成都攻略戦 上
成都攻略戦 上
劉備軍は劉璋軍と戦う決意をし益州の首都である成都の攻略を始めようとしていた。成都は山岳地帯である益州の中でも珍しい広大な平地の中心地点にあった。
何故、そんな場所があるかというと益州は昔、秦という国の土地であった。始皇帝が治める土地で開拓に力を入れられ山を切り崩し人が住める場所となったがとてつもない労働力の賜物である。秦によって多くの奴隷達が遥か昔、この場に送られ人の手が加えられた土地は数百年経過し劉璋軍に恩恵を与えることになっていた。
土壌豊かな土地を奪われまいと劉璋軍は成都に閉じ籠り防戦に徹してようとしていた。
姜維「いよいよ成都攻略です」
劉備「姜維君。劉璋殿は同族なので出来れば殺す様な真似は……」
早朝の軍議が始まろうとしていた。
姜維「流石にその様な真似は致しません。只、城門を閉じている所を見ると徹底抗戦の姿勢が伺えます」
諸葛亮「姜維もそこまで考えるようになりましたか。で? この戦どうするつもりですか?」
孔明は敢えて姜維に問う。
姜維「そうですね……籠城するつもりでしょうから本来なら兵糧攻めが好ましいのですが……成都内の民まで苦しめ長期戦となるので、それは避けたいと考えています」
諸葛亮「良く気付きました。狙うは劉璋軍であり益州の民を苦しめる戦いは避けるべきです。ここは討って出て来て頂きたいものですね」
姜維「僕もそう思います。ですが良い方法が思い浮かびません」
馬謖「私に考えがあります。劉備軍の兵糧が少ないという噂を流してから撤退する振りをし、劉璋軍を誘き出しましょう!」
姜維「うーん。先の戦いで偽報撤退は使ったのでそれは難しいかも……」
馬謖「では、他に方法があるのか? 殻に閉じこもった敵はそうそう誘き出せない」
諸葛亮「まあまあ。敵を騙すことだけが戦略ではありません。時には今ある手の内を最大に利用することも軍略の一つです」
姜維「と言いますと?」
諸葛亮「劉備軍は猛将揃いです。城の四方から力攻めします。北は張飛殿、東に趙雲殿、西に黄忠殿、南は魏延に攻めて頂きましょう」
諸葛亮「そして敢えて拠点を劉備様だけにし守りを薄くしましょう」
馬謖「それでは劉璋軍は間違いなく劉備様と拠点を狙って来ます! 劉備様に危険が!」
諸葛亮「そこです。民に危害を加えず劉璋軍を誘き出すにはそれしかありません。確かに拠点の守りに、もう一人猛将が居れば……」
趙雲「拠点を落とされる前に成都を落とすしかないか……」
姜維「それか敵を誘きだした時点で各部隊を戻すのが良策だと思います」
諸葛亮「それはなりません」
趙雲「孔明軍師。どうしてですか? 劉備様の安全を考えれば自分は姜維の意見に賛成です」
諸葛亮「劉璋軍への攻撃の手を緩めることになるからと言っておきましょう。敵の希望を潰し尚、苛烈な攻撃を加え続けることで初めて降伏とういう文字が頭を過ぎるのです。劉璋軍には自分で門を開けさせることで初めて我々の勝利と言える」
趙雲「なるほど……門を破られ降伏するか門を破られる前に己から降伏する……確かに意味合いが変わりますな」
趙雲は孔明の言葉に納得する。孔明は益州を奪うのではなく。劉璋から譲り受ける形で劉備に治めさせたかった。それがほんの些細なことでも話が千里駆ければ全く違った話になるやも知れない。その為、最後の締めは慎重に進めたいと考えていた。二度と誤解を生まないようにである。
黄忠「軍議の最中失礼します。流浪の方が意識を取り戻し劉備様に礼を言いに来ております」
黄忠が現れる。
馬超「この度は傷の手当をして頂きありがとうございました」
兄貴と呼ばれた男は劉備軍から手当てを受け何とか意識を取り戻し回復した。
劉備「酷い怪我を負っていると聞きました。具合は大丈夫ですか?」
馬超「ありがとうございます。ここは劉備軍の陣営だとお聞きしました。本来であればきちんとした形でお伺いするべきなのですが……あっ申し遅れました。俺は涼州・馬騰の息子。馬超と申します。隣にいるのは従弟の馬岱です」
馬岱「馬岱です。この度はありがとうございました」
劉備「馬騰殿のご子息! あぁっお懐かしい!! 以前、許昌でお会いした時に涼州の素晴らしいお話を聞かせて頂きました!」
劉備は知人の息子である馬超の存在に驚く。
劉備「馬騰殿は元気にしておられますか?」
馬超「それが……父と弟は曹操に殺されてしまった……俺は涼州兵十万で曹操軍に戦いを挑んだが力及ばず……」
馬超の言葉からやり切れない想いが伝わってくる。
劉備「そんな……馬超殿。行くあてはあるのですか? 無いのであれば私の客人としてお迎えしますよ」
馬超「ありがとうございます。しかし、出来ることであれば客人としてでは無く、武将として馬岱も共に劉備軍にお迎え頂きたい」
劉備「しかし……馬騰殿のご子息を武将としてだなんて……」
諸葛亮「劉備様。益州の戦いでご存知ではないとは思いますが。馬超殿は敗れたと言っても曹操をギリギリまで追い詰めた猛将です。その名を『錦馬超』や『神威将軍』と謳われております」
姜維「馬謖君がこの前言っていた。曹操を後一歩の所まで追い詰めた、あの馬超さん……」
劉備「あ! 姜維君の一言で思い出しました」
馬超は涼州を治める馬騰の長男である。馬超は弟と父ある馬騰を曹操によって殺された。理由は曹操暗殺を目論見それが露見したことである。涼州は荒れた大地で作物を育てるには適した土地ではなく主に畜産が主軸とした地域で幼少期から馬に乗り扱い強力ば騎馬軍を持った。その中でも馬超の強さは突出しており曹操軍を恐怖に陥れた。馬岱もまた馬超にかなわないながらも優れた馬術で馬超を助けた。
劉備「馬超さん。馬岱さんまだまだ未熟な私ですが喜んでお迎えします」
馬超「ありがとうございます! 我が武勇をご覧下さい!」
馬超と馬岱は劉備軍に迎え入れられることになった。
馬超「ところで……そちらの方は……」
趙雲「ん? 自分か? 自分は趙雲と申す」
馬超の目が趙雲の方に向けられた。趙雲はそのことに気づき自己紹介をする。
馬岱「あっ……」
馬岱の表情が固まる。
馬超「あなたが噂に名高い趙雲殿! これを機会に色々とお近づきになりたい……」
劉備に対してとても紳士的だった馬超だが趙雲に対しては何故か興奮気味だ。
趙雲「ふむ。自分は一向に構わないが……」
馬岱「はぁ、兄貴の悪い癖が……」
馬岱は呟く。
姜維「何だか馬超さん……趙雲さんを見る目だけが違う様な……」
姜維は馬超が趙雲を見る目だけ違うことに気づく。
馬超「劉備軍に来たこと……運命的なものを感じる……趙雲殿。これからは子龍と呼ばせて貰おう。そして俺のことも孟起と呼んで頂きたい」
趙雲「自分のことを子龍と呼ぶのは一向に構わんが孟起と呼ぶのは遠慮しておこう」
馬超「なっ何故なんだ子龍!」
いきなりため口である。
趙雲「共に劉備様にお仕えする身だ。馴れ合いではなく尊敬の念で接していたい」
馬超「んが!」
馬超は顔を真っ赤にする。
諸葛亮「正に天運ですね。劉璋軍には馬超殿と馬岱殿の存在はまだ知られていません。これで劉備様の防衛を馬超殿、馬岱殿の二人に任せれば完全な策となります」
姜維「はい! 頼もしい味方が二人も増えました!」
諸葛亮「では劉璋軍が成都を出た時点で馬超殿達は出撃して下さい」
馬超「分かりました。お任せ下さい。なっ馬岱!」
馬岱「そうだね兄貴!」
馬超と馬岱は劉備軍での初めての初陣に張り切っていた。
成都は堅城でとても大きな城塞であった。まず初めに劉備だけが陣を構えるが成都の南に陣を展開する。成都攻めの部隊は北かた攻める形をとり劉璋軍が素早く劉備を狙うことが出来る様にした。劉備の陣が薄いことから劉璋軍は絶好の機を逃すまいと大軍を成都から出撃させ劉備に迫る。
姜維「劉璋軍をうまく誘き出せたようです!」
劉備「ええ……そうみたいですね……でも随分多いような……」
劉璋軍は全軍に近い軍を劉備に差し向けた。
姜維「馬超さん! 馬岱さん! 宜しくお願いします!」
馬超「ああっ任せてくれ!」
馬岱「劉璋軍の連中。兄貴がここいると分かれば驚くだろうな」
馬岱は含みを持たせる。
姜維は劉備を守るべく劉璋軍の一波を止める役割だ。槍兵を中心に編成された部隊は敵を近づけさせない為で、敵を足止めし馬謖の率いる弓兵で迎え討つ。そこに馬超と馬岱の率いる騎馬隊が劉璋軍の横腹を襲うのが作戦だ。
劉璋軍の一波が姜維の部隊に襲い掛かる。ここでは止めることが目的で兵士達には防御に徹するよう指示をだしていた。敵を止めることに成功した姜維の部隊を見て馬謖の部隊は一斉に矢を射る。劉璋軍の兵は次々と倒れるが成都から出てきた劉璋軍の数が予想以上に多く気がつけば囲まれるつつある。
姜維「いけない! このままだと劉備さんまで!」
姜維が焦りを感じたその時。
ドドドドド
地鳴りの様な音と共に馬超と馬岱の部隊が現れた。姜維は少し遅い……と思ったがその思いは後で別の理由があることを知る。
馬超の騎馬隊が劉璋軍の横腹を突く。そこで劉備軍も劉璋軍も信じられない光景を目にした。確かにいるはずの兵がいないが如く騎馬隊は劉璋軍の横腹を捉え、そして突き抜けていった。躱された? いや騎馬によって踏みつぶされのである。馬超と馬岱の率いる騎馬隊の後は無残にも馬の蹄で踏みつぶされた兵が泥にまみれ横たわる。そんな時ボロボロの旗を馬岱は掲げる。その旗には『馬』の一文字が書かれている。
馬超「涼州の馬孟起推参! 我が槍の前にはだかる者どもよ! この馬超、如何なる武も受け止める所存! さぁ存分に死合おうではないか!」
馬超は劉璋軍に一喝する。その瞬間、劉璋軍は我先に逃げ惑い始めた。
姜維「え? 一体何があったんだ……いや何をしたんだ……」
馬岱「兄貴の強さを知らない者はここにはない」
気が付けば馬岱が姜維の近くまで来ていた。
姜維「それって……」
馬岱「今まで涼州には誰も手を出すことが出来なかった。劉璋は北の張魯と共に何度か涼州に侵攻したけど兄貴の率いる騎馬隊で粉々にされてたからね」
姜維「そうだったんだ……だからか……敵を出来るだけまとめておきたかったんだ」
馬岱「出て来るのが遅いと思ったんだろ? 悪気はないんだ。兄貴の名で逃げる者は必ずいる。恐怖は伝染するから一人逃げれば後は……言わなくても分かるよね」
姜維「ええ」
一度、崩れた士気を戻すことが難しいことは分かっていた。だが姜維は旗を掲げただけでここまで逃げ惑う劉璋軍に馬超は一体どれほどの恐怖を与えていたのだろうかと思った。
馬岱「ははは。そんな神妙な顔をしないでくれよ」
姜維「今までの戦いでこれ程の……その……一人の武将の影響力というか……」
馬岱「なぁ姜維殿。俺と兄貴が乗る馬に気づかないか?」
馬岱は姜維に問う。
姜維「馬……あっ……」
姜維は馬の大きさに気づく。太くそして異常に盛り上がった筋肉。趙雲の愛馬とは違う同じ馬でもここまで違うものなかと姜維は思った。
馬岱「大きいだろ。手塩にかけて育てた……涼州は起伏が激しく荒れた土地だ。草原を駆ける優雅さはないが大地を踏み締める脚力は涼州ならではの馬の特徴なんだ」
馬岱はそう言って馬の首を撫でる。
姜維「ひとたまりもありませんね。劉璋軍にぶつかって時に感じた違和感の正体が分かりました」
姜維はそう言って劉璋軍に目を向ける。馬超の出現によって我先に逃げる劉璋軍は馬超の執拗な攻撃に倒れていく。
劉備「姜維くん! 馬岱さん!」
劉備が青ざめた顔でやってくる。
劉備「勝敗は決したと思います! 馬超さんに攻撃を止めさせて下さい!」
姜維「分かりました」
姜維は劉備の気持ちを察した。あまりにも力の差がありそれは戦いとは言える状況ではなかった。一方的な殺戮とも言える馬超の活躍に劉備も見るに絶えないのだと思った。姜維は退却の合図を送る。大きな銅鑼の音が鳴らされ馬超が引き上げる。
馬超「劉備様。いかがでしょうか」
退却した馬超は劉備に戦果を問う。
劉備「とても頼もしく思いますが……やりすぎは……」
馬超「劉備様にはその様に写りましたか……ですがこれが涼州の戦い方です」
劉備「そうかもしれませんが……」
馬超「そしてその戦い方も曹操軍の前に敗れることになりました」
劉備「!」
劉備は馬超の言葉に気付く。軍が強くなるということはそれだけ残酷さを増す。そして曹操軍と戦う為には更に強くならなければならないことに。
劉備「馬超さん……そういうことですよね……申し訳ない……」
馬超「いえ。俺と馬岱が劉備様にお仕えすることはまさに天命。打倒曹操を目標に今、以上の戦いをせねばなりません」
姜維「劉備さん。僕は劉備さんの敵をも憂う心はきっと曹操を打ち倒す武器となると信じています」
姜維は遠回しに劉備を気遣う。
劉備「ええ。ありがとう……私も少し昔に戻らねばなりませんね……」
「昔に?」
姜維達は劉備に問う。
劉備「私も一介の武将でした。そう……雲ちゃんや飛ちゃんと共に戦場を駆けた一輪の花でした」
馬超「劉備様の話は涼州までも聞こえていました」
馬岱「関羽殿と張飛殿がめちゃくちゃ強いんだよな!」
劉備「確かに私は雲ちゃんや飛ちゃんの様な強さを持ち合わせていません。ですが私は可憐な戦士で血生臭い戦場を華やかにする戦いで常に前線で戦っていたのです」
姜維「……」
姜維は思った。この流れは来るな……と。
劉備「戦場のむさ苦しい男どもの視線は常に私の美しい身体に釘付けとなり雲ちゃんや飛ちゃんはそんな油断した愚かな者を刈っていただけに過ぎません……」
「……」
誰もが言葉を失う……が姜維だけはやっぱ来たと自分の予想した展開が合ったことに喜んでいた。
劉備「何が言いたいかと言うとですね。私は罪な女だということです」
誰もが何故そうなるのか分からず口を閉じる。
馬謖「劉備様! 敵を退けたことで成都から白旗が上がりました! 既に城門が開き趙雲殿達が成都に入ったようです!」
馬謖の報告を聞き一同は成都に向かった。




