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雷子  作者: 三幸
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南蛮王 孟獲 下

南蛮王 孟獲 下



 森の中に陣を構える劉備軍は簡単な柵を作り兵達は日陰で熱さを凌ぐ。見通しの悪い森の中では誰が何をやっているかいまいち分からない。



馬超「子龍。みんなを見なかったか?」


趙雲「いや、見ていない。自分は今、孔明軍師から休息するよう言われたばかりだ」


馬超「いったい何所に行ったんだろう……」


趙雲「うむ。この暑さだ。休むことが一番大事だと思ったのかも知れん。みんなそれぞれ休んでいるのか……」


 劉備軍の陣には趙雲と馬超の部隊だけが残されていた。


 


孟獲「おい! 何であいつらはあそこから進まねーんだ! あそこは戦い難いんだぞ!」


 劉備軍が進まないことに孟獲は苛立っていた。


南蛮兵「わからないっす! 糞でもしてんじゃにっすか?」


孟獲「糞か……それならしょうがねーな……あっしでもそれなら止まるはな……」

 孟獲は納得した。


南蛮兵「大王。さっき猛攻がどうかって言ってたじゃないっすか、行かないんですか?」


孟獲「馬鹿野郎! 糞してる時に襲ったら可哀想だろ! お前は人の心をなんだと思ってやがるんだ! 糞くらいゆっくりとさせてやろうじゃねーか……それが人情ってもんよ」

 

 孟獲は人情に厚い男だ。


南蛮兵「えー。それは今知ったことであって……」


孟獲「へっ……あいつ等の糞でここの木々が育つって考えれば……複雑な気持ちだぜ」


南蛮兵「だったらでっかい糞をしてもらいたいっすね!」


孟獲「おうよ!」


 孟獲は劉備軍にどこか寛容なようだ。





 寛容な南蛮軍を他所に孔明は南蛮攻略の準備を進めていた。


姜維「先生。全員の配置が終わりました」


諸葛亮「結構です。馬超殿と趙雲殿は陣の守りに徹して頂きます。まぁ言わなくてもやってくれるので放っておきましょう」


姜維「分かりました。後は作戦通りに進めばよいのですね」


諸葛亮「ええ。兎に角、最後の舞台が大事ですので頼みます」


姜維「僕も出来るだけ早く駆けつけます」


 姜維達は南蛮の奥深くに進む。





 南蛮軍は全く動きを見せない劉備軍に我慢の限界を迎えていた。


孟獲「おい! 劉備軍の連中はまだ終わらねーのか!」


南蛮兵「長い糞っすね」


孟獲「あっしにも限度ってのがあるぜ! 糞ってのは一気に捻り出すから気持ちいいんだろ! あいつら何も分かってねー!」


南蛮兵「ほんとっすよ! 分かってねーす!」


孟獲「あっ……いいこと思いついたぜ! あっしらが襲えばあいつら驚いて一気に捻り出すんじゃねーか!?」


南蛮兵「大王様! 天才じゃないっすか!?」


孟獲「ははははは! そうと決まればとっとと糞して帰ってもらおうか!」


 こうして南蛮軍が劉備軍の陣に突撃する。




劉備軍兵士「趙雲様! 馬超様! 南蛮軍の奇襲です!」


馬超「十分過ぎる休息をもらった。子龍、行こう」


趙雲「うむ。仕事をせねば身体が鈍る」


 馬超と趙雲は南蛮の奇襲に備える。


 南蛮の兵が劉備軍の陣に突進してくる。


趙雲「何だあれは。基本がなっていないな」


 ただ単に突進してくる趙雲は統率の取れていない南蛮軍に呆れた。趙雲の率いる騎馬隊は南蛮の兵を個々に撃退する。軍は集を以って初めて威力を発揮されるが南蛮軍はただ奇声を上げ向かってくるだけで趙雲と馬超の部隊に散々蹴散らせた。


孟獲「おお!? 何だあいつら強いぞ!」


 孟獲は驚いた。南蛮では無敵を誇る南蛮の突撃が通用しないからだ。


孟獲「仕方がねー! あっしが行くぜ!」


 孟獲は趙雲と馬超に向かっていく。


孟獲「おうおう! 中々やるじゃねーか! 今度はあっしが相手だ!」


 孟獲が馬超と趙雲に襲い掛かる。


馬超「少しはやりそうな奴が出てきたな。子龍、あれは俺がもらうぞ」


 馬超が孟獲に向かう。


孟獲「はははは! あっしの渾身の一撃で捻り出させてやらあ!」


 孟獲が大きく振りかぶる。


馬超「大降り過ぎる!」


 馬超の一閃が孟獲に当たる。


孟獲「んが!」


 孟獲は馬超の一撃に倒れる。


孟獲「ぐおぁあああああ!」


 孟獲は大袈裟に地面を転がる。


馬超「おい。峰打ちだ。大大袈裟過ぎる」


孟獲「えっ……あれ?」


馬超「見たところ南蛮の将のようだが……」


孟獲「あっしが将だと!? あっしは大王だ!」


馬超「大王? ではお前が孟獲か」


孟獲「ほう……あっしのことを知ってるということは、あっしの強さがどこまでも広まっているということか」


馬超「がっかりだ」


孟獲「何が」


馬超「これが勇猛な孟獲かと思えば……弱すぎてがっかりだと言ったんだ」


孟獲「この野郎……二人がかりの癖に何てやろうだ……腐ってやがる!」


馬超「今のは一対一だったろう」


孟獲「いいや! あっしはあっちの男と戦いたかったのにお前が急に襲って来たんだ!」


 孟獲は趙雲を指さす。


馬超「なら子龍とやってみるがいい」


孟獲「おう! あいつをボコッた後に相手にしてやる!」


 孟獲が趙雲に向かって行く。


 馬超は孟獲と趙雲の戦いを見守る。数秒で決着がついた。孟獲はまたも大袈裟に転がる。


馬超「まぁ……当然だわな……」


趙雲「孟獲。自分達はお前と無益な戦いをしに来たわけではない」


孟獲「やかましい! 二人がかりでしか戦わない連中の言うことなんざ信用するか!」


馬超「なぁ子龍。もう殺してもいいんじゃないか?」


趙雲「自分もそう思うが勝手な真似は出来ん。逃がしても害はないから逃がすか」


馬超「だとさ。孟獲、行っていいぞ」


孟獲「ははははは! やはりこの大王様にびびってんな! 後から必ず捻り出させてやるからな! 覚えとけよ!」


 孟獲は全力で逃げた。


馬超「捻り出す? 何言ってんだあいつ……」


趙雲「放っておけ。後で孔明軍師に報告すればいいだけだ」


 馬超と趙雲は孟獲が逃げ去るのを眺める。





 孟獲は全速力で逃げた。

 

孟獲「なんて卑怯な連中だ! 中華の連中は信用ならねーぜ!」


南蛮兵「大王! 大変です! あっしらの拠点が!」


孟獲「何だ! 何があったんだ!」


南蛮兵「全て敵に占拠されました!」


孟獲「何だって! 一体どうやって! 守りはどうしたんだ!」


南蛮兵「大王がみんなを連れて行ったからいないっすよ」


孟獲「……」


孟獲「仕方がねー! 一個一個取り返しに行くぞ!」


南蛮兵「はい!」



 孟獲は兵を率い一番近い拠点に向かい奪還を心みるが魏延にボコボコにされ敗走した。


 孟獲は次の拠点なら奪還出来るはずと向かうが馬謖の伏兵にまたも敗走する。

 

 孟獲は今度こそはと次の拠点を目指すが姜維の火計によって熱い思いをし敗走した。


 孟獲はこれが最後だと思い最も劉備軍陣営から遠い場所の拠点に向かうが馬岱の騎馬隊に散々追い掛け回され逃げた。

 



 孟獲は最後の拠点に望みを託し疲れ切った兵を率いる。


孟獲「あいつらは悪魔だぜ……あっしらはこれからどこで糞すりゃいいんだ……」


南蛮兵「ほんとすっよ……」


 ちょっとおかしくなっている南蛮軍だった。


諸葛亮「孟獲殿とお見受けします。私は劉備軍の諸葛亮と申します」

 敗走する孟獲に孔明が呼び掛ける。


 孔明は孟獲を大軍で囲む。


孟獲「うっひょー! 金髪の美人さんじゃねーか!」


 敵に囲まれていることなど気にせず孟獲は孔明に夢中になる。


諸葛亮「お褒めの言葉ありがとうございます」


孟獲「まさか、お前さんもあっしとやろうってのかよ」


諸葛亮「はい。ですが手荒な真似はせず舌戦にて勝負したいと思います」


孟獲「舌戦だと……! 正気か……!」


諸葛亮「はい。いかがでしょうか?」


孟獲「はん! いいだろうやってやろうじゃねーか!」


諸葛亮「では孟獲殿からお題をどうぞ」


孟獲「ん? あっしが先行なんて男が廃るぜ! お前さんからでいいぜ!」


諸葛亮「ふふふ。流石は南蛮の王といったところですね。では私からいきます」


孟獲「よし! かかってこい諸葛亮!!」


 孟獲はそう言って衣服の腰紐を緩めた。






 任務を遂行した馬謖と姜維が走る。


姜維「馬謖君」


馬謖「姜維も来たか! 今頃、先生が孟獲と舌戦を繰り広げているはずだ!」


姜維「うん! 先生の舌戦を聞く機会なんてそうそうない! 急ごう!」


 姜維と馬謖は孔明の元に向かう……だが到着し目に飛び込んだ景色は想像と違うものだった。


孟獲「ひぃいいいいい! やめろやめてくれ!」


諸葛亮「死ね! 死んでしまえ!」


 孔明が孟獲をボコボコにしている。


姜維「一体どうしたんだ……舌戦は?」


馬謖「あんな先生は初めて見た……取り合えず同盟する相手だし止めるか」


姜維「先生! 一体どうしたんですか!?」


 姜維は孔明を羽交い締めにして止める。


諸葛亮「この男は! 何て不潔で卑しい人間ですか!」


孟獲「舌戦って言ったのはそっちだろう! それとも何か! あっしが先だったらよかったんか!? 舐めて欲しかったんなら先に言えよ!」


諸葛亮「殺す! 絶対に殺す!」

 孟獲の言葉に孔明は吼える。


孟獲「あっしを殺すのかー! 畜生! せめて死ぬ前に酒と肉と女だーー!」


馬謖「孟獲殿。私達は侵略者ではありません。南蛮と同盟を結びたいと思い参りました」


孟獲「へっ!? あっしを殺さない? 漢民族の嫌な奴らは、あっし等を野蛮と言い苛めて来たぞ! それに諸葛亮はあっしのことを殺すって!」


諸葛亮「殺されても文句がないことをしたのはあなたでしょう!」


 孔明の怒りは収まらない。


姜維「先生! 何があったのか分かりませんが! 落ち着いて下さい!」


馬謖「姜維! 先生を一度この場から離してくれ! 後は私がやる!」


姜維「頼んだよ! 馬謖君! 先生! 一度こちらに!」


 姜維は孔明を羽交い締めにしたまま連れていく。


馬謖「我らが君主・劉備様は偏見を持つ方ではありません。全ての民の為、平和な世を願い行動する方です」


孟獲「認めたくねーが……南蛮軍の大軍がこうもあっさり敗れたんだ……力の差はかなりのも  のだ。これで同盟を結んで南蛮の民が平和になるのであれば……」


馬謖「では、同盟を結んで頂けますか?」


孟獲「うーむ……分かった! そこまで言うなら仕方ねえ! ただし! 酒だけは頼むぞ!」


馬謖「これで後方の憂いは無くなった。劉備様もこれを機に少しは元気になってくれれば……」


孟獲「ということで……まずはあっしと一杯やろうや! はっはっはっは!」


馬謖「いいでしょう。喜んでお付き合いさせて頂きます」


 南蛮と劉備軍との同盟は結ばれ劉備軍は帰路に着く。南蛮の兵も加わり劉備軍は夷陵の大敗で失った戦力の補充が出来た。





馬謖「南蛮の戦いは私の進言で成ったのだ。やはり先生の後継者は私しかいない。姜維は益州から功を立てた。あと少しの功で私の方が上だと証明出来る……」


 成都に戻る道中、馬謖の中で何かが育とうとしていた。





諸葛亮「孟獲殿」


孟獲「諸葛亮じゃねーか。同盟は成ったんだ。もうシバくのはなしだぜ」


諸葛亮「先ほどのことを謝りに来ました」


孟獲「馬謖から聞いたよ。舌戦ってのは全く違う意味だったんだな」


諸葛亮「……」


孟獲「勘違いしたのはあっしだ気にするな」


諸葛亮「そう言っていただけるなら……ですが同盟を結ぶにはあまりにも早い決断……何か理由が……」


孟獲「勘がいいな……南蛮の連中はみんないい連中だ。あっしがあんた等と同盟したことは間違った判断なんかじゃねーってことを証明してくれればいいぜ」


諸葛亮「その言葉から推測するに魏から接触があったのですか?」


孟獲「おう。司馬懿って奴から使者が来た」


諸葛亮「魏としではなく司馬懿から……主の喪に服さずしての単独行動ですか。司馬懿からは何と?」


孟獲「魏の侵攻と同時にあんた等の背後を襲えとさ。まぁ返事は言わなくとも分かるだろう」


諸葛亮「何故、お断りされたのですか? 司馬懿であれば相応の報酬も約束してきたでしょう」


孟獲「簡単なことよ。危ねーんだよ……曹操の話はこんな辺境でも聞こえていた。どれ程の民が曹操の手によって苦しんだんだ? 劉璋だってそうよ……曹操に怯えてあんた等を頼りにしてた。劉璋とはそれなりに付き合いがあってよ」


諸葛亮「そうでしたか……孟獲殿からしてみれば私たちは益州を奪い獲った侵略者に見えたのではありませんか?」


孟獲「いんや。曹操が来るより遥かにマシだと思ったぜ」


諸葛亮「では劉備様のことも知っているのですね」


孟獲「当たり前よ」


諸葛亮「どうやら私は孟獲殿のことを過少評価していたようです」


孟獲「大王ってのはよ。知らない苦労が沢山あるのよ」


諸葛亮「そのようですね」


孟獲「まぁ。楽にいこうや。それとこれをやる」


 孟獲は孔明に皮袋を差し出した。


諸葛亮「これは……何でしょう? お茶の葉? いや違う……」


孟獲「南蛮の滋養強壮の為に摂取する薬草だ。南蛮の熱さで食欲を失くす貧弱な野郎の為のもんだが、あんたにやる」


諸葛亮「ありがたくいただきますが……そんなにも貧弱に見えますか?」


孟獲「自分が一番分かってるくせに……強気な女だ」


 孟獲はそう言って孔明の元から去った。


諸葛亮「自分が一番分かっているか……中々鋭い感性を持っているようですね孟獲殿は……」


 孔明は孟獲という人間を見直した。






馬謖「痛っ……」


姜維「大丈夫? 二日酔い?」


 馬謖は孟獲の酒に付き合い完全に二日酔いになっていた。


馬謖「ああ。大丈夫だ……南蛮との同盟が嬉しくて、つい飲みすぎてしまった」


姜維「お酒かぁ……飲んだことがないんだけど美味しいの?」


馬謖「無理に飲む必要はない。飲みすぎると今の私のようになる」


姜維「みたいだね……」


馬謖「魏と戦う為の条件が整ったんだ。勝利を飾った時に酒をご馳走してやろう」


姜維「一緒に飲めるのを楽しみにしてるよ」


 姜維は馬謖の誘いに嬉しそうに答える。


馬岱「おいおい馬謖。もうすぐ成都に着くのにそんなに酒臭くていいのか?」


 馬岱が現れる。


馬謖「飲みたくて飲んだわけではない。孟獲殿と懇親を深める為の酒だ」


馬岱「大義名分があるわけってか。いいなぁ」


姜維「馬岱さんもお酒好きなんですか?」


馬岱「飲める人は当然好きだろうな」


姜維「ん? 飲めない人もいるんですか?」


馬岱「飲めないっていうか酒が合わない人ってところかな」


姜維「ふーん。合わないか……」


 姜維はいまいち分からない。


姜維「馬謖君が魏に勝った時にはご馳走してくれるのでそれまでお酒は我慢しようかな」


馬岱「男だけで飲むのかよ?」


姜維「いけないんですか?」


馬岱「酒を飲むなら女も一緒にいた方がいいだろう。むさ苦しいだけだぜ?」


馬謖「そうかもしれないが女がいるとめんどくさいだろう。私は男同士だけの方が好きだ」

 馬謖が答える。


馬超「馬謖ーー! 分かるぞ! 分かりすぎて困るぞ!」


 馬超が急に現れる。


馬岱「あっ……」

 馬岱がやっちまったと言わんばかりの顔をする。


馬超「酒とは男の友情を更に一歩先へと導く神からの送りものだ! 間違っても女と一緒に飲むなんてことはしてはいかん!」


 馬超の酒への価値観が炸裂する。


姜維「知らなかった……お酒ってそういうものなんですね」


馬超「ああ! 姜維が酒で酔いつぶれた時、介抱するのは男しかいないだろう? 女に介抱されるような糞雑魚では男はいかんのだ!」


馬謖「なるほど。では馬超にお聞きしたいのですが」


馬超「何でも聞いてくれ」


馬謖「もし女が酔いつぶれた時はやはり男が介抱するものだと思いますがいかがでしょう?」


馬超「ははははは! そんなことか! 女が酔いつぶれた時はな!」


 「酔いつぶれた時は?」

 姜維、馬謖は同時に聞き返す。馬岱は何も言わず黙っていた。


馬超「捨てておけばいい」


姜維「え!? 捨てておけばって……どういうことですか!?」


 姜維は馬超の言葉に驚く。


馬謖「なぁ馬岱。もしかして馬超殿は……」


馬岱「気付いたか……本人に悪気はないんだ。察してくれ」


 馬謖と馬岱は二人だけの会話をする。


馬超「女が酒に溺れるのは自業自得だ! そんな連中に構っている暇などない!」


姜維「なるほど……そういう意味か……確かに一理あるな」

 姜維は納得した。


馬岱「いいんか? 兄貴に染められるぞ姜維殿が」


馬謖「後で私から状況によるとだけ付け足しておきます」


馬岱「うん。頼む」


 南蛮の戦いは色々な誤解を生みながらも無事完遂された。


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