91:保護者たちへの断罪(クリストファー)
クリストファーは穏やかな足取りで会議室に向かっていた。
今日この中には数名の保護者たちが呼ばれている。
――そう、試験の解答を手に入れ、子どもに送り付けた親たちが……。
その親の中には、ダニエルの父親もミネットの母親もいた。
アヴァレラ魔法学校の優秀な教師たちは、それぞれ事前に不正を調査していた。
そうして、ズルをした親たちを全員あぶり出したのだ。
校長であるクリストファーを始め、一年生を担当する教師たちも会議室に入室する。
カルボンは無言を貫いている。素の顔でいれば、彼はそれだけで迫力があった。
モミーナは真面目そうな表情を作り、シオルは冷めた目で保護者たちを眺め、ジーンは修羅場を前に気まずそうにしている。
緊迫の保護者会が始まった。
保護者たちは、静かに席に座っている。まだ状況がわかっていないのだ。
「ええ、ここに集まったメンバーに、皆さん心当たりがあると思うけど~……一応説明しておくね」
中央の席に腰掛けたクリストファーが話し始める。
「実は先日行われた試験の解答が事前に出回っていたんだよね。不正に解答を入手した業者が、保護者たちにそれを売っていたと……」
何人かの目が泳ぐ。心当たりがあるのだろう。
「で、該当する業者を捕まえてみたんだけど、そしたらとある保護者に依頼されたって言うんだよね~……心当たりのある人、いるかな~?」
何人かの視線が、ダニエルの父親……ピエールの方へ向いた。
(わかりやすすぎ……)
表情筋に力を入れて、笑いをこらえる。
ミネットの母親のソネットなんて、上半身をねじってピエールを凝視している。
「それでほかの保護者は、その人から解答を融通してもらったんだよね~? ま、結論から言うと、全員同罪だけどさ~……魔法島の法律やアヴァレラ魔法学校のルールでは、これは裁くべき罪なんだよね。よって、刑罰が執行されます」
保護者たちが顔を見合わせてざわめく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は知らなかったんだ!」
一人の父親が声を上げた。
「何を知らなかったのかなあ。試験でズルは駄目だって、うちの一年生でも知ってるよ~?」
クリストファーが言い返すと、ソネットがその父親を庇うように声を張り上げる。
「そ、そそそそうよ! 私たちは知らなかったの! ピエールさんがくださった問題や解答が、まさか本当に試験で出されるなんて!」
彼女も保身に走ったようだ。
(あ~……決裂した。仲間を売ったね?)
短絡的で助かる。
何人かの保護者が、渡りに船だとばかりに、ソネットに擦り寄って同意の声を上げた。
彼女と一緒に責任をピエールになすりつければ、自分は無事だと思ったのかもしれない。
……その船、泥船だけど。
「名前の挙がったピエールさん、申し開きはあるかなあ?」
「クリストファー……貴様……」
「君たちの一連の行いは、魔法島のしかるべき機関に報告済みです。ってわけで、すぐに衛兵が来るよ~。あ、さっきも言ったけど、全員同罪だからね」
「そんなもの、私の権限で蹴散らしてやる! ほかの奴らは知らんが、私が連行されることはない……!」
ピエールが息巻く。
(素が出ちゃったね)
だが、抵抗しても無駄だ。
だって、この島では、クリストファーの権限の方が強い。
これを知っているのは、片手で数えるほどしかいない、魔法島での権限を持つ長寿種族だけだけれど。
話している間に、衛兵たちが突入してきた。ついでに、魔法島の新聞記者も。
「申し開きは彼らにするといい」
保護者たちは抵抗しながら連れて行かれる。
もちろん、ピエールやソネットも。
(僕のリロを困らせるから悪いんだよ? はー、邪魔者が消えてくれそうでなによりだよ)
実質的には懲役……とまではいかない。
ただ、彼らのやったことは大きな醜聞になって、世間を騒がせるだろう。
なんせ、世界的に有名なアヴァレラ魔法学校の試験で、不正を働こうとしたのだから。
ピエールやソネットのような者たちにとって、それは打撃となる。
クリストファーはにこにこしながら、静かに保護者たちを見送ったのだった。





