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雷子  作者: 三幸
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街亭の戦い 上

街亭の戦い 上

 



 夷陵の大敗を南蛮との同盟により兵力を補充することに成功した。


 魏は曹操の喪に未だ服し呉もまた対、魏へのけん制の為、国力回復に専念しようとしていた。



 孔明は成都に到着し南蛮との同盟を劉備に知らせに向かった。


諸葛亮「劉備様。南蛮と同盟を結ぶことが出来ました。これで後方の憂いが無くなり魏に対し北伐が可能になりました」


劉備「孔明……お帰りなさい。南蛮との同盟おめでとう。ここで孔明の帰りをずっと待っていました」


 劉備は床に伏せ顔色は青白い。


諸葛亮「劉備様……まさか……お身体の具合が……」


劉備「最期に間にあってくれて良かった……」


諸葛亮「その様に弱気になられては……」


 孔明は悟った。劉備の命は間もなく尽きると。


劉備「孔明。私は幸せでした。雲ちゃん、飛ちゃんがいてくれて……あなたに出会うことが出来て……とても幸せでした」

 劉備は伏せたまま天井を見る。


諸葛亮「劉備様……」


 孔明は劉備の手をとる。


劉備「私一人ではどうにもならないことも皆がいてくれて……皆……私の宝物です……孔明、後のことを頼みます。私がいなくなってもどうか私の志を引き継いで下さい……」


諸葛亮「分かりました。劉備様の志は私が引継ぎます……私は劉備様にお仕え出来て……幸せでした。私は劉備様だからこそお仕えしたのです。劉備様にお仕えする為に私は時代に選ばれたのです」

 孔明の言葉に劉備は精一杯の笑顔を作る。


諸葛亮「劉備様の志を後世へと繋ぐべく、国号を蜀とすることをお許し下さい」


劉備「分かりました。孔明……ありがとう………………」


 劉備は孔明に礼を言いそのまま息を引き取った。


諸葛亮「劉備様の志は必ず私が後世へと引き継ぎます」


 孔明は返事をすることのない劉備に語りかけた。涙は出ない。自分が託されたことは大きく、泣いている場合ではないと自分に言い聞かせた。







諸葛亮「皆、揃っていますね」

 孔明は辺りを見渡す。


姜維「劉備さんの容態はいかがでしょうか」


諸葛亮「先程、我らが君主・劉備様が旅立たれました」


姜維「劉備さん……」


趙雲「いずれは来ることであったが……あまりにも早い……」


馬超「どこまでも優しいお方だった……」


魏延「大好きな方がまた一人……」


馬岱「……」


馬謖「これからだと言うのに……なんてことだ……」


 それぞれ心中を口にする。


諸葛亮「これからのことは私に託されました。劉備様の志は私が引き継ぎます。そして皆にも引き継いで欲しいのです」


趙雲「勿論です! 自分が劉備様にお仕えしていたのは劉備様の志に感銘を受けていたからです!」


馬超「孔明殿、愚問です。俺は劉備様に拾われた身、その志の為にこの命を捧げましょう」


姜維「僕も最後一人になっても戦い抜きます!」


諸葛亮「皆、ありがとう。今後、我ら劉備軍は国号を蜀とし蜀軍として戦います」


趙雲「蜀……分かりました。これからいかが致しましょう? 喪に服しますか?」


諸葛亮「いえ。劉備様がいなくなっても、私たちの中に劉備様の志が生きている以上、喪には服しません。すぐに北伐を開始します」


馬超「北伐! 魏と戦うのですね!」


諸葛亮「はい。魏が侵攻して来る前にこちらから侵攻します。劉備様が死んだことは早々に伝わるでしょう。そうすれば喪に服すと考える筈。その隙を突き、一気に北伐を開始します」


姜維「直ちに軍容を整えます!」


 劉備の死を口には出さなかったものの誰もが予期していた。それが功を奏したと言えるかは分からないが北伐に反対する者はいなかった。

 

 それぞれが北伐の為の準備に取り掛かる。魏は呉と激戦を繰り広げ大きく国力を失っていた。それでも圧倒的な国土は持つ魏は蜀の全軍の数倍の兵力を持っていた。





 北伐の準備をしている趙雲の元に孔明は向かった。


諸葛亮「趙雲殿」


趙雲「孔明軍師……」


諸葛亮「古参の仲間はあなただけとなってしまいましたね」


趙雲「ええ……」


諸葛亮「劉備様が亡くなり頼るべき心は無形の信念のみとなりました」


趙雲「自分はその信念一つで戦える単純な者です。孔明軍師も同じでは?」


諸葛亮「その通りです……私は劉備様と共に歩むことで自分の価値を見出していました……ですが今は……」


趙雲「自分達と肩を並べ戦う仲間のことが支えになっていると同時に重く圧し掛かる……姜維や馬謖のことが気がかりなのですね」


諸葛亮「ええ……軍事面での筆頭は趙雲殿です。私達は簡単に死ぬことは許されません」


趙雲「そう思うのであればご自分の身体を労わってはいかがですか? そんな身体では持ちませんぞ」


諸葛亮「!」


趙雲「気付かないと思っていたのですか?」


諸葛亮「一体いつから……」


趙雲「呉の討伐時に自分を益州に残した時に気付きました。あの時から既にらしくない采配だと思っておりました」


諸葛亮「趙雲殿には隠し事は出来ませんね。もう前線に立ち指揮を執る力は私にはありません」


趙雲「まさか……それ程とは……」


諸葛亮「幸い姜維や馬謖が居てくれて本当に助かっています。ですが同時に私にとって、とても大事な弟子達です。あの二人が居ればいずれくる運命に準じることが出来る……」


趙雲「孔明軍師……」


 趙雲は初めて聞く孔明の弱音を聞いた。


諸葛亮「私の病は内密にして下さい。それと一つお願いがあります」


趙雲「何なりと」


諸葛亮「魏の司馬懿だけは刺し違えてでも倒したいのです。姜維と馬謖では司馬懿を相手にするにはあまりにも酷です」


趙雲「分かりました。ですが自分は仲間の命を優先して戦います。司馬懿の首は機会があればとだけ言っておきます」


諸葛亮「それで結構です。趙雲殿」


趙雲「お互い、簡単に死ねない立場ですが命を散らす覚悟が出来ているなんて可笑しい話だ」


諸葛亮「ふふふ……本当に……」






 蜀軍は喪に服さず一気に北上した。目指すは魏の占領下である中華の大都市『長安』である。長安を占拠すれば事実上中華内部の足がかりを手にすることが出来る。その恩恵は徴兵、農、人材登用を含め計り知れない。当然、魏も長安を死守することは必至だ。

 


 蜀軍は漢中を北上し魏の領土に足を踏み入れていた。


姜維「先生! かなり北まで軍を進めましたね。魏も気付いていないでしょう」


諸葛亮「ここまでは順調です。しかし、ここから先はどう動いても必ず見つかります。そこで軍を二つに分けます」


 蜀軍は漢中の北部まで軍を進めていた。


姜維「軍を二つにですか」


諸葛亮「途中にある街亭で防衛線を張ります。長い補給線を確保する為には要所の安全確保が要になります」


馬謖「確かに……街亭はまさにこの北伐の急所となりそうだ……当然。魏軍も街亭を押さえにかかるだろう」


 街亭は長い補給線を支える要所であるがその場所は侵攻する経路とは別の経路の分岐点もある。


諸葛亮「補給線が崩れれば我らの敗走は必至。魏の挟撃を許すことになります。この要所の安全の確保を姜維と馬超殿の二人でして下さい」


姜維「分かりました。この重役、必ずや全う致します」


馬謖「先生。その役目、私にお任せ下さい」


諸葛亮「馬謖……あなたはまだ経験が浅い。今回は臨機応変に対応できる姜維に任せたいのですが……」


馬謖「先生。確かに姜維は実践経験では私より上です。しかし兵法の基礎を学んだ私が姜維に劣るとは思いません」


諸葛亮「成程……分かりました。では馬謖に任せましょう。成すべきことは唯一つ。敵の進軍を止めるのみです。魏軍の進路を塞ぐよう陣を構え攻撃は一切行わず防御に徹するのです」


馬謖「分かりました! 必ずご期待に応えます!」


 孔明に任されたことに馬謖は嬉しそうに応える。


馬謖「姜維。すまないな」


姜維「馬謖君なら大丈夫だって分かってるよ。どうかご武運を」


馬謖「嬉しいことを言ってくれるな。次に会う時は長安で乾杯だ」


姜維「うん!」


 姜維は共に同じ師を持つ馬謖を見送った。


 

 蜀軍は漢中をそのまま北上する経路とその経路の途中にある街亭を守る二手に分かれた。だがこの時、既に魏の司馬懿が精鋭を率い街亭に向かっていた。



 蜀軍は魏の防衛戦を次々と突破し長安を目指し馬謖もまた馬超と共に街亭に到着していた。






馬謖「私が防衛線の大将か……これで姜維より私の方が軍師として上だと証明できる!」


 街亭の地に立ち馬謖は自分が大将を任されたことに酔っていた。


馬謖「この街亭……確かに道を塞いで陣を張ればそう簡単に敗れないであろう。流石は先生だ。しかし、私は違う。普通の軍師との違いを見せてやる。あの山の上に布陣すれば逆落としが出来るではないか!」


蜀軍兵士「馬謖様! 魏軍が迫っております!」


馬謖「はははは! 飛んで火に入る夏の虫とはこのことか! 全軍を山頂に移し逆落としの準備に入れ!」


 馬謖は全軍に命令を出す。






 馬謖の行動が馬超の元に知らされる。


蜀軍兵士「馬超様。馬謖様の命令で山頂に陣を移すとのことです」


馬超「陣を山頂に? 防衛に徹するのではないのか?」


蜀軍兵士「私たちもその様に聞いておりましたが……」


馬超「その命令は聞けないな。俺は作戦通り道を塞ぐ。その旨を馬謖に伝えてくれ」


蜀軍兵士「はっ!」


馬超「馬謖の奴。一体、どうしたんだ……」






 蜀軍が山頂に陣を敷き終わるころ魏軍が到着した。


馬謖「来たか。我が名声を広める為にご苦労なことだ」


 馬謖は魏軍を山頂から見下ろす。





 街亭を目の前にして魏軍は立ち止まる。


司馬懿「ふふ。いざ見るまで信じられませんでしたが本当に山頂に布陣している」

 司馬懿の口元が緩む。


徐晃「司馬懿。蜀軍の連中……結構多いわよ。大丈夫?」


満寵「簡単には通らせてくれないはね」


 徐晃と満寵の顔は暗い。


司馬懿「あの馬謖とは古の愚将『趙括』の再来です。街亭程の要所を任されておりながら作戦の本質を全く理解していない。守ることに徹すれば難攻不落の地をわざわざ利を捨て最も効力の薄い攻撃態勢に入る。まさに愚の中の愚」


徐晃「そうなの? 敵の方が有利じゃない? 高い所にいるんだし」


司馬懿「街亭で山頂に布陣することは即ち陸の孤島に居座るも同じです。それは山頂までの経路が幾つもあることが要因です。山の麓を押さえた時、馬謖は一体何処を攻撃するのでしょうかね? 攻めることで後ろを完全に取られるのですから動けなくなるでしょう」


満寵「そういうことね。じゃあ私たちは広く山の麓に展開すればよいということね」


司馬懿「そういうことです。道を馬超が塞いでいますので徐晃殿は馬超を警戒してくれれば結構です。動かなければそれで結構。馬謖を討った後に全軍で料理します。もし馬謖を救出するような動きがあれば直ぐに馬超のいる道をこちらで塞いで下さい」


徐晃「分かったわ!」


 魏軍は司馬懿の指示の元、山の麓に展開する。





馬謖「これは……!」


 馬謖は自分が犯した過ちに気付く。敵を逆落としにて殲滅するにも広く薄い魏の構えに逆落としの効果は期待出来ない。仮に逆落としを慣行したとしても敵のど真ん中に取り残される事態となるのは明白だった。






蜀軍兵士「馬超様! 馬謖様が山頂にて孤立しております!」


馬超「ああ知っている。最悪の事態だな」


 馬超は悩んでいた。このまま道を塞ぐかそれとも馬謖の救出に向かうか。


馬超「はぁ……思ったより早かったな……」


 馬超はここが死に場所であることを知る。


馬超「これより馬謖の救出に向かう!」


 ほとんどの兵を馬謖が率いていることが馬超が馬謖の救出に向かうことを決断させた。自分だけでは魏の侵攻は止めれないと分かったからだ。


 馬超は山の麓にいる魏軍へ突撃した。







 その頃、蜀軍は街亭より北の魏の要塞で足止めを食うことになっていた。


諸葛亮「城の大将は張コウですが……完全に籠城する様ですね。想定の範囲内です」


 孔明達は長安の進路に避けて通れない場所に進んでいた。


姜維「先生、街亭の馬超さんから伝令が来ています」


諸葛亮「馬超殿から? 馬謖ではなく?」


 孔明は何か嫌な予感がした。


蜀軍兵士「馬超殿より報告します! 街亭に魏軍が侵攻して来ました!」


諸葛亮「はい。想定の範囲です。それだけの為に報告を? 本来は馬謖から報告がある筈では?」


蜀軍兵士「それが……馬謖軍師は街亭の山頂に布陣! 山の麓を魏軍に抑えられ補給線を断たれました!」


姜維「そんな! 先生があれ程、魏軍の進路に布陣しろと伝えたのに! 今、馬超さんは!」


蜀軍兵士「司馬懿率いる大軍の猛攻を僅かな手勢で防いでいますが、そう長くもたないかと……」


馬岱「兄貴が……」


魏延「馬岱さん! しっかりして下さい!」


 よろめく馬岱を魏延が支える。


馬岱「あっあぁ……魏延殿。大丈夫だよ……兄貴は強いから……」


趙雲「馬超は自分が認める男だ」


 趙雲は馬超の安否を心配する。


諸葛亮「人選を誤りました。撤退します。姜維は先に少数精鋭を率いて街亭の援軍に向かって下さい。私は急ぎ撤退の準備をします」


 孔明は怒りを抑えどこか冷やかな口調で話す。


姜維「分かりました! 先生、撤退すると張コウが討って出て来る可能性があります。どうかお気を付けて!」


諸葛亮「ありがとう。姜維、あなたにはいつも危険な役目を……」


姜維「そんなこと気にしないで下さい! 行って来ます!」


 姜維は街亭に向かった。


諸葛亮「これより撤退戦に移ります。間違いなく司馬懿と敵将張コウは連携をとっています。趙雲殿、魏延、馬岱、苦しい戦いになりますがお願いします」


 皆が頷く。誰もが何とかしなければならない状況を理解した。

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