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73:ブルーベル寮の打ち上げ(ダニエル)

「どしてこうなった……!」


 ダニエルは心底困惑していた。

 何故か自分は今、ブルーベル寮生たちに胴上げされながら、寮の方向へ運ばれているのだ。


(なんなんだ、この状態は……わけがわからん!)


 彼らがこんな行動を取っている意味は不明だけれど、きっかけならわかる。


(俺が、ブルーベル寮に、手を貸したから……か?)


 当初は見物だけするつもりだった。

 ブルーベル寮生と関わりなんてないし、変に参加しても気まずいだけだからと遠巻きにしていたのだ。

 なのに今、全く予想外のことが起こっている。


 ことの始まりは、ブルーベル寮の一年生がとんでもない魚料理を出していたことだった。

 素人なのか、種族的に魚に詳しくないのか……とある魔族が毒を持つ魚をそのままぶつ切りにして料理しようとしていた。


 マダラテトラドンというその魚は、まん丸な見た目をしている。表皮は水色の蛍光色で赤いまだら模様が散りばめられていた。

 もう見た目だけで毒々しい。


 しかし、毒のある内臓を取り除いてから食べれば、大変美味だ。

 問題は、内臓を取り出すのに、技術がいるということ。

 潰さず取り出さなければ、毒が身の部分にまで浸透してしまう。

 だが今、魚料理を担当している一年生の生徒は、まさに魔法で内臓ごと魚の身をぶった切ろうとしていた。


(あれはなんだ? そのまま内臓ごと刻んで鍋に突っ込むつもりなのか!? 煮込み料理にするつもりなのか……!? このままでは……審査員が死ぬ……!)


 魔法料理大会で、教師が軒並み魚の毒に当たるなんて冗談ではすまない事態だ。

 あわあわと狼狽えたダニエルは、やがて決意し、魔族が調理している場所に乱入した。


「おい、マダラテトラドンの内臓には毒がある。そのまま切ると審査員が毒に当たるぞ!」


 突然現れたダニエルを見た一年生の生徒が、不思議そうに首を傾げる。


「誰だ……?」

「訳あって外で暮らしているが、一応ブルーベル寮生だ。手伝う」


「あ、聞いたことある。街に住んでいる生徒がいるって」

「そう、それだ。怪しい者ではない。俺が捌いて内臓を取り出す」


「まじ? 助かるけど」

「誰もマダラテトラドンのさばき方を知らないのか?」


「うーん、そうだと思う。魚料理担当の生徒、俺も含めて全員料理の初心者なんだよ」

「なんでそんなことに……」


「ブルーベル寮って、皆エンジョイ勢だからさあ。グループ分けとか適当なの。好きな料理作ろうぜーって感じで。で、たまたま魚料理担当が料理の初心者ばかりになったっていう」

「…………」


 なんという無計画。ありえない。料理をなんだと思っているんだ。

 ダニエルの心に炎が灯る。


 元々料理は好きだった。

 趣味レベルだが、子どもの頃から自分で料理をする機会もあった。

 父親からは「くだらない」、「リヴァラクタ家の息子がみっともない」などと言われ、否定されてきたが。


 ダニエルにとって、食事の時間はイコール説教の時間だった。

 父親が自分の考えを述べ、兄を褒め、同じ流れでダニエルをけなす。

 それが嫌で、自分で料理を作って、勝手に食べるようになった。


 マダラテトラドンについては外食したときに偶然存在を知って、おいしかったので、店を手伝う代わりにさばき方を教えてもらい、練習して覚えたのだ。

 もちろん、父親には内緒である。


 ……というわけで、手早く魚の内臓を取り出し、魔族の生徒がやりたいことを尋ねる。


「何が作りたいんだ?」

「特に決まってないけど……派手な煮込み料理?」


「……何を使って煮込むつもりだ?」

「お湯にトマトをぶち込んで、それらしくした赤いスープ」

「そうか、味付けは?」

「特には」

「……なるほど、トマト味の湯か」


 もう何に突っ込めばいいのかわからない。

 唖然とするダニエルを気にせず、魔族の生徒は同じく魚料理担当の生徒に声をかけた。


「おーい! 料理経験者が助っ人に来たぞー!」


 すると、スープらしき何かを作っていた生徒が二人やってくる。


「誰だ? その人魚族」

「外で暮らしているブルーベル寮生だよ」

「ああ、確かにいたな、そんな生徒が」

「ついでだからさ、スープも作ってもらおうぜ」

「賛成~」


 なんだか軽い感じでダニエルの参加が決まり、しかもかなりの作業を担当することになった。

 だが、トマト味の湯に魚を突っ込んだだけの料理を食べさせられる教師陣が気の毒だ。

 ダニエルは彼らと一緒に作業に参加すると決めた。


「……この状態からでも作れそうな料理は……アクアパッツアだ。他に具はあるか?」

「ないけど~、余ってる野菜ならあるかも」

「全部取ってきてくれ」


 言われるなり、二人の生徒が材料を取りに走った。

 残った魔族の生徒がダニエルに話しかける。


「俺、アビ。見ての通り魔族。お前は?」

「……ダニエル。人魚族だ」

「そっか、だから魚に詳しいのか。俺にできそうなことなら手伝うから頼んだぜ」


 本当は、高級魚のマダラテトラドンをアクアパッツアにしてしまうのは勿体ない感じもする。

 しかし今は、時間との勝負だ。なんとかそれらしい料理に昇華するべきだ。

 野菜が運ばれてくる。


「オリーブやニンニク、タマネギにパセリあたりは使えそうだ。アビは火の魔法は得意か?」

「得意って程じゃない。でも魔族だから一応できる」


「なら火加減の調整を頼む。俺は火の魔法と相性が悪いんだ」

「人魚族だもんなー」


「残りの二人は野菜を小さめに刻んでほしい。俺は魚を処理する」

「はいよー」


 魔法料理ならできる。実家では禄に厨房を使わせてもらえなかったので、自力で料理する方法を探していたら、魔法料理に行き着いた。

 ――そうして、終了時間の前に、なんとか料理が仕上がった。


「うめぇ、うめぇよ、この魚の煮込み」


 アビが切り身を一つ取り出してつまみ食いしている。


「おい、それ、提出前のやつ……!」

「ばれないって。それに味見は必要だ。切り身はたくさんあるから、一つぐらい大丈夫だって」


 残りの二人もアビと一緒に、フォークで切り身をつついている。


「……まあ、一つくらいなら大丈夫か」


 ダニエルは料理を提出場所へ運んだ。

 そうして、ブルーベル寮の一年生の魚料理は、第一位を獲得したのだった。


(これは、予想外だ)


 二位か三位ならいいか……くらいに思っていた。

 アビたちのテンションが上がっている。

 ブルーベル寮は成績が振るわず、全学年で最下位争いをしていたようなのだ。

 適当なエンジョイ勢なので仕方がない。


(……ガチ勢はカメリア寮くらいだが)


 ダリア寮は究極の個人主義だし順位にこだわらない。

 マーガレット寮も自分で決めた目標だけ達成したら、満足してしまう奴が多い印象だ。

 寮の成績は良いほうがいいが、それより自分の目的を優先している奴が多い。


 しかし……ガチ勢でないほうがやりやすいと思う自分がいる。

 気負わず、実力が出しやすい。


(入学する前と、感覚が変わってしまった。俺はどうしてしまったんだ)


 成績発表では、全体成績でブルーベル寮は三位だった。

 最下位を免れたことだけで、全員が浮かれている。

 成績に反映されるので、やはり良いにこしたことはないようだ。


 意外な結果だが、最下位はカメリア寮だった。ガチ勢なのに……。

 カメリア寮の方を見ると、なんだかギスギスした雰囲気だった。

 まるで実家のリヴァタクタ家のようだと、ダニエルは思った。


 さらに予想外なことに、ダニエルは「一年生の救世主だ!」と歓迎され、いつの間にかブルーベル寮の打ち上げに参加することになっていた。

 そしてアビたちに胴上げされ、寮まで運ばれるという謎の事態に陥ったのだった。

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ダニエルの性格的に変・ヘン・へんのいずれが適切か迷ったので感想で報告しておきます。
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