雷編 英雄と覇者 下
雷編 英雄と覇者 下
張飛「兄ちゃん! 起きて! 起きてよ!!」
眠る姜尚を張飛が起こす。
姜尚「ん……張飛か……助けが来たってことは火を起こして正解だったな」
張飛「もう! 夏侯惇は!? 大丈夫だったの!?」
姜尚「ああっ……大丈夫。見ての通りだよ」
張飛「本当にさ! どういうつもりなの!? みんな心配してたよ!!」
姜尚「ごめんごめん。張飛がいてくれたから駆け引きに成功したよ。ありがとう」
張飛「むぅううううう!」
張飛はむくれる。
張飛「一歩間違えれば殺されてたかも知れないんだよ!!」
姜尚「あの人はそんな真似はしないよ。道理というものをよく分かってるから」
張飛「は? 何で夏侯惇の肩を持つの?」
姜尚「そんなつもりはないんだけど」
張飛「兄ちゃん! 分かち合い!」
姜尚「分かち合い? そちの方が死と隣合わせだね……」
張飛「言っとくけど。今日の分かち合いは割と本気だから」
姜尚「迷惑もかけたことだし好きなだけいいよ」
張飛「あぁ……そう……」
姜尚には秘策があった。それは藤甲の鎧を中に着込んでいたからだ。
張飛「いっくよぉおおお!」
張飛の腕が姜尚の身体を締め上げる。
姜尚「ぐっ……あれ? よっ鎧が! があぁあああああああ」
藤甲の鎧は刃物を通さないが締め付けには意味がない。張飛の嫉妬心全開の分かち合いに姜尚は叫び声を上げた。
張飛「兄ちゃん! それだよ! その声を聞きたかったんだ!」
姜尚は泡を吹き張飛に連れて帰られた。
天水から曹操軍を追い出した劉備軍は長安を攻略するべく戦力を北に集中させていた。
諸葛亮「報告は聞きました。まさか、夏侯惇が攻めてくるとは……」
姜尚「ええ……武将筆頭自ら攻めてくるとは。こちらの動向を、かなり警戒しているようです。砂嵐を利用して単騎で奇襲をかけるなんて余程の自信がある限り出来ないでしょう」
諸葛亮「で? 他に何か大事なことをまだ聞いていませんよ?」
姜尚「夏侯惇殿と過ごしたことですか?」
諸葛亮「そうです! そのことです! 一体、何を考えているのですか!? 頭がおかしいのですか!?」
姜尚「軽率な行動をした自覚はあります。ですが夏侯惇殿からお願い事を頼まれまして」
諸葛亮「まさか……敵のその願い事をきくつもりじゃないでしょうね……」
姜尚「きくつもりです」
諸葛亮「本当にお人好しですね……で? 一体何のお願いですか?」
姜尚「ざっくり話すと『青興』と言う麻薬を作った李儒という男が生きているので捕まえたら殺して欲しいってことです」
諸葛亮「李儒……魔王に仕えた冷酷な軍師……生きていると言ったのですか?」
姜尚「ええ」
諸葛亮「他には?」
姜尚「麻薬のことを聞きました」
諸葛亮「ふーん……麻薬には色々ありますが……まさか夏侯惇と共に試したなんてことはないでしょうね」
姜尚「いいえ。効能は聞きましたがいまいちピンと来ませんでしたね」
諸葛亮「姜尚。師として命じます。麻薬の知識を得るのは禁じます」
姜尚「何故ですか?」
諸葛亮「多くは興味本位。好奇心から手を出すことが多いからです」
姜尚「分かりました。ではその様にします」
諸葛亮「それよりもこれで長安まで目と鼻の先……堅城長安は多くの民が暮らしており保有する兵力も尋常ではありません」
姜尚「長安攻略の前にやるべきことがあります。次は羌族との同盟を成しましょう」
諸葛亮「羌族ですか……なるほど。『長安包囲網』を築くということですね。となると完成を進めるには羌族の力は必須ですね」
姜尚「はい。協力の証として涼州を曹操軍から取戻し天水も返上するのが上策かと」
諸葛亮「かなりの好条件を出しますね」
姜尚「下手に交渉が拗れると時間の無駄と余計な条件を突きつけられると思います。ここは相手に有無を言わさぬ条件を提示するべきかと思いまして」
諸葛亮「いつからそんな交渉上手になったのです……ですが反対する道理もありません。私から劉備様には伝えておきましょう」
姜尚「お願いします」
張飛と黄忠が宿舎でくつろいでいるところに馬謖が訪れる。
馬謖「ああっ探しましたよ。張飛に黄忠殿」
張飛「何ー? どうかしたの?」
馬謖「姜尚が黄忠殿の寝こみを襲うとした件ですが」
黄忠「寝こみを襲うとしたのですか!」
張飛「むか!」
馬謖「あれは誤解のようです」
黄忠「誤解?」
馬謖「本当は張飛の部屋に行こうとしたらしいのですが間違って黄忠殿の部屋に行ってしまったようです」
張飛「何だぁ。そうなんだー」
黄忠「それはそれで物凄くムカつくんですけど……」
馬謖「そう言うことですので誤解も解けたようなので私はこれで」
馬謖は時限爆弾を仕掛け早々に立ち去った。
張飛「何だぁ。兄ちゃんもしょうがないなー間違ったんなら始めからそう言えばいいのにねー。ねっ黄忠」
黄忠「くっ!」
張飛「ああ良かったー。黄忠より張飛の方が魅力があるって証明できたしー」
黄忠「初めて湧くこの感情は……一体どうすればいいのよ!」
張飛「どうしたの? 悔しいの?」
黄忠「張飛!」
張飛「何?」
黄忠「分かち合いをしましょう!」
張飛「え? ああ……別にいいけど……」
黄忠「あっ……私が張飛を抱きしめる形で張飛は何もしないで下さい」
張飛「どうして?」
黄忠「張飛の力で絞められるては死んでしまいます」
張飛「そっか……それもそうだね。じゃあいつでもいいよ」
黄忠「じっとしてて下さいね!」
黄忠は張飛を力一杯抱き締める。
張飛「はははは! 黄忠! 何かくすぐったいよ」
黄忠の息が張飛の首筋にかかり張飛は笑う。
黄忠「はぁ…はぁ……張飛……張飛……」
黄忠は呼吸を荒くし張飛の身体の線を確かめるようにまさぐる。
張飛「…………」
何か恐ろしいものを張飛は感じた。
ホウ統「孔明。成都からの補給線の経路は確保した」
諸葛亮「ありがとうございます。あなたのおかげで私の業務もかなり楽になりました」
ホウ統「そう言って貰えると何よりだ」
天水に成都からの補給隊が到着した。
孟獲「おーい。おやっさん」
ホウ統「何だ孟獲? それに年上のお前におやっさんと呼ばれるのは……」
孟獲「ああ? そんな小さいこと気にすんな」
ホウ統「何かようか?」
孟獲「魏延ちゃんから聞いたんだが姜尚が夜な夜な女性陣の部屋に潜り込んでるらしいじゃねーか」
諸葛亮「何ですって! 一体どう言うことですか! 詳しく話なさい孟獲!」
孟獲「そんなに怒るなって! あっしも聞いた話だから、それしか知らねー」
諸葛亮「くっ使えない奴!」
孟獲「孔明さんよー。それは冷てーよ!」
ホウ統「やれやれ。曹操軍の流言ではなさそうだな」
諸葛亮「姜尚は一体何をやっているのです!」
ホウ統「おい孔明。落ち着けよ」
諸葛亮「これが落ち着いていられますか!」
ホウ統「お前、姜尚がそんなことする奴だと思うか?」
諸葛亮「はっ! 確かに……」
ホウ統「姜尚はお前の一番の教え子だ。信じてやるべきだろう」
諸葛亮「そうでした。私としたことが……」
ホウ統「しょうがねー俺が一肌脱ぐか……」
孟獲「ところでよ。成都の補給物資の半分は酒なんだが……大丈夫か?」
諸葛亮「ホウ統……どういうことですか?」
ホウ統「そっそれはだな! おい孟獲! 余計なこと言ってんじゃねぇええ!」
孟獲「遅かれ早かれバレるだろ」
諸葛亮「孟獲。酒は蔵に全て閉まって下さい」
ホウ統「孔明! ちょっと待ってくれよ!」
孟獲「おやっさん。別にいいんじゃねーか? 熟成させるってのも悪くないぜ」
ホウ統「いや、しかしだな……熟成した酒……くぅうううう悩ましいな!」
諸葛亮「まったく……どうして男はこう欲に弱いのでしょうね」
こうして天水の攻略は幕を閉じた。
夏侯惇「天水が奪われてしまった……まったく面目ないわ」
夏候惇は長安にて帰還していた。
曹仁「天水なんて別にどうーってことなくね? 何がしたいんだ劉備軍はよ?」
司馬懿「今の状況、あまり良くないですね……孔明と姜尚という軍師が狙っているのは長安でしょう」
夏侯淵「間違いないだろうが……長安を攻め落とすことなど出来るのか?」
司馬懿「長安を落とすには今の劉備軍の力では不十分。しかし、天水を始めとして周囲を徐々に落として行くと、やがて包囲網ができあがります」
曹操「仲達、対抗策を出せ」
司馬懿「はい。妙案があります。長安包囲網は劉備軍にとって有利なように見えますが曹操軍にとっても有利に働きます」
夏侯惇「そうなの? 囲まれているとまずいじゃない」
司馬懿「そうでもないのです。曹操軍から見れば長安一点だけの防衛に備える事ができる為、余計な兵力を使わずに守りやすいのです」
曹仁「守りやすいって言っても逆に劉備軍も攻めやすいだろ」
司馬懿「ですので劉備軍が攻められないようにすれば良いのです」
曹操「面白い続けろ……」
司馬懿「長安包囲網はまだ完成していません。おそらくは姜族と同盟を組み完成するでしょう」
司馬懿「その間に曹操軍の主力を呉に向けます。南の侵攻は劉備軍にとっては想定外でしょう。この事態は既に想定済みです」
夏侯惇「だから主力の半分を既に呉に向かわせていたのね」
賈ク「曹操様。長安の守備に夏侯淵殿大将とし軍師として私が残りましょう」
曹操「うむ。いいだろう。淵、留守を頼む」
夏侯淵「分かった。長安であれば守り通せるだろう」
曹操「俺は一度、許昌に向かう。惇付いて来てくれ」
夏侯惇「ええ。華佗にも同行させるわ」
曹操は邪晶の元に向かった。




