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第十三話

 玲香は普通の少女だ。日向が見る限りでは。

 だからこそ、彼女が人類に危険を及ぼすとは思えなかった。


 前回会ったときに玲香とは連絡先を交換していた。していたというよりも迫られて断り切れなかっただけなのだが……。

 しかし、今はそのことが役に立った。


 待ち合わせは公園の噴水広場。ベンチに座った日向は落ち着きなく貧乏ゆすりをしている。

 見上げると太陽はまだ高い。時間帯的には朝の10時を過ぎたところだ。

 呼び出した内容は、シンプルに買い物を手伝ってくれというものだ。急にこんなことを言われると警戒するかなと思ったが、彼女からの返事はオーケーだった。


 待ってる間に高まる心臓の鼓動音。まるで初デート前で舞い上がってる子供だなと息をつく。緊張の理由は、また別にあるのだが。


「お、お待たせしました」


 玲香の声が聞こえて、そちらに顔を向けた。

 彼女はゆるふわの黒いノースリーブのフレアワンピースを着ていた。重ね着をしているのは白色のセーターだろうか。

 なんていうか、女の子らしい格好だ。


 一方のこちらはデニムジーンズにパーカーというおっさんファッション。良くて中学生にしか見えない。


「い、いきなり買い物を手伝ってほしいなんて……。び、びっくりしました」

「あーすまん。最近の子のファッションが分からなくてな……。ほら、オレも意識はしないといけないかなって思って」


 自分の服装を見せびらかせるようにして苦笑する。すると彼女は日向の手を取ってきた。

 思いっきり輝く瞳を向けられて、思わず身を引いてしまう。


「そ、そういうことなら……ま、任せてください!」


 鼻息が荒い。何故だが興奮している。思わず身を引いて、引った笑みで頼んだと言った。

 しかし、彼女は眉根を寄せるようにしてジッとこちらの体を見つめてくる。


 無言で見つめてくると思うと、唐突に胸を鷲掴みにされた。


「うひゃ!?」


 変な声を漏らして、思わず距離を取る。体を抱きかかえるように自分へ腕を回して、彼女を睨んだ。


「き、急に何すんだよ!?」


 しかし、彼女はその言葉に返さない。少し難しい顔をしてから、こちらを見やる。


「あ、あの日向さん。ひ、一つお聞きしたいんですが?」

「……なんだよ?」

「ぶ、ブラジャーしてないですよね?」

「してないけど?」


 言うと、彼女の頭がぴしりと割れるような音が聞こえた。真っ白になって固まっているように見えるのは、目の錯覚だろうか?



「な、何でしてないんですか!?」

「いや、オレ元男だし?」

「か、体は女の子なんだからしなきゃ駄目です! て、ていうかその答え方的に十年間してないんですか!?」

「まぁ、そうだな……」


 そのまま玲香は膝をついてから地面に手をついた。

 何かまずいことでも言ったのかと、日向は首を傾げる。


「て、ていうか……む、胸こすれて痛くなかったですか?」

「んーーー……。最初はあったかもなぁ。でも、最近はそんなに」

「そ、それ慣れちゃ駄目なやつですよ……」


 彼女の言葉の意味が分からず、首を傾げるばかりであった。



※※※※※※※※※※



「あの……これ本当につけなきゃ駄目か?」


 パーカーの下のブラジャーに意識を向けて、眉をひそめる。ついでにいうと着替えるときにトランクスだったのも怒られてパンツにまで履き替えさせられた。正直、クロッチ部分が肌に食い込み落ち着かない。


「だ、駄目です。す、少なくとも日向さんはスポブラで済む大きさじゃありませんから」


 ランジェリーショップから出る頃には、昼の十三時を回っていた。女子って大変なんだなとげんなりする。

 メディアで進出してしまえばいつも人の目に気を使わないといけない状態になる。そう思うと、今の立ち位置は良かったのではないかとさえ思えてくる。


 小さくため息をついて、なぜだか少し嬉しそうな玲香のほうを見やる。


 確かに善意は少し押し付け気味だ。しかし、だからといって他の人間よりは分別があるように見える。少なくともフラワー・レッドよりかはその危険性は少なく感じた。

 彼女が一体何をするというんだ? 顎に手を当てて考える。


──善意にせよ悪意にせよ結果論。


 マスクのその言葉が頭に思い起こさせる。その声について本当にそうかと問い返す。

 少なくとも彼女は踏み越えない存在だ。そこの分別はついてると日向は思っている。


「ど、どうしたんですか?」


 深く考えていると、覗き込むように目を合わされた。日向はびっくりして思わず少し身を引く。


「いや、ちょっと考えごと……」

「な、何かあったんですか?」

「今のところは何もないな」


 日向の答えに、玲香は首を傾げていた。純粋に分からないと言う疑問の視線を投げかけられて苦笑する。


「そう言えばそろそろお昼ご飯だな」


 切り替えるように、日向はそう言った。

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