87:人間族と他種族
エリゼとゼアンが何やら話し込んでいる。
(あまり他人と関わりたがらないエリゼにしては珍しい……)
なのでリロは、フィオナやクリストファーと喋っていた。
「リロさん、弟に会って、どんな感じですか?」
「同じ魔法を使える人間族に会えて嬉しいです。ずっと、私一人だけだと思っていたから……」
「弟も不安が晴れたことでしょう。あの子は魔法が使えることで、ずっと辛い思いをしてきました。見かねた私が、側室として嫁ぐ際に一緒に連れてきたんです」
ピア王国にいた頃、リロも石を投げられたりして嫌だった。
(幼い頃のことだけれど、まだはっきりと覚えてる)
帝国では人間族ということで差別されるが、ピア王国にいた頃のような、魔法を使える人間に対してのあからさまな暴力などからは逃れられたのではないだろうか。
王族に対して暴力を振るう人はいなかったかもしれないが……。
「私は、人間族とほかの種族との、友好への道を探っています。とても難しいですが、今のままではいけないと思うのです。今は帝国の厚意でなんとかなっていますが、このままではピア王国は先細りしていく」
リロもそのことには賛成だ。
人間族の中に、フィオナのような考えの人もいると知れたことは、リロの中で大きな意味を持つ。
ハシノ村の人々や、飛行船や魔法島でリロを襲った人たちなど、まだまだ問題も多いけれど。
「ただ現実は難しいですね。友好の架け橋になろうと、側室として頑張ろうとしましたが、そもそも皆さん、人間族とは関わるのも嫌がられます。帝国でのお立場もあるのでしょうが、まず相手にしてもらえません……後宮でも私は孤立しています」
徐々にフィオナの言葉が沈んでくる。厳しい環境のようだ。
「でもこうして、アヴァレラ魔法学校の方と知り合うことができて良かった」
「フィオナさんのような考えを持つ人は、ほかにもいるんですか?」
「残念ながら、とても、とても少数派です。ですがゼロではありません」
「わ、私も、フィオナさんと同じように思っています」
言うと、彼女は優しく微笑んだ。
「ありがとう。でも、私たちが仲良くしたいと言っても、向こうに受け入れてもらわなければ関係は成立しない……魔法を使えない人間族には、そこが難しいところなのです」
「難しい……?」
「はい。現状、人間族と関わるメリットはありません。人間族は魔法を使えず、ほかの種族が欲しがるようなものを何も提供できない」
「確かにそうかもしれません」
否定はできなかった。
もらうばかりで何も与えてくれない種族と、仲良くしたいとは、なかなか思えないだろう。
常に施す必要がある相手に「対等に仲良くしよう」と言われても微妙だと思う。
特に人間族はこれまでのやらかしが酷い。
それを打ち消すように、何かしらプラスになるようなことをしなければ、良好な関係は築きにくいと言える。
一時的なお情けで仲良くしてもらえても、その関係は長く続かない。
「……魔法なしの品なんて、帝国の人は誰も欲しがらないでしょう?」
「たしかに、至るところで魔法具が使われていますからね。アナログな道具の需要は全くないわけではありませんが低そうです」
「そうなの。品質で劣る上に、魔法具を使えないから生産効率も悪い。人間族から見てすごく凝った品でも、帝国内で見ると、そこまですごくなかったりするし……」
反論できなかった。フィオナの言っている内容は、全部事実なのだ。
「難しいですね」
「ええ、リロさんも……アヴァレラ魔法学校で勉強していただけなのに、街で狙われたりして」
「……はい。種族で一緒くたにされて嫌われるって、悲しいですよね」
「ふふ、私もそうです。でも、こうして同じ考えを持つ方とお話しできて、久しぶりに心がスッキリしました」
「フィオナさん」
「そろそろ、戻らなければなりません。弟にもお友達ができたようですし、本当に良かった。これは予想外の収穫です」
話ながら、フィオナがエリゼやゼアンを見る。
(お友達……?)
エリゼの雰囲気を見るに、そんな感じでもなさそうだけれど、彼が誰かとずっと話していることは珍しい。
本当にそうだったらいいなと、リロは思う。
それからしばらくの間、リロはフィオナやクリストファーと話していた。
「ソフィアさんについては……」
「大丈夫、学校側で対策するから。まあ……リロはしばらく外出に不自由するかもしれないけど」
しばらくして、ゼアンがフィオナを呼びに来る。
「お姉様、そろそろ……」
「え、もうそんな時間?」
「あんまり遅くなると、変な勘ぐりされるよ?」
「誰も私のことなんて、気にしないわ」
「この間、皇帝に無断外出がばれたんだから、しばらく大人しくしていたほうがいい」
「はぁ……要領が悪くて嫌になる。もっと上手く立ち回らなきゃね」
姉弟の会話を聞いていたリロは目を丸くする。
「外出、ばれてしまったんですか?」
「いつもは人間族の側室になんて見向きもしないくせに、たまたま外出中に皇帝の訪れがあったの」
「だから姉は今、長時間の外出が難しいんです。でも、今日はあなたたちにお会いできて良かった。僕らと話をしてくれる人は少数ですからね。また、お話ししたいですが……難しいでしょうね」
二人とそのまま駅で分かれ、リロはアヴァレラ魔法学校へ戻る。
エリゼはそのまま街へ出掛けていった。
カフェでの食事が悪くなかったからか、ちょっと自信が付いたみたいだ。
帰りもそのまま、ひとっ飛びで校門に辿り着く。
「それでリロ、飛行船の駅でも話したけれど、君はしばらく外出を控えてほしいんだ」
「……はい」
「大丈夫、すぐ出られるようになるよ。君の指輪、ちょっと貸してもらえる」
「先生にもらった、媒体の指輪ですか?」
「うん、あれに少し魔法を足すよ。君を守るための魔法を組み込みたい」
そんなことができるのだろうか。
(校長先生、すごい)
リロは指輪を一旦外し、クリストファーへ渡した。
「あの、フィオナさんたちのような、他種族に友好的な人間族が、社会で受け入れられることは難しいのでしょうか」
「そうだね。彼女たちのような人は少数派だからね」
「私、フィオナさんを応援したいです。でも、人間族の力が強まることがいいことなのかわからない」
「そうだね。ピア王国の考えや方針中では、彼女のような考えは異端だからね」
一筋縄ではいかない問題だ。
「ねえ、リロ、彼女たちに同情している? 元は君が……。いや、なんでもない」
(どういう意味?)
「今の君に言っても仕方がないね。それにこれは僕の責任でもある」
「校長先生……?」
「もう寮に戻っても大丈夫だよ。指輪は、調整が終わったら届けるからね」
クリストファーはこの話は終わりとばかりに微笑んだ。
質問は受け付けないつもりらしい。
(……先生は何かを知っているの?)
疑問を感じたままのリロに向かって、クリストファーが言った。
「リロ、僕はいつでも君の味方だからね」





