第二話
「もうすぐ目的地だってよ!」
「私たちの力であっという間に解決したりして!」
「楽しみだなぁ、どんな怪物が相手だろう」
後部座席で騒がしくする三人組に、日向は嫌そうな表情をつくる。
助手席の窓にもたれながらため息をついた。
「……まぁそんな膨れるなよ」
ハンドルを握る友人──葉山喜一は苦笑を漏らす。
その友人の声をかき消すようにうるさい後部座席三人の声に、さらに大きなため息をついた。
「本当に大丈夫なのか?」
「まぁ一応覚醒したばかりだけど等級はB判定だよ」
「最近の等級はあてにならんよ」
「出た、老害発言。そしてこう続けるんだろ? 今の若いヒーローはって」
先に言われ、小さく「うっせ」と答える。
窓の外に広がる景色は、森を切り拓いて作ったあぜ道だ。少し舗装が意気届いていないのか、車の振動が荒い。
「ねぇねぇこのちっこい人も仲間なの?」
後部座席から身を乗り出した一人が、頭をペチペチ叩いてくる。
日向は頬杖をついたまま額に青筋を浮かべた。
「そのちっこい人が、今回護衛してくれるから」
喜一が笑いながら言う。日向がにらむと、視線を外された。
「えぇ、強いの?」
「弱そう」
「ま、オレたちでどうにかなんべ」
後ろの三人は完全に現場を舐め腐っているなと、日向は背もたれに深く体を預けた。
なんでこんな奴らの子守をしないといけないのか心の中で愚痴が湧いてくる。
しばらくして、車が止まる。そこにはすでに治安部隊が配置していた。
こちらのことに気がついた若い隊員が、運転席の喜一に近づいてくる。
「初任務のB級ヒーローを連れてきました。状況は?」
「悪いけど引き返してもらうことはできないかな?」
「……どうしてですか?」
「奥で異界の穴が見つかったんだよ。もしかしたら、もっととんでもない事態に──」
会話を聞いていた後ろの三人が、遮るように大きな声を出した。
思わぬことに、日向は顔をしかめながら耳を塞ぐ。
「ということらしい……。どうにかできないですか?」
「まぁ、今のところは安定していますし、分かりました」
隊員の許可が下りると、彼らは歓喜の声を漏らして車から降りだした。
その様子を見ながら、どうなっても知らないぞとでもいうように、日向は喜一のことを睨む。
「ま、痛い目見れば萎縮するでしょ」
「お前、最初から知ってたのか?」
「ここ、怪人研究してるところらしいよ。残された怪人はC級くらいしかないから“普通なら大事にはいたらない”けどね」
普通ならその言葉ほど信じられないものはない。
「お前も常々思ってるだろ? 最近のヒーローは緊張感が足りないって。ま、理由はさもありなんだが」
怪人や異界が、二年ほど前から大人しくなった。そのおかげである程度の安全が取れれば、若いヒーローでも対処できるようになった。
昔からいるヒーローたちは扱いが難しく、忌避され始めたさきに起きた異変だ。
この異変を大災害の予兆だと騒ぐ専門家もいる。しかし、多くの人間は楽観的に考えていた。
十年といっても、やはり何もかも前例がないのだ。そして人間は兼ねてより最悪よりも平均を見たがるものである。
日向は遅れて車から降りる。
治安部隊が囲んでいるのは、地上にはコンクリの入り口が出ている奇妙な場所だった。衛星から映らないように、地上の建物は最低限にしたのだろう。
それでも見つかってるあたり、相手の管理不足が杜撰だったんだろう。
「やっはーー!」
テンションの高い声が奥から響いてきた。遅れて轟音と振動がやってきた。
「やってるね」
声をかけてきた喜一の方を見ると、カメラを構えている。
「何してんだよ……?」
「もうすぐヒーロー事務所を新たに建てようと思ってな。そのPV用の映像だ」
「おい、守秘義務はどうした?」
半眼で睨むと、彼は肩をすくめる。
「今やヒーローはエンタメの一つだ。本気で規制できると思ってるやつはいねぇよ。大丈夫、本当にまずいところはモザかけるから」
「……そういうこと言ってんじゃねぇよ」
頭を抱えていると、地面からモグラのような怪人が出てくる。周囲の治安部隊が銃を構えて緊張感が走る。
しかし、続いてやってきた若手ヒーローの一人が顎下を殴り上げて一発でノックアウトさせる。
怪人の腹で立つ彼は、笑顔を見せてピースを向けていた。
治安部隊から拍手が漏れる。
「な? 気にしすぎだって」
ニヤける喜一に、そうだなと地面を足裏で擦る。
【体は歪む】
瞬間、視界がゆがむ。昔、何回も経験した不快な浮遊感が、日向を襲った。
──詠唱!?
驚いている暇はない、日向は反射的に飛び上がっていた。
怪人の腹の上で調子に乗っている若手を、抱え上げる。
「な、何すんだよ!」
彼は不服そうな声を漏らすが、そんなことは言ってられない。抱えたまま飛び上がった。
「お前ら今すぐ退避しろ!」
日向の声が響くとすぐに、怪人の体が大きく歪み始めた。




