南蛮王 孟獲 上
南蛮王 孟獲 上
劉備が倒れ姜維達は急いで成都に帰還した。劉備は直ぐに病に伏せ、医者からは心労からの病で手の施しようがないことを告げられ時間が解決することを誰もが待っていた。
諸葛亮「劉備様。お身体の具合はいかがですか?」
孔明は床で伏せる劉備に問いかける。
劉備「孔明……あなたの言うことを聞いていれば……私は君主失格ですね」
諸葛亮「劉備様がどの様な決断を下されようと私の主です。それと報告しなければならないことがあります。劉備様が呉に行っている間に大きな出来事がありました」
劉備「大きな……出来事?」
諸葛亮「はい。曹操が亡くなりました。病を患っていた様です。その後、曹操軍は国号を魏と定めました」
劉備「曹操が……そうですか。孔明、暫くの間はあなたが軍を取り仕切って下さい。今の私にはその資格がありません」
諸葛亮「分かりました。劉備様、今は出来るだけ気持ちを強くお持ちになって下さい」
劉備「孔明……ありがとう……」
劉備は弱弱しい声で礼を言った。
孔明は劉備の眠る部屋を出る。そこには姜維と馬謖が劉備の容態を心配し集まっていた。
姜維「先生。劉備さんのご様子はいかがでしたか?」
諸葛亮「今は少し様子を見ましょう。劉備様であればきっと回復すると思います」
姜維「劉備さん……大丈夫だろうか……」
馬謖「先生、これからどうなさるのですか?」
諸葛亮「呉との戦で劉備軍は貴重な人材を失い、そして荊州も失いました。魏は曹操が亡くなり喪に服している間は動けないでしょう」
諸葛亮「今の内に国力の充実を図り、後方の憂いを取り除きます」
姜維「後方の憂い……ですか?」
諸葛亮「益州の南、南蛮です。魏と同盟を組まれれば挟撃される恐れがあります。まず南蛮を平定します」
馬謖「南蛮を平定か……蛮族相手に平定するのは骨が折れそうですね」
諸葛亮「それでも南蛮の平定は必須です。敵の軍師・司馬懿も南蛮の存在に注目している筈。先に手を打たねばなりません。曹操の死が無ければもう動いていたはず。恨むべき敵の死に助けられるとは皮肉なものですね」
姜維「では南蛮に向けて進軍の準備をして参ります」
諸葛亮「お願いしますね」
姜維はその場を去る。
馬謖「先生。姜維達も帰ってきたことですし少しでもお休みになってはいかがですか……」
諸葛亮「ありがとう馬謖。実際、あなたのおかげかなり助かりました」
馬謖は孔明の政務を手伝っていた。
馬謖「先生の足元にも及びませんでしたが少しでもお役に立てればと思い」
諸葛亮「私は有望な弟子を二人も抱えて幸せ者ですね」
馬謖「……」
馬謖は孔明の異常とも言える仕事量を支えていたが、師である孔明の仕事振りに馬謖は感銘を受けると同時に孔明の身体の心配をしていた。
魏延「黄ちゃん……」
馬岱「魏延殿……元気を出して」
黄忠が死んだことにより魏延に覇気がない。それを見かねた馬岱が魏延を食事に誘っていた。
魏延「おやっさんと黄ちゃんが死んで……私と親しい人は皆亡くなるんです……」
馬岱「魏延殿! そういう考えは良くないって!」
魏延「だって……だって……」
馬岱「まだ生きている仲間がいるじゃないか! 黄忠さんは仲間を助ける為に亡くなったんだ。そんな風に悲観していては黄忠さんは報われないよ」
魏延「私……誰かに必要とされないと、生きていけないんです……」
馬岱「魏延殿は皆から必要とされている」
魏延「本当ですか……」
馬岱「本当だって……だから頼む。自分を責める様なことは言わないでくれ……」
魏延「馬岱さん……ごめんなさい……」
馬岱「だからさ。少しでも食べて元気になってくれよ」
馬岱は落ち込む魏延を見て黄忠を救えたかも知れなかったこと悔いていた。あの夷陵の戦いで最後の黄忠を見たのは自分だと思ったからだ。
姜維は全将兵に南蛮の平定する旨を通達し終え孔明の元へ戻っていた。
姜維「南蛮の大将は孟獲殿か……不慣れな土地での戦……先生どうなさいますか?」
馬謖「姜維はそれでも軍師か? 先生! 私に提案があります」
諸葛亮「馬謖、聞かせて下さい」
馬謖「はい。南蛮軍は勇猛ではありますが考察は足りず、闇雲に突撃を繰り返す筈です。そこで我らは蛮軍の孟獲の心を折る作戦に出てはいかがでしょう。そうすることで平定ではなく同盟を結ぶことで早く南蛮と信頼を築くことが出来ます」
姜維「心を折るか……初めてだな。そんな戦い方は」
姜維は馬謖の言葉に感心した。
馬謖「平定するには時間がかかります。同盟が成すことが出来れば早く成都に戻れ、魏の侵攻に逸早く備えることが出来ます」
諸葛亮「馬謖。良く言ってくれました。馬謖も立派な軍師となりましたね」
姜維「僕には考えも付かないよ。馬謖君の考え方は勉強になる……」
馬謖「ふふん、姜維。軍師とは勝ち負けだけではなく和を成す為にどうすれば良いのかも選択肢に入れることも忘れてはならない」
姜維「なるほど……敵を討つこと意外の道か。ありがとう覚えておくよ」
諸葛亮「ふふふ。互いに競い合う弟子を眺めるのは素晴らしいですね。では孟獲殿の元に参りましょう。それぞれ仕度をして下さい」
孔明は南蛮に向けて軍の仕度を姜維と馬謖に頼んだ。
姜維「分かりました。行こう馬謖君」
馬謖「ああ。私は兵糧の手配をするから姜維は軍の編成を頼む」
姜維と馬謖は早々に去った。
諸葛亮「くっ……」
二人が部屋を出た瞬間に孔明は片膝をつき苦痛に顔が歪む。
諸葛亮「この……頭が割れそうな痛み……急がなければ……おそらく魏と戦う機会はそれ程多くはない……」
国の政務の殆どを孔明一人で考え伝えそして確認する。激務は孔明の睡眠時間を奪いそして身体を蝕んでいた。
劉備軍は南蛮に進んだ。孔明も参加し劉備軍の主となる武将は総出で南蛮に行くことになった。これは魏が曹操が死んで喪中ということが功を奏したが呉と魏の同盟は早くも破られ戦いが始まったことからの総出撃である。
諸葛亮「暑い……」
姜維「ええ……途中、早めに休息を入れないと兵が疲弊しきってしまいます」
劉備軍の行軍は非常に厳しいものとなった。初めての南蛮の地は気温は高くそして湿度が高い。汗が止まらず兵も槍を杖代わりにし行軍は通常よりもはるかに遅くなった。
諸葛亮「……」
孔明はあまりの熱さに胸元の服を引っ張り胸の谷間が露わになる。
馬謖「見ろよ姜維」
姜維「馬謖君。あんまりジロジロ見ると怒られるよ」
姜維と馬謖は孔明の胸の谷間を横目に見る。
馬謖「私は恵まれているな。美人で天才的な知を持つ師をもって」
姜維「馬謖君……もしかして先生のことを……」
馬謖「馬鹿なことを言うなよ。そんな色欲で先生のことを見るわけないだろう」
姜維「言動が噛み合ってないってば……」
馬謖「はははは! それはそうか! すまんな!」
姜維「でもまぁ……綺麗な方なんだろうな……きっと……」
馬謖「綺麗な方って……どう考えてもそうだろう」
姜維「うーん。何かさ周りの女性はみんな魅力的だから分からなくなるんだよね」
馬謖「お前って奴は何所までも恵まれた奴なんだな」
魏延「二人ともいやらしい話をしてますね」
「!!」
姜維と馬謖は突然の魏延の登場に驚く。
姜維「いやらしい話なんてするわけないじゃないか! ねっ! 馬謖君!」
馬謖「当たり前だ! 先生の身体がとても官能的だと話していただけだ!」
姜維「馬謖君とりあえず喋るの止めようか……」
魏延「孔明軍師のことをそんな風に見てるなんて! 最低です!」
馬謖「何故だ! 自分が一部の人間にしか需要のない、むちむちした身だから嫉妬しているのか?」
姜維「お願いだから馬謖君。喋るの止めて……」
魏延「え……私……需要あるんですか……」
姜維「そんな反応する? 今の流れで……」
馬謖の言葉に食いつく姜維は困惑する。
馬謖「当然だろう。そっちの方向ではかなり良い線をいっていると思う」
魏延「そっち……そっちってどっちですか姜維さん!」
姜維「え!? そこを僕に聞くんですか!? 馬謖君じゃなくて!?」
馬謖「姜維。教えてやれよ」
姜維「馬謖君が答えてよ!」
魏延「せっかくなんで姜維さんが答えて下さい」
姜維「そっそれはね……世の中には硬い人よりも柔らかい人の方が好きな人も沢山いてね……」
魏延「柔らかい……柔らかいって需要あるんですか!?」
姜維「もちろんです! 僕は柔らかいのは好きです!」
馬謖「ほう……姜維にそんな経験があるとは知らなかったな」
姜維「まぁ……先生も柔らかいですしね……」
「え!?」
馬謖と魏延が驚く。
馬謖「姜維! 先生はそんなに柔らかいのか!?」
姜維「ええ。柔らかいだけじゃくて凄くいい匂いもしますね」
魏延「孔明軍師は凄いです! 柔らかいだけじゃくていい匂いもするなんて!」
姜維「初めての時は衝撃でしたね……」
馬謖「羨ましい奴だな姜維! 先生のあのスラリとした身体を一人占めにしたのか!?」
魏延「私も孔明軍師みたいないい匂いを出したいな……」
馬謖「魏延は香辛料のいい匂いがするからそれはそれでいいんだよ」
魏延「そっか……それはそれでありなんですね!」
馬謖「大ありだ! 先生の場合は大人の魅力全開の必殺の香りなんだろうな! そうだろ姜維!」
姜維「うん! 何かね! 本能を刺激するっていうか! とにかく凄いんだよ!」
馬謖「くっそぉおお! 姜維! お前のせいで妄想に拍車がかかるだろう!」
魏延「私もです!」
「え!?」
姜維と馬謖は驚く。
三人は大きな声で言いたいことを言っていた。それを真っ赤にしながら聞く者がいた……孔明である。聞こえない振りをしながら兵達から一斉に視線を注がれていた。悪いことは決して言われていない。こんな形の地獄があるのかと孔明は知る。孔明は下を向き恥ずかしい想いからぷるぷる体を震わせ、兵達から欲望の眼差しに身を晒し無言で馬を進めた。
そしてあまりにも下らないことを意気投合していることで南蛮の暑さを忘れ劉備軍は進んだ。南蛮の地に入り葉が覆い茂、森の中で陣を構えた。
南蛮の木造で作られた宮殿で暮らす孟獲の元に劉備軍の侵攻の報が届く。
南蛮兵「大王様!」
孟獲「おう! 劉備軍という小賢しい連中が森に入った様だな。あっしの庭に入ったことを後悔させてやらあ! はっはっはっは!」
南蛮兵「みんないつでもいけますぜ!」
孟獲「南蛮の猛攻に耐えられる連中がいるわけがねー! あっしの攻撃を受けて見ろや!」
劉備軍の進行は孟獲の耳に入り劉備軍撃退の為に出撃する。
南蛮は密林地帯で孟獲は南蛮を治める王の一人だ。髪を反り逞しい身体は王としての風格を纏っていた。
劉備軍は南蛮の地に入り直ぐに休息を取るために陣を敷いた。
趙雲「孔明軍師。南蛮の地に踏み込んでおります。ここから先は警戒して進みましょう」
諸葛亮「分かっています。ですが進軍はここまでとします」
趙雲「この陣に留まるのですか?」
諸葛亮「はい。工作兵に水の調達の指示を出しました。これ以上進むと飲み水の確保が難しくなります」
趙雲「では自分は襲撃に備えましょう」
諸葛亮「いいえ。何もしなくて結構です。疲れているでしょう。休んでください」
趙雲「よろしいのですか?」
諸葛亮「もちろんです」
孔明は笑顔で趙雲に答える。
趙雲「ではお言葉に甘えさせて頂きます」
趙雲は兵を休息を取らせに向かった。
諸葛亮「楽しみですね。孟獲殿がどれほどの男か……」
孔明は不敵に笑う。




