↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷子  作者: 三幸
102/134

雷編 英雄と覇者 中

雷編 英雄と覇者 中



 劉備軍は北上する前にそれぞれの時間を過ごしていた。


姜尚「先生。周倉君から受け取って頂けましたか?」


諸葛亮「ええ。スズランですね。女性に贈る場合は量と種類を考えて下さい」


姜尚「先生なら必ず有効活用して頂けると思いましたので」


諸葛亮「一つも無駄にせず精製させて……あれ? 姜尚はスズランの使い方を知っているのですか?」


姜尚「忘れたのですか? 先生から教えて頂いたのですよ?」


諸葛亮「そうでしたっけ……? いけませんね……多忙な為、物忘れが多くなったのでしょうか」


姜尚「それと連弩に使う木材の手配ですが」


諸葛亮「ちょっと待って下さい! 連弩の話は絶対に一度も話していませんよ!!」


姜尚「いいえ。話ました」


諸葛亮「いっ一体いつですか!!」


姜尚「いつだったかな? 忘れてしまいました」


 姜尚は笑顔で返す。


諸葛亮「はぁ……連弩の存在を知っている以上、私が話したことは間違いないのでしょうね……」


 孔明は大きなため息をつく。


諸葛亮「連弩作成の材料は自分で手配しますから姜尚は気にしなくて結構です」


姜尚「分かりました。完成、楽しみにしていますね」






魏延「馬岱さんと馬超さんは、仲がいいんですね」


馬岱「従兄弟だからな」


魏延「私には身内はいませんが黄ちゃんが家族みたいなものです。従兄弟の馬超さんがあんなにかっこよくて馬岱さんは鼻が高いでしょうね」


馬岱「うん。あるところを除いてね」


魏延「あるところ?」


馬岱「まあ、そのうち分かるよ。それより黄忠さんのことを少し教えてくれよ」


魏延「いいですよ。何を聞きたいですか?」


馬岱「何が好きなのかな?」


魏延「黄ちゃんは狩りが好きで私はお花が好きです」


馬岱「そうなんだ。黄忠さんは何が嫌いなのかな?」


魏延「黄ちゃんはカラスが嫌いで私は意地悪な人が嫌いです」


馬岱「黄忠さんはどんな人が好きなんだい?」


魏延「黄ちゃんの好きな人はわかりません。私は優しい人が好きです」


馬岱「黄忠さんは俺のことどう思うかな?」


魏延「黄ちゃんは多分なんとも思っていません。そして私は黄忠さんのことしか見ていない馬岱さんがあまり好きではありません」


馬岱「何でそういう風になるんだよ!」







馬謖「おやっさんは一体どこで軍師の勉強をしたのですか?」


ホウ統「俺か? 俺は一つの所に留まらず、いろんな場所を転々としてきたからなー」


馬謖「いろんな場所ですか?」


ホウ統「上から見る世界だけがこの世の全てじゃないんだ。下から見上げてみた方が分かることも多い」


馬謖「なるほど。下から見上げる世界とはどういう景色でしょうか?」


ホウ統「上から見下ろすよりも絶景だよ」


馬謖「上から見る世界よりも絶景??」


ホウ統「お前も軍師ならば民とともに前線で戦い、時に寝食を共に過ごすことも必要だ。そうすれば、その意味が分かるだろう」


馬謖「おやっさんが見上げるのは掲げた酒ではないですか?」


ホウ統「ははははは! そうかも知れんな! だが、伸びしろのあるお前はこれからが楽しみだな馬謖」








趙雲「黄忠殿は弓が得意ですが接近戦となると不得手なのでしょうな」


黄忠「そんなことはありません。黄家の弓術には接近戦も記されています」


趙雲「ほう……接近戦の弓術ですか……それは興味深いですな」


黄忠「それほど珍しい術ではありません。頭突きです」


趙雲「弓術に、ずっ頭突き!?」


黄忠「はい。敵が近づいてくるのなら、その隙を突いて頭突きをすれば良いのです」


趙雲「なるほど! 固定観念に捕らわれず柔軟な考えを持つことの大切さに、改めて気付かされた思いです」


黄忠「ただ石頭なだけです」


趙雲「ずいぶんと柔軟な考え方をする石頭ですな」


黄忠「あら、言われてみれば確かにそうですね」







 姜尚は北上する準備を終え劉備の元に訪れていた。


姜尚「劉備さん。これより天水に向かいます」


劉備「天水ですか」


姜尚「はい。長安に向けての天水の攻略は必須です」


劉備「分かりました。天水に向かいましょう」


諸葛亮「天水の涼州軍は曹操軍に降伏していますが作戦そのものには賛成です」


諸葛亮「天水にて曹操軍を破り涼州軍を劉備軍に迎えましょう」


姜尚「はい」



 劉備軍は天水に向かう。敵将は夏候惇が劉備軍を迎え討つ。砂地が多いこの場所で夏候惇は城の守りを固めるも劉備軍の一から東と北に兵を分ける。



 姜尚は敵の遊撃隊に向けて馬超、趙雲を東に向かわせ北に関羽、周倉、馬岱を向かわせた。主力の部隊は遊撃隊からの攻撃を受けることもなく天水の城前で夏候惇率いる防衛隊と戦うことになった。


張飛「兄ちゃん! 張飛! 行っていいかな! 夏候惇、殺してきていいかな!?」


姜尚「駄目だよ。何かが引っかかる」


張飛「えぇ……夏候惇、殺したら終わりじゃん!」


馬謖「姜尚。ここは張飛を夏候惇に当てるべきだと思うが」


劉備軍兵士「報告します! 味方の一陣、二陣が夏候惇により殲滅させられました!」


姜尚「夏候惇はまだ天水城付近にまだいますか?」


馬謖「何を馬鹿なことを。いるに決まってるじゃないか」


劉備軍兵士「それが行方が……」


馬謖「なんだって!? 一体何故だ! 先ほどまで城の近くで! あれ……先程までと景色が違う……」


姜尚「風だね……砂誇りで視界が悪くなった」


馬謖「ではこの隙に逃げられたということか……」


姜尚「いや……違う。張飛、僕のことを守ってくれるかい?」


張飛「うん! 当たり前じゃん! でも……誰から?」


姜尚「夏候惇からかな?」


 「え……」

馬謖と張飛が姜尚の言葉に驚く。


 風が強くなり更に砂が巻き上げられる。風の音と城前の戦いの怒号により聴覚さえもが使いものにならなくなり始めた。


姜尚「少し前に出るよ。誰もついて来ないで」


馬謖「姜尚。どういう意味だ」


姜尚「夏候惇が呼んでいるみたいだ」


張飛「じゃあ! 張飛も一緒に行くよ!」


姜尚「駄目だよ。僕、一人で行かないと出て来ない」


馬謖「一体、どうやって夏候惇の考えが分かるんだ!」


姜尚「自分の身柄を隠すと言うことは相手に索敵させることが狙いなんだ。夏候惇は個別撃破を狙っている……本陣からの索敵部隊をね」


馬謖「それならば何も姜尚でなくとも構わないではないか!」


姜尚「僕じゃなきゃ駄目なんだ。張飛、少しの間、夏候惇と戦うことになるけど必ず助けに来てね」


張飛「うっうーん……分かったけど……一緒に行った方が……」


 姜尚は一人前に出る。その時、砂で黄色く染まる視界の中から夏候惇が単騎で姜尚に向かっていた。


 姜尚の姿が砂埃で消えてから少し経過した時、夏候惇の影が姜尚に向かう姿を張飛が捉える。


張飛「兄ちゃん! 行っちゃだめぇえええええ!!」


 姜尚に近付く夏候惇の存在に気付いた張飛は叫ぶ。


夏候惇「お馬鹿さん! 油断し過ぎよ!」


 夏候惇の七星剣が姜尚に振り下ろされる。


姜尚「こうしないとあなたは現れない!」


 姜尚も剣を夏候惇に向けて突き出す。


夏候惇「くっ!」


 夏候惇は姜尚の攻撃に攻撃を止める。


夏候惇「あなた今私ではなく馬を狙ったわね」


姜尚「はい。趙雲さんが最も騎馬が嫌がることを教えてくれたので」


夏候惇「ふーん。その風貌……あなたが姜尚ね」


姜尚「はい」


 夏候惇は姜尚の回りを馬で歩く。


張飛「兄ちゃん!!」


夏候惇「張飛動いちゃ駄目よ。あなたが動けば姜尚の首を刎ねる」


 近付く張飛に夏候惇は脅す。


張飛「ぐ……が……がごう……ど……ん」


 張飛の様子が少しおかしい。


姜尚「夏候惇殿。一つ聞いて頂きたいことがあるのですが」


夏候惇「命乞い以外なら構わないわよ」


姜尚「定軍山で曹操軍の武将を助けたました。僕はあなたも助けたいと思います」


夏候惇「ふふっ……それ命乞いって言うのよ? でもそれをどうして私に? 私に借りを作ってチャラにしようって言うの?」


姜尚「いいえ。あなたをこの先、助ける為の口実が必要でして」


夏候惇「はぁ? ふふっ……はははははは! 面白いわ! 私にそんなこと言うなんて!」


 夏候惇は笑う。


姜尚「風がいつ止むか分かりません。今なら無事に逃げ切れるでしょう……僕はあなたとこうして対話する為に一人で陣を離れたのですから」


夏候惇「その糞度胸に免じて命は許してあげる。でもね? それだけじゃちょっと釣り合わないの……大将、自ら軽率な行動ね」


 夏候惇は剣を納める。


夏候惇「張飛! そこで見ていなさい!」


張飛「兄ちゃん傷つけたら絶対に許さないから!」


 夏候惇が剣を納めたことにより張飛は普通に戻っていた。


夏候惇「姜尚。私の方に来なさい」


姜尚「……」

 姜尚は夏候惇に歩み寄る。


夏候惇「姜尚。これを見なさい……」

 夏候惇は眼帯を外す。


姜尚「戦いで?」

 眼球のない瞳を姜尚は見つめる。


夏候惇「いいえ……悪鬼によるものよ」


姜尚「……」


夏候惇「あなたの度胸は勇気と呼べるものではない。本当の勇気ある行動はまた別にある……人の行動は信念と表裏一体。一晩……一晩で解放してあげる今は私と共に来なさい」


姜尚「いいでしょう」


 姜尚は騎乗する夏候惇の後ろに飛び乗る。


張飛「ああーーーー!」

 張飛が驚く。 


夏候惇「じゃあね張飛! 姜尚を少し借りて行くわ! 今回は特別よ!」


張飛「おばさんなにしてくれてるの!!」


 張飛は叫ぶ。


夏侯惇「わざとじゃないのが余計に腹立たしいわね!!」


 夏候惇は巻き上がる砂の中に消えて行った。


 



 陽が沈み当たりが紫色に染まる中、夏候惇と姜尚は馬で駆ける。


姜尚「一体、何処に連れて行こうとしているのですか?」


夏候惇「怖いのかしら?」


姜尚「隻眼の鬼将軍と共にいるのです。不安にもなります」


夏候惇「あなたの言葉に恐怖は感じない。臆病者を演じるのはやめなさい……直に到着するわ」


 二人は天水から西にある長安の辺りまで馬を走らせていた。


 夏候惇が馬を止めた場所は貧困な集落であった。


 馬を下り夏候惇は歩を進める。


姜尚「ここは……」


夏候惇「付いて来なさい」


 姜尚は夏候惇の後ろを歩く。


夏候惇「ここよ。入りなさい」


 夏候惇は一軒の朽ち掛けた家の前で足を止め家屋の中に入る。


 中は何もない。かつて生活があったことが分かるが中は散々と荒れ埃を被った家財が残されていた。


姜尚「夏候惇殿……ここには一体、何が……」


夏候惇「ここは見ての通り人々の生活があった場所」


姜尚「そのようですね……ここの人達は何処へ?」


夏候惇「徴兵され男手がなくなり移住していった……都市に住めない民にとっては過酷な環境……常に賊に襲われる恐怖がついてまわる」


姜尚「……それで、どうして僕をここに? そろそろ話してくれても良いのでは?」


夏候惇「そうね……本題に移りましょう。あなた、これが分かる?」

 

 夏侯惇は木の実の様な物を取り出す。


姜尚「それは一体……何かの実ですか?」


夏侯惇「これは芥子の実……麻薬となる原料……」


姜尚「麻薬? 初めて聞く代物です」


夏侯惇「あら? 司令官さんは一般常識の知識を持ち合わせていないなんて意外ね」


姜尚「是非、心優しい鬼将軍様にご教授頂きたいですね」


夏侯惇「一から全部話してたら何日かかる分からない。簡単に話すと人を堕落させる成分を持ち合わせる物を麻薬と呼ぶ。その効果は様々だけど摂取するだけで多幸感を味わったり性的か感覚を研ぎ澄ます物などがある……中には強烈な幻覚作用があり現実に存在しないものまで見えることもあるようね」


姜尚「へぇ……便利な代物ですね……ですがその言い方からするに副作用による反動が尋常ではないのでしょうね」


夏侯惇「その通り。依存性が非常に高く、使用後は無気力となり、いずれ廃人と化す」


姜尚「そんなものが……当然、禁止されているのですよね?」


夏侯惇「まあね。栽培することも禁止されているけれど野生でも群生するものだから難しいものでもある」


姜尚「野生で? それでは手の施しようがありませんね……」


夏侯惇「特殊な精製方法が必要だから知識のある者しか麻薬は作り出せない。作り方によっては麻痺薬として活かされて医療品とし役立つのも事実」


姜尚「非常に魅力的な代物ではありますが使う人次第か……まるで為政のようです」


夏侯惇「あなたは何故、この国が腐ったか知ってる?」


姜尚「いいえ。曹操殿との戦いばかりで勉強する暇がありませんでした」


夏侯惇「呆れた……本当に戦いしか知らないのね……」


姜尚「止めて下さいよ! 僕だって何とかしなきゃって思ってるんですから!!」


夏侯惇「腐った政治を世直ししようと多くの知識人、賢人が政治の中枢に入った……だが古き為政者はその者達に麻薬を投薬し中毒者へと変えた……そんなことが日常的に行われていた為に国が腐敗していった」


姜尚「言葉が通じない相手……他人の言葉に耳を傾けないことは僕は暴力と同じと思います」


夏侯惇「ふふっ。そうかもね……麻薬の知識は戻ってから調べなさい。話の核心はここから……芥子の実をある方法で精製すると青い実が出来る。痛みを感じず興奮状態が続く……何に使用されたかは言わなくても分かるわね?」


姜尚「戦争……」


夏侯惇「未だにその精製方法は分からない。だけどその精製方法で作られた青い麻薬『青興(せいこう)』を作った人物が最近になって生きていることが分かった。もし、その男を捕まえることが出来たなら直ぐに殺して欲しい」


姜尚「精製方法を永遠に闇に葬る為ですね。その男の名は?」


夏侯惇「李儒」


姜尚「覚えておきましょう」


夏侯惇「頼むわね……それと間違っても青興を投薬された連中とは戦わないことね」


姜尚「何か特徴があるのですか?」


夏侯惇「肌が青く血の気がない。当然、興奮状態で話が出来る状態でもない……昔、董卓軍の一部隊に青興が使われたけど数千の軍勢を百に満たない兵で皆殺しにした記録もある」


姜尚「夏侯惇殿。最後に教えてください。僕にはあなたが世間で言われている鬼将軍とは思えない」


夏侯惇「勘違いしないでちょうだい。これはね、淵、楽進、曹仁の命を助けてくれた礼……普段の私はちょっぴり怖いわよ」


姜尚「分かりました。ですが、これからの戦いも手を抜くつもりはありません」


夏侯惇「ふふっ……かかっていらっしゃい。あなたは歩いて帰れるわね。馬は私の馬だから」


姜尚「え!? こんな場所に一人で!?」


夏侯惇「はははは! 隻眼の鬼将軍は容赦しないのよ! 姜尚、また戦場で会いましょう」


 夏侯惇は馬に乗り去った。


 姜尚は廃村に一人取り残された。


姜尚「焚き火でもすれば誰か気付いてくれるかな……」


 姜尚は火を起こす。


 戦いの緊張が切れいつの間にか姜尚は深い眠りにつく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。