呉編 合肥の戦い
合肥の戦い
江陵で周瑜が戦っているころ呉軍は合肥で曹操軍との戦いが始まろうとしていた。
合肥は江陵と同じく、内陸に進む為の要所の一つである。江陵を取ることは荊州を獲る意味を持つが、合肥を獲る意味は沿岸部を抑え中華、北部へ最短で進む経路であった。
呉軍陣営内では全軍突撃が間もなく行われようとしていた。
孫権「赤壁の戦いで曹操軍の主力はいない! 合肥を落とし内陸侵攻の足掛かりとし天下人として覇を握る!」
呉の君主の孫権が総大将とし合肥攻略に意気込んでいた。
程普「ふぉる!」
程普は孫権の言葉に勢いよくふぉると返す。意味は分からない。
凌統「孫権様。敵は少数とはいえ張遼率いる精鋭です! 出来ることであれば孫権様は後方の陣で指揮をなさって下さい」
凌統は曹操軍屈指の猛将である張遼が合肥の守りにいることから孫権の安全を考え進言する。
孫権「凌統。朕は亡き兄上程の勇猛さこそ劣るが、逃げ腰の曹操軍には遅れは取るつもりはない」
凌統「申し訳ございません。そう言った意味ではございません。先の戦いで大勝したものの、初めてまともに戦うことに不安を感じております」
孫権「凌統は弱気だのー。甘寧、呉軍は曹操軍に劣るのか?」
甘寧「はっ! 負ける気がしませんね。凌統は心配し過ぎだって」
孫権「はは! 甘寧、良く言ってくれた!」
孫権は甘寧の勝気な返答に気分をよくした。
凌統「……」
蒋欽「曹操軍の討つべき将は三人。張遼、楽進、李典の三人です。恐らくは守りに徹するかと」
程普「ふぉるふぉる」
蒋欽の言葉に反応した程普がふぉるふぉると言う。意味は分からない。
孫権「程普は何と言っているのだ?」
(この振りはきつい……!)
その場にいた者は思った。
甘寧「呉軍は負けねーって言ってる気がしますね」
孫権「甘寧! 気が合うではないか! 朕もそう思ったぞ!」
甘寧は孫権の喜ぶ姿を見て嬉しそうにする。
孫権「曹操軍が守りに徹するのであれば囲んでしまおうではないか」
凌統「本当に曹操軍は守りに徹するのか……」
孫権の考えに凌統が水を差す。
蒋欽「凌統。どうしたんだ?」
凌統「孫権様。合肥の包囲をするにあたり、誰か孫権様の近くに置いて下さい。曹操軍の奇襲があれば包囲の意味がございません」
孫権「これ程の戦力差で攻めて来るかのー? まー良い。では程普が朕の近くにいるのだ」
程普「ふぉる」
孫権「では、準備が整い次第、合肥の攻略を開始する!」
孫権の言葉に将兵は合肥攻略の準備に向かった。合肥は貿易をする為の商業都市の要所の役目もあり税収も計り知れないほど土地から孫権としては何が何でも手に入れておきたい都市である。
凌統「……」
凌統は何も言わずに早足で歩く。
甘寧「おい凌統! 怒ってんのか?」
凌統「怒ってなどいない!」
甘寧「どーしたんだよ。俺達が負ける訳ないだろ?」
凌統「別に負けると思っていない」
甘寧の問いかけを短絡に返す。
甘寧「じゃー何だよ?」
凌統「俺達は自分達の力を過信し過ぎている気がするんだ」
蒋欽「過信?」
凌統「俺達は今まで自分達よりも強い者と戦ったことはあるか?」
甘寧「俺が一番強いから分かんねー」
蒋欽「戦う前から考え過ぎじゃねーか?」
凌統「蒋欽。俺はこの場に周瑜様や呂蒙がいないことに物凄く不安を感じているんだ」
蒋欽「それは俺達が信用出来ないってことか?」
蒋欽が凌統に問う。
凌統「そうじゃない!」
甘寧「凌統……どうしたんだよ? らしくねーよ……」
周泰「おいおい。どうしたんだ? 何かあったのか?」
大きな声に周泰が寄ってくる。
甘寧「凌統がさ。周瑜様と呂蒙がいないことが不安だって言ってよ……」
周泰「分かる! 凌統分かるよ!」
周泰は凌統の考えに賛同した。
蒋欽「周泰!」
周泰「蒋欽黙ってな。凌統が言っているのはまとめ役がいないことを言っているのよ」
凌統「周泰。ありがとう。その通りだ」
甘寧「孫権様がいるじゃねーか」
周泰「政と戦は別物。ただ凌統に言うなれば周瑜様と呂蒙。後、陸遜を加えてね」
凌統「あぁっそうだな」
周泰「って言うか! 甘寧も蒋欽も凌統のことを理解してあげなさいよ! どんだけ長く付き合ってんの? 阿保なの!? 頭腐っての!?」
蒋欽「……」
甘寧「だってよー」
甘寧と蒋欽はしょんぼりする。
凌統「甘寧、蒋欽。俺も言葉が足りなかった」
蒋欽「凌統、俺もすまない……別に責めるつもりでは……只、戦う前から弱気になりたくなかったんだ」
甘寧「俺は……ただ……誰にも負ける気がしないわけであってよ……凌統のことを……」
凌統「二人とも分かった。気持ちは伝わったよ。ありがとう」
周泰「で? 凌統はどう考えてるんだ?」
凌統「合肥の包囲は決まったことだ。俺達が追い込んでいるのは鼠じゃない。手負いの虎だ……」
周泰「じゃあ。張遼は奇襲を仕掛けて来ると……?」
凌統「その確信が持てないから悩んでいるんだ……」
甘寧「よし分かった! 張遼、楽進、李典は俺達四人で討つ! それでいいだろう!」
凌統「それでいいと思う」
甘寧の言葉に凌統は笑顔で返す。
蒋欽「ははっ! 曹操軍がどれ程のものか見せて貰おうぜ!」
凌統「蒋欽。城攻めに弓は欠かせない。必ず楽進と李典を討ってくれ」
蒋欽「任せろよ! 眉間に一発だ!」
凌統「甘寧。張遼を止めるのはお前の仕事だ。いいな?」
甘寧「曹操軍の猛将がなんぼのもんか見せてもらうぜ」
凌統「よし! では行こうか」
周泰「ちょっと待ったぁあああ!」
周泰が声を張り上げた。
凌統「どうしたんだ周泰?」
周泰「凌統。私には何かないの?」
凌統「そうだな……いつも通り頑張ってくれ」
周泰「違う! もっと具体的なやつ!」
甘寧「適当に走れば敵に会うんじゃないか?」
蒋欽「いつもやってる腹筋でもしとけばいいんじゃないか?」
周泰「お前等! 私を除け者にするな!」
凌統「周泰は周泰の好きにすればいいさ。この中で一番柔軟に動けるのは周泰だとみんな知っている」
周泰「そっか……じゃあ私は凌統の近くで戦おうかなぁ」
甘寧「は? 何言ってんのお前?」
蒋欽「くっ……」
甘寧は少し怒り蒋欽は笑いをこらえる。
凌統「いいだろう。ちゃんとついてこいよ」
周泰「当然」
凌統は騎馬隊そして周泰は歩兵を率いる。
呉軍の陣営に銅鑼の音が響き渡る。総攻撃の合図と同時に呉軍は一斉に合肥に襲いかかる。楽進と李典は城に張り付かれると後がない為か討って出ており槍を振るう。
呉軍の猛攻に必死に抵抗する曹操軍に甘寧、凌統、蒋欽は奮戦する。合肥の前は曹操軍と呉軍の混戦で多くの死傷者が出始める。野蛮とも言える呉軍の戦いに曹操軍は隊列を組み連携攻撃で呉軍を防いだ。
赤壁の大勝に呉軍の指揮は高い、訓練以上の力を出す兵達は曹操軍に猛然と襲いかかり合肥攻略は目前かと思われた。
凌統「甘寧! 蒋欽! 後ろに下がれ!」
凌統が叫ぶ。
甘寧「どうしたんだよ! 勝ちは目前だぜ!?」
蒋欽「甘寧! 張遼がいないからだ!」
凌統「楽進と李典はこの状況ならいつでも討てる! だが肝心の張遼がいない!」
凌統は戦場を見渡す。
甘寧「なるほどな! 仕事の時間が近づいてるってことか!」
凌統「そういうことだ甘寧! いつもの豪気がはったりじゃないことを証明してみろ!」
その時、呉軍の端の部隊から悲鳴が聞こえてきた。
凌統「出たぞ! 間違いない張遼だ!」
甘寧「よっしゃ! 行くぜ!」
蒋欽「甘寧! 悪いがお前の仕事は俺がいただくぜ!」
周泰「走ってばっかで全然役にたってない私に張遼を譲れ!」
周泰は凌統をひたすら追いかけていた。驚くべきはその持久力だ。
凌統達は張遼に向かっていく。だがそこで見た光景は今までにないものであった。
張遼は青龍刀を振るい兵を草を刈るが如く葬る。張遼の率いる騎馬隊はとても大きな馬に乗っていた。張遼は涼州の騎馬術を学んでおり、敵を斬り、馬で踏み潰すという戦法であった。呉軍は初めての重騎馬に圧倒され逃げまどう。
張遼の率いる兵は僅か百に満たない。その少数の部隊が数万の呉軍を敗走させていた。
凌統「虎の中でも一番やばい虎じゃないか!」
凌統は張遼に向かう。すれ違い様に剣を振るうが張遼の一閃に剣は空に舞った。凌統は何が起きたか理解するのに時間がかかった。
凌統は死を覚悟したが張遼は凌統に目もくれない。それは周泰が凌統を庇う様に張遼の前に立ちはだかったからだ。
周泰「?統。大丈夫!?」
凌統「ああ。助かったよ周泰」
周泰は凌統に手を伸ばす。
蒋欽「凌統で止まらないだと! ならば! 張遼の首は俺が頂くぜ!」
蒋欽は力いっっぱい弓を引き矢を放つ。風を切る音と共に蒋欽の放った矢が張遼の眉間に向かう。だが張遼は蒋欽の放った渾身の矢を素手で掴む。
蒋欽「嘘だろ……」
蒋欽は呆気に取られる。
甘寧「やっぱ俺がやんなきゃ駄目だな!」
凌統が抜かれ、蒋欽が討ち損ねたことを見た甘寧は甘寧は張遼の前に立つ。張遼は甘寧に向けて青龍刀を振り下ろす。
ギャン
重い金属がぶつかる音が響。
甘寧「重い!」
甘寧は斬馬刀で受ける。
張遼「ほう……俺の一撃を受け止めるか……」
低い声で張遼で甘寧に語りかけた。
甘寧「てめぇええ! 上からしゃべんな!」
甘寧は張遼に向けて斬馬刀で斬りかかる。
ギィイイイン!
張遼が甘寧の攻撃に合わせて青龍刀を弾く。
張遼「せっかくの出会いだがここでお前と遊んでいる暇はない。名前だけ聞いておこうか」
甘寧「呉軍最強の甘寧だ!」
張遼「甘寧か……覚えておこう」
張遼は甘寧を相手にぜず。一気に呉の陣営に向けて馬を駆けた。
甘寧「やべー! 張遼が包囲を抜けたぞ!」
凌統「いかん! 孫権様が!」
周泰「せめて! 騎馬隊だけでも止めなきゃ!」
周泰は張遼の率いる重騎馬隊を相手に奮戦する。甘寧、凌統、蒋欽も張遼を止めることが出来なかったが騎馬隊だけは何とか抑えなければと戦った。
張遼接近の報が孫権に伝えられた。
呉軍兵士「孫権様! 敵将、張遼が向かって来ております! 急ぎ避難を!」
孫権「何だと! 他の将兵は何をしているのだ!」
程普「ふぉるー!」
孫権「程普? 朕に退けと言っているのか?」
程普「ふぉる!」
孫権「分かった! 程普! 張遼の首を必ず獲るのだぞ!」
程普「ふぉる!」
程普は兵で壁を作り壁を作る。
張遼「あそこに見えるは孫権か!」
張遼は兵の壁の先に逃げる孫権を見つける。
程普「ふぉるふぉる!」
程普の合図と共に兵は張遼の進む道を開けるかのように割れる。挟撃にて張遼を叩く戦法で騎馬撃退の常とう戦法だ。
張遼「馬鹿が!」
張遼は割れた道から兵の方へ斜めに斬り込む。張遼は出し惜しみは終わりだと言わんばかりに青龍刀を振るう。騎馬を潰す為の挟撃は弱点がある。道を進まず敵の方へ斬り込むことでその戦法を無効化出来る。張遼はただ一人呉軍に突っ込み呉軍を恐怖の底に叩き落とした。
大きな青龍刀は一振りで複数の首が宙を舞う。呉軍の兵達は戦いどころではなくなった。
程普「ふぉる!」
兵達の恐怖の伝染を止めるべく程普が張遼に向かっていく。
張遼「貴様に用はない!」
張遼の一閃が程普の肩から斜めに振り下ろされた。程普の体は二つに切裂かれる。
程普「ふぉるーーーー!」
程普の断末魔が呉軍に響き渡る。
孫権は馬を駆ける。護衛は誰もいない。
孫権「はぁはぁ! 後ろはどうなっておるのだ?! ああっ程普が!」
孫権が振り返ると程普が斬り殺されていた。
張遼「孫権! その首を置いて行け!」
張遼は叫ぶ。
孫権「ひっ! だっ誰か朕を守るのだ!」
孫権は馬を走らせ必死に叫ぶ。
????「孫権様。ここより東にお向かい下さい。さすれば仲間と合流出来るでしょう」
突如、孫権と共に馬を並走させる老人が現れた。老人の目には包帯が巻かれいる。
孫権「おっお主は誰だ!」
???「あなた様が生き延びることが出来れば後でお会いしましょう。張遼は私にお任せ下さい」
孫権「どなたが存じ上げないが、恩に着るぞ!」
そう言って老人は馬を返し張遼に向かっていく。
張遼「孫権!」
???「張遼殿。少しばかり私と相手をして頂こう」
張遼に老人が迫りくる。
張遼「邪魔をするな!」
張遼は老人に青龍刀を振り下ろすがその時、急に黒い霧の様な錯覚を見る。
張遼「くっ! 目眩ましか!」
張遼は一瞬の出来事に事態が分からない。
張遼「消えた……何者なんだ……」
目が見えるようになった時には孫権も老人も姿が見えなかった。
曹操軍兵士「張遼様! 楽進様と李典様が!」
張遼に追いついた兵からの報告は訃報であった。
張遼「そうか……一度、合肥に戻るぞ!」
張遼は孫権の首を断念し合肥に帰って行った。
凌統「孫権様!」
孫権「おおー! 凌統!」
馬を必死に走らせた孫権は凌統達と合流する。
甘寧「大丈夫ですか!」
孫権「甘寧も一緒か!」
凌統「孫権様、ご無事で何よりです!」
孫権「程普が! 程普が!」
甘寧「じいさまが……! まさか……」
凌統「孫権様、落ち着いて下さい。今は一度、後方の陣まで下がりましょう」
凌統は動揺する孫権を陣営まで護衛した。
その夜、呉軍の陣営は静まり返っていた。
蒋欽「程普殿が討たれたと聞いた……」
甘寧「凌統の危惧していたことが起こっちまった……」
凌統「……」
周泰「張遼を止められなかった……」
呉軍は大戦の士気の高さはどこにいったと言わんばかりに士気が下がっていた。
蒋欽「これ程の戦力差で敗れるとは……俺達は……ただの世間知らずだったってことかよ」
甘寧「認めねー! 俺達が通用しないなんてことなんてあってなるもんかよ!」
周泰「いや。ここは認めろよ。甘寧」
凌統「甘寧。俺はお前が張遼に劣るとは思っていない」
周泰「凌統……」
凌統「以前から呂蒙が言っていた。呉軍は軍としての実経験が乏しいと……その差が今回の敗北を招いた……もしかしたら……俺達はようやく出発点まで来たのかもしれない……兵達から話を聞いたが程普殿は挟撃で張遼を討とうとしたようだ。だが張遼は兵の築いた壁を打ち破った……」
周泰「対騎馬の基本だね。程普殿の戦法は間違っていなかったんじゃない?」
凌統「ああ……間違いないないさ。だがそれを単騎でやってのけたことが信じられない……」
蒋欽「俺なんて矢を……そうか……俺の場合は腕が良すぎたんだ……」
甘寧「は? 何でそうなんだよ」
蒋欽「多分、張遼は俺の姿を捉えていたんだと思う……張遼は重装備だったから俺は眉間を狙った……予め予想されてたんだ」
凌統「これが本当の戦場か……訓練とは違うことを思い知らされた」
蒋欽「くそっ! 何なんだ! 張遼の化け物染みた強さは!」
周泰「潜った死線の数が違うのさ。きっと」
甘寧「程普のじいさまが亡くなって孫権様はどうしてるんだ」
凌統「今晩はそっとして置こう」
周泰「そうね」
呉の武将達は孫権の休む天幕に目を向ける。
孫権「程普! すまない、程普! お前を見殺しにしてしまった……この仇は必ず……」
孫権は一人、重臣の程普が亡くなったことを悲しんでいた。
???「将兵は命を賭して主を守るものです」
孫権「お前は昼間の……どうしてここに……いや、それよりも昼は助けて頂いてありがとう。礼は明日にでも、届けさせて頂こう」
孫権を助けた老人がいつの間にか孫権の天幕にいた。
???「礼には及びません。孫権様」
孫権「いや、そうはいかん。命を救って頂いたのだ。それと命の恩人のお名前をお聞きしたい」
于吉「私の名は……于吉と申します」
孫権「于吉だと!」
孫権は老人の名を聞き驚く。
于吉「驚かれるのは無理もない」
孫権「貴様は我が兄、孫策を殺した張本人ではないか!」
于吉「それは誤解でございます」
孫権「誤解だと! ふざけるな!」
孫権は激高する。
于吉「孫権様。お願いがございます」
孫権「貴様にお願いなど、される覚えはない!」
于吉「私が何故、貴方様の命を救ったと思いますか? もし、礼を頂けるのであれば。私の話を聞くと言う形で礼を頂きたいのです」
孫権「なるほど……良いだろう。話が終われば貴様を牢獄に送ってやる」
于吉「話を聞いて頂けた後であればご自由に」
孫権「ふん! 申してみろ」
于吉「ありがとうございます。まずは孫策様の話でございます」
孫権「兄上の?」
于吉「私は孫策様を殺してなどおりません。見ての通り目が見えないのです……そんな私に孫策様を殺すことが出来ましょうか?」
孫権「うっ」
于吉の言葉に孫権は動揺する。孫権の兄である孫策は君主でありながらも呉で最も強い男であったからだ。
于吉「私は呉の土地で放浪の旅をしている導師でした。目が見えなくとも色んなことを肌で感じることが出来ます。私は呉の土地に何か呪いに近いものを感じておりました。その原因を突き止めようと呉に滞在しておりました」
孫権「呪いだと? 聞いたことがない」
于吉「はい。原因はまだ分かりませんが呪いは必ずあります。そんな中、私のことが孫策様のお耳に入りました」
孫権「……」
于吉「私は妄言で民をたぶらかすと言う理由で孫策様に牢獄に入れられました。その晩、孫策様は亡くなられた……」
孫権「お前が兄上を殺していないのであれば一体誰が兄上を殺したのだ!」
于吉「それは分かりません……私には孫策様を殺める力もなければ理由も無いのです。ましてや孫権様を見殺しにする理由も……」
孫権「たっ確かに……しかし! 朕を助けた理由は一体何なのだ!」
于吉「私が望むのは平和でございます。孫権様であれば平和な世を築けると信じております」
孫権「そうであったか……于吉殿。命まで救って頂いたのに大変失礼した。于吉殿の誤解は直ぐにでも解く様にしよう」
于吉「それはなりません。一度頭に入った概念を入れ替えるのは非常に労力が必要です。今はその労力を一日でも早く平和な世が築ける為に」
孫権「于吉殿がそう言うのであれば……そうしよう」
于吉「ありがとうございます。孫権様……私は貴方様のことを影で支えます。どうか平和な世を築いて下さい」
孫権「于吉殿。約束しよう」
于吉はニヤリと口元を緩め消えた。
孫権「朕であれば平和な世を築けるか……」
孫権は于吉に命を助けられたことに感謝するが自分が天下を治めるべき器の持ち主であることを告げられたことが何より嬉しかった。




