第九話
「どうも〜カップルヒーローチャンネルのカツキでーす!」
「サツキでーす!」
「今日は、駅前のチンピラを粛清してみた! 行ってみたいと思いまーす!」
夜の駅前に響き渡る場違いな声。通りを歩く人たちは、遠巻きにして避けていく。
二人は動画配信サービスで人気のカップルヒーローだった。主に相手をしているのは、法を犯す一般市民。それに喝を入れてお仕置きするのを売りにしていた。
はっきり言うと、彼らのこの行為は到底許されたものではない。しかし、治安維持に貢献しているとかで、公的機関からは目こぼしされていた。
分かりやすい腐った正義だと日向は思う。駅前のベンチに座りながら、スマホに映る彼らと現実の彼らを見比べる。
二人が駅前にたむろして騒いでいるチンピラたちに近づいていく。女の方がカメラを持ち、男のほうが映る画角で彼らを挑発しだした。
怒ったチンピラの一人が、男に殴りかかる。しかし、その拳は見えない壁に弾かれていた。
『チッチッチ、カツキの能力はバリアなんだよね〜。よく小さい子が遊びでやるでしょ? バリア。あれを本当に生み出せちゃうのよ』
──なるほどな。
スマホに映るカツキという似非ヒーローを見て嘆息をつく。しょうもないなと切り捨てて、スマホをしまった。
パーカーのフードを被り、足に力を込める。
「それじゃあお仕置きターイム!」
チンピラを殴ろうとするカツキの手を、右手で受け止めた。唐突の侵入者に、彼は目を丸くする。
「お前ら逃げとけ、こいつに何を言っても無駄だ」
手を抑える仲間を庇うように、彼らは走って逃げていった。それを見届けたあと、日向は静かに向き直った。
「ちょっとお嬢ちゃん、何してんの〜? 企画の邪魔しないでよぉ!」
「何してんのはこっちのセリフだ」
手を乱暴に放す。カツキがよろけている間に、警棒で殺気の持っているカメラを叩き落とした。
「ぎゃあ! これ、十万以上したのに!?」
「営業妨害! お嬢ちゃん、俺怒ったかんな!」
「……何が営業妨害だ」
殴ってくるカツキの手を、警棒で弾き飛ばした。態勢を崩した彼の脇腹に続けざまに蹴りを入れる。
「バリア──グッ!」
展開されるバリアを貫通して、足先が彼に突き刺さった。
「カツキ!? もう、子どもだからって手加減しないからね!?」
「……手加減してたのか」
「私の能力はハウリング! 鼓膜から血を流して──」
長々と説明するサツキの腕を叩き折った。骨が折れるような音がする。彼女は大きな叫び声を上げたまま、腕を抱えて蹲る。
「良くもサツキを!」
先ほどの男が戦線を復活して殴ろうとしてくる。まだ懲りてないのかと、ため息をつきながら拳を受け止めた。
そのまま捻り上げると、顔を歪めてその場に膝をついた。
彼は顔を歪めこちらを見つめている。その目はなんでそんなことをするんだとでも言いたげである。
お前も同じことを一般人にしただろうと大きく嘆息をつく。顔面を殴りつけて気絶させた。
駅前に静かさが戻る。通りすがりの人は、こちらのことを遠目から眺めていた。スマホを取り出して、撮影している。
日向は警棒を高々と振り上げてから、地面に叩きつける。大きなひび割れを起こすと、人間たちは少し悲鳴を上げてから慌てて去っていった。
一度鼻を鳴らしてから、警棒を手から消す。蹲る二人組を見ることもせずにその場から離れた。
静けさが支配する中、スマホの着信音が鳴る。無造作に取り出して、電話に出る。
『どうですか、スッキリしましたか?』
「……スッキリしてると思うか?」
聞こえてきた仮面の怪人の声に、小さく舌打ちを漏らした。
『ははは、正直者は好きですよ』
「オレはお前が嫌いだ」
『いやはや、これは手厳しい』
困ったような口調だが、声色は全然困った様子を見せない。むしろどこか楽しそうまであった。
何もかも見透かされているような雰囲気に、日向の表情は歪む。
『それでも、続けるんでしょう?』
「……」
『沈黙は肯定という言葉もありますよ?』
「お前の中では否定って概念はないんだな」
その言葉を聞き、彼はとても楽しそうに電話越しで笑った。
『否定という概念がないのはあなたの方ではありませんか?』
何も答えられなかった。答えたくもなかった。それもまた彼の思い通りなのだろうと思うと、嫌になってくる。
「……最悪な気分だよ」
『でも、その最悪を作ったのは人間たちではありませんか?』
その核心を突くような言葉から逃げるように、日向は質問を口にする。
「お前は一体何の目的があるんだよ?」
『ふふふ、前も言いましたよね? ただ、普通に戻したいだけだと』
「それでお前に何の特があるかって聞いてんだよ?」
少し間をおいて、彼は答える。
『世界を滅ぼしたくないだけですよ。この世界を愛しているものでね』




