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雷子  作者: 三幸
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呉編 合肥再び

呉編 合肥再び


 

 

 合肥は呉軍優勢なれど曹操軍の援軍が徐々に到着し呉軍と曹操軍は膠着状態が続き無駄に物質を浪費する日々が続いていた。


 そんな時、孫権の元に周瑜の死が報告された。


呉軍兵士「江陵から急報です! 周瑜様が何者かによって暗殺された模様です!」


孫権「何だと! 周瑜が……程普に続き周瑜まで……」


凌統「周瑜様は呉軍の総指揮官……何ということだ……」


甘寧「俺達どうなっちまうんだ……合肥も撤退するのか……」


 呉の陣営に不穏な空気が流れる。


孫権「少し、一人にさせてくれ……」


 孫権はその場を去った。


凌統「孫権様……」


甘寧「暗殺って……江陵の連中は何をやってんだよ!」


凌統「報告によれば呂蒙達は周瑜様の命令で越の討伐に向かったそうだ」


甘寧「そうだったんか……そこを狙われるなんて……」


孫権「赤壁の戦いからこんなことになるなんて……」







 天幕の中、孫権は意気消沈していた。


于吉「孫権様……」


孫権「于吉か……」


 どこからか于吉が現れる。


于吉「周瑜様がお亡くなりになったことはお聞きしました」


孫権「周瑜は朕を支えてくれた者だ……兄上と一緒にいつも笑っていてくれた……憎い……周瑜を殺した者が!」


于吉「周瑜様の死因でございますが……本当に暗殺されたのでしょうか?」


孫権「どういうことだ!」


 于吉の言葉に孫権は声を荒げた。


于吉「私は目が見えませんが代わりに色んなことを感じ取ることが出来ます……」


孫権「だから、何だと言うのだ!」


于吉「赤壁の大勝から戦果を挙げられず、南荊州を劉備軍に横取りされた周瑜様……自尊心の高い周瑜様には耐え切れないものだったでしょう」


孫権「于吉……一体、何が言いたいのだ……」


于吉「周瑜様は自害なされたのではないでしょうか?」


孫権「周瑜が自害だと! 信じられん!」


于吉「江陵を落とせず、劉備軍に南荊州を横取りされことに御自分を責められ……」


孫権「周瑜は、そんな弱い人間ではない!」


于吉「では、何故……部隊を二つに分け越の討伐を?」


孫権「それは……そうした方が良い理由があったから……」


于吉「そうです。それは自分の命を絶つ為に人を遠ざけた……」


孫権「信じないぞ! その様なことは!」


 于吉の言葉は孫権にとって聞きたくないものであった。


于吉「今、越の討伐には何の意味もありません! 孫権様、真実とは時には非情なものです」


孫権「では! 周瑜が死んだのは劉備軍の責任と言うことか!」


于吉「直接的ではないものの……私はそう思います」


孫権「何と言うことだ……曹操軍に劉備軍……絶対に許さない……」


于吉「孫権様。このことは私と孫権様だけの秘密にして頂きたい」


孫権「何故だ」


于吉「今は曹操軍との戦いの最中……周瑜様の仇討を含め、士気も高くなります。周瑜様もそれを見越しての自決かと……」


孫権「周瑜……己の命を引換にしてまで我らを勝利へ導こうとしたのか……」


于吉「呉にとって真の忠義の士でございました」


 孫権の敵意は曹操軍から劉備軍に向けられた。





 周瑜の訃報から数日が経過した。孫権は天幕に引き籠ったままで将兵達から不満の声が出始めていた。


凌統「曹操軍との睨み合いも随分長くなってしまった……周瑜様が生きていれば、何かしらの指示があっただろうに……」


周泰「私達はいつまでここで曹操軍と戦うんだろう」


 凌統と周泰は合肥の城を眺める。


甘寧「凌統! 周泰! ここにいたか!」


 甘寧が現れる。


凌統「ん? どうしたんだ、甘寧?」


甘寧「退屈な日々がようやく終わりそうだぜ!」


周泰「退屈していたのはお前だけだ甘寧」


甘寧「だってよーって、まぁいいや。陸遜達が合肥に来たんだよ!」


凌統「陸遜が……他には誰が?」


甘寧「徐盛と朱桓も一緒だ。呂蒙は江陵に向かったってよ」


凌統「そうか……少しホッとした」


周泰「凌統。嬉しそうだね」


凌統「ああっ。やはり戦場に軍師がいないと俺の心がもたん」


甘寧「早く行こうぜ!」


 甘寧達は陸遜を迎えに行く。




凌統「陸遜」


 到着したばかりの陸遜を凌統は出迎えた。


陸遜「あっ! 凌統さん。お久し振りです」


凌統「本当に久し振りだな。元気にしていたか?」


陸遜「はい」


凌統「徐盛と朱桓も一緒だったんだろ?」


陸遜「はい。今、蒋欽さんと一緒に陣営の案内を聞きに行ってます」


凌統「そうか……陸遜。来てくれたこと嬉しく思う」


陸遜「あっ、いえ、そんな……お姉様の指示でしたので」


凌統「呂蒙の指示か……呂蒙にはいつも助けられる」


甘寧「何かしみったれた話ばっかりだな」


周泰「お前は少しは空気を読め!」


陸遜「すみません……」


周泰「陸遜。謝らなくていいんだよ。特に甘寧にはね」


甘寧「周泰テメー!」


凌統「おいおい甘寧。陸遜が来たからってはしゃぐなよ」


甘寧「はしゃいでねーし!」


周泰「ああ、そう言うこと? 甘寧、ごめんねー」


甘寧「凌統! いらんこと言うなよ!」


 甘寧が先に釘を刺す。


凌統「はは。悪い悪い。こんなやり取りするのも久し振りだな」


周泰「本当だね」


陸遜「先程、蒋欽さんから現状を聞きました」


凌統「陸遜。どう見る?」


陸遜「合肥に拘るのは危険かと……」


凌統「やはりそう思うか……」


甘寧「何でだよ! 皆いるじゃねーか! これからだろ!」


陸遜「甘寧さん……絶好の機は、もう過ぎたのです……」


甘寧「どういうことだ?」


凌統「俺にも分からない。すまないが陸遜教えてくれないか?」


陸遜「はい。大変言いにくのですが……」


周泰「もう、気をつかう間柄じゃないだろ? はっきり言ってよ陸遜」


陸遜「では……合肥を落とす好条件は赤壁の戦い直後のみでした。張遼の奇襲を受けたとは言え、沈黙せず絶えず攻め続けられれば合肥を落とすことが出来たでしょう。現状維持で有利になるのは曹操軍のみで、呉軍は物資を無駄に消耗するだけです」


凌統「程普殿が亡くなった後に俺達が合肥を攻め続けていれば……張遼を警戒し、程普殿の死に対して感傷に浸っている場合ではなかったか」


甘寧「陸遜。今から攻めても遅いのか?」


陸遜「それは曹操軍次第でしょう。そろそろ援軍が到着していてもおかしくない頃合いです」


周泰「じゃあ。今から攻めたら何とかなるかもしれないってことね」


陸遜「情報が少ないので何とも言えませんが……」


凌統「まずは孫権様の元に報告に行こう」


凌統達は孫権の元に向かった。




 凌統達は孫権の天幕に向かった。


凌統「孫権様。陸遜の援軍が到着しました」


孫権「うむ、聞いておる。陸遜、この状況を何とか打破したい。いや、合肥を落とし程普に報いたいのだ」


陸遜「孫権様。合肥から一度退くことをお勧めします」


孫権「何だと? それでは赤壁での大勝……いや、程普の仇も討てんではないか!」


陸遜「曹操軍との戦いよりも消耗した国力を回復させる方を優先するべきかと……」


孫権「くっ! 退くことだけは駄目だ! 合肥は必ず落とすのだ!」


呉軍兵士「報告します! 曹操軍主力部隊が合肥に到着した模様です!」


 曹操が現れたこと報が伝えられる。


陸遜「!」


 曹操軍の援軍到着に陸遜は勝利する可能性がなくなったことを知る。


孫権「調度良いではないか。主力部隊と言うことは曹操がいるのであろう。ならば、この戦いで曹操を討つ!」


陸遜(お姉様……こんな時、お姉様ならどうするのですか……孫権様は私では止められません……)

 陸遜は孫権に自分言葉が届かないことを知る。




 呉軍は孫権の指揮の元、合肥に総攻撃をかけるが曹操自ら率いる曹操軍の前に一進一退の攻防が繰り広げられる。


 最も戦いの激しい場所に甘寧はいた。中央に位置するその場所は敵味方多くの死体が転がっている。


甘寧「いいか! ここで退くことだけは俺様が許さねぇ!」


 甘寧は兵に激を飛ばす。張遼の存在が呉軍を恐れさせた。甘寧は張遼が必ず自分を狙ってくると踏んでいた。合肥の戦いの要は中央の両軍が要だからだ。甘寧の読みは当たり張遼の率いる騎馬隊が向かってくる。


呉軍兵士「甘寧様! 張遼が! 張遼が迫っております!」


 兵の言葉から今にも逃げ出した思いが伝わる。


甘寧「いいか! 俺が今から張遼を討つ! お前らは一体誰が最強であるか見届けろ!」


 そう言って甘寧は張遼に向って行く。


甘寧「よう張遼。この間の続きをやろうぜ」


張遼「甘寧か……」


 張遼はそう言って青龍刀を振る。


甘寧「せっかちな奴だぜ!」


 甘寧も斬馬刀で斬りかかる。


 二人の打ち合いに敵味方の視線が集まる。気が付けば甘寧を応援する声と張遼を応援する声がその場にこだまする。

 

 打ち合って何合目だろうか……息つく暇もないその戦いは金属音を戦場に響かせた。


甘寧「お前を倒せば俺が中華最強なんだろ!? 答えろよ張遼!」


張遼「俺を倒したらだと? 中華はお前の想像を超えるほど広いぞ甘寧!」


甘寧「何だ! お前が一番じゃないのかよ!」


張遼「最強の座は更なる高見にあるということだ!」


 二人は会話は打ち合いの中で交わされた。どれ程の時間が経っただろうか。既に百を超える打ち合いが行われ二人の息が上がる。


 


 陽が沈もうとする頃、二人は膝を付く。


張遼「はぁ……はぁ……田舎にまさかお前ほどの男がいるとはな……」


甘寧「田舎で……はぁはぁ……悪かったな……」


 その時、退却の銅鑼が両軍から鳴らされる。


張遼「甘寧。どうやら今日はここまでのようだ」


甘寧「はぁ!? 退却の合図のこと言ってんのか!? そんなの無視しろよ!」


張遼「曹操軍の規律はお前達とは違う」


甘寧「こんな場所でいい子ぶってんじゃねーよ張遼!」

 甘寧は吠える。


???「張遼。それが甘寧か……」


甘寧「はぁ!? 誰だ俺のことをそれって言ったのはよ!」


 甘寧は声の聞こえた方を向く。


甘寧「うぉ!」


 甘寧は驚いた。声の主は肉付きの良いふっくらとした。女の子であった。その容姿に驚いたのではない。その女の子は全身を真っ赤に染めていた。それが返り血であることは甘寧は分かった。


張遼「許チョ。お前の言う通りそれが甘寧だ」


許チョ「そうか……張遼、甘寧は許チョが貰うぞ」


張遼「退却の合図が聞こえただろ。今日は終わりだ」


許チョ「大丈夫。直ぐに終わるから……」


 許チョは甘寧に向かっていく。


甘寧「許チョ……知ってるぞ……曹操軍最強の武将……参ったぜ……二人を相手にすんのかよ」


 甘寧の身体は張遼との一騎討ちによって疲労困憊であった。


許チョは身体の倍以上の大きさである錘を振りかぶり甘寧目掛けて振りぬいた。


 ガッキーン!


 甘寧は斬馬刀で受けるが身体ごと後ろに跳ね飛ばされる。


甘寧「何だ……この馬鹿力は……!」


許チョ「む……許チョのこと……馬鹿って言った……」


 許チョは甘寧に近づく。


張遼「許チョ。そこまでだ」


 張遼は青龍刀を許チョの前に降ろす。


許チョ「張遼……なんで止める」


張遼「甘寧は俺との戦いで死かけている」


甘寧「死にかけてねーよ!」

 甘寧は張遼に向かって吠える。


張遼「死にかけの甘寧を殺しても意味がないだろう」


許チョ「そうなのか? 甘寧……まだ死にたくないか?」


甘寧「当たり前だろ! 何言ってんだこのデブは!」

 甘寧は許チョに暴言を吐く。


許チョ「張遼……甘寧は許チョのことをデブと言った……デブとはなんだ……」


張遼「……」

 張遼は何も答えない。


許チョ「そうか……張遼もデブが分からないのか……」


甘寧「なっ何なんだこいつ……」

 甘寧は許チョに困惑した。


張遼「甘寧またな。許チョ、デブの意味は夏候惇に聞くといい」


許チョ「夏候惇に? 分かった……甘寧……許チョはやる事出来たから……またね」


 そう言って張遼と許チョは去っていった。



呉軍兵士「甘寧様! 私達も退却しましょう」


甘寧「ああ……許チョか……何なんだあの女……」



 甘寧は何とか戦場の中央を守りきることに成功した。左翼、右翼の凌統達もギリギリのところで戦い初戦は引き分け終わった。




孫権「何故だ! 何故、合肥を落とせんのだ!」


 孫権は合肥攻略がうまくいかないことに焦りを感じていた。


陸遜「曹操軍の主力部隊が到着している以上、合肥攻略は不可能に近いと思います」


 陸遜は孫権に現状では合肥の攻略が難しいことを伝えた。


孫権「くー! 悔しい! 戦力は、ほぼ互角だと言うのに!」


陸遜「呉の将兵は良く戦っております。孫権様、ここは一度退くが上策かと思います」


孫権「陸遜……そなたは、いつから朕に意見出来る立場になったのだ!」


陸遜「いえっ、そんな……意見だなんて……私はただ……」


凌統「孫権様。陸遜は今の状況を誰よりも把握しております。周瑜様と呂蒙も、陸遜の知を高く評価しておりました」


孫権「そうだったな……陸遜すまない。朕も熱くなりすぎた……」


陸遜「いえ……とんでもありません。私こそ孫権様の期待に応えられずに申し訳ございません」


 陸遜は孫権に深々と頭を下げた。


蒋欽「でっ? これからどうすればいいんだ陸遜」


陸遜「はい。孫権様は甘寧さん、蒋欽さん、徐盛さんを連れ建業に戻り大河に防衛線を築いて下さい。残りの部隊は江陵に向かい、お姉様の援軍にあたります」


孫権「狙いを江陵に変えるのか……朕も江陵に行ってはいかんのか?」


陸遜「曹操軍は孫権様を常に狙っております。このまま江陵に同行されては合肥の部隊が江陵に派遣され江陵陥落が難しいものになるかと」


孫権「そういうことであったか。では陸遜、必ず江陵を落とすのだぞ」


陸遜「分かりました。必ずや江陵を落としてご覧に入れます」


呉軍兵士「報告します! 劉備軍が益州の劉璋を降し統治した模様です!」


 孫権のもとに劉備軍の報が知らせれた。


孫権「何だと! 何故、劉備軍だけが上手く行くのだ!」


陸遜(信じられない……こんな短期間で南荊州どころか益州まで手に入れるなんて)


孫権「おのれ劉備軍! 忌々しい! 朕はもう寝る!」


 孫権は自分の天幕に向かった。


凌統「陸遜。孫権様のことだが」


陸遜「はい。分かっています。悪気がないことは……周瑜様や程普殿が亡くなられたことで……」


凌統「うん……」


甘寧「陸遜! ちょっと良いか!」


陸遜「はっはい」


甘寧「俺と凌統が離れ離れになるって、どういうことだよ!」


陸遜「すみません……どうしても大河の防衛線には水上戦が得意な方にして頂かないとならなかったもので……」


甘寧「だったら、周泰や朱桓でもいいだろう!」


凌統「甘寧! 言葉が過ぎるぞ!」


甘寧「だってよー!」

 甘寧は子どもじみた返事をする。


凌統「呉で最も強いのは誰だ?」


甘寧「俺」


凌統「その甘寧が君主を守らずして誰が守るんだ?」


甘寧「……」


凌統「それを見越して陸遜は孫権様のことをお前に託したんだ」


甘寧「そうか……陸遜すまねー」


陸遜「いえ、気にしていませんから」


 甘寧の申し訳なさそうな顔に陸遜は笑顔で応える。


凌統「しかし、この合肥攻略は無駄に終わったか」


陸遜「ここで勝つ方が恐ろしかったです」


甘寧「何でだよ?」


陸遜「合肥攻略が成っていれば次に包囲されるのは呉軍でしたから。引き分けこそが最善の道でした」


甘寧「ふーん。分からねーもんだな」


凌統「さっ江陵に向かおう。甘寧、孫権様を頼む」


甘寧「おう!」


 こうして陸遜は江陵に向かい孫権は建業に帰っていった。


 この後、合肥で戦いが起こることはない。主戦場は西に移っていくこととなる。




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