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雷子  作者: 三幸
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街亭の戦い 下

街亭の戦い 下



 馬謖の命令違反に姜維は困惑しながらも街亭に兵を率い向かった。


姜維「馬謖君! 一体どうしたんだ!? 誰よりも兵法を愛する君が何故!?」


 姜維の前から軍が向かってくる。


姜維「あれは……!」


 孟獲が手を振りながら向かってくるのが分かった。 


孟獲「よう! 姜維じゃねーか! 何だ? 忘れもんでもしたんか?」


姜維「孟獲さん! 何故こんな場所に!?」


孟獲「あっし等は同盟を結んだんだ。助っ人よ助っ人!」


姜維「あっ……ありがとうございます!」


 苦境に立たされた状況下で姜維は孟獲の登場を喜んだ。孟獲は南蛮の兵を率いており少数で街亭に向かわなければいけない姜維は感謝してもしきれない想いが込みあがった。


孟獲「その顔を見るからに……やべーのか?」


 姜維は頷き。街亭の状況を孟獲に伝えた。


孟獲「馬謖が……調子のいい奴だとは思ってたがそんなことになってるとはな」


姜維「僕も信じられない思いです」


孟獲「あっしがいるんだ。直ぐに街亭に向かおうや」


姜維「はい!」


 姜維は孟獲と共に急ぎ街亭に向かう。






 街亭では激戦が行われていた。


馬謖「馬超殿に急ぎ合流しろ! 退路を無くすことになる!」


 馬謖は主軍を馬超の部隊に合流させようとした。馬超が街亭の要であることは敵味方誰もが分かっていた。山頂を捨てることで魏軍は一斉に山を駆け上がり逃げ腰の蜀軍は防ぐこともままならい状況だった。山頂への経路の一つを塞ぐ魏軍を馬超が粉砕したことにより僅かな光が差した。馬超は迫りくる魏軍から挟撃を受けその場を死守する為に留まった。騎馬の優位を活かせない馬超の率いる騎馬隊は数を減らしていく。


馬謖「馬超殿!」


 馬謖は馬超とどうにか合流する。


馬超「馬謖! 無事だったか!」


馬謖「申し訳ありません! この大失態は私の責任です!」


 何とか血路を開き馬謖は馬超と合流し頭を下げる。


馬超「説教は後にさせてもらう! 馬謖! 左を任せる俺は右に行く二人で出来るだけ退路を大きくするんだ!」


馬謖「はい! 分かりました!」


 馬謖は剣を抜く。


馬超「馬謖! せっかくなんだ……楽しめよ」


馬謖「えっ……あっはい……」


 馬謖は馬超の言った意味が理解出来なかったが馬超の一声で緊張が解けた。馬謖は兵を率い魏軍に突撃する。早く退路を広げなければ取り残された山頂の主軍の全滅は免れない。馬謖は奮闘する。






姜維「孟獲さん! あそこに馬謖君が!」


孟獲「あそこ? あそこってどこだ!? えっ? めっちゃやべーとこにいるじゃねーかよ! あいつ大将だろ何で先陣で戦ってんの!?」


 姜維と孟獲が見た光景は厳しいものだった。遠目だから分かる危険な状況だ。の蜀軍の多くは既に山頂から下山途中であり違う経路から山頂に登り詰めた魏軍に背後を取られいた。麓は既に魏軍に方位され怒涛の如く魏軍が押し寄せ蜀軍は完全に包囲されいた。二人は兵を率い馬謖の元に向かう。魏軍は姜維と孟獲の急襲から撃破することは難しくなかった。


姜維「馬謖君!」


馬謖「姜維! それに孟獲殿!」


孟獲「馬謖! あっし等が来たからには安心だ! こっからはひっくり返すなんて無理だ! 直ぐに退け!」


馬謖「それは出来ない!」


姜維「何を言っているんですか! 早く!」


 姜維は馬謖を引っ張る。


馬謖「止めろ姜維! お願いだから止めてくれ! 馬超殿が! 馬超殿が戦場に取り残されているんだ!」


 馬謖は必死に抵抗する。


孟獲「姜維! そのまま馬謖を連れていけ! 後はあっし等、南蛮に任せろ!」


 孟獲の言葉に姜維は馬謖を引っ張って行く。孟獲は少しずつ下がりながら魏軍の攻撃を受ける。


孟獲「これが魏軍かよ。よく訓練されてるじゃねーか……」


 孟獲はあまり長く留まることは出来ないことを悟る。


司馬懿「孟獲殿とお見受けします」


 司馬懿が孟獲に声を掛ける。


孟獲「ああん? あっしは魏に知り合いなんぞいねーぞ?」


司馬懿「何度か使者をお送りさせて頂きました。私の名は司馬懿。この場にいるということは蜀に組した様子。いかがですか? 勝敗が明確な愚鈍な蜀などより魏と共に歩むのは?」


 司馬懿は孟獲に帰順する様に促す。


孟獲「なるほどな。あんたの方に付く方が利口かも知れんな」


司馬懿「ええ。その通りです。南蛮は魏の勢力下の元、繁栄の一途を辿るでしょう」


孟獲「魏の勢力下ねぇ……」


司馬懿「そうです! 魏の恩恵を受けながら平和な……」


孟獲「断るわ」


 司馬懿の話途中に孟獲は断りを入れる。


司馬懿「なっ何故です! 我らに付く利を理解しながらなぜ!」


孟獲「知りたいか司馬懿?」


司馬懿「何の考えがあってでしょう。是非。教えて頂きたいですね。まさか蜀の勝利を信じているとかではないでしょうね?」


孟獲「いんや。お前がしょんべん臭いから」


司馬懿「何ですって……私がしょんべん臭い……!」


 司馬懿は怒りを抑えながらもその声は怒りに震えていた。


孟獲「いやぁ、お前みたいなしょんべん臭い女とは共に歩めんな」


司馬懿「そうですか……残念です孟獲。品の欠片もないあなたと南蛮は魏の奴隷として扱って差し上げましょう」


孟獲「それが本音だろ? しょんべん女」


司馬懿「しょっしょんべん女……! 孟獲、あなたは私を本気で怒らせましたね!」


孟獲「はははは! しょんべん女が怒ったぞ! 逃げるぞ!」


 孟獲の声で南蛮軍は一斉に退却する。


司馬懿「ここまでする必要はないかと思っていましたが。私を愚弄した罰です」


 司馬懿は手を挙げ合図を送る。山頂の魏軍が下山した蜀軍に逆落としを開始した。


馬謖が準備していた逆落としの為の巨石や大木が蜀軍に落とされ魏軍は一斉に山を下る。逆落としは馬超の部隊にも襲いかかり蜀軍は多くの犠牲を出した。街亭の戦いは幕を閉じ魏軍は街亭に陣を轢き堅牢な守りで固める。


 






 北伐を目指した蜀軍は一転し撤退をするが張コウの追撃を食らうことになり逃げに逃げ何とか追撃を振り切ることに成功した。


諸葛亮「ここまで来ればもう大丈夫でしょう。やはり名将・張コウ。討って出て来ましたね。追撃でかなりの被害が出ましたが全滅は免れました」


 孔明達は撤退を余儀なくされ魏軍の追撃から逃れたことに安堵の息をつく。


趙雲「急ぎ兵達の手当をしなければなりませんが、自分は魏軍の追ってを警戒し陣営の守りに就きます」


諸葛亮「お願いします」


姜維「先生。只今、戻りました」


 姜維が街亭から帰還し天幕に入る。


諸葛亮「姜維お帰りなさい。馬謖も一緒ですね」


姜維「はい」


馬謖「先生! 申し訳ございません! 勝ちに逸り先生の指示に背きました!」


 馬謖は孔明に膝まづく。


諸葛亮「馬謖。今なら亡き劉備様の言うことが分かります……馬謖は私の命令に背きましたが、それ以前に私が劉備様の命に背いたのです」


馬謖「劉備様が私のことを良く思っていなかったことは知っています。おそらく私のことを分かっていたのですね……」


諸葛亮「はい。あなたの責任の前にまずは馬謖を任命した私の責任を問わなければなりません」


馬謖「先生は何も悪くありません! 先生は私のことをかって下さいました!」


 馬謖の言葉が孔明を絞め付ける。


馬岱「失礼します……兄貴が魏軍に捕えられ処刑されました……それと将兵達からも仲間を失ったことに不満の声が続出しています……」


 馬岱が現状を報告する。


姜維「馬超さんが!」


馬謖「私の責任だ……私の……」


馬岱「魏軍の大軍の中に……一人で……うっ……仲間を逃がそうと……残って……馬謖……お前が孔明軍師の言う通りにしていれば! 兄貴は死なずに済んだんだ!」


 馬岱は馬謖を責める。


馬謖「すまない馬岱……私が馬超殿を殺した様なものだ……本当にすまない……」


 馬謖は馬岱の目を見ることが出来ない。地面を見ながら詫びる。


諸葛亮「馬岱そこまでです。馬謖……生きていれば汚名も返上出来ます。軍師であれば敗れてもまた勝てば良いのです。心を強く持ちなさい。それもまた軍師には必要なことです……」


姜維「そうだよ馬謖君! 先生もそう言ってくれているんだし!」


馬岱「姜維殿……なんだよそれ……孔明軍師がそう言えば許されるのかよ!」


姜維「そんな……つもりは……」


 馬岱の言葉が姜維に刺さる。


馬謖「姜維……私は姜維が羨ましかった……私は姜維の強さの本質を理解していなかった……姜維と共に成長しなければいけない私はいつの間にか姜維よりも自分が上だということを証明しようと固執していた」


姜維「馬謖君……」


馬謖「先生! お願いです! 私に処罰を! 軍規違反は重罪です! ここで私を罰しなければ今後の軍規に乱れが生じます!」


姜維「待って馬謖君! そんな風に早まってはいけないよ! 僕だって関羽さんや張飛を守ることが出来なかった! だけど今こうして生きているのは君やみんながいたから今があるんじゃないか!」


馬謖「姜維……結果が全てではないんだ……男は時として結果よりも過程を重んじなければならないんだ」


姜維「!!」


 姜維は馬謖が一体何を伝えたいか分かった。姜維は口を閉ざす。


馬岱「姜維殿……将兵達は馬謖に処罰が下れねば軍を抜ける者がいるだろう」


姜維「そんな! 誰だって過ちを犯すじゃないか!」


馬岱「それが利己的なものだからだよ! それくらい分かるだろ! 今までとは理由が違うんだよ!」


姜維「ぐっ……」


 馬岱の言わんとすること自分の言っていることが甘いことに姜維は言葉を詰まらせる。


諸葛亮「馬謖……。軍規違反として処罰します」


馬謖「はい……謹んで受け入れます……」


姜維「先生! 馬謖君の知はこれからの蜀に必ず必要だと考えます!」


 姜維は必死に孔明を説得する。


諸葛亮「姜維。将兵の命と馬謖の命の重さに違いはありますか。馬謖の軍規違反で多くの将兵が亡くなりました」


姜維「仰っていることは分かります! しかし!」


諸葛亮「そう、『しかし』なのです。ここで処罰をしなければ蜀の軍規は乱れます。軍師は命の尊さを理解し敗れれば己を罰する覚悟も必要なのです」


馬謖「姜維……先生の言う通りだ。私の自己顕示欲により馬超殿、そして多くの将兵が死んだ事実は変わらない。逝かしてくれ……」


姜維「そんな……仕方がない……ことなのか……!」


 姜維の拳に力が入る。


馬謖「姜維の気持ちには感謝する……先生! 今までありがとうございました。馬岱……馬超殿のことはすまなかった……」


馬岱「……」

 馬岱は何も答えない。


諸葛亮「馬謖を処刑台へ」


蜀軍兵士「はっ」


 馬謖は天幕から出て行った。


諸葛亮「少し一人にさせて下さい」

 孔明の言葉に馬岱と姜維も天幕を出る。





姜維「馬岱さん。軍師……僕は軍師と言うものを勘違いしていた。それを馬謖君が教えてくれた。馬謖君の分まで僕は強くなるよ……」


馬岱「姜維殿……」

 馬岱は立ち止まる。


姜維「どうかした?」


馬岱「俺……最低だ……」


姜維「え……」


馬岱「張飛殿が亡くなった時、黄忠さんと魏延が姜維殿の責任だって……俺はその時二人に言ったんだ……責任なんて誰も取れないって……」


姜維「そんなことが……」


馬岱「俺……なのに兄貴が死んで馬謖が責任を取るのが当然のように……」


姜維「馬岱さん! 今からでもやっぱり止めよう! 先生には僕が話すから!」


馬岱「ああ! 将兵には俺からも話してみる!」


 姜維と馬岱は急いで処刑場所に向かう。


蜀軍兵士「姜維様、馬岱様どうかしましたか? 大罪人馬謖なら先ほど刑を執行したところです」


 「!!」

 姜維と馬岱は衝撃を受ける。


 兵の奥には首から下の馬謖の身体が横たわる。


姜維「ああっ……馬謖君……馬謖君!!」


馬岱「馬謖! ごめん! 俺が……俺が間違っていたんだよ!」


 姜維と馬岱は嘆いた。


蜀軍兵士「首は孔明軍師の元に届けました。しかし馬謖のせいで家族を失った者もこれで溜飲が下がりますな」


 「……」

 意気揚々と話す兵の言葉に姜維と馬岱は口を閉ざす。





 孔明の元には馬謖の首が運びこまれていた。


諸葛亮「まったく……綺麗な顔だこと……」


 届けれた馬謖の顔を見る。


諸葛亮「あなたの死は将兵に厳格な規律をもたらし、今まで以上の強さを発揮するでしょう。ですが……あなたはそれを望んでいたのですか? あなたの役割はこんなことではなかったはず」

 孔明は馬謖の首に語りかける。


諸葛亮「後悔はしない……決めていたはずなのに……自分の下した決断を悔やますにいられない! 馬謖! うああああああぁああ! ごめんなさい! あなたを死に追いやったの私です!」


 孔明は天幕で一人泣いた。その泣き声は将兵達にも聞こえ、けじめを付けた馬謖を大罪人と呼ぶ者はいなくなった。



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