80:タルトを買おう
今日は学校が休みの日。
リロはあれからも、勝手に箒で飛ぶ練習をしていた。最近はブッチョも一緒だ。
基本的な飛行なら、もう問題ない。
浮上、前進、方向転換、回転飛行。
学校の裏庭からスタートし、箒――スノーウィッチャーに乗ったリロは、アヴァレラ魔法学校上空の澄んだ風を切って進む。
「ゲー、ドゥフドゥフ」
ブッチョは大抵、リロの頭か肩か背中、箒の柄などにへばりついている。
今は箒の先端にくっつき、店で買ったチャームと一緒にぶら下がっている。
どこへでも粘着できる魔法生物なので、落ちる心配がなく安心だ。
「ブッチョ、見ていて」
リロは上空に来ると、手をそっと放し、箒の上で立ち上がる。
そのまま箒で水平に前進した。
「立ち乗りをマスターしたよ。ブッチョを参考にして、靴の裏に粘着の魔法を使ってみたんだ。本当は家で、金属や皮をくっつけるときに使っていた魔法なんだけど……」
付けたり外したりは、魔法で自由に変えられる。
初級魔法大全にも載っている魔法だった。
「箒から落ちないように、バランスの魔法も使ってるよ。中級魔法大全に載ってた、身体強化魔法の応用。獣人族ほど上手にはできないけど、箒で飛ぶには十分」
チャームの効果で、さらに快適な飛行ができていた。
だから、それだけの魔法で立ち乗りを維持できる。
「飛行ボードの子たちみたいに、アクロバティックな飛び方ができるかもね」
「ゲー」
「エリゼに対抗してるわけじゃないよ?」
「ドゥッフン」
彼は魔法で何でもそつなくこなせるから、多少はうらやましく思ってしまう。
(エリゼは私の魔法を覚える速度が異常だって言うけど。私はエリゼほど魔法が使えていない……)
種族や環境の差なので、仕方がないこともあるけれど、リロもエリゼのように自由自在に魔法を使えるようになりたかった。
「でも、瞬間的に魔法を切り替えるやり方には慣れてきた。初級魔法大全のときより、早く魔法を覚えられている気がする」
魔法学校での生活で、魔法を多用する暮らしに馴染みが出てきたからかもしれない。
(あと、図書館で、気になる魔法の本が読み放題なのも嬉しい)
入学の際におすすめされた本は一通り読んだ。
そのほか自分で興味のある本を片っ端から読んでいる。
試験前はミネットが勉強に忙しいため、一人で読書するのに拍車がかかった。
(箒で図書館までひとっ飛びだから、便利だよね)
シオルに見つかったら怒られそうだが、そろそろ学校の外も飛んでみたい。
飛行の際の、空中交通ルールの本も読んだし、大丈夫だと思うのだ。
エリゼなんてもう、カルボンたちが参加していた空中バレーもできそうなくらい上手だ。
「うん、飛んでみよう」
そう決めたリロは、こっそり裏庭から学校の外へ飛び出した。
※
外は快晴だった。
リロとブッチョはぐんぐん街へ近づいていく。
「早いね。徒歩と全然違う」
「ゲェ~」
「図書館に向かってみる? 街を散歩してみる? 広場とか……」
「ドゥフドゥフ」
ブッチョは激しくブルブル震える。
どちらも乗り気ではないようだ。
「えー、じゃあどこに行こうか」
ブッチョは器用に上体を起こし、短い鰭でとある方向を指し示す。
「あっちには、確か……」
エリゼと買い物をしたタルト屋があったはずだ。
あれからも何度か通って、タルトを買い、ブッチョにもあげたことがあった。
気に入っていたのだろうか。
「タルト、いる?」
「ゲェ~~~~!」
いつもより長く鳴いたブッチョは、べちょっと飛び跳ね、リロのお腹にくっついた。
肯定しているようだ。
「よし、じゃあ、タルトを買いに行こう。ミネットのお土産も買おう」
「ドゥフンフン!」
リロの乗った箒は、タルト屋を目指して前進した。





