92:友達を迎えに
リロは学校の図書室で今朝の新聞を読んでいた。
端の目立たないテーブル席に座り、一面に目を通す。
この学校では試験の翌日は休みで、生徒は自由に過ごせるのだ。
両隣にはミネットとエリゼがそれぞれ腰掛けていて、一緒に新聞を眺めている。
エリゼとは、たまたま図書館で会った。
彼も本をよく読むみたいだ。
「……中間試験の件が、話題になってるね」
リロが小声で言った。
「そうね、もうこの話は、魔法島や帝国全体に広がっているでしょうね」
ミネットの表情は冴えない。
不正をした保護者の名前の一覧に、母親のソネットが載っているからだろう。
ちなみに、親から送られた解答を見て試験に臨んだ生徒は、退学になっていた。
クリストファーの魔法で、そういうのがわかるようだ。
試験結果も酷いものだったらしい。
ズルをしていない生徒については、新聞でも無罪だと弁明されていた。
(ダニエルも無罪だったみたい……普通に勉強を頑張ったんだね)
しかし、彼の父親は主犯だと公開されている。
議員も辞めさせられたようだ。
ガタン、とミネットが席を立つ。
「ミネット……!」
「ごめん、リロ。私、行かなきゃいけない場所がある。今日は一人にして……」
投げかけられたのは明白な拒絶の言葉だった。
「行くって、どこへ?」
「……叔母様のところ。そういうわけだから、ごめんね!」
言うなり、ミネットはきびすを返し、走って図書室を出て行ってしまった。
「……叔母さんって、皇后様のところだよね」
「あいつの母親の件だろうな」
同じくミネットの背を見送るエリゼが冷静に告げる。
「ミネットが心配か?」
「そりゃあ、そうだよ。私にできることがあればいいのに」
「迎えに行ってみるか?」
「王宮の門の前で、出待ちするの? エリゼ、まさか一緒に来てくれるとか?」
あの、周囲に無関心なエリゼが、リロと一緒にミネットの心配をしている!
大変珍しい現象だ。
「何か、変なものを食べた?」
「はぁ? 先日の借りを返すだけだ」
「エリゼ、帝都で自由にうろうろできるようになったんだよね。おめでとう」
「……ガキ扱いするな。あと出待ちじゃなくて直接後宮へ行く。俺がいれば入れる」
「そういえばエリゼ、王子様だったね」
彼の伯母が側室として後宮にいるらしいのだ。
「ドワーフ族の皇后の妹が不祥事を起こした。あと数年で次の世代が皇太子の后や側室として後宮入りするというのに。これはドワーフ族にとって打撃になる」
「だからミネットは、あんなに険しい表情を浮かべていたんだね」
「次の皇后になる予定の妖精族と、現皇后がいるドワーフ族。二つの派閥争いが今後激しくなる」
「エリゼは、あなたは妖精族の味方なんだよね? ミネットと対立するの?」
「はあ? 後宮の争いなんて興味ねえよ」
「でも、どの種族が力を持つかで、世の中は変わるよね?」
「そうだとしても、俺は王族の仕事に関わる気はないし、実質関われない立場だ」
「王子なのに? 複雑な事情があるとか?」
「……そんなところだ。だからヌクヌクと授業を受けていられるんだよ」
エリゼも何か、問題を抱えているのだろうか。
「で、どうする?」
「行くよ。ミネットを迎えに……心配だもん」
指輪が戻ってきたということは、もう外出して問題ないということ。
「さっそく出よう。校長先生みたいにショートカットはできないけど」
「そうだな。飛ぶか」
「うん」
「言っとくけど、あっちでは獣人族のフリをしろよ。学校みたいに理解のある奴ばかりじゃないからな」
「わかってるよ」
こうしてリロとエリゼは一緒に帝都の後宮へ向かうことになった。
学校を出る途中で、何故か胴上げされた状態でブルーベル寮へ運ばれていくダニエルの姿が見えた。
周りの生徒が嬉しそうにしている。
生徒の一人が「祝☆入寮」と書かれた垂れ幕を持って走り回っていた。
なんだろう……あれは……。
(魔法料理大会のときも、あんな感じだったなあ)
彼と寮生たちが、仲良くなったみたいで何よりだと思うリロだった。





