呉編 陸遜と呂蒙
呉編 陸遜と呂蒙
群雄割拠の時代も終焉を迎える頃、唯一、他の勢力から侵攻を受けずに着々と勢力を伸ばす勢力が存在する。それは長江の南に位置する呉であった。呉の君主である孫権は既に亡くなった父、孫堅と兄である孫策の弟にあたる。
父、孫堅は劉備、曹操と共に肩を並べ戦った経緯もある江東の虎と呼ばれ兄、孫策も今の呉の基盤を築き上げた者であった。孫策は父である孫権が亡くなった後に袁術に頼るも存外な扱いを受けるも僅かな兵で袁術の元を離れ破竹の勢いで南の勢力をまとめ上げたが非業の死を遂げる。
父の声望と兄の作り上げた地盤を孫権が引き継ぐこととなるが内陸を半分近く手中に納めた曹操に狙われる危機に晒されることになっていた。
呂蒙と周泰は辺境の村を目指していた。
呂蒙「おい! 周泰早く来なって!」
周泰「そう急かすなよ! 付き合わされる私の身にもなれよ」
呂蒙「いいーじゃないか! 久しぶりに昔の仲間に会うんだから嬉しいんだ」
周泰「何だっけ? 陸遜だっけ?」
呂蒙「そう。可愛い子なんだよなー」
呂蒙は陸遜を迎えに行く途中で周泰は呂蒙に付き合わされる。周泰は女性ながら美しい肉体美を持つ。身体を鍛えるのが好きなわけではないが元々、筋肉質の為か本人が望まない程、筋肉が付いてしまった。その身体は実を伴い、力の強さは男顔負けの力持ちであった。元々は禄の為に仕官するが日々の鍛錬だけで武将の地位を手に入れた。
周泰「おまっ! 自分が可愛いがっている子を軍に入隊させる気なのか!?」
呂蒙「駄目か?」
周泰「いやっ……駄目じゃないけどさー……うーん、やっぱ駄目か」
呂蒙「これからの呉を支える優秀な人材なんだぞ? 陸遜伯言は」
周泰「分かったよ。で? 何処にいるんだ? その陸遜は? まだかかるのか」
呂蒙「うん。着いた」
周泰「おい!」
周泰は呂蒙につっこみを入れる。呂蒙と周泰は小さな集落に足を運んでいた。
呂蒙「おーい! 伯言! 伯言はいるかーー!」
呂蒙は集落の中でも一番小さな古びた家の戸を叩く。
陸遜「はい。どちらさ……お姉様! お久しぶりです!」
家の中から陸遜が顔を出し呂蒙のことをお姉様と呼ぶ。
呂蒙「やぁ! 伯言。久しぶりだね。勉強の方は捗ってる?」
呂蒙は久しぶりの再開にも関わらずそっけない質問をする。
陸遜「兵法書を読み漁る日々が続いています……お姉様は呉軍の任務はいかがです?」
呂蒙「あぁ、毎日楽しくやっているよ。私はもう武将だ」
陸遜「流石ですねお姉様。ところでそちらの方はー?」
陸遜は周泰を見る。
呂蒙「ああっ。呉軍武将の周泰だ」
周泰「周泰だ。宜しくな陸遜」
陸遜「こちらこそ。いつもお姉様がお世話になっております」
呂蒙「今日ここに私が来たのは伯言を呉軍に迎えたいと思ってね」
陸遜「え?」
呂蒙の突然の申し出に陸遜は困惑した。
呂蒙「曹操が劉表の治める荊州を落とした。これがどういうことか分かるだろ? 劉表の元にいた劉備軍が動くぞ」
この時、曹操は荊州に進行し劉備は長坂で曹操軍の追撃を受けていた。
陸遜「劉備軍は行き先がない状態です。おそらく呉軍を頼ってくるかと……」
呂蒙「うん。いいねっ……そこで呉に今必要なのは頭の切れる者だ。呉軍は腕っぷしは良いが頭の弱い奴が多いんだよ」
呂蒙は周泰の方を見た。
周泰「呂蒙。その頭の弱い奴の中に私は入っているのか?」
呂蒙の視線を受けながら敢えて周泰は聞いた。
呂蒙「はははは! 筆頭だよ」
周泰「おい! 呂蒙! 陸遜に紹介されたばかりなんだから少しは気をつかえ!」
呂蒙「だってさー。周泰ってこの間、山賊に挟撃されてるのに気付かないで、そのまま戦ってるんだぞ。笑えるだろ? 伯言」
陸遜「お姉様……その振り方は返答に困ります……」
周泰「あ・れ・はわざとだ! 山賊に負けるくらいなら武将になってなんてない!」
呂蒙「ふふっ……そうだな周泰。だがこれからは違う……統率のとれた曹操軍と戦うことになる」
呂蒙は周泰を見ながら不敵に笑った。
呂蒙「伯言。呉の連中は皆いい奴だ。私は呉の仲間を誰一人として失いたくはない今のまま曹操軍と戦うことになれば呉の将兵は曹操軍にとってかっこうの餌となるだろう」
周泰「お前……餌って……もう少し別な表現出来ないのか?」
呂蒙「だから伯言! 伯言の知が必要なんだ! 私と一緒に呉に来てくれ!」
周泰「私をシカトすんな!」
話を進める呂蒙に周泰はまたも突っ込む。
呂蒙「ええ……だって今、伯言と話してるんだもん」
周泰「だったら私につっこみを入れさせんな!」
周泰は声を張り上げる。
陸遜「私に務まるか分かりませんがお姉様がそこまで仰るなら少し考え……」
呂蒙「よくぞ決意してくれた伯言!」
陸遜がちゃんと返事をする前に呂蒙は話を進める。
陸遜「えっ! いやだから少し考えてから……」
呂蒙「よーし! これで曹操軍と戦えるぞ! 嬉しいなー周泰!」
呂蒙は周泰を巻き込み陸遜に最後まで喋らせない。
周泰「お前にはついていけん……陸遜、お前も大変だな」
陸遜「お気遣いありがとうございます周泰さん。でも慣れてますから……」
呂蒙「伯言。必要な物はこちらで用意するから直ぐに出発しよう」
陸遜「流石にそれはちょっと待って下さい! せめて兵法書だけでも!」
呂蒙「もうしょうがないなぁ」
周泰「少しくらに待ってやれよ」
陸遜は支度を整え呉の本拠地である建業に向かう。
周泰「ところで陸遜はどこで呂蒙と知り合ったんだ?」
道中、周泰は二人の出会いを訪ねた。
陸遜「寿春でお会いしました。学問を勉強する為に買い物をしている時に」
周泰「買い物をしている時に? それだけで仲良くなったのか?」
陸遜「お姉様は当時、今は亡き袁術の……」
呂蒙「伯言そこまで!」
陸遜「あっはい……」
呂蒙は陸遜が話すの止める。
周泰「なんだよ! もったいつけんなって!」
呂蒙「ここから先は私が話すよ。伯言が買い物をしている時にぼったくられそうになったから私がそこの店主を締め上げたのがきっかけだ」
周泰「本当に? 色々端折ってないか?」
呂蒙「いや、これが全てさ。そこで一緒に食事をして仲良くなり、私は伯言の勤勉さに関心してね」
周泰「ふーん」
周泰は半信半疑である。
陸遜「私は一人っ子で姉がいればと思っていたところでした」
呂蒙「そう。そして私も妹がいればと思っていた。そこから義理の姉妹のような関係になったんだ」
周泰「とんだ姉をもっちまったな陸遜」
陸遜「素敵なお姉様です。退屈しませんでしたし」
周泰「退屈しないか……そりゃこんな姉を持ったらしないわな」
呂蒙「あれれぇ? もしかして周泰も私の妹になりたくなったかな?」
周泰「周瑜様みたいな姉ならともかく呂蒙じゃなぁ……」
呂蒙「周瑜様か……そりゃ無理だね」
陸遜「お姉様だってちゃんとすればとても綺麗ではないですか」
周泰「何!? 昔の呂蒙は今と違うのか!?」
呂蒙「伯言。昔のことは、なし」
陸遜「すみません……」
周泰「なんだよ! いいじゃんか! む・か・しは綺麗だったんだろ!?」
呂蒙「おい周泰。今の私はそんなにもみすぼらしいか?」
周泰「包帯だらけのくせに何言ってんだよ!」
呂蒙「しょうがないだろ怪我しちゃったんだからさ!」
陸遜「まぁまぁ二人とも……」
少し不安になる陸遜であった。
呂蒙達は呉の都市である建業から更に南の駐屯地に向かった。道中、陸遜は二人から呉の内情を聞き話が途切れることはなかった。




