85:待ち合わせと証明書
食べ終わるとリロたちは早々に店を出た。
そろそろ、約束の時間が迫っている。
エリゼはそのまま駅を通過し、外を見て回るつもりみたいだ。途中までは一緒に行くことにする。
飛行船の駅には、徐々に人が増え始めていた。
いずれも、魔法島を目指す客たちだ。
飛行船出発のアナウンスも聞こえてくる中、リロたちは駅内の指定されたオブジェの下へ向かった。
そこは人々の待ち合わせスポットとして利用されていて、帝都に暮らす多くの人々が知っているそうだ。
すると歩いている途中で細くて高い声が掛かった。
「り、リロさん?」
聞き覚えのある声にキョロキョロと周囲を見回していると、斜め前方からフィオナが早足で歩いてくるところだった。
この日の彼女も、目立たない黒のワンピース姿だった。
駅の中を歩くリロを見つけて、向こうからやって来てくれたようだ。
「こんにちは、フィオナさん」
彼女の後ろには、私やエリゼと同い年くらいの男の子が付いてきている。
線が細い感じで、フィオナと同じ濃い茶色の髪を後ろで一つに結んでいた。
彼もまた、綺麗目だが目立たないグレーの服装で来ている。
姉弟の容姿はよく似ている部分があった。けれど……。
(あれ、なんだか……)
何かが引っかかる。
その子は、どこかで見たような別人の雰囲気も纏っている……ようにも思えた。
(なんだろう? 誰だっけ?)
初めて会ったはずなのに、おかしなことだ。
悩みながらくるりと振り返り、途中まで一緒に来ているエリゼを見る。
(あ……)
リロは思わず動きを止め、エリゼを凝視した。
なんとなく、彼と似ているのだ。
種族すら異なる、赤の他人のはずなのに……。
そうこうしているうちに、クリストファーがフィオナに歩み寄った。
「はじめまして、アヴァレラ魔法学校校長のクリストファーです」
「あなたが……あ、はじめまして、私はフィオナ・ヴァン・ピアと申します。ボウル帝国皇帝の側室の一人、人間族の代表です。こちらは実の弟、ゼアン。校長先生が自ら来てくださるとは」
「大事な生徒のためですので~」
「……改めて、こちらの身分を証明いたします。リロさん、私の身分証を彼に渡していただけますか……? 魔法学校の校長先生でしたら、確認のための魔法をご存じだと思います」
「あ、宝石、忘れてた」
リロは以前もらった宝石をポケットから取り出し、クリストファーに渡す。
「先生……」
「ああ、これは」
宝石を手に取ったクリストファーは手に白い光を宿し、じっとそれを見つめた。
すると、宝石から何かの文字が浮かび上がった。
よく見ると、先ほどフィオナが名乗っていた、彼女のフルネームだった。
何かのマークも一緒に記されている。証明用の印だろうか。
「……なるほど。フィオナ様本人のもので間違いないね」
リロは宝石をフィオナに返すクリストファーを見つめる。
「あの宝石は、こうやって使うものだったんだ……」
もっと早く渡していたら、先にフィオナの正体を知れたのかもしれない。
「あれは、帝国に暮らす要人の人間族が使う証明書だ。あまり一般的ではない」
いつの間にかすぐ横に立っていたエリゼが言った。
(なるほど、要人限定の魔法具なんだね)
エリゼが詳しいのは、王族だからだろうか。
「ごめん、駅を出るタイミングをなくしちゃったよね。こっちのことは気にしないで、行っていいよ、エリゼ」
「いや……あの人間族が……気になる。俺も残る」
「えっ……?」
エリゼの視線の先には、フィオナの弟がいた。
「フィオナさんの弟が気になるってこと?」
もしかして知り合いだろうか? なんか似ているし……。
「…………」
リロの問いかけに、エリゼは何も答えない。
ただ彼は、じっと少年を見つめていた。





