84:帝都のカフェ
来てしまったものは、どうしようもない。
(ソフィアまで肩に乗っているし)
エリゼの考えはわからないが、とりあえず途中まで一緒に行くことになった。
クリストファーも対応しあぐね、困った様子で質問している。
「ええと、エリゼは帝都を回ってみたかったけど、妖精族の身で行って大丈夫なのか不安だったと?」
問われたエリゼが頷く。
「……ちょうどいいからついていく」
「帝都の駅なら行ったことがあるんじゃないの? 入試のときとか……」
「あれは妖精界から直接魔法島に入る手段がないからだ。帝都の飛行船の駅付近に、妖精界からの扉が開かれているからそこを経由しただけ」
要するに駅周辺以外には行ったことがないようだ。
(エリゼ、いつも偉そうにしていたけど……結構箱入り? 彼個人というより、妖精族全体がそんな感じっぽいな……)
ちょっと興味がある。
「今日は僕たちは駅に用事があるから、君について街を歩けないよ?」
「構わない、一緒に行くのは何かあった際の保険だから。俺は二人の用事について気になるが黙っている、代わりに俺の事情も他言無用だ」
「あー、そういうことね。わかった、何かあったら拾って帰ってあげる。でも帝都なら駅から離れて町歩きしても大丈夫だよ、あの辺りは魔法島から近いし、魔法が使われているものが多いから。食べ物に関しては、なんとも言えないけど」
「前に駅の近くの市場に行ったが、食材は食べられたものではなかった」
「なんだ、一応街歩きはしているんだね」
「……近くだけ」
「まあ、卒業後のこととか、実習のこととかもあるし、帝都を自由に動けるようになるのは悪いことじゃない。かなり少数だけど、妖精族の卒業生で帝国で働いている子もいる。君の場合はご実家のこともあるから自由というわけにはいかないかもだけど……」
エリゼの実家に何かあるのだろうか。思えば、彼のことは種族以外あまり知らない。
「実家なら問題ない。卒業後は戻らないつもりだ」
「そっかー、一応ちゃんと話し合うんだよ?」
「…………」
校門から、アヴァレラ魔法学校の最寄り駅へ移動するかと思いきや、クリストファーは何かの魔法具を取り出した。
丸くて透明な水晶の中に羅針盤のようなものが組み込まれている。
「これね、魔法島と帝都の直通アイテム」
「そんなものが……!?」
リロが驚く。
「校長特権だよ。というわけで、直接駅へ行っちゃおう」
「すごい」
エリゼも付いてきて正解だったというような表情を浮かべている。
校長が魔法具に魔力を流すと、針がくるくる移動してとある場所で停止する。
「出口を駅に設定した」
クリストファーが言うやいなや、リロたちを丸い円が囲んだ。
「さあ、移動するよ。普通に立っていて大丈夫だからね」
何かに包まれる感触がし、次の瞬間、リロたちは帝都にある飛行船の乗り場に到着していた。
リロたちは帝都の飛行船の駅まで一足飛びで移動してしまっていたのだった。
「まだ待ち合わせまで、微妙に時間があるねえ」
待ち合わせ時刻は早めだが、それでも少し時間がある。
まさか、一瞬で移動するとは思っていなかったので。
「カフェにでも入ろうか。ちょうどそこに店があるよ。場所柄、そこまでヤバいものは置いていないと思うんだけど……」
切符売り場の近くに、クリストファーの言ったとおり広めのカフェがある。
時間が早いため客も少ない。
リロたちはそこへ入ることした。広い店内の端にあるテーブル席を確保する。
カフェの中には、ゆったりした音楽が流れていた。
天井や壁にはお洒落な植物が飾られている。
人通りが多い立地にしては、落ち着いた場所だ。
「何を頼むー?」
クリストファーがテーブルの上に置かれた魔法具のメニューを開く。
「朝ご飯まだでしょ? 飲み物もおごるよ~。僕はねー、コロッケ盛り盛りドッグとアイス入りのスカイソーダかな」
言いながら、クリストファーはメニューを指差した。
そうすると注文できる仕組みらしい。
「わあ、おいしそう! 卵増し増しドッグと迷うけど、私もそれにします。飲み物は、ミックスジュース。エリゼは?」
「……ここ、妖精族専用メニューがある……」
「大勢が利用する場所だからかもねえ」
「……俺はフルーツと花の盛り合わせと汲みたての雪解け水」
それぞれが注文を済ませてしばらくすると、机の上に食べ物が現れた。
机も魔法具のようだ。
魔法島では、店でも人が魔法を使うことが多いけれど、ここでは魔法具が活躍しているみたいだった。
(魔法が苦手な人を含めて、誰でも使えるように配慮されているのかも……?)
しかし、魔法具が反応しない人間族はその限りではない。
人間族は魔法が使えないし、魔法具も反応しないのだ。
だから帝国で暮らすには苦労が尽きないと思われる。
(こういう理由もあって、ピア王国から出てきにくいんだろうな……)
あったかいフワフワの細長いパンに、揚げたてのジューシーなコロッケが挟まっている。
周りには細く刻んだキャベツも一緒に挟まっていて、カフェのオリジナルソースもかかっている。
甘辛くていい匂いが広がった。
リロはコロッケ盛り盛りドッグを少し割ったものをブッチョにも分けてあげる。
「ゲェ~」
ブッチョは喜んでそれをモシャモシャと食べ始めた。
ソフィアもエリゼのフルーツと花の盛り合わせの皿に頭を突っ込み、食べまくっている。
フルーツより花が好きみたいだ。
続いてリロはミックスジュースを飲む。
ほんのり甘くて、フルーツとミルクが絶妙な配合で混じり合っていた。
(自然な甘さで美味しい)
いいカフェに入れて満足だ。
コロッケ盛り盛りドッグはフライ丼の次に好きになるかもしれない……。
「そういえば、エリゼの実家って何かしてるの? さっき校長先生と話していたけど」
「ああ……」
「ごめん、言いたくないなら大丈夫だよ」
「別に隠してない。というか、お前、知らなかったのか?」
リロが頷く。
「エリゼの実家はね~。妖精族の王家だよ~」
話を聞いていたクリストファーが告げる。
「妖精族の……えっ? 王家? エリゼ、王子様だったの?」
「一応、第二王子」
「その様子だと、ミネットから何も聞いていないんだな。あいつはもう気付いていると思うぞ」
「ミネット、そういう話はしたがらないから」
「ふぅん。俺の妹が次の皇后になる。ドワーフ族の次は、妖精族の順番だから……たまに入れ替わることもあるが」
「そうだったんだ……じゃ、ミネットと一緒に後宮に入るんだね」
「ああ、対立する立場ではあるがな」
後宮は複雑だ。
互いの種族を背負っているので、ただ仲良く……というわけにはいかないのかもしれない。





