関羽が託す者
関羽が託す者
曹操軍撃退後にもたされた呉の裏切りは劉備軍を震撼させた。曹操軍と呉が同盟を結び南荊州を任されている関羽を討たんと動き始めていたからだ。関羽は曹操軍の策略に嵌り、曹操軍と呉軍の挟撃に晒されていた。
援軍の準備で陣営が慌ただしい
馬謖「急げ! 急ぐのだ! 一刻を争うぞ!」
馬謖は兵達に出撃の準備を急がせていた。
諸葛亮「馬謖。手際がいいですね」
馬謖「あっ先生! 荊州の危機を聞いて事を進めておりました! 既に兵糧の用意と兵の編成を伝達しております。出発までそれ程、時間はかかりません!」
諸葛亮「あなたは本当に頼もしい人ですね馬謖」
孔明は馬謖の段取りの良さに喜ぶ。
張飛「孔明! 関姉は大丈夫だよね? 私も行くよっ!!」
諸葛亮「張飛殿。今は出来ることだけを成し関羽殿の力を信じましょう」
姜維「大軍で向かうと進軍速度が遅くなります! 少数精鋭の部隊を先に向かわせせるべきです!」
諸葛亮「それがいいでしょう。姜維あなたが先行隊を率いて関羽殿の元に向かって下さい」
馬謖「先生! ここはこの馬謖に猛将達を全員預けて下さい! 必ずや成果を出してみせます!」
諸葛亮「馬謖、曹操は荊州に援軍を出すことを分かっています。劉備軍の戦力を裂く為に……同時に漢中にも必ず侵攻して来ます」
馬謖「そんな……いやっ考えれば分かることですね……」
馬謖は軽率な口を悔やむ。
諸葛亮「先行隊に姜維! 後続の主力に張飛殿と馬超殿を向かわせて下さい。趙雲殿、黄忠殿、魏延で漢中を防衛します」
姜維「分かりました!」
姜維は力を込めた返事を返す。
張飛「兄ちゃん! 私が行くまで絶対に関姉を守ってね!」
姜維「張飛。必ず関羽さんを救出するから!」
劉備「姜維君。雲ちゃんを頼んでもいいかしら……」
姜維「劉備さん。ここは必ず助けろと命じて下さい」
劉備「では……必ず生きて帰って来なさい……それだけです」
姜維「え……分かりました」
劉備の言葉は姜維の想像するものと違うことに姜維は驚くが劉備と言う人間の人格を考えると姜維は素直に答えることしか出来なかった。
諸葛亮「この侵攻速度と広域戦の展開……曹操軍と呉にこれ程のことを成す軍師が……嫌な予感がします」
孔明の身体に寒気が走る。
援軍を率い姜維は馬を走らせる。
姜維「呉と曹操軍が同盟……一体何故そんなことが実現したんだ! 孫権殿は曹操を憎み劉備軍と共に戦った仲なのに!」
姜維は僅かな小隊で関羽の元に向かう。益州から南荊州までの道は使えない。既に呉軍に占拠されているからだ。姜維は荊州の中心に近い樊城に向かう。
途中、何人もの斥候からの報告が姜維に届く。報告は姜維に知らされる度に悪いものになっていた。
この時、関羽は既に樊城を離れており、呉軍に後ろを襲われ止むを得ず撤退するしか道が残されていなかった。関羽は益州への撤退路の途中にある廃城の麦城に避難し援軍の到着を待つしかない状況に陥っていた。
呂蒙「ようやく関羽を追い詰めたな」
陸遜「お姉様。まだ油断は出来ません」
関羽が退避している麦城を包囲する呉軍を率いるのは周瑜が亡くなった後に軍の総指揮官を継いだ呂蒙と軍師の陸遜だった。
呂蒙「油断出来る相手であれば甘寧達が討ち取ってるさ。しかし呉の包囲網はそう簡単には崩せない。如何に関羽であろうと……」
陸遜「確かに……ですが手負いの虎は危険。思わぬ怪我を負ってもおかしくありません」
呉軍兵士「報告します! 少数ですが劉備軍の援軍が向かって来ております!」
呂蒙「そうか包囲を緩め通してやれ……一網打尽にする」
姜維は樊城に向かう途中で麦城に立つ関羽の旗を見つけ関羽の元に向かっていた。
関羽「それがしが後ろを取られるとは……いや曹操軍と呉の同盟が成るとはな……」
関羽は今にも崩れそうな麦城の城壁に立ち包囲する呉軍を見下ろす。
周倉「姉御! そろそろやばいよ! この砦もそう長くもたないかも!」
関羽「呉の包囲網を突破するか……それとも来るか来ないかの援軍を待つか……」
劉備軍兵士「少数で呉の包囲網を破って向かってくる軍があります!」
関羽「少数で呉の包囲網を打ち破る? そんなこと出来る筈がない……これは……援軍も一緒に一網打尽にする呉の作戦か!」
関羽はそれが仲間であると確信するも呉の術中にはまることを知る。
姜維「関羽さん! 援軍参りました! ご無事ですか!」
呉軍の包囲を突破し姜維は麦城に到達した。
周倉「姜維! お前だったのかよ!会いたかったぞこのやろう!!」
周倉は姜維の到着を心から喜ぶ。
関羽「姜維……援軍ありがたい。しかし、姜維の援軍が来ることも呉軍には分かっていたようだ……」
姜維「はい……僕も途中で気付きました。砦の中に容易に入れたのは誘いだと……」
姜維「しかし後続に主力の援軍も向かっています! ここは我らで踏ん張りましょう!」
関羽「そうか後続の援軍がいるのか……ならばまだ何とかなる!」
周倉「なんだー。そこまで援軍が来てるのか! 少し安心したよ」
関羽と周倉は姜維の言葉で希望を見いだす。
姜維「周倉君。まだ援軍到着まで時間がかかる。ここは踏ん張りどころだよ!」
周倉「へへっおいらの好敵手の姜維に恰好悪いところ見せられないからな! 姜維おいらに遅れを取るなよ!」
関羽「ふふっ。姜維が来てくれたおかげで周倉も元気になったな」
関羽「死地に生あり! 活路を見出すぞ!」
「はい!」
姜維と周倉は威勢よく返事をする。呉軍の攻撃に備える。姜維の援軍が加わり、物資と食料が持ち込まれ軍の士気が上がる。
呂蒙「始めようか伯言」
呂蒙の言葉に陸遜は頷く。
陸遜「これより麦城に攻撃を仕掛けます! 関羽と劉備軍残党は適度に戦い麦城の破壊に重きをおいて下さい!」
陸遜が号令を掛ける。
呉軍は一斉に麦城を攻撃する。木槌で門だけではなく壁をも壊そうとしていた。
関羽達は呉軍を麦城に近づけまいと奮闘するが呉軍の数の多さにとても対処しきれない。周倉と姜維の助けもあって城を破壊されながらも何とか戦っていた。
呉軍の狙いは関羽達の休息の場を奪うことであった。
呂蒙「よく防ぐな……思ったより士気が高い。後続の援軍が向かっているのだろう」
陸遜「次の作戦に移りましょう。そこで全て終わらせるのが上策かと思います」
呂蒙と陸遜は麦城攻撃を各部隊に任せ西に向かった。
姜維「関羽さん! 敵の一波二波は耐えられましたが次はもう砦がもちません!」
関羽「うむ敵の第三波が来る前に血路を開く!」
姜維「四方を囲まれていますが西から包囲を抜ければ援軍と早く合流できる筈です!」
関羽「そうか! ならば、西に向かうぞ!」
関羽の一声で将兵は西に向かう準備を始める。周倉を除いて……。
劉備軍兵士「周倉殿! 呉軍の部隊が迫って来ています!」
周倉「分かってるよ! おいら今忙しいんだって!」
麦城の門前で周倉は何か運ぶ。
劉備軍兵士「何をなされているのですか?」
周倉「姉御を助ける為の準備だよ」
劉備軍兵士「準備……」
周倉「姉御に伝えてくれ……砦に罠を仕掛けてから向かう。だから先に行ってくれって」
劉備軍兵士「分かりました」
麦城では出発の準備を追え撤退が始まろうとしていた。
関羽「さぁ行くぞ! 血路を開く!」
姜維「関羽さん! 周倉君がいません!」
関羽「何だと! 周倉は何をやっている!」
麦城を出発しようとした時に周倉がいないことに関羽は苛立つ。
劉備軍兵士「関羽様! 周倉殿から伝言です! 砦に罠を仕掛けるので先に行く様にと」
関羽「周倉が? どういうことだ!」
姜維「そうか……後方からの追撃を防ぐ為に」
関羽「周倉も自分で考える様になったのか。ならば、それがしは周倉が追って来やすい様に呉軍を薙ぎ払うだけだ!」
姜維「はい!」
関羽と姜維は包囲する呉軍に向かっていく。呉軍は麦城から必ず西に向かって逃亡することを先読みしその包囲網は関羽達が麦城から出た瞬間を待っていたかのように向かってくる。
姜維「この感覚は長坂以来だ……」
窮地に立たされる姜維はぼやく。
関羽「相手は曹操軍ではない! 呉の武将など恐れるに足らんこと括目してみよ姜維!」
そう言って関羽は愛馬である赤兎馬で単身呉軍に斬り込む。呉軍の将兵は圧倒的に有利な立場から油断していた。
関羽「武を極めたこの一閃! 受けて見るがいい!」
関羽は青龍刀を振る。呉軍の先鋒は関羽の一振りで宙を赤くした。
呉軍は一体何が起こったのか理解出来ない。どうすれば血があれほど飛ぶのか。関羽は青龍刀を振り回す。斬っているのは間違いないのだがまるで空を切るかのようなその速度はとても人を斬り負荷がかかる速度ではなかった。呉軍の将兵は関羽の強さに凍り付く。どうやって仕留めるのか分からない。近づけば竜巻のような刃が襲ってくる。
姜維「凄い……張飛も強いけど関羽さんの強さも尋常じゃない!」
姜維は初めて関羽の本気を見て驚愕した。
関羽「敵は逃げ腰だ! 今の内に一気に突破するぞ!」
姜維「はい!」
関羽の強さに呉軍は包囲網は崩れていく。将兵達も関羽に後れを取らんと追随した。
姜維「関羽さん! 前方と右……いや左からも呉軍が迫っています!」
関羽「敵の第ニ陣か! いや……本体か!」
姜維「間違いありません!」
姜維は向かってくる呉軍に恐怖を感じた。明らかに先ほどまでの呉軍ではないことは直ぐに分かった。整然とし陣を組み、堂々と向かってくる。呉の猛将たちが現れたことを悟った。
姜維「いけない! もしこのまま後ろを取られれば終わりだ!」
姜維は最悪の展開を予想した。
ドン!
「!!」
大きな音がし関羽と姜維は振り返る。
関羽「何だ……あの後方の爆発は……まさか……周倉……」
麦城が燃えている。火は大きく麦城周辺の呉軍はその爆発の煽りを受け混乱しているようだ。
姜維「周倉君……僕達を逃がそうとして……」
姜維と関羽は悟る。周倉が何かをしたのだと……そして命が尽きたことも……。
関羽「周倉……周倉ーーーー!」
関羽の悲痛な叫びがこだまする。
姜維「一体どうして! 直ぐに追い着くんじゃなかったのか……」
姜維は周倉と共に行動しなかったことを悔やんだ。
関羽「姜維……頼みがある……」
姜維「頼み?」
関羽「それがしはこのまま呉軍に向かう。姜維はそれがしから離れ援軍を呼びに行って欲しい」
姜維「関羽さん! 無謀です! そんなこと出来ません!」
関羽「このままでは二人とも呉軍の餌食になってしまう。大丈夫、死ぬと決まった訳ではない」
姜維「分かりました……必ず援軍を連れて来ます。それまで必ず生きて下さい! 約束ですよ!」
関羽「約束だ。頼むぞ姜維!」
姜維「では行ってきます!」
姜維は援軍の元へ向かう。
関羽「すまん姜維。約束は守れそうにない……周倉の仇を取らねばな」
関羽は申し訳なさそうな表情をした。
関羽「この感覚……久し振りだ。呉軍……お前達はそれがしを本気にさせた……その報いを受けるがいい!」
関羽は僅かな将兵を率い呉軍に突進した。
関羽と離れ姜維は馬を走らせる。
姜維「くそ! 何で……何で! どうして皆、死に急ぐんだ! 関羽さん……周倉君……自分がここまで無力なんて……いや! まだ諦めない! 関羽さんを助けられる可能性はまだ残っている!」
日が暮れ月明かりの中、休むことなく馬を西に走らせ姜維は進んだ。




