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雷子  作者: 三幸
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鳳雛参戦 上

鳳雛参戦 上


 劉備軍は赤壁の戦いの後、荊州南部の大河に近い位置する場所に陣を構えていた。


 荊州は広く長江を跨ぎ中華の中心部として劉表が治めていたが劉表亡き後は曹操に規準し長江南部は曹操軍だがその実、元劉表軍であった。赤壁の戦いから呉軍は一気に大河を渡り曹操軍の領土に攻め入り南荊州への侵攻までは手がまわらない状況だった。

 

 孔明は曹操軍から援軍はないと思われる南荊州の攻略に乗り出し劉備に初めての領土を持たさんと動き出す……。


張飛「赤壁の戦い凄かったねー」


キョウ「そうだね。張飛……」


 南荊州の最北部である武陵と長沙の中心地点に陣を張った劉備軍。キョウと張飛は陣から少し離れた場所に居た。


張飛「ん? 兄ちゃん元気ないねー」


キョウ「えっそんなことないよ。ちょっと考えごとをね」


張飛「なになに? 張飛のことー?」


キョウ「いや。違う」


張飛「なにそれーー!」


キョウ「ちょっ! なんで怒るんだよ」


張飛「なんでだっていいじゃんか! で! 考えごとってなに!」


キョウ「考えごとって言うか……自分の無力さを感じてね」


張飛「無力さ? 兄ちゃんが弱いってことー?」


キョウ「弱いって言うか先生や周瑜殿。凄い人たちが沢山いる中で自分がもの凄くちっぽけな存在に思えてね」


張飛「なんだーそんなことかー。兄ちゃんは兄ちゃんで良いじゃん」


キョウ「それはそうなんだけど何となく気持ちが追いつかないと言うか」


張飛「ふーん。それは誰かに認められたいの?」


キョウ「そういうわけでは……」


張飛「そうじゃん。兄ちゃん誰かに認めてほしいだけじゃん。兄ちゃんのこと皆認めてるよ! 特に張飛は!」


キョウ「張飛……ありがとう。何だか少し元気になったよ」


張飛「えへへへへー」

 張飛の励ましを有難く思うキョウであった。


物乞いの様な男「そこの嬢ちゃん。ここは劉備軍の陣営かい?」


 張飛にがっしりとした体躯をし渋さを醸し出す男が話かける。一見、物乞いの様な風貌だがどこか親しみを感じる。


張飛「そうだよー。おじさん誰ー?」


キョウ「こら張飛! 初対面の方におじさんとは失礼だぞ! 失礼致しました。この子に悪気はないのです。申し訳ありません」


物乞いの様な男「いやいや気にしねーよ。そんなことよりこの嬢ちゃんがあの張飛殿かい? 随分可愛いらしいじゃないか」


張飛「えへへ、おじさんも中々いけてると思うよー」

 張飛と男は気が合うようだ。


キョウ「何だか物凄く砕けた人だな……」


物乞いの様な男「ってことは、あんちゃんも劉備軍の人かい?」


キョウ「はい。劉備軍軍師見習いキョウと申します」


物乞いの様な男「ほほー。軍師見習いとな! それは結構だ。ではキョウ殿に少し頼みたいことがあるんだが」


キョウ「はい。僕に出来ることであれば別に構わないですが」


物乞いの様な男「ここに孔明がいると思うんだが案内してくれんか?」


キョウ「えっ? 先生のお知り合いですか?」


物乞いの様な男「そうとも。昔からの馴染みだ」


キョウ「そうだったのですね。今、ご案内します」


 キョウは男を案内しようとする。


張飛「ちょっと! 兄ちゃん! これから一緒に遊ぼうと思ってたのに!」


キョウ「張飛。先生の来客なんだから、少し待ってくれって」


物乞いの様な男「ありゃ。これは譲ちゃんに悪いことしたかな? ちょっといいかい? 嬢ちゃん」


張飛「おじさん何ー?」

 張飛が男に近寄る。


物乞いの様な男「キョウ殿が嬢ちゃんに夢中になる方法を教えてあげよう」


張飛「そんな方法があるの!」


キョウ「何をコソコソと話しているんです?」


張飛「兄ちゃん! 少し向こうに行ってて!」


キョウ「なんだよ、一体……」


 キョウは少し離れ、こそこそと張飛と男が話ているのを眺める。


物乞いの様な男「いいかい? 嬢ちゃん。俺が見たところキョウ殿は嬢ちゃんに対しそれなりに好意を持っている様だ」


張飛「本当?!」


物乞いの様な男「ああー本当だ。ただ嬢ちゃんが近づけば近づく程、キョウ殿は離れてしまう。そこでだ、嬢ちゃんから少し我慢して距離を置いてごらん?」


張飛「距離を置く?」


物乞いの様な男「そうだ。そうすればキョウ殿の方から寂しくなって、嬢ちゃんに近寄ってくるから」


張飛「本当に!? 本当に本当に!?」


物乞いの様な男「ああ。大事な物は失って初めて気付くことが多い。その応用だ」


張飛「おじさんありがとー!」


物乞いの様な男「どういたしまして。キョウ殿お待たせして申し訳ない。孔明の所へ参ろうか」


キョウ「はい、ご案内します」


張飛「兄ちゃん! おじさん、じゃーねー!」


キョウ「張飛と何を話していたんです?」


ホウ統「なーに。駆け引きの心得をちょいとな」


キョウ「駆け引きの心得?」


 手を振る張飛を背にキョウは物乞いの様な男を孔明の元へ案内しようと陣に向かう。



 天幕で孔明達が軍議を初めていた。


諸葛亮「呉軍は先の赤壁の戦の後、曹操軍を追撃し合肥と江陵の攻略をしています」


劉備「では私達はどうしますか孔明?」


諸葛亮「我ら劉備軍は南荊州に滞在する曹操軍残党を排除し南荊州を手に入れます」

 

キョウ「失礼します。先生お客様がお見えです」


諸葛亮「今は軍議中です。後にして下さい」


物乞いの様な男「随分冷たいじゃないか孔明」


諸葛亮「ホウ統! 客とはあなただったのですか!」


 物乞いの様な男の出現に孔明は驚いた。


ホウ統「久しいな孔明。元気にしてたか?」


 ホウ統と呼ばれた男は孔明と面識があるようだ。


諸葛亮「元気にしています。一体どういう風の吹き回しですか? 突然訪ねてくるなんて」


ホウ統「お前さんのことだから赤壁をどうやって火計を成功させたか気になって眠れないんじゃないかと思ってな」


諸葛亮「!」


ホウ統「図星だな」


ホウ統「実はな。俺は先日まで呉軍にいたんだ」


諸葛亮「呉軍に? ではあの赤壁での大勝はホウ統の策略によるものですか?」


ホウ統「いんや。俺と周瑜の二人で描いた策だな」


諸葛亮「そういうことでしたか……少しホっとしました。周瑜殿一人の策略であれば脅威でしたがホウ統が居たのなら納得もできます」


劉備「孔明この方は?」


諸葛亮「劉備様この者は私の旧友。鳳雛ことホウ統士元です」


劉備「鳳雛って! 孔明と肩を並べる知略の持ち主あの鳳雛ですか!」


ホウ統「以後、お見知りおきを」


キョウ「えっ! 先生と肩を並べる知略って! そんな凄い人だったのですか!」


ホウ統「キョウ殿。人は見た目で判断してはいけないってことが分かって良い勉強になったな」

 ホウ統は笑顔でキョウに話掛ける。


キョウ「あっ……それは張飛と初めて出会った時に勉強済みでしたが復習になりました……」


ホウ統「はっはっは。そっかそっか! それは良かった」


諸葛亮「それで赤壁での裏舞台を話しに来てくれたのはありがたいのですが今は軍議中です。ホウ統、少し待っていて下さい」


劉備「孔明。ホウ統さんがわざわざ訪ねて来て下さったのに……」


諸葛亮「いいえ駄目です。呉軍に籍を置いている者をここに居させる訳にはいきません」


ホウ統「俺がいつ呉軍に籍を入れたと言った? 俺は呉軍の客将としていただけだ。もちろん呉軍にはちゃんと挨拶も済ませて去ってきた」


諸葛亮「では、一体どうして……」


ホウ統「劉備軍に迎えて貰おうと思ってな」


諸葛亮「なんですって!」


劉備「ほっ本当ですか!」


ホウ統「もちろんです。劉備様さえ良ければですが」


劉備「大歓迎です! ねっ! 孔明!」


諸葛亮「ホウ統を迎え入れるのは賛成ですが……ホウ統あなたの考えを聞かせて下さい」


ホウ統「これから面白くなるからさ」


諸葛亮「面白く?」


ホウ統「とぼけるなよ孔明。この先劉備軍が大きくなるにつれ軍を二つに分ける必要がある」


ホウ統「劉備軍は猛将揃いだが肝心の軍師が不足している。だからキョウ殿を弟子にした……」


諸葛亮「はぁ……あなたに隠しごとは出来ませんね。劉備様、ホウ統を迎え入れましょう」


劉備「はい! もちろんです!」


ホウ統「これから宜しくお願い致します」


キョウ「凄い……どうして劉備さんの元にはこう人が集まってくるんだ。劉備さんの人柄故の魅力なんだろうか」

 キョウは劉備の人徳が対曹操への力だと感じた。


劉備「では、皆さんには私からホウ統さんを紹介してきますね」


諸葛亮「分かりました。キョウに南荊州の制圧作戦を伝えますので後から各武将達に報告して下さい」


ホウ統「孔明。南荊州四郡の内、三郡同時攻略だろ?」

 ホウ統が口を挟む。


諸葛亮「ホウ統! 横から口を挟まないで下さい! 劉備様がお待ちです! 早く行きなさい!」


ホウ統「へーへー」

 ホウ統は劉備の後を追いかける。


諸葛亮「まったく……あっそれで作戦内容ですが」


キョウ「三郡同時攻略ですか?」


諸葛亮「そっそうです」


キョウ「ホウ統さん凄いなー」


諸葛亮「!」

(いけない! キョウの先生としての私の威厳が……!)


諸葛亮「たっ確かにホウ統の知略には目を見張るものがあります。しかし私だって決してホウ統に劣る訳ではありませんから……」


キョウ「もちろんそう思っていますよ。先生」


諸葛亮「そっそれなら良いのです! 少し話が逸れましたが此度の作戦は呉軍と曹操軍が戦っている間に決着をつけなければなりません」


 孔明は切り替え作戦内容をキョウに伝え始める。


諸葛亮「その為、速度を重視した作戦になります。地方の凡将揃いの曹操軍であれば容易い攻略出来るでしょう。そもそも元は劉表軍で戦いの経験など皆無です負けることの方が難しい戦いです」


キョウ「分かりました。では皆にその様に伝えてきます」


諸葛亮「お願いしますね」

 

 キョウは天幕を去る。


諸葛亮「はぁ……助かるのは助かるのですがやりにくい……」


 ホウ統の参軍に自分の立場が少し揺らぐ気がした孔明であった。


 キョウは作戦の内容を皆に伝えるべくまず関羽の元へ向かう。


キョウ「関羽さん!」


関羽「キョウか作戦なら先ほど聞いたぞ?」


キョウ「え? 誰にですか?」


関羽「劉姉からホウ統殿を紹介されてな。その時に」


キョウ「そうでしたか……仕事が早いな……」


関羽「何でもそれがしには零陵の攻略を任せたいとのことだ」


キョウ「え? そんな細かい指示があったのですか?」


関羽「うむ。張は武陵で趙雲は桂陽だそうだ」


キョウ「どうしてそんなことを短時間で決めてしまえるんだろ」


関羽「はははは! 簡単なことだ。ここから最も遠い場所に騎馬の得意な趙雲を。最も近い場所に歩兵で編成された張の部隊をと言ったところだろう」


キョウ「じゃあ関羽さんは余ったところを任されたんですね」


関羽「キョウ!」


キョウ「嘘です! 冗談です!」


関羽「まったく……それがしの武を何だと思っているのか」

 関羽は不貞腐れる。


キョウ「この分だとみんなに指示は行き渡っているようだな」


関羽「キョウは誰の所に属するんだ? もし良ければたまにはそれがしと一緒にどうだ?」


キョウ「零陵の攻略に参加しろってことですよね」


関羽「それ以外に何がある」


キョウ「僕から先生に伝えてみます」


関羽「そうするといい」


 キョウは孔明の元へ向かう。


諸葛亮「ホウ統! 何故勝手に作戦の内容を決めてしまうのですか!」


ホウ統「そう大きな声で怒鳴るなよ。合ってるだろ? お前さんの考えと」


 天幕の中で孔明の怒声が響く。


諸葛亮「ええ! 合っていますよ! 完璧ですよ! だからと言って新参者のあなたが決めてよいことではありません」


ホウ統「孔明。よく考えてもみろよ。お前さんの手間が一つなくなっただぜ?」


諸葛亮「ええ! 助かりましたよ! ありがとうございます! だから!」


ホウ統「そんなにキョウ殿が気になるのか?」


諸葛亮「!」

 孔明はホウ統の一言で固まる。


ホウ統「おかしいと思ったんだよ。お前が弟子? 状況がそうさせた? 確かにそうかも知れん……だがそれだけじゃない」


諸葛亮「キョウは……あの子はちょっと特別かも知れません……」


ホウ統「言ってみろよ何があった」


諸葛亮「実は……」


 孔明はキョウのこれまでの出会いと出来事をホウ統に伝えた。


ホウ統「分からん。話を聞く限り特にこれと言って何かあるとは思えん……」


諸葛亮「本当にそう思いますか? 初めての命のやり取りをそんな簡単に割り切れるものでしょうか?」


ホウ統「割り切らなければ生きていけない時代だ」


諸葛亮「そうかも知れませんが……」


ホウ統「ははーん……そういうことか……」


諸葛亮「何です?」


ホウ統「いや。異性に惹かれることは別に悪いことじゃないさ」


諸葛亮「なっ何を!」

 孔明は赤面する。


ホウ統「恥ずかしがるなよ。俺は人間らしいお前さんを見れて嬉しいぜ」


諸葛亮「弟子に欲情する師が何処にいるのですか!」


ホウ統「いるじゃないか。俺の目の前に」


諸葛亮「ホウ統! それ以上戯言を吐くならあなたの大好きな酒を一滴たりとも与えませんよ!」


ホウ統「よし俺が悪かった! この件は、はい終わり!」


 ホウ統は大好物の酒を断たれることを恐れ話を終わらす。


キョウ「あの先生」

 キョウは恐る恐る天幕に入る。


諸葛亮「キョウ! どっどうかしましたか!?」

 キョウが現れ先ほどの会話が聞かれていないか心配になる孔明。


キョウ「僕を零陵攻略に参加させて欲しいのですが……」


諸葛亮「零陵? えっええ構いませんよ」

 孔明は取り合えず聞かれていないようだと思い安心する。


ホウ統「なぜ零陵に?」


キョウ「関羽さんに一緒にどうだと誘われてですね」


ホウ統「ほう……なら俺も一緒に同行させてもらおう」


諸葛亮「また勝手に……」


ホウ統「まぁキョウ殿の実力を確かめたいだけさ。それくらい許してくれよ」


キョウ「僕は構いません。では後で関羽さんの部隊に合流して下さい」


ホウ統「ああ。直ぐに行く」


 キョウは関羽の元に向かう。


諸葛亮「……」

 孔明がホウ統を睨む。


ホウ統「大丈夫だ。変なことを吹き込んだりしない。お前が何を感じているのか興味があるだけだ」


諸葛亮「なら結構です……だがもし私がキョウに対し恋心を抱いているような妄言をほざけば……分かっていますね……」


ホウ統「あっああ……分かってる……って……」

 ホウ統は孔明の本気を感じ取った。




関羽「キョウ。ここに来たということは孔明からの許可は得られたということだな」


キョウ「はい。あれ? 関羽さんだけですか? 周倉君は?」


関羽「周倉は劉姉と孔明の護衛で残りの長沙攻略の準備をすることになった」


キョウ「ホウ統さんも合流するそうです」


関羽「ほぉ」


キョウ「どうやって攻め落としますか?」


関羽「城攻めは門を破らねばな話にならん。力攻めあるのみよ」


キョウ「なるほど……となると攻め側の初手はどうしても不利になるな……」


関羽「止むを得んだろう。城攻めは昔から愚策の一つと言われているからな」


キョウ「敵が討って出てくれればいいんだけど……そうはいかないか……」


ホウ統「その通り。そうはいかないんだよ」


キョウ「ホウ統さん」


 ホウ統が現れる。


関羽「ホウ統殿。ここは短期間で決着を付けるべくそれがしが……」


ホウ統「無用だ」


「!」


 関羽とキョウはホウ統の言葉に驚く。


ホウ統「まぁ見てるといい。少し準備をするから零陵に先に行ってくれないか。その時に必ず零陵から見えるか見えないかの場所に布陣してくれ」


関羽「何か考えがあるようだがあまり余裕があるわけではない。時間がかかるようならそれがしは動かせてもらう」


ホウ統「それで構わない」


 ホウ統は関羽とキョウにそう言って去る。


キョウ「ホウ統さんは一体なにを考えているのでしょうか?」


関羽「分からん。ただ一つ言えるのは孔明と同じ知略を持つ男というだけだ」



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