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67:教育熱心な親と劣等感(ダニエル)

 入学式やら寮決めやらが終わり、オリエンテーションも済むと、通常授業が始まった。


(大丈夫だ、ついて行ける)


 本来自分はここにいていい存在じゃない。

 けれど、ここ以外に行く場所もない。

 朝一番の授業を、ダニエルは緊張しながら受ける。

 教室前方にある教壇では、校長のクリストファーが自ら教鞭を執り、生徒たちに魔法の基礎を教えていた。


「一般的に各種族には、特に魔法を教わらなくても習得してしまう、固有の得意魔法があるね。例えば、獣人族の身体強化や人魚族の水かけや歌なんかが有名だね」


 身体強化は体の能力値を上げて頑丈にする魔法。

 獣人力の優れた肉体がさらに強化され、抜群の運動能力が発揮される。

 水かけに限らず、人魚族は水を操る能力に長けている。あとは、個人差があるものの、催眠の効果がある歌も得意だ。

 ただし、歌が苦手な人魚の催眠はほとんど効果がない。


「ドワーフ族の物質鑑定、鳥人族の飛翔強化もあるね」


 ダニエルは一生懸命授業に耳を傾ける。

 一方で、気になるものを発見した。

 教室の端で、リロが何やら水の魔法を展開している。

 あれは……カフェや水やりでダニエルが使っていた水かけ魔法そのものだ。

 以前の水やりのときには、リロは水を固定化したのちに移動させる過程をとっていたが、より自然な水の魔法になっている。


(おいおい、おいおいおいおいおい。授業中だぞ?)


 クリストファーの、固有の得意魔法の話に触発されたのだろうか。

 ミネットが面白そうにそれを眺めていて、エリゼが「違う、ここはこうだ」なんて、呆れながら魔法の使い方を指導している。

 しばらく見ていると、リロは魔法を完成させ、水を自由自在に操り始めた。

 そこでダニエルは気付いた。


(そういえばあいつ、初級魔法大全を暗記しているんだったな)


 リロにとって今の授業内容は全部当たり前に知っているものなのだ。

 妖精族のエリゼもそうだ。ひととおりの魔法について知っているのだろう。

 ただ言われるがまま嫌々必要最低限の勉強してきたダニエルとは違い、本当に出来る奴は入学するだけでなく、もっと先の知識や独自の知識を勝手に身につけていて、さらに自分の知識や経験を増やそうとするのだ。


(ぜんぜん、俺と違うじゃないか)


 自分との実力差を突きつけられる。


(アレより上に行けだなんて、親父も無茶を言う。普通に無理だ)


 今から努力したって、その間にも奴らはどんどん新たな知識を身につけていく。

 ゆっくり物事を吸収することしかできないダニエルが追いつけるはずがない。


「…………というわけで、今言った内容は中間試験に出るからね?」


 ハッとして、慌ててノートを取る。


(と言うか自分、どれだけ世間知らずなんだ?)


 これまで、父に言われるがまま、机に向かってガリガリと嫌々勉強してきた。

 しかし、それ以外に何もしてこなかった。

 やりたいこともない。将来の夢もない。

 他種族の知識なんてどうでもよかったから、彼らについてもよく知らないままだ。

 今だって、試験のために、こうしてノートを取らなければならない。


(俺、これまで何をやっていたんだろう……こんな当たり前の事実に気が付かなかったなんて)


 冷や水を浴びせかけられたような心地になる。

 いかに、これまで狭い世界しか見てこなかった無知な人魚族なのかを痛感した。

 これでは、入学試験に合格できなかったのは当たり前だ。見えている世界が違う。


(俺は、このままでいいのだろうか)


 漫然と魔法学校に通い、親の力で入学したと引け目を感じたまま最底辺を這って、その先に何がある?

 卒業後も、父親が敷いた実力に見合わないレールの上を歩き続けるのか?

 一体いつまで? 一生?

 ほかの授業の間も、そのことはずっとダニエルを悩ませ続けた。


 魔法植物学の植物園の案内……魔法生物学の、学校で飼育している魔法生物の紹介。

 魔法歴史学の導入、魔法体育学の準備運動……。

 授業に頑張ってついていく傍らで、ぐるぐると同じような内容が頭の中で巡る。

 そして、家に帰ってから、ダニエルの悩みは益々増えることになった。


「げ……」


 部屋の窓辺に父親のフクロウが手紙を咥えて停まっていた。

 フクロウは父親にそっくりな尊大な態度で手紙をダニエルに投げつけると、まるで「手間をかけさせるな」とでも言いたげな様子で、さっさと空へ飛び去っていく。


「なんでフクロウにまで、あんな態度を取られなきゃいけないんだ……」


 呟きながら、手紙の封を切って中身を取り出す。

 書かれてある内容を見て、ダニエルはげんなりした。


「親父、料理大会に来る気なのか……?」


 実はダニエルは料理大会に参加するつもりはなかった。

 なぜなら、一応ブルーベル寮に所属している体になっているが、街で一人暮らしをしているからだ。

 入学直後の自分は、父親にカメリア寮にならなかったことを叱られ、その意見を鵜呑みにして不貞腐れていた。

 ブルーベル寮なんてパッとしない凡人たちの寮だと、さっさと一人暮らしを始めてしまった。

 今更、ブルーベル寮生として行事に参加しづらい。


(当日、参加だけするか……)


 しかし、どうやって親の目を誤魔化すかが問題だ。

 この日から魔法料理大会まで、ダニエルは悶々とした日々を送り続けるのだった。

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