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雷子  作者: 三幸
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同盟と十万の矢 中

同盟と十万の矢 中


 一晩を宿で過ごし呉の孫権の元へ訪問する朝。キョウは孔明の声で目覚めることとなった。


諸葛亮「キョウ。起きなさい」


キョウ「えっ……」

 

 寝ぼけた声で返すキョウ。完全に熟睡していた。


キョウ「先生すみません! 直ぐに支度します!」

 

 孔明は既に支度を終えていた。キョウは寝過ごしたと思い急ぎ支度をする。


諸葛亮「大丈夫ですよ。まだ時間はあります」

 

 孔明は出来るだけキョウを寝かせてあげたかったのだが余裕を持って行動したかった。


 キョウ達は会計を済ませ孫権の元へ向かう。


キョウ「うわー。先生と一緒とはいえ緊張するな」


諸葛亮「孫権殿は話しやすい方だと思いますよ……少し驚くかもしれませんが」

 孔明は含みを持たせてキョウに言った。


 建業の中心にある宮殿に二人は向かう。


呉軍兵士「止まれ。ここに何用だ」

 

諸葛亮「劉備軍の使者である諸葛亮です。孫権様にお目通りする為に参りました」


呉軍兵士「伺っております。どうぞ」


諸葛亮「ありがとうございます」

 

 孔明とキョウは門を潜ろうと足を進める。


宿主「おーい! 待ってくれ!」

 宿主が追いかけてくる。


キョウ「どうかしましたか?」


宿主「忘れ物だよ。間に合ってよかった」


キョウ「ありがとうございます」

 

キョウは礼を言った。忘れ物……先生のだろうか? 折り畳まれた小さな布だった。キョウはその布を胸にしまった。


 孔明とキョウは孫権の元へ案内される。


孫権「おー! そなたが曹操軍十万を二度退けた、天下の天才軍師・諸葛亮殿か!!」


 多くの将と文官がいる場所に通されたキョウ達は小さな活発な男子の開口一番に孫権だと気づく。


諸葛亮「孫権様。諸葛亮孔明と申します。付き添いの者はキョウと申し私の護衛になります。本日はご面会の機会を頂きありがとうございます」


キョウ「お会い出来て光栄です」


キョウ(えっ? えっ? この子が孫権!? 僕よりずっと年下じゃないか)

 キョウは驚いた。


孫権「はっはっは! 天才軍師・諸葛亮に会えるのであれば時間はいくらでもくれてやるぞ!」

 孫権は豪気を吐く。


孫権「で? ここまで来たのにはそれなりの理由があるのであろう。曹操軍に対して戦をけしかけさせる為に来たとかな」


キョウ「先生こちらの意図は見透かされてます……ここは否定して友好的な態度を見せた方が……」

 キョウは孔明の後ろから小さな声でつぶやくように話す。


諸葛亮「その通りです。呉軍に血を流せと言いに来たのです」


キョウ「先生!」

 

 孔明の過激とも発言にキョウは驚いた。回りにいる呉の臣下の眼が強くなる。


孫権「変に言い訳しようものなら首を刎ねようかと思っておったが肝も据わっておるな」


諸葛亮「お褒めの言葉嬉しく思います。ここに参ったのは呉の未来を勝ち取る為には血を流さねばならないことを説きに参りました」


甘寧「おいおい。お前らは曹操軍に敗れて呉と曹操を戦わせようとしてるだけだろうが!」

 

 赤い髪と赤い鎧に包まれた呉の武将甘寧がくってかかる。


キョウ「何だか強そうな人が出てきた……」


甘寧「おっと。自己紹介が先だな。俺は呉軍最強の甘寧だ。宜しくな」


キョウ「よっ宜しくお願いします」


孫権「まぁ待て甘寧。天才軍師殿の話をもう少し聞こうではないか」


諸葛亮「よろしいでしょうか。曹操の覇道は人の道に非ず。近い将来、必ずやその矛先は呉に向きます」

 

 孔明はまず曹操の政治批判から始める。


諸葛亮「その時、呉は戦いか降伏の二択を迫られるでしょう。降伏の道を歩めば、呉の民は曹操の為政に怯え孫権様とその一族は皆殺しにされることは明白。まことに呉の未来を見据え、主を思えば選択の余地はありません。一時的な問題を先に延ばしても根本的な解決にはなりえないのです」


孫権「だが我々は曹操と盟を結ぶ道も残っている。それについては?」


諸葛亮「荊州が落ちた今、曹操軍が呉へ侵略するのは必然です。劉備軍の追撃とは、ただの口実に過ぎません。歴然とした力関係は果たして同盟として成り立つのでしょうか? いいえ、徐々に密偵、謀略を施され孫権様は丸裸にされるのも時間の問題……それでも曹操との盟を結ぼうと思いますか? 今の時点で曹操が同盟を受け入れるとは思えません。しかし……相応の貢物をすれば呉の民とその将兵は身の保証を約束されるかもしれません」


孫権「相応の貢物?」


諸葛亮「例えば……孫権様の首、とか」


甘寧「なんだと! てめー言っていいことと悪いことがあんだろうが!」

 甘寧は孔明の言葉に吠える。


諸葛亮「甘寧殿。そうすれば同盟及び、あなた方の命は助かるでしょう」


甘寧「調子に乗ってんじゃねーぞ。先にあんたの首を送ってもいいんだぜ!」


キョウ「先生、何だか不味い空気になってます!」


孫権「止めろ甘寧! 諸葛亮の戯言に惑わされるな。だが……一理はある。いざとなったら朕の首を刎ねるか?」


甘寧「まさか! 何を言ってるのですか!? 孫権様、そんなことはありえません! そんな輩が呉にいたら俺が叩き斬ってやります!」


キョウ「話の流れが変わった……」


 キョウは何かを感じ取る。


孫権「ははは。甘寧、その気持ち嬉しく思うぞ。しかし天才軍師と周瑜の意見がここまで同じだとはな」


甘寧「えっ? 周喩様と?」


孫権「うむ。周瑜もこの機会に曹操と戦うべきだと進言してきたのだ」


キョウ「周瑜……殿?」


孫権「ん? 周瑜とは我が軍の総指揮官だ。なかなか聡明なやつよ」


 孫権はキョウに周瑜の存在を簡単に話した。


孫権「よし。劉備軍との同盟を受け入れようではないか」


キョウ「やった!」


諸葛亮「孫権様。出過ぎたことを申しました。非礼を詫びます」


孫権「しかし、ここまで大見栄を切ったのだ。無論、勝機はあるのだろうな?」


諸葛亮「もちろんです。曹操軍の水上戦での経験不足、不慣れな土地での疲労。我らが軍を勝利に導く要素が多々あります。ご要望がございますなら何なりとお申し付け下さい。断れる立場ではございません」


周瑜「孫権様、よろしいでしょうか」


 周瑜が現れる。周瑜は孫権の亡き兄である孫策の親友であり呉一の頭脳を持つ女性だ。下着の様な姿で過ごし妖艶だが危険な匂いをまとう周瑜を見てキョウは先ほどの孫権から聡明と言っていたことに疑心を抱いた。


孫権「おおっ! 周瑜、来ていたのか!」


周瑜「申し訳ございません。諸葛亮殿の弁をお聞きしたく見物させて頂きました」


諸葛亮「初めまして。劉備軍軍師・諸葛亮と申します」


周瑜「呉軍総指揮官・周瑜と申します」


キョウ「こんな綺麗な方が総指揮官を務めておられるのかー」

 綺麗の言葉は本音である。


周瑜「ふふっ。お褒め頂きありがとうキョウ殿」


キョウ「あっ、すみません。私は軍士見習いのキョウと申します。宜しくお願い致します」


周瑜「こちらこそ宜しくお願い致します。さて、本題に入りましょう」


 周瑜は挨拶を済ませ話を戻す。


周瑜「我ら呉軍だけで曹操軍と戦うことも出来ますが劉備軍との同盟については同盟を結ぶ相手として本当に相応しいかどうかを確かめてからにさせてもらいたい」


諸葛亮「はい。当然でしょう」


周瑜「そこで水上戦での要となる矢を三日で十万本。用意して頂きたい」


キョウ「三日で十万本の矢! そんな無茶な!」


諸葛亮「承りました。三日でご用意致します。三日後に劉備軍陣営まで取りにお越し下さい」


キョウ「先生!」


周瑜「流石は諸葛亮殿。頼もしい……十万本の矢。楽しみにしております。ご用意して頂けたなら同盟を結びましょう」


諸葛亮「お任せ下さい。では早速準備にはいりますので本日はこれにて失礼いたします」


キョウ「だっ大丈夫なのか……」

 キョウは不安に襲われた。


周瑜「諸葛亮殿。あなたがここで言った言葉を残す為にも記録を残したい」


諸葛亮「わかりました。形に残すことは信用に繋がります」


周瑜「誰か諸葛亮殿に筆を」


 孔明の元に筆に置かれた。


諸葛亮「それでは……何に書きましょうか……」


キョウ「先生。これに書けば良いのではないでしょうか?」

 

 キョウは胸に閉まっておいた折り畳まれた布を渡した。


諸葛亮「ありがとうキョウ……」

 

孔明は布を受け取り布を広げる。


「!!!!!」

 

 その場にいる全ての者が固まった。孔明が広げた布の正体は孔明が昨晩まで身に着けていた下半身に履く下着であった。それが大勢の前で晒され更に自分で広げてしまったのである。


諸葛亮「あっああ……ああっ……」

 顔を真っ赤に赤面しプルプルと震える孔明。


キョウ「なっなんでそんなものが……」

 

 昨晩。孔明は身に着けていた下着を無意識に米のとぎ汁に入れてしまっていた。

濁った水に沈み気が付かなかったのだ。


孫権「しょっ諸葛亮殿……それに書く……のか?」

 孫権は正気かこいつと思った。


周瑜「諸葛亮殿。いくらなんでも冗談が過ぎる。それはあなたのものですか?」

 周瑜の口調がきつい。


諸葛亮「すーはーー」

 孔明は深呼吸する。


諸葛亮「ははははは! まさか! 私がこのようなダサい下着を身に付けるわけがありません! これは我が主劉備様のものです!」

 

 臣下が主を売った瞬間である。


諸葛亮「劉備様は孫権様であれば恥を捨て心から盟を結べる関係からこの下着を用意したのです!」


 孔明の言葉はとても力強い。


孫権「朕は別に普通に竹簡とかで……」


諸葛亮「今この天下でこれほどの恥を正々堂々と晒せる者は何人いるでしょうか!」 

 

孔明は吠えるが周瑜の目は冷たい。


諸葛亮「その昔。泰山に住む仙人は苦しむ民に言いました。生きることに恥を隠すことは短命となり恥を捨てでも前に進む者にこそ拓ける道があると。正にこれこそが劉備様の生き方なのです! それは曹操に天下を取らせることは万民の不幸の始まりだと分かっているから!」


 これは孔明が咄嗟に作った適当な話である。


孫権「その志は認めるが……」


諸葛亮「志だけなら誰もが抱けるものです! だがその志に行動があるかどうかが最も大事なのです! はい! 甘寧殿! 呉軍最強を謳うあなたに同じことが出来ますか!? 出来るなら今すぐ脱いで下さい!」


甘寧「おっ俺!? え!? 拭って……!?」

 急に孔明にふられ甘寧は動揺する。


諸葛亮「そうその反応! それが普通なのです! ですが劉備様は違う! 恥をものともしない! これこそが劉備軍に備わる強さになるのです!」


 孔明の弁舌と気迫に誰もが『なんとなく認める』しか出来なくなった。


周瑜「いっ言いたいことは分かりました……十万の矢……お願いします」


諸葛亮「もちろんです! さぁキョウ帰りますよ!」


キョウ「はっはい!」


 孔明はキョウの手を引き逃げるように孫権の元を去る。キョウ達が帰った後には孔明の下着だけが残されていた……孫権はとりあえず保管しておくことにした。


 宮殿を後ろに孔明とキョウは緊張が解かれたことに喉が渇く。


諸葛亮「キョウ……今まで生きた中で一番精神的に堪えましたよ……」


キョウ「申し訳ありません! まさか渡された布が劉備様の……ものだったっとは知りませんでした!」

 

 キョウは孔明に土下座し謝る。


諸葛亮「あれは私のものです……」


キョウ「えっ!? じゃあ今は!?」


諸葛亮「安心してください。ちゃんと新しい下着を身に付けています」


キョウ「良かった……先生は痴女じゃかった……」


諸葛亮「それよりもあの下着を劉備様の元と言ったこと隠せるものではありませんが他言無用でお願いします。勢いとはいえああ言うしかありませんでした」


キョウ「確かに……でもよくあの状況であそこまで言えますね。尊敬します」


諸葛亮「はぁ……嬉しいのやら悲しいのやらよく分かりませんね……」

 孔明とキョウは呉の領地に滞在する劉備の元に向かった。



 孔明とキョウが帰った後、孫権と周瑜は腹を割り話す。


孫権「周瑜。十万本の矢などと言ったが……」


周瑜「大丈夫です。諸葛亮であれば用意することでしょう。私なら用意出来ます。問題はその方法に気付けるかどうかです」


孫権「何か良い方法があるのか?」


周瑜「はい。一つだけございます。もし用意出来なければ同盟を結ぶ程の相手ではございません」


孫権「周瑜の考えは厳しいのぉ」


周瑜「どちらにせよ劉備軍は必要になりますので」


孫権「ならば素直に同盟を受け入れれば良かったではないか」


周瑜「ならずものに近い劉備軍に何かしらの功えお立てさせねば呉の臣下は納得しないでしょう」


孫権「そういうことであったか……確かにそうかも知れん」


周瑜「しかしあの下着の件だけは驚きましたが……」


孫権「うむ……今になって思えば笑えるな」


周瑜「あの曹操と戦った者達です。まともな思考ではありません。だからこそ頼もしいと思えます」

 

 会談を終えた周瑜と孫権は劉備軍に友好的だった。


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