呉編 潜入捜査
呉編 潜入捜査
宿舎では武将達が集まる。
呂蒙「それでは作戦を説明する」
呂蒙は口を開く。
呂蒙「人身売買が行われる競売場を抑え遊女達の救出と悪徳商人が呉で悪さが出来ないようにすることが今回の目的だ。海賊達から既に競売の為の割符を入手している。突入部隊は甘寧、蒋欽の二名。後は潜入捜査の為、遊女に扮して遊女達の安全を確保することが目的とする」
凌統「おい! 呂蒙! どうして俺が潜入捜査側なんだ!」
呂蒙「すまんな。競売に参加する為には遊女を最低でも五人用意することが条件なんだ」
凌統「だからと言って何で俺がそっち側なんだよ!」
呂蒙「すまんが女装してくれないか? 大丈夫だよ喋らなければばれない」
凌統「正気か!」
呂蒙「遊女を助ける為だ」
凌統「断る!」
呂蒙「これは周瑜様の命令だ」
凌統「周瑜様の!?」
呂蒙「そうだ。凌統に拒否権はない」
凌統「ぐ……」
凌統があまりにもかわいそうで誰も声を発しない。
徐盛「まさか俺も女装するのか……?」
徐盛が恐る恐る聞いてみる。
呂蒙「いや。徐盛は海賊のふりをして私達を競売場に売りに来たようにして欲しい」
徐盛「分かった」
徐盛は胸を撫で下ろす。
呂蒙「相手の兵力は分からない。少人数で突入することは危険だからこその人選だということは理解してくれ。ではそれぞれ準備をしてくれ明朝には出発する」
こうして悪徳商人を懲らしめる為に呉の武将達は徹夜で準備をする。化粧道具、卑猥な衣装……とても戦いに向かう為の準備とは思えない支度をし出発した。
建業を出発した潜入捜査の部隊は陽が暮れる頃、競売場に到着した。競売場は呉と越の国境の近くにあり古びた大きな屋敷であった。
呂蒙「甘寧と蒋欽は既に近くで待機している。みんな準備はいいか?」
全員がやたら肌が露出する服を着ている。
凌統「呂蒙……もうちょっとましな服はなかったのか……」
呂蒙「凌統。よく似合ってるじゃないか」
朱桓「お世辞じゃなくて凄く綺麗ですよ凌統さん!」
凌統「嬉しくない!」
朱桓の褒め言葉に反発する凌統であった。
周泰「いやー……こんな服着るのは初めてだわ」
周泰の場合。肌と言うよりも筋肉が目立つ。
陸遜「周泰さん……なんというか物凄く健康的ですね……」
周泰「もう! せっかくなら綺麗って言ってくれよな!」
「……」
全員が口を閉ざす。
周泰「静まんな!」
周泰は吠える。
呂蒙「徐盛。割符はあるな」
徐盛「もちろんだ」
周泰「話を進めんな!」
周泰はまたも吠える。
凌統「はぁ……周泰。とても綺麗だよ」
周泰「おせーよ! 後、ため息の後に言うな!」
周泰は更に吠える。
呂蒙「周泰。そこまでだ。行くぞ」
周泰「ぐっ!」
何故かモヤモヤする周泰であった。
呂蒙達は屋敷の門に到着する。
門番「ん? 何だお前達は」
徐盛「これを」
徐盛は割符を門番に渡す。
門番「おう。売りに来たのか……ふーん……随分と個性的な女共だな……だが上玉も一人いるな」
凌統以外の女共は自分が上玉だと思った。
徐盛「ああ。少しでも高く売れるといいんだが」
門番「こればかりは何とも言えんな。だが今日は買い手にかなりの要人が参加するらしい。これでもかと言わんばかりの美女が競売場でお披露目されるそうだ」
徐盛「ほう。そいつは楽しみだ」
門番「高く売れたら一杯奢ってくれよ」
徐盛「ああ。構わん。じゃあ通らせてもらう」
徐盛達は門をくぐる。中には沢山の美女が競売にかけられるのを待っていた。
奴隷商「いいか! お前達のことを可愛がってくれる大事なお客様に粗相のないように! 番号の書いた札を渡すこれを持って会場で並ぶんだ!」
呂蒙「なるほどな……直ぐに助けたいところだが客が来るまで待つ方がよさそうだ」
陸遜「ええ。それにしても……遊女というのも半分当たりの半分外れのようです。借金の肩に売られた女性も多いかと」
呂蒙「ああ。顔が暗い人が多いな」
朱桓「確かに綺麗な方が多いですけど。私、一番に買われる自身あります!」
呂蒙「はははは! 一番は私が貰うよ」
朱桓「呂蒙さん! 勝負ですね!」
徐盛「呂蒙。さっき説明を聞いてきたが一斉に並べられるようだ」
呂蒙「分かった。私の隣に立つ人には申し訳ないが引き立て役になってもらおう」
陸遜「私、朱桓さんとお姉様の間に立ちたいです」
呂蒙「うん。いいよ」
朱桓「何かあっても守ってみせますから安心して下さい!」
陸遜「そういう意味じゃないんです。おふたりの間だったら他の人に見劣りしないと思いますので」
「……」
呂蒙と朱桓は黙る。
奴隷商「さぁ! 始まるぞ! さっさと会場に並ぶんだ!」
壇上に女達は横一列に並ばされた。
会場の挨拶が始まる。
奴隷商「お客様! お待たせしました! これより競売を始めます! これだけの美女が集まるのはここだけでございます! どうか品定めしていただきお持ち帰り下さいませ!」
競売が始まる。客席は暗く壇上からは客の顔がよく見えない。
番号と金額がこだまする。女性達の多くは金五十が相場で金百以上の値段は聞こえない。次々と女性が落札されていく。奴隷商は番号と価格を竹簡に記載していく。
競売は始まっているが客が増えていく。最初は幾つかの席が空いていたが満席となっていた。
「三十番に金二百!」
突如、高額の提示に会場がどよめく。三十番は凌統だった……。
凌統は声を出せずただ驚く。遊女達が凌統に視線を注ぐが凌統を見た瞬間に納得した。だが呂蒙、朱桓、陸遜、周泰はギリギリと歯を食いしばる。
四人は一度も金額を提示されていない。凌統に提示された金額から会場は盛り上がり金百を超える金額も少しづつ増えてきた。
呂蒙「何故だ……何故、誰も私に入札しないんだ……」
朱桓「私。こいつらの目を後で抉ろうと思います」
奴隷商「どなたか二十六番から二十九番の売れ残りに入札していただけるお優しい方はいらっしゃおませんか!」
奴隷商の言葉に会場からどっと笑い声が聞こえる。美女達もくすくすと笑う。
陸遜「売れ……残り……」
呂蒙「もう甘寧達を呼ぶの止めて私達だけでこいつら殺そうか」
呂蒙の顔は笑顔だ。
「二十九番に金二千!!」
突如の巨額の入札の声が上がった。
奴隷商「金二千! 過去最高落札額の金五百を大きく超える金額が出ました!」
会場にいる人の視線の先には二十九番の札を持つ者に注がれた。周泰である。
周泰「へ? 私?」
「えええええぇええええ!」
客の驚嘆の声が会場を包む。
周泰「いよっしゃあああああああ!」
周泰が絶叫する。
周泰が叫ぶ姿に誰もが驚く。何故、こんな女に……と。
奴隷商「巨額の入札があったところで本日の競売を終わりとさせて頂きます!」
凌統と周泰は落札された客の元に連れていかれた。次々と女達は連れていかれ壇上には呂蒙、朱桓、陸遜の三人だけであった。
奴隷商「いやぁ。今日は凄かったな。これ程の大金で落札されたのは初めてだ」
徐盛「そうみたいだな。大番狂わせってのは正にこのことだ」
奴隷商「これがあんたの取り分だ。金千五百。また参加してくれよ」
徐盛は金を受け取る。
徐盛「ところで二十九番の女を買った者は何者なんだ?」
奴隷商「おいおい。客の詮索はご法度だろ。まぁ気になる気持ちも分かるから特別に教えてやりたいが……実のところ俺にもよく分からん。年に数回、顔を出すんだがちゃんと姿を見たものはいないんだよ。だがとんでもねえ金持ちってだけは分かってる」
徐盛「金持ち? それもそうか金二千なんて簡単に払える金額じゃない」
奴隷商「いつもとんでもねえ護衛と金を用意してるんだ。この前なんてその要人を狙った連中がいたが翌日、森の中で死体で発見された。腕に覚えのある盗賊達が何人もいたのによ」
徐盛「……」
徐盛は周泰の安否が心配になった。
奴隷商「話はここまでだ。またいい女を頼むぜ」
奴隷商は去る。
徐盛「これは急いだ方が良さそうだな」
徐盛は懐から白橘木を砕き固めたものを取り出す。白橘木は燃やすと白煙を出す木で煙の木とも呼ばれる。徐盛は白橘木を外にある松明に投げ込んだ。煙は夕日で赤く染められ空に向けて昇った。
屋敷から上がる煙を別動隊が発見する。
甘寧「蒋欽! 合図の狼煙が上がったぞ!」
蒋欽「ああ! 一気に行こうぜ!」
甘寧と蒋欽の率いる呉軍が競売場に向かう。
呉軍の接近に奴隷商達と客達は慌てて逃げようと騒然となるがが徐盛、呂蒙、朱桓がそれを阻む。
徐盛「我々は呉軍だ! 人身売買の現行犯だ! 無駄な抵抗はするな!」
徐盛の言葉に反するかのように奴隷商達はならず者を従え襲い掛かる。
呂蒙「奴隷商達は必ず捕えるんだ! 客達は見逃しても構わない!」
呂蒙はそう言いながら、ならず者の警備を力いっぱい殴る。
奴隷商「こいつら! 呉軍のまわしものかよ!」
呂蒙「お前たちの非道はここまでだ! 呉の法の下に裁かせてもらうぞ!」
呂蒙は奴隷商を捕らえる。甘寧と蒋欽がなだれ込み会場は呉軍の兵であふれた。
ほとんど奴隷商は捉えられた。
甘寧「みんな大丈夫か!」
甘寧は呂蒙達に声をかける。
呂蒙「随分と早いじゃないか」
徐盛「俺が合図を送った」
呂蒙「そうだったのか。甘寧、私達は大丈夫だ」
甘寧「そうか安心したぜ。ところで凌統の姿が見えないが……」
凌統「俺ならここにいる」
凌統は帰り血で真っ赤に染まっていた。
甘寧「どっどうしたんだ……」
凌統「気持ちの悪い奴に買われたんだ。ベタベタしてきたからお返しだ」
甘寧「おっおう……」
甘寧は本気で怒っている凌統に尻込む。
徐盛「それより周泰を買った奴が危険な男のようだ。急いで探そう!」
徐盛の言葉に全員で周泰を探すが見つからない。
蒋欽「いないぞ! まさか連れていかれたんじゃないだろうな!」
凌統「外を探そう! 今ならまだ間に合うはずだ!」
外に出るも既に日は落ち辺りは暗い。
呂蒙「周泰! どこにいるんだ!」
朱桓「周泰さーん!!」
皆が懸命に周泰を探す。
陸遜「あそこ! 周泰さんじゃないですか!」
陸遜は丘の上に立つ周泰を見つける。皆が周泰の所に走る。
呂蒙「周泰! 大丈夫か!」
周泰「ああ……呂蒙か……」
呂蒙「大丈夫か!? 怪我はないか!?」
周泰「私は大丈夫だよ。この通り」
徐盛「良かった……周泰を買った奴は危険な男かも知れないと聞いて心配したんだ」
周泰「危険? 何にもされなかったぞ……」
「え!?」
周泰を除く者が驚く。
呂蒙「どういうことだ……」
周泰「なんか凄く優しい人だった……お前の様な美しい人が遊女となることは見ておれん。お前の身体は芸術だ……これからはまっとうな余生を過ごすといい。って言ってくれた」
甘寧「今、気付いたんだが……周泰を買った奴がいんのかよ!」
周泰「どういう意味だよそれ! 私は超高額で落札されたんだぞ!」
甘寧「超高額だと!? いくらなんだよ……」
周泰「みんなに聞いてみれば?」
徐盛「金二千だ」
甘寧「はぁあああああ!? もったいねぇえええ!」
周泰「何がもったいないだ! 売れたのは私と凌統だけなんだぞ!」
蒋欽「まじか! 超大穴じゃんかよ!」
周泰「甘寧! 蒋欽! ぶん殴ってやる!」
凌統「よせよ周泰」
殴りかかる周泰を凌統が止める。
呂蒙「まぁ周泰が無事なら安心でよかった」
朱桓「呂蒙さん。こいつを連れて来ました」
朱桓が司会をしていた奴隷商を連れてくる。
奴隷商「ちくしょう! 騙しやがったな!」
呂蒙「すまんな。人身売買をする畜生に正攻法を使う程、呉軍は甘くない」
陸遜「あなたに聞きたいことがあります。何故、私達は売れ残ったのですか?」
「そこを聞くのかよ!」
皆が声を揃える。
奴隷商「そんなこと知るか! 客に聞けばいいだろうが! 強いて言うなら客は癒しを求めているんだ! 包帯だらけの危ない女と癖毛全開の女! そして尻の青い女なんて興味ないんだろうよ!」
呂蒙「危ない女……だと……私が普段どれほど皆に優しく接しているか知らずに!」
陸遜「癖毛全開ですって……私が気にしていることを……よくも!」
朱桓「尻の青いって私のお尻は青くありませんよ! 綺麗な桃色です!」
凌統「まぁまぁ。終わったことだしここは……」
周泰「こんな奴の言うことを真に受けたってしょうがないだろ?」
「売れた奴は黙ってろ!」
呂蒙、陸遜、朱桓は吠える。
凌統「甘寧、蒋欽、徐盛。今、手持ちにいくら持ってる?」
甘寧「は? どういう意味だよ」
凌統「まぁ教えてくれよ」
蒋欽「俺はえっと……五金かな」
徐盛「俺は十七金だ」
甘寧「俺、金持って来てない。持ってるのは鈴だけだ」
凌統「そうか。ならその金と鈴で売れ残りを買ってやってくれよ」
「言い方ぁあああ!!」
売れ残りが叫ぶ。
「断る」
客ははっきり言い放つ。
蒋欽「俺は帰りに一杯飲みたいんだ。何が嬉しくて呂蒙達を買わなくちゃいけないんだ」
徐盛「俺だってこの金で新しい鍋と包丁を買いたいんだ」
甘寧「この鈴だけは絶対にやらん」
売れ残りがプルプルと怒りを我慢する。
徐盛「取り敢えずいつまでもこんな所にいても仕方がない戻ろう」
呂蒙「いやだ! 誰かが私を買ってくれるまで動かないぞ!」
「なんて大人げないんだろう……」
呂蒙の大人げのない言動に一同は口を揃える。
凌統「やれやれ……呂蒙。これでいいか?」
凌統は呂蒙に何かを手渡す。
「ああ! 売れた!」
陸遜と朱桓が声を揃える。
呂蒙「これは……」
凌統「客からぶんどった。それなりに価値がありそうだったからな」
呂蒙「……」
凌統から渡されたもは透明な石で作られた物であった。
陸遜「お姉様? どうかしましたか?」
呂蒙「洛陽の工芸品「硝子の髪飾り」
だ」
朱桓「へー! そんなものがあるんですね!」
朱桓は興味深深だ。
陸遜「まさか商人達は内陸奥にまで貿易の手を……確か曹操軍の領地内での取引は禁止されているはずですよね」
呂蒙「急いで戻ろう。商人達から曹操軍に呉の情報が伝わっている可能性が高い」
呂蒙の言葉に重い空気が流れる。呉軍は任務を終え建業に戻った。
奴隷商の討伐後、建業内の強盗はなくなり呉の治安は戻ることとなった。周泰を買った危険な男の捜査は難航しその素性を知ることが出来ず操作は打ち切られた。




