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雷子  作者: 三幸
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仇討たずして

仇討たずして





関羽が亡くなったことは劉備軍に知らされ、虚脱感に覆われる。南荊州を呉に奪われたことに領土の三分の一近くを失うこととなった。




黄忠「姜維はまだ戻って来ないの!」

 成都の門前で黄忠達は姜維の帰還を待っていた。


魏延「黄ちゃん。姜維さんのせいじゃないってみんな言ってのに……」


黄忠「本当にそう思うの魏延! 誰よりも一番近くにいたのにあの男は!」


魏延「だからと言って姜維さんだけが悪者になる様な言い方はよくないって言ってるの!」


 黄忠と魏延は互いの意見をぶつける。


馬岱「そこまでにしときなよ」

 馬岱が止める。


黄忠「馬岱はどう思ってるのよ!」


馬岱「戦いの責任を姜維殿一人に押し付ける黄忠さんは大人げないと感じてるよ」


黄忠「何ですって……!」


魏延「馬岱さん! 黄ちゃんを煽らないで下さい!」

 魏延の顔が青ざめる。


馬岱「俺と兄貴は全てを失った。多くの同胞と先祖から託された土地。その責任は一体誰がとるんだ? 誰がとれる? 誰も責任なんてとれない」


黄忠「それは……」


馬岱「本当に姜維殿一人が悪いと思うなら姜維殿の首を刎ねるといい。俺も手を貸そう。どうなんだい?」


黄忠「そっ……そこまでは……」


馬岱「何だ。随分と中途半端な気持ちで姜維殿を悪者にしたかったんだな」


黄忠「ちっ……違う……」


魏延「馬岱さん! それ以上、黄忠ちゃんを苛めるのなら私が許しませんよ!」


馬岱「今の俺と先ほどの黄忠さん……何の違いがあるんだい?」


「!」

 黄忠と魏延は馬岱の言いたいことを理解した。


黄忠「ごめんなさい……馬岱の言う通りだわ」


馬岱「いいんだ。俺も随分と意地悪な言い方をした。すまない」


魏延「あれ……あそこ姜維さんじゃないですか?」


 姜維が向かってくる。


姜維「みんな!」

 姜維は黄忠達に声を掛ける。


馬岱「お疲れさん。報告は聞いたよ」


姜維「力足りず関羽さんと周倉君を助けることが出来なかった……」


「!!」

 黄忠達は驚く。


姜維「どうしたんですか?」


馬岱「いや……急いで劉備様の元へ行った方がいい」


姜維「そうします! また後で!」

 姜維は劉備の元へ向かう。


魏延「もしかして姜維さんはまだ……」


黄忠「あの感じだと間違いなく知らないわ……」


馬岱「姜維殿の絶望はこれから始まるのか……辛いだろうな……」


 三人は姜維の後ろ姿を眺めるしか出来なかった。 






 姜維は劉備の元に訪れる。


姜維「劉備さん! 只今、戻りました。関羽さんのことは申し訳ございません……僕が不甲斐ないばかりに……」


劉備「姜維君。お帰りなさい……雲ちゃんや飛ちゃんのことは姜維君の責任ではありませんから……あの二人のことは私が一番良く分かっています。姜維くんが最後まで一緒にいてくれたことを私は嬉しく思います」


姜維「張飛まで死んだ様に言われては困ります。張飛と共に関羽さんの仇討ちとして呉軍に一矢報いました」


諸葛亮「姜維が戻るよりも先に早馬で報せが入りました。張飛殿は関羽殿の首を取り返そうと単身孫権陣営に乗り込み捕縛され処刑されました」


姜維「!」

 孔明の言葉に衝撃を受けた姜維は膝をついた。信じられない信じたくない思いと自分への怒りにどうにかなりそうだった。


姜維「張飛が……僕はなんて馬鹿なんだ……引っ張ってでも連れて帰るべきだった! 馬超さんから忠告されていたのに!」


劉備「姜維君。あなたの責任ではありません。それに私もこの件で呉と戦う覚悟を決めました」


諸葛亮「劉備様。ここで呉と戦うことは上策ではありません」


劉備「孔明。止めても無駄です。雲ちゃんと飛ちゃんの仇も取れずに天下を治めようとは思いません」


諸葛亮「劉備様……」

 劉備の決意に孔明は口を閉ざす。


劉備「孔明。私の我が儘を許して下さい」


諸葛亮「劉備様の決意は分かりました。ならば軍師として出来ることをするまでです。私は趙雲殿、魏延殿、馬謖と残り漢中の防衛をします」


 孔明は劉備に応える。


諸葛亮「姜維。後で話があります」


姜維「はい……少し時間を下さい。必ずお伺いします」


諸葛亮「ええ。帰って来たばかりです。少し休んでからで構いません」


 姜維はその場を去る。


劉備「姜維君……大丈夫でしょうか……」


諸葛亮「劉備様。姜維の心配よりも今はどうかご自分の中を整理して下さい」


劉備「ええ……」

 義理とは言え妹を二人同時に失った劉備の心の負担は尋常なものではなかった。






姜維「張飛……僕に急にいなくなったりしないでとか言っておいて……自分がいなくなるなんて酷いじゃないか……」


 姜維は成都の城壁に立つ。


姜維「判断を間違えた……違う……張飛が無謀な行動をすることを疑いもしなかった……僕は大馬鹿野郎じゃないか……腕を掴めばよかったのか! 何をすれば張飛は死なずに済んだんだ! 答えなんて分かってる僕はいつもそうだ! 自分の都合を優先して自問自答の先にある曖昧で無難な答えに逃げている! くそっ!」


 姜維は石壁を叩き付ける。


 そんな姜維を眺める者達がいた。


馬謖「そろそろ出ていくか……見ておれん」


黄忠「私も行くわ」


馬超「黄忠殿はやめておくといい」


黄忠「どうしてですか?」


馬超「女に励まされてもみろ生きた心地なんてしない。ここは男同士が一番さ」


黄忠「そういうものなんですか?」


馬謖「まぁ……一理はあるかな」


馬超「ここは俺と馬謖で行くのがいいだろう」


黄忠「男同士の友情ですか……なら任せますね」


馬超「馬謖。行こう」


 馬謖は頷く。馬超と馬謖は姜維の元へ向かう。


馬超「そろそろ終わりにしたらどうだ?」


姜維「馬超さん……何を終わりにするんですか……仲間の死を忘れろとでも言いにきたんですか……」


 ガッ!


 馬謖が姜維を殴る。


姜維「つ……」

 


馬謖「姜維。お前の情けない姿を馬超殿は終わらせろと言ったんだ。それを仲間の死を忘れろだと? そんな風に考えるへそ曲がりとは思わなかったぞ」


姜維「……」


馬超「なぁ姜維殿。身近な人が亡くなると自暴自棄にもなるさ。だが姜維殿はたった一つの正解を見つけることが出来ないんだろう?」


姜維「正解なんてあるんですか……」


馬超「あるさ。それはな生きている仲間と共に歩み出すってことさ」


姜維「!」


馬謖「何だ何だ? そんなことも分からないくらい参っていたのか? 危ないな……放っておけばここから飛び降りても不思議じゃなかったな」


姜維「そうですよね……ここから地面に飛び込んだら張飛や関羽さん……周倉君にも会えるんですよね……」


馬超「飛び込むなら俺の胸にしておけ。地面と女に飛び込む様な馬鹿な真似はよせよ」


姜維「ふふっ……そうですね……」


馬謖「お? やっと笑ったな? 馬超殿の渾身の冗談が効いたか?」


馬超「いや……俺は割と真面目に……」


姜維「ありがとうございます。少し自分がどうすればいいか分かりました」


馬謖「うん。それでこそ姜維だ」


馬超「なら最後に俺の胸に飛び込んでくるといい。それで終わりだ」


馬謖「馬超殿。もう冗談を言う必要はありませんよ?」


馬超「え……だから俺は本気で……」


姜維「はははは」


 姜維は馬超と馬謖のやり取りに笑う。


姜維「本当にありがとうございます! 先生の元に行かなければならないので失礼します」


 姜維は孔明の元へ向かう。


馬超「おい馬謖……納得できないのだが……」


馬謖「何がですか?」


 姜維を見送る二人の仲に少し亀裂が入った。一日で修復される亀裂が……。





姜維「先生。話と言うのは何でしょうか」

 姜維は孔明の部屋に訪れる。


諸葛亮「姜維。関羽殿と張飛殿のことはあなたに責任があるとは思いません。曹操と孫権が手を組むように絵を描いた者がいます」


姜維「それは一体誰ですか!」

 姜維は声を荒げる。


諸葛亮「おそらくは軍師・司馬懿です。関羽殿を呉に討たせ更に呉と蜀との仲を裂いた見事な計略。危険人物です」


姜維「司馬懿……!」


諸葛亮「急に頭角を現した曹操軍の軍師……報告によれば司馬懿は呉への使者となり同盟を成功させた様です」


姜維「本当に戦うべき相手はそいつか……」


諸葛亮「姜維。戦とは敵味方関係なく命を散らすものです。軍師とは仲間の命を、時に駒の様に扱う非情さも持っていなければなりません」


姜維「……」


諸葛亮「あなたならきっと分かる筈……関羽殿と張飛殿の死はあなたにとって大きな糧になるでしょう」


姜維「はい……」


諸葛亮「しかし軍師たるものいつまでも感傷に浸っていては務まりません。劉備様が呉攻めを決断しました。我らは敗れるでしょう……」


姜維「そんな!」

 孔明の言葉に姜維は驚く。


諸葛亮「感情で軍を動かし勝った例などありません。勢いだけで有利に見えても、今はその時ではありません」


諸葛亮「今回、魏と呉の同盟は司馬懿が描いたものです。ですが関羽殿を破ったのは呉の実力です。呉にも優れた軍師がいるのでしょう」


姜維「では、どうすれば良いのですか!」


諸葛亮「勝つことを考えるだけが軍師ではありません。負けない戦、もしくは被害を少なくするのも軍師の成すべきことです」


姜維「敗れると分かっていても戦う……僕には分かりません」


諸葛亮「全てを合理的に成すのであれば君主としての実力は曹操が劉備様を上回ります。それが曹操の強さです。合理的なことは時に非情な決断をしなければなりません。しかし、劉備様は民を想う気持ちの方が強いのです」


姜維「皮肉な世界だ……」


諸葛亮「ですが、その劉備様の優しさが曹操に対抗する力の源です。後は時代が決めることでしょう」


姜維「時代……また時代なのですね。時代とは一体何なんだ」


諸葛亮「姜維ならきっと分かる時が来るでしょう。あなたは呉の討伐遠征に行きなさい。劉備様達が出発した後、少し時間をおいてから向かって下さい。それと馬岱を連れて行きなさい。今から策を授けますが……」


 孔明は話を変えようとした。


諸葛亮「その前に……はい。来なさい」


 孔明は両腕を広げる。


姜維「先生……一体何を……」


諸葛亮「弟子を慰めるのも師の務めです。私の胸に飛び込んで来なさい」


姜維「それなら大丈夫です。先ほど馬超殿が女の胸に飛び込む様な馬鹿な真似はよせと言ってくれたばかりですので」


諸葛亮「ほほう……それは私が馬・鹿・な・女だからですか?」


姜維「いえいえいえいえ! そんなつもりで言ったのではありません!」


諸葛亮「まったく……女の私から行かなければいけないなんて……」


 孔明が姜維に歩み寄る。


姜維「先生! ちょっと!」


 孔明が姜維を抱きしめる。


諸葛亮「あなただけでもよく無事に帰って来てくれました。戦況を聞いた限り長坂の撤退戦並の戦いだったようですね」


 孔明は姜維の耳元で囁く。姜維は孔明が如何に自分を心配してくれていたかを知る。


姜維「先生……先生の一番弟子姜維。只今帰還致しました」


 姜維の言葉に孔明は何も応えない。だが抱きしめる手に力が入り姜維は自分はまだ死ねないことを悟る。

 

 劉備が呉を攻める決断を下したことにより大規模ば遠征の準備が進められた。




 一ヶ月の準備期間を終え劉備達は呉に向かった。



趙雲「姜維」

 趙雲は出発しようとする姜維に声を掛ける。


姜維「趙雲さんは居残り組ですよね」


趙雲「居残り組とはずいぶんじゃないか」


姜維「失礼。対曹操組と言えばよかったですね」


趙雲「うむ。姜維なら分かると思って聞きたいことがある」


姜維「なぜ、呉軍討伐の面々に入らなかったか……ですね」


趙雲「ああ。劉備様は既に出発された。自分は今までずっと劉備様をお守りする立場であったのに……」


姜維「先生が言っていました。曹操軍と呉軍の同盟を成した軍師の存在を……」


趙雲「そんな者の為に……」


姜維「趙雲さん。それは相手を軽く見過ぎています。あれだけのわだかまりのある両軍に盟を結ばせるなんて容易ではありません。僕は先生が趙雲さんを頼りにする理由が分かります。最も信頼厚い趙雲さんを成都から離せば残るのは誰ですか? ご存知でしょう……」


趙雲「ふぅ……致し方無い……か……」


姜維「先生から援軍に向かうようにと指示を受けています。趙雲さんの憂いを晴らす為にも必ず劉備さんをお守りします」


趙雲「頼んだぞ」


姜維「ちゃんと僕たちが帰ってくる場所を守ってくださいね」


趙雲「一体誰に言っているんだ」


姜維「冗談ですよ。じゃあ行ってきます」


 姜維は劉備の後詰として呉に向かった。


趙雲「やはり気付いていないか……以前の孔明軍師らしくないことを……」

 



 数か月の遠征を経て劉備軍は既に呉の領土の近くまで来ていた。


劉備「これより呉を討ちます! 雲ちゃんや飛ちゃんの弔い戦です!」

 劉備は全軍の前で激を飛ばす。


黄忠「先陣は私にお任せ下さい。関羽殿がいなければ私は劉備軍におりませんでした。そして友である張飛の仇を討ちたく思います」


劉備「黄忠さん。よく言ってくれました。あなたの気持ち嬉しく思います」


馬超「俺は波状攻撃で黄忠殿の支援を致します」


劉備「馬超さん。お願い致します。これより呉を殲滅します!」


 劉備の号令で劉備軍は呉の領土に進む。


 呉の領土に入りしばらく進むと目の前に呉軍の大軍が現れる。だが劉備軍は全軍の八割をこの戦いに投入しており数だけでは圧倒的に呉軍を上回る。

 

 先陣を黄忠が務める。弓隊が先陣を務めることなどない。それを目にした呉軍は初戦を勝利で飾りたいのか黄忠の部隊めがけて突進する。


黄忠「馬鹿な連中ね。私が率いる弓隊は決して敵を寄せ付けない」


 黄忠は弓を引く。狙いを定め先頭の敵めがけて矢を射る。風を切る矢の音が止まると同時に敵は倒れる。それが合図のように一斉に弓隊が射る。黄忠はそれから弓を構えたまま動かない……誰かを探している。呉軍の先鋒が弓隊に倒れる光景を見て呉の武将らしき者が激を飛ばす。


黄忠「あれか……」


 黄忠は武将に狙いを定め狙うい討つ。武将を失った兵は指揮系統を失いその場に留まる。黄忠なりの戦い方である。矢には限りがある自分の仕事は敵の指揮系統を完全に麻痺させることだと考えていた。

 

 そして、もたつく呉軍に馬超が襲いかかる。


馬超「恨むなら俺を敵にまわした馬鹿な主を恨むんだな!」


 馬超の率いる騎馬隊は呉軍を踏み潰す。その壮絶な馬超の猛攻に呉軍の士気は下がる一方だった。劉備は今が機だと思い全軍突撃の号令をかける。数でも劣る呉軍は出鼻を挫かれ逃げることしか出来なかった。




馬超「劉備様! 呉軍は総崩れです! これを機に一気に殲滅致しましょう!」


黄忠「しかし夕暮れも近い。ここは迷うところですね」


劉備「今の攻撃で呉の将兵をかなり討ち取りました。黄忠さん、馬超さんのおかげです。今日はこの辺で野営して明日に備えましょう」


黄忠「ではその様に致します」


 その夜、月は雲で覆われ冷たい北風が吹く。劉備軍は夷陵に陣を置く事にした。


 大軍勢を休ませることに非常に適した夷陵は幾つかの川があり水の確保と広がる草原が広がり兵達を休ませるのに適していた。


馬超「黄忠殿。今回の遠征には、どうして軍師がいないのであろう」


 劉備軍の天幕にて馬超と黄忠は話す。


黄忠「今回の戦は孔明軍師の反対を押し切っての戦い。劉備様も何か思う所があってのことでしょう」


馬超「しかし軍師は一人ではない。姜維殿も軍師です」


黄忠「姜維は関羽殿と張飛の死が自分の責任だと感じている。劉備様の気遣いではないでしょうか」


馬超「なるほど……それでも軍師のいない遠征はあまりにも危険だ」


黄忠「仮に軍師がいたとしても今の劉備様に言葉を受け入れていただけるかどうか……」


馬超「そうかもしれません。それでも姜維殿にいて欲しいと俺は思う……黄忠殿に大切な人はいますか?」


黄忠「私の大切な人!? それは……ばっ馬超殿はどうなのですか?」


馬超「俺には守るべき家族は既にいません。だが守りたい。そして共に戦いたい仲間がいます。正直この場に子龍がいないことを寂しく思います」


黄忠「何故、今趙雲殿の名前が……?」

 黄忠は困惑した。


黄忠「私に大切な人はもういません」


馬超「それは……」


黄忠「どうしてなんでしょうね……自分が大切だと思う人ほど自分の前からいなくなってしまう……」


馬超「こんな時代だ。同じ想いを抱く人は黄忠殿に限ったことではないでしょう」


黄忠「今まで自分が一番だと思っていました。誰にも負けない強さを自負していましたが劉備軍に入りそれを覆す程の強くて優しい人達……」


馬超「人を好きになることを怖いと思っているのですね」


黄忠「ええ。尊敬の念から心を許せる……対等に認め合える仲間は私にとって大切な人と言えるのでしょう」


馬超「ふふ。自分に素直なれないだけですか」


黄忠「むっ! 馬超殿は何故、変態の趙雲殿のことを……?」


馬超「子龍が変態? 何かあったのですか?」


黄忠「私と趙雲殿は一騎打ちをし両者互角の戦いをしました。決着が付く時、私の矢で衣服がはだけほぼ全裸で私の前に現れました。もうね気絶しましたよ……」


馬超「けっ決着は付いたのですか……」


黄忠「両者引き分けだと私は思っています」


馬超「それは良くない! この戦いが終わり次第直ぐに決着を付けるべきだ!もちろんその戦いの見届け人として俺が立ち会おう!」

 馬超は黄忠にくってかかる。


黄忠「えっええ……この戦いが終わればそれもいいでしょう」


 黄忠は馬超の勢いに押された。



姜維「やっと追い着きました!」

 姜維が到着し天幕に入って来る。


馬超「姜維殿! 一体何故ここに!?」


黄忠「孔明軍師と一緒にいると思っていました」


姜維「はい。少し成すべきことがあり遅くなりました。戦況はいかがですか?」


馬超「関羽殿と張飛殿の仇討ちの為、将兵の士気も高く劉備軍は快勝だ」


黄忠「この分だと呉はそう長くもたない。ちょっと来るのが遅いんじゃないかしら」


姜維「先生の思い過ごしであったか……今日はここで野営を?」


黄忠「そうです」


姜維「一応、地図を見たいのですが」


馬超「流石は姜維殿。軍師として頼りになる」


姜維「これは……!」

 姜維は地図を見て青ざめる。


馬超「どうされたのだ?」


姜維「快勝だと言われましたね。誘いです……」


馬超「誘い?」


姜維「今は寒季……木々は枯れ乾いた風が強く吹く季節。劉備軍の野営するこの場所は四方を森で囲まれた草原地帯……今いる場所は死地です。ここに野営をさせる為に呉は戦力を適度に投入したのでしょう」


黄忠「姜維の考え過ぎであって欲しいのですが」


姜維「呉が気付いていないわけがない……一刻も早く撤退を!」


馬超「分かった! 直ぐに指示を!」


 突如、天幕の中からでも分かる位の赤い光が四方から照らされた。


姜維「遅かった! 馬超さんは退路の確保を! 黄忠さんは劉備さんの救出をお願いします! 撤退先は白帝城です!」



 四方から火の手が上がる。上を見上げると暗い夜の雲を赤く染め上げる光景がその火計が大規模だと教えてくれる。

 

 姜維達はまだ火が比較的に小さい場所へ兵を誘導する。


 阿鼻叫喚の劉備軍の陣営は大混乱に陥った。





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