68:保護者たちの乱入
魔法料理大会の日がやって来た。
リロは生徒会の一員として、会場の用意や上級生が狩ってきた食材、生徒が植物園で収穫してきた食材などの管理など、ばたばたと働いている。
大変だろうと、ミネットも手伝ってくれていた。
「リロがいないと暇だしね~」
「ミネット、ありがとう!」
大体の準備を終えたリロはロバートに頼まれ、クリストファーに報告に向かう。
しかし、彼は取り込み中だった。何やら揉めている。
「あのさ、いくら議員だからって、そういうことされると困るんだけど」
クリストファーは眉をひそめて、人魚族の議員の人に抗議していた。
「いいだろう。この学校のアピールにもなる」
リロはその人魚族に見覚えがあった。
「あ、あの人、入学式で長い話をしていた人だ……」
「仮にそうだとしても、事前に言ってもらわないと」
「先に話したら、絶対に断るだろう……」
「わかってるなら、来ないでくれるかな? 迷惑だ」
帰った帰ったと、煩わしげに手をヒラヒラと振るクリストファー。
しかし、議員の人魚族は食い下がった。
「そうは言われても、もう既にゲストを呼んであるのだ」
「ゲスト?」
「ああ、帝国のお偉いさん方をだな。ほら、そこに……せっかくだから、審査員をお願いしたんだ」
議員が指差す方向に、見知らぬ男女が数人立っている。
彼らは興味深そうに、会場を見回していた。
会話内容は聞こえていないようで、好き勝手に喋っている。
「勝手な真似を……」
自然とクリストファーの声が低くなる。
(まさかのアポなしだもんね……)
しかし、帝国のお偉いさんとやらを、校長の権限で一方的に追い返すことまでは出来ないようで、クリストファーは苦々しい顔つきで職員席の隣を指し示した。
「そちらに席を用意するから、くれぐれも、生徒たちにちょっかいをかけないでよ。彼らは君たちが来るなんて知らないし、今日の魔法料理大会に集中しているから」
「審査には参加させてもらうからな。皆さん、楽しみにしておられる」
「……試食は許すけど、君たちの判断は反映しないよ。保護者が参加しては公平性に欠ける。ただでさえ、君には融通を効かせてあげているんだから……ね?」
議員は眉間に皺を寄せたが、ここが妥協点だと思ったのか頷いた。
「……そうしよう」
答えると、彼は連れてきたお偉いさんとやらのほうに向かって手招きする。
リロは会話を終えたクリストファーに話しかけようとし、「行こう」とミネットの手を引いた。
しかし、彼女は動かない。
「あれ、どうしたの?」
何故か、ミネットが目を見開いたまま、その場で固まっている。
いつも元気な彼女らしからぬことだ。
「大丈夫?」
心配になったリロが尋ねると、ミネットが震える声で告げた。
「……お母様がいる」
「えっ!? どこ?」
「あそこの男の人が連れてきた集団の中の、目立つドワーフ族の女性……」
そこには、ひときわ派手な服を着て、大きな宝石があしらわれたアクセサリーをたくさん身につけた女性がいた。
ふさふさのファーが付いた帽子を被っていて、確かに目立つ。
「あの人?」
「うん」
ミネットは恥ずかしそうに俯く。
(あれ、なんだか嫌そう……? お母さんと仲が悪いのかな?)
すると、その女性がふと後ろを振り返った。
そうして、リロたちの方をじっと見つめる。
「んまぁ! ミネットちゃん! こんなに早く会えるなんて嬉しいわぁ!」
「……お母様、なぜここに?」
「そちらの魔法島の議員さん――リヴァラクタさんがね、招待してくださったのよ。本当はお姉様が招待されたんだけど、忙しいらしいから、私が代わりに来てあげたの」
「そんなこと言って……叔母様がお母様に頼んだわけじゃないでしょ?」
「細かい話はどうでもいいじゃない。で? ミネットちゃんは何を作るの?」
「……フライ丼」
「まあ! 下品な食べ物を作るなんて! よりにもよってフライ丼ですって!? 一体どうしてミネットちゃんが……!」
フライ丼が気に入らないようで、ミネットの母親は長々と文句を言い始めた。
口調は早く、息つく暇もなく喋り続ける。
(すごいお母さん……)
不思議な態度を取っていたミネットだが、彼女がそうする理由がわかったような気がした。
戸惑っているとクリストファーがこちらに気付いてくれた。
「やあ、ごたごたしていてごめんね。生徒会の報告だよね?」
「あ、はい。準備が終わったので確認をお願いします」
「うん、同行しよう」
リロはさりげなくミネットの手を引く。
「ミネット、行こう」
助かったとばかりにミネットが頷き、彼女の母親を振り返る。
「じゃあ私、行くから!」
早足のミネットとともに、リロたちはクリストファーと一緒に生徒会メンバーの元へ向かう。
「ごめん、不測の事態が発生した。魔法島の議員が帝国から賓客を連れて、魔法料理大会を見物しに来ている」
「は……? どういうことです?」
声を上げたのはガイゼルだ。
「今日突然現れたから、僕だって想定外だよ。でも帝国からその気で来た、何も知らない権力者たちを追い返すって、しづらいし……審査員をする気満々だったのを、試食だけに留めてもらうのが限界って感じ」
「校長先生なら、全員追い返せるでしょ?」
告げたのは、ロバートだ。
「なるべく帝国とは友好的でいたいんだよね、うちの卒業生の多くが帝国で仕事に就くし。魔法島自体は自治だけど関係は深いから……まあ、リヴァラクタ氏はやりすぎだけど」
「学校にとって、いい結果になるとは思えない」
「僕も同感だけどさぁ……今から全員追い返すって、さすがに印象が悪いでしょ? この学校自体に敵対心は持たれたくないんだよね、あとが面倒だし」
生徒相手でも、クリストファーは割と本音を隠さず喋っている。
その相手が、幼い頃から知っているロバートだからかもしれないけれど。
「心配しなくても、魔法料理大会自体に口出しはさせない。これはあくまで学校行事だからね」
「俺が心配しているのは、そこじゃないけどね」
いつになく、ロバートの口調が厳しい。
リロにはわからなかったが、クリストファーは彼が何を言わんとしているのか、理解しているようだった。
「大丈夫」
短く答えると、クリストファーは話を切り替えるように微笑む。
「……準備は万全だね。それでは魔法料理大会を始めよう。君たちも、頑張ってね」
僅かな波乱を抱えたまま、魔法料理大会は始まろうとしていた。





