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66:妖精族の事情(エリゼ)

 放課後、エリゼは生徒会室で慌ただしく働くリロを眺めていた。

 最初の集まりから少し日にちが経過し、魔法料理大会徒とやらの計画もかなり進んできた。

 この日は、何度目かの打ち合わせがある。


 料理大会の構成なんて例年どおりにしておけば楽なものを、リロは新しいチーム分けを提案し、その計画を通してしまった。

 悪くない案だとは思うが、手間が掛かるし、提案者であるリロが目立ってしまう。

 人間族である彼女が変に注目を浴びては、後々碌なことにならないのではないだろうか。

 あの、ダニエルとか言う人魚族のように、言いがかりを付けに来る輩が出ないとは言い切れない。


(どうにも危なっかしいな……)


 なんとなく気になってしまう。

 その理由が、リロがやたらとエリゼに懐いているからか、自分と似た境遇に同情しているからか……そこまではわからないが。


 人間族なんて碌でもない。エリゼはそう思う。

 だが、リロ自身もまた、人間族を好いてはいない様子だ。


(俺だって、今でこそ完全に妖精の姿だが……元は……)


 自己嫌悪がこみ上げてくる。

 ――チェンジリング

 たちの悪い妖精族が、妖精族とほかの種族の赤ん坊を入れ替える悪戯。

 それが、エリゼの運命を大きく変えた。


 記憶にはないが、かつてのエリゼは、どこの誰ともわからない人間族だった。

 それが妖精族の王家の赤ん坊と入れ替えられた。

 元の赤ん坊がどこにいるのか、エリゼは誰の子なのか……今でも判明していない。


(誰も、捜そうとしないんだよな……面倒だから)


 妖精族に、情に薄く適当な性格の者が多いせいか、エリゼは一応王子として育てられた。

 出自も公にはされていない。

 ただし、妖精族の親からは、本当の子どものようには接せられなかったし、エリゼ自身が妖精界になかなか馴染めなかった。

 だから、エリゼは妖精界を出て魔法島で生きていくのと同時に、自分と入れ替えられた存在を探そうと思った。


 だが、チェンジリングの犯人も、自分と入れ替えられた相手も、手がかりはないに等しい上に、人間族のほとんどは魔法が存在しないピア王国に住んでいる。

 何もかもがアナログなピア王国は、妖精族となったエリゼとの相性が最悪の土地だ。

 妖精族は魔法に依存しすぎな種族なので、魔法がない土地で暮らしていくのが困難。

 さらに新鮮な花や果物でないと口に出来ないという、食べ物の問題もある。


(なんか、妖精族って、魔法がなければ普通に最弱種族だよな……)


 ……というわけで、ピア王国に人間を探しに行くのは不可能に近い。


(詰んでる……)


 かつては人間だったらしいが、今の体はすっかり妖精族だし、味覚だって一般的な妖精族のものだ。

 もはや、本当に元が人間だったのか疑問に思えてくるレベルである。


(チェンジリング直後は、人間族の姿のまま妖精界に来ていたって話だけど……赤ん坊の頃のことなんて覚えていないしな)


 妖精族は偏食で、新鮮かつ気に入ったものだけを口にする。

 エリゼの場合、基本は植物を食べ、ミルクや蜂蜜は口に出来るが、肉や魚は受け付けない。多数派の妖精族の味覚だ。

 ……ごく希に肉食の妖精もいるが、どうやらそちらではないらしい。


 リロやミネットを見ていると、人間族やドワーフ族の味覚の鈍さにびっくりする。

 さすが、雑食の種族だ。

 しかし、食べ物に頓着しない彼女たちを羨ましく思った。


 それはさておき、人間族であるリロは、ほかの意味でも危なっかしいというか鈍い。


(あの生徒会長や家族に守られて、大事にされて生きてきたんだろうな)


 だから今も、アウェイな環境課にもかかわらず、明るく前向きでいられるのだ。

 詳細は知らないが、リロは豹獣人の家族に育てられている。

 人間の家族はどうしたのだろうか。


 迂闊に聞けない気がして、結局何もわからないままだ。

 なんだか、勝手に彼女に自身を重ねてしまっている部分がある。

 獣人族を真似た格好をしているのに、獣人族にはなりきれない人間族。

 見た目は完全な妖精族なのに、妖精界に馴染めない自分。


(元人間ってだけで、ぜんぜん違うのに)


 そのこともあって、リロに一方的に懐かれているにもかかわらず、強引に振り払えないのだろう。

 挙げ句、彼女の心配までしている。


(他人の心配なんてする性質じゃないし、こっちは自分の事情で手一杯だというのに)


 げんなりしてしまう。


「ねえ、エリゼは何に出るか決めた? 私はご飯とパンの部門だよ」


 エリゼの心情に反し、リロが暢気な質問をしてきた。


「……デザート」


 それなら、果物を並べれば大丈夫そうだ。楽である。

 料理が得意ではない……というか、そのまま食べられる新鮮な食材を、わざわざ料理する意味がわからないエリゼでも作れそうだ。


「そうなんだ。エリゼが何を作るか楽しみだな」

「……お気楽人間め」

「へ?」

「……なんでもない」


 エリゼはふいと顔を背けた。

 自分は愛想のいいほうではない。なのに……。


(本当に、なんでこんなに懐かれているんだ……?)


 それが未だに謎だった。

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