呉編 越族討伐戦
呉編 越族討伐戦
呂蒙達は江陵から山越討伐の任務を周瑜から受け国境近くまで来ていた。
陸遜「そろそろ呉と越の国境ですね。お姉様」
呂蒙「そうだね伯言……」
朱桓「呂蒙さん。越って国なんですか?」
呂蒙「国と言えば国かなー? でも、どちらかと言うと蛮族の類かなー?」
徐盛「朱桓。お前は呉越の話は知らんのか?」
朱桓「呉越の話って確か……遥か昔、呉王・闔閭が越と戦った話ですよね?」
陸遜「そうですね。しかし、その話の後が呉越の話の核になります」
朱桓「その後の話?」
陸遜「呉王・闔閭は越との戦いで負った傷から命を落とします。が、闔閭の後を継いだ夫差が越を滅ぼします」
朱桓「越って滅んでるんですか?」
陸遜「厳密には滅びかけたと言うべきでしょうか。夫差は越の王・勾践を二十年以上、奴隷として扱いました。凄まじい恨みを持ち密かに力を蓄え、越は呉を滅ぼします」
朱桓「そんなお話だったんですね……」
呂蒙「数百年後……孫権様の父上の孫堅様と兄の孫策様がこの地に今の呉の基盤を作られた」
徐盛「昔の呉と関係無いとは言え、越の連中はそうは思っていないんだろうよ。きっと呉に住む者全てが古の敵と見えているんだろう」
朱桓「それで今まで交流が無かったんですね」
朱桓は納得する。
呂蒙「そう。周瑜様も何度か和を結ぼうとした様だけど……」
陸遜「お姉様。越に攻め込みますか?」
呂蒙「うーん。伯言はどう思う?」
陸遜「私なら攻め込みます」
徐盛「陸遜って意外と好戦的なんだなー」
陸遜「いえっ。江陵にいる周瑜様が気になって……」
呂蒙「うん。それもそうだね。早急に任務を終わらせ江陵に戻ろう」
陸遜「はい!」
呂蒙「これより越に入る! 敵本陣が不明の為、我らの目的は敵の戦力削減とする! 任務を果たしその後、江陵に引き返す! 将兵に深追いは無用だと伝えてくれ。あくまでもこの戦いは曹操軍との戦いを邪魔されない為のけん制の意味が強い」
陸遜、朱桓、徐盛は呂蒙の指示の元、越の領土に軍を進める。越の領土に入ると同時に辺りの山々から越族が現れる。
敵意を剥き出しの越族は武器を構える。
呂蒙「当然、歓迎はしてくれないか」
徐盛「これ以上、進めば容赦はしないって目をしてるな」
呂蒙「徐盛。二人で行くかい?」
徐盛「ああ。陸遜と朱桓にはちょいと辛い相手だろう」
呂蒙と徐盛は兵を率い越族に向かう。越族も同時に呉軍に襲いかかるが呂蒙と徐盛は越族の反撃をものともせず打ち倒す。呂蒙と徐盛は戦い方が非常によく似ている。甘寧の強さは攻撃的であるが呂蒙と徐盛は攻守の均衡がとれた武将で押されれば引き引けば押し返す柔軟な戦いを得意とした。朱桓は呂蒙達が討ち漏らした越族の首を撥ね陸遜は敵の奇襲に備え目を配った。日が暮れること辺りの越族は呂蒙達に討ち取られていた。
周瑜「江陵の曹仁も良く守る……大した男ではないか」
周瑜は江陵攻めを続けるも陥落させるに至っていなかった。
呉軍兵士「周瑜様。合肥から書簡が届いております」
周瑜「合肥から? そろそろだとは思っていた」
周瑜は合肥の報告書に目を通す。
周瑜「ふむ……敗戦!? 程普が亡くなっただと! 戦力は呉軍の方が上だった筈、将も十分だった……何故……一刻も早く、合肥に向かわなければ! 江陵攻めには劉備軍の力を借りよう」
「それは困りますなー」
周瑜「!」
周瑜は何者かの声に振り向く。
合肥の報告を伝えに来ていた兵は老人に姿を変える。老人は包帯を外し暗闇の眼で周瑜を見つめる。
周瑜「うわっ! 何だ! 眼が……眼が見えない!」
周瑜の視界は闇に飲まれた。
于吉「この術を使うのは孫策を殺して以来だ……」
周瑜「孫策を! 貴様は于吉か!」
于吉「周瑜。呉は呪われた土地だ。呉は未来永劫、暗黒の地でなければならない」
周瑜「おのれ!」
周瑜は何も見えない状況で武器を手探りで探す。
于吉「悔しいか周瑜……儂が味わった悔しさに比べれば可愛いものよ。儂と同じく光を失くし絶望の中で死ぬが良い」
周瑜「何故、呉を的にかける! 貴様の目的は一体何だ!」
于吉「呉にまつわる暗君が全ての元凶……儂は呉の土地に巣食う呪いそのもの……」
周瑜「呉の暗君……光を失くす……まさか! 貴様は!」
于吉「流石は周瑜……気付いたか」
周瑜「馬鹿な! そんなことは有り得ない! しかし、他にどう説明が……!」
于吉「そう……説明が付かないことが起こっているのだよ。周瑜……さらばだ」
于吉は周瑜の胸を剣で貫く。周瑜の白い肌に赤い血が流れ地を赤く染めた。
周瑜「ぐっ……!」
于吉「はははははは!」
于吉は高らかに笑った。
周瑜(無念だ……せめて于吉……いやこの化物のことを誰かに……伝えなければ……呂蒙……なら……気付……け……)
周瑜は意識が霞む中、于吉の存在を誰かに伝えなければと強く思ったが願いは叶わずそのまま命が尽きた。
越族討伐は数日に渡って行われた。日々、越族の兵達を討ち取り骸を片付ける。
徐盛「大方片付いたか?」
呂蒙「ここから先への進軍はよそう。随分と霧が濃い。下手に進むのは危険だ」
朱桓「何だか私達……侵略者の様ですね」
徐盛「ああっ……しかしここで越を叩かねば、後から泣くのは俺たちの方だ」
呂蒙「でもさ。蛮族あいてとは言え快勝だな! もう少し戦ってもいいかな?」
徐盛「曹操軍の強さに自分達が小さく感じたが、やはり俺たちは弱くはないな」
朱桓「ここで陣を敷きますか?」
呂蒙「いや。少し引き返そう。山岳地帯での野営は夜襲を受ける可能性がある」
朱桓「分かりました。一度、国境近くまで戻るということですね」
呂蒙「ああ」
呂蒙は国境近くまで戻り陣を敷き兵を休めた。
翌朝、陣営にて越族討伐の準備が進められる。
陸遜「お姉様。越族討伐ですが既に数万を超える被害を与えました。これ以上の戦いは……」
呂蒙「やりすぎって言いたいんだろ? 分かっているよ。今日で越族討伐は終わりにするつもりだったから安心してくれ」
朱桓「呂蒙さん! 今日も行けますよ! 準備整ってます!」
呂蒙「朱桓。ありがとう。伯言、気が乗らないなら少し休むといい」
陸遜「ええ。そうさせていただきます」
呂蒙達が越族討伐に向かう。
陸遜「越族にとって私達はどう映っているのか……まるで狩りを楽しむように家族を奪う非道な者に思われては……」
陸遜は越の領土に背を向ける。
陸遜「!!」
陸遜の背筋に凄まじい悪寒が走る。
陸遜「何です! この肌を刺す感覚は……! あれは……霧?」
陸遜は初めて味わう感覚に恐怖する。正確には越の領土にかかる不気味な霧が陸遜の本能に危険だと訴えた。
陸遜「怖い……どうして……」
陸遜は震えていた。
呉軍兵士「陸遜様。江陵からの早馬が只今到着しこれを呂蒙様にと」
陸遜「あっありがとうございます」
陸遜は書簡に目を通す。
呂蒙は越族の領土に兵を進めようとしていた。
呂蒙「さぁ! これで終わりだ! 越族が二度と呉に悪さ出来ないように徹底的に懲らしめようか!」
徐盛と朱桓が頷く。
陸遜「お姉さま! 江陵から急報です!」
陸遜が呂蒙の元へ駆けつける。
呂蒙「急報? 江陵を周瑜様が落としたのか?」
陸遜「いえ……周瑜様が何者かに暗殺された様です……それと合肥の戦いでは程普殿が戦死されたと……」
呂蒙「そんな! 周瑜様が……信じられない……それに程普殿が戦死だと……」
陸遜「私も信じられません……曹操軍の暗殺によるものでしょうか……」
呂蒙「今はその可能性が高いな……周瑜様から学びたいことは沢山あったのに……何てことだ……」
不穏な空気が流れる。
朱桓「呂蒙さん……これからどうすれば……」
呂蒙「伯言……合肥の戦況は書いてあったかい?」
陸遜「はい。張遼の奇襲で孫権様は命を落としそうになった様ですが無事の様です。その後は、膠着した状態だと……」
呂蒙「分かった。私は江陵に向かう。伯言と徐盛、朱桓は合肥に向かってくれ」
徐盛「分かった。呂蒙……江陵を頼む」
呂蒙「勿論だ。徐盛、伯言を支えてやってくれ」
徐盛「おお。任せろ!」
陸遜「お姉様……離れ離れになってしまいますね……」
呂蒙「伯言なら大丈夫さ」
朱桓「呂蒙さーん! 私も一緒に江陵へ連れて行って下さいよー!」
呂蒙「朱桓。それは出来ない。大丈夫、伯言は朱桓のことを大事にしてくれる。だから伯言の言うことをちゃんと聞くんだぞ」
朱桓「はい……」
陸遜「朱桓さん。お姉様程の力はありませんがあなたのことを守ってみせます」
徐盛「なら、俺は呂蒙の代わりに陸遜を守ってみせよう」
朱桓「だったら、私が徐盛さんのことを守ってみせます!」
呂蒙「うん、いいね! その意気だよ朱桓! 皆で支え合う力こそ呉の力だ」
陸遜「ではお姉様……少しの間お別れですね……」
呂蒙「うん。今は各々が出来ることをしていこう」
陸遜「はい」
呂蒙「しかし、越族討伐も最後の最後で……」
陸遜「いいえ。引き際としては最高の引き際です。私は一刻も早くこの場を離れたいのが本音です」
呂蒙「ん? 何かあったのかい?」
陸遜「その霧から……」
呂蒙「霧? 霧なんてどこにあるんだい?」
陸遜「あれ……そんな……霧が消えた……」
陸遜に恐怖を感じさせた霧はなくなっていた。
呂蒙は江陵に向かい陸遜、徐盛、朱桓は合肥に向かった。
緊急事態に呉軍は越を後にする。去っていく呉軍に越族は舌打ちする。越族の後方には真っ白な鎧を身にまとう部隊が待機していた。




