第十四話
「ここはオレが奢るから」
「そ、そんな悪いですよ」
「いや、さっきはオレのほうが世話になったしな」
「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えまして」
なんかファミレスの前でこんな話をしていると、カップルの初デートみたいだなとどこか考えた。
しかし、見た目も中身もどこかチグハグの二人なのだが。
店内に入ると、女性店員が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、二名様ですか?」
「あー喫え──禁煙席でお願いします」
タバコを吸いたいという気持ちを我慢して、言い直す。女性店員は笑顔を向けると、案内してくれた。
日向は自然に椅子の方に座る。玲香はどこか落ち着きなけキョロキョロしながら、ソファの方に座った。
「……どうしたんだよ?」
「い、いや私のほうがソファでいいのかなって?」
「んー? まぁ、普通は女の子がソファ側に座るんじゃないの?」
「ふ、普通じゃないから迷っているんです……!」
彼女の言わんとしてることはわかる。見た目的には中学生の女の子に椅子の方に座らせている女と取られかねない。
そこまで気がまわらなかったなと後頭部をかいた。
立ち上がり、玲香の隣に移る。片方側に二人が座るという変則型だが、さっきのような誤解は生まれないだろう。仲の良い姉妹か友達だと思われるくらいだ。
姉妹と思われたとき、日向が妹扱いされるのは気に食わないが。
「ご注文はお決まりですか?」
しばらくしてやってきた女性店員が微笑ましそうな顔をこちらに向ける。それを見て、笑みを引きつらせた。
玲香は海鮮ドリアを頼み、日向はハンバーグとライスを頼む。
「な、なんかありがとうございます」
「なんだよ改まって」
「な、なんていうか。あ、憧れの人とこうやって買い物行けるのが夢みたいで」
「憧れの人ね……」
その言葉に頬杖をつきながら、大きくため息をつく。
日向が玲香を病院送りにしようと知ったら彼女はどうするだろうか。
泣くだろうか。怒るだろうか。それとも、黙って受け入れるだろうか。
どれにしても、嫌だなという感想しか漏れてこなかった。
※※※※※※※※※※
太陽は西に沈みかけている。オレンジ色に染まる空は、どこか寂しさを主張していた。
手荷物は玲香がオススメしてくれた可愛い服ばかりだ。少し買いすぎたなと、手の中の重さを感じる。
でも、久しぶりに楽しかった。その言葉が、心の奥にポツリと落ちた。
「玲香……」
名前を呼ぶと、彼女は振り返る。スカートの裾がふわりと揺れ、彼女の髪も揺れる。
首を傾げる様子は、普通の女の子と変わりない。
どうするか迷って、深く大きなため息をついた。
「ありがとうな」
淡い笑みを向ける。彼女はなぜだか顔を赤らめて、視線を彷徨わせていた。
わたわたとしながら手を振って、深々と頭を下げる。
「わ、私も楽しかったです!」
なぜだか大きな声で言われて、苦笑を浮かべた。
気がつけば、駅の前まで来ていた。ここで別れてしまえば、玲香に会う機会をなくしてしまうかもしれない。手を出し、引き止めようとしたところで、思いとどまった。
宙に浮いた手を戻し、荷物を抱え直す。
「そ、それじゃあここまでで、ありがとうございます」
お礼を言われ、日向は短く返事をした。
改札をくぐっていく玲香を見送る。彼女は途中で振り返り、手を大きく振った。
日向も返すように小さく振る。
「手を出さなかったんですね」
電車の音が耳を掠める中、マスクの声が聞こえる。姿は見ていないが、すぐ後ろに立っているのが分かる。
「幻滅したか?」
「いいえ? 私はあなたに選択を委ねていますので」
マスクはなおも飄々としていた。すべて分かっているとでもいうように。
「何があっても責任を取る覚悟の選択ならですが」
「……オレにその責任を押しつけるのは違うだろ」
振り返るようにして彼を睨む。いつものように後ろ手を組んで、背筋を伸ばしていた。
「お前はオレの意思に関係なく選択を与えてるつもになってるだけ。その選択の所在はオレの責任ではなく、お前の責任だ」
「ふふふ、確かにそうです。私の責任です。しかし、あなた自身の心がそれを否定できるかどうか別ですが」
「どういうことだ?」
「いえいえ、こちらの話です」
本当にいつも見透かしたような態度ばかりをとって、肝心なところは何も言わない。
そのマスクに対しもやもやを抱いて、その迷いを打ち消すように肩を落とした。
「なぁ、本当に彼女がZ級を生み出すのか?」
「彼女自身が善意のつもりでも、結果として綻びは生まれるのですよ」
「結果論と言うやつか?」
「えぇ、そうです。そしてもう一つあります。“純粋な善意ほど悪意に漬け込まれやすい”ってことです」
彼はクツクツと笑い声をこぼしながら続ける。
「あなたの手によって病院送りになっていたほうが、彼女にとっても幸せだったということもあります」
その言葉の真意は、日向は理解できない。




