では劉備軍の大軍が迫っている話題で持ち切りになっていた。


朱桓「劉備軍が攻めて来ますよ!」


甘寧「ああ」


朱桓「あれ? 知ってたんですか?」


甘寧「関羽と張飛を殺したんだ。必ず来ると分かっていたさ」


周泰「劉備軍の編成は聞いてるか朱桓?」


朱桓「はい。何と! 総大将・劉備、自ら馬超と黄忠を率いて来るそうです」


徐盛「馬超と黄忠か。関羽と張飛がいないとはいえ油断出来ん相手だな」


甘寧「仇討だ。劉備軍の士気は高いだろう」


周泰「陸遜はどう思ってるんだろう」


韓当「ふぉるふぉる」


 韓当が突如現れる。


朱桓「あっ韓当殿!」


韓当「ふぉるふぉる。ふぉるふぉる」

 

 何言ってるか分からない。その場にいたものが固まる。


陸遜「あっ。皆さんここにいましたか」


 陸遜が現れる。


徐盛「あっああ……」


陸遜「どうかしましたか?」


徐盛「いや……韓当殿がちょっと……何を言っているのか……」


韓当「ふぉるふぉる。ふぉるふぉる」


陸遜「ふふっ。韓当殿。そのお気持ち嬉しく思います」

 分かるのかよ! 甘寧達は驚く。


陸遜「韓当殿は『自分が皆さんを必ず守るから安心しろ』と言っています」


韓当「ふぉる」


甘寧「じいさま……」


徐盛「韓当殿。長い付き合いですが韓当殿と共に戦いたいと思ったのは初めてですよ」


周泰「徐盛……お前それめっちゃ失礼だぞ……」


韓当「ふぉふぉふぉふぉ」

 韓当は笑った。


陸遜「ふふ。韓当殿も嬉しそうですね」


朱桓「でも陸遜さん。劉備軍に勝てますかね?」


陸遜「まともにぶつかれば万に一つの勝ち目もありません」


甘寧「そこまで劉備軍は強いのか?」


陸遜「兵力は聞いていますか?」


甘寧「いや。十万くらいか?」


陸遜「五十万を超える軍容です」


甘寧「ごっ五十万!? どうやってそんな兵力をもったんだ!」


陸遜「劉備軍が益州を平定したことはご存じのはず。益州は山岳地帯ながらも都市開発も進んだ大都市の一つです」


徐盛「では……このまま呉は滅ぶのか」


陸遜「そうさせない為に今、私達がここに集まっているのでは?」


周泰「そうだな。陸遜、何か考えがあるのか?」


陸遜「一つだけ」


朱桓「本当ですか!」


陸遜「劉備軍を死地まで誘います。夷陵に布陣させれば十分な勝機があります」


甘寧「陸遜。ハッキリ言ってくれ。危険な役目だろ?」


陸遜「すみません……劉備軍に勝つ為にはどうしても準備が必要です。それまで少しだけ時間を稼ぐ必要があるんです」


徐盛「そっか。時間を稼げばいいんだな……場所から考えても迎え撃たねばならんか……」


周泰「お安い御用さ! 任せておきな陸遜!」


韓当「ふぉるふぉる」


朱桓「劉備軍の大軍を私達だけで止める……やっやりますよ!」


陸遜「皆さん……ありがとうございます!」


徐盛「終わったら呂蒙の墓を作ろうぜ。俺達だけのな」


甘寧「俺達だけのか……何かいいなそれ……」


周泰「そうだね。墓を作って皆で勝利の報告をしようじゃないか」


朱桓「普通は先にお墓を作って置くものだと思いますよ」


甘寧「呂蒙が前に言ってたな。俺達は常に前を見続ける必要があると」


陸遜「はい。この戦いで誰一人として散ることは許しません。必ず生きて帰りましょう!」


 陸遜の言葉に皆が頷く。




 呉軍は大軍である劉備軍の進軍を阻止するべく真正面に陣を展開した。


 その数に呉軍の兵達は逃げ腰だが、国が滅ぶかも知れない状況だけが心の支えとなっていた。


甘寧「小細工はなしだ! 敵の出鼻を挫く!」


周泰「甘寧! 見ろよ! 先陣に黄の旗が立ってる!」


甘寧「てことは黄忠が先陣か……確か弓が得意な奴だろ」


徐盛「完全に舐められてるな」


甘寧「ふざけやがって! 俺が行く!」


徐盛「駄目だ甘寧! ここは様子を見た方がいい!」


甘寧「なに弱気なこと言ってんだよ!」


韓当「ふぉる!」


甘寧「うっ……じいさま……」


周泰「ほらね。韓当殿も待てってさ」


甘寧「……」

 甘寧は韓当に頭が上がらない。


 呉軍は先行隊を突撃させた。だが黄忠の部隊に届く前に多くが弓の餌食となった。そこに馬超の率いる重騎馬隊が突撃する。


 戦いは大混戦になるも呉軍は徐々に後ろへ下がる。呉の兵達はその数を減らし武将達も生傷が増えた。夕方に差し掛かる頃、呉軍は七割の兵を失っていた。


 関羽と張飛の仇として投降する者まで首を刎ねられた。劉備軍らしからぬ戦いに兵達の士気は完全に戦いとして体を成せるものではなかった。



朱桓「もうこれ以上は無理ですーー!」

 

 誰もが傷だらけの状況になっていた。


甘寧「朱桓! 泣き言、言ってんじゃねー!」


 甘寧達は戦場の唯一の高所である丘まで追いつめられていた。


朱桓「だってーー!」


周泰「馬超、黄忠……強い……」


甘寧「あんな奴ら俺が討ち取ってやらー!」


周泰「駄目だ甘寧! 皆で生きて帰るんだろ!」


甘寧「でもよー! このままじゃ止めきれねーよ周泰!」


徐盛「おい! 韓当殿はどこだ!?」


甘寧「そういえば……じいさまは何処行った?」


朱桓「甘寧さん! あそこ!」


 朱桓は迫る劉備軍の大軍の前にいた。


甘寧「じいさま! 何やってんだよ!」


周泰「何で劉備軍の方に向かってるんだ!」


甘寧「世話の焼けるじいさまだ! 助けに行ってくる!」


徐盛「止めろ! 甘寧!」


甘寧「何で止めんだ徐盛!」


徐盛「お前には韓当殿の気持ちが分からんのか!」


甘寧「はぁああ?」


周泰「私達を守ろうとしているんだ……」


朱桓「韓当さん……」


甘寧「皆で生きて帰るんじゃなかったのかよ!」


徐盛「それは目標だ! 現実はそれほど甘くない……」


甘寧「じいさま……! こんな思いはもうたくさんだ!」


朱桓「私……何で今まで韓当殿達にもっと優しく出来なかったんだろ」


甘寧「止めろ朱桓! じいさまを憐れむような言い方すんな!」


周泰「日没まで後もう少し……韓当殿ありがとうございます」


徐盛「今は退こう。陸遜が待ってる……」


 日暮れまでの一刻を韓当は命をかけて時かけて稼いだ。そのことにより甘寧達は何とか陸遜のいる夷陵まで撤退することが出来た。


 そして韓当は劉備軍の馬超との一騎打ちにより命を落としていた。


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