61:教育に厳しい父親(ダニエル)
入学してしばらく経ち、ダニエルは父親から呼び出しを受けていた。
外出用の服を身に纏い、重い足取りで顔合わせの場所である、魔法島の街の一角にあるレストランに足を運ぶ。
(ああ、行きたくない)
父親は魔法島の議員で、入学式の場で長話を垂れていた人物だ。
困ったことに、息子のダニエルにも自分と同等以上の優秀さを求めてくる。
本当は父親のところになんて行きたくないし、顔も見たくない。
(どうせ貶され、責められるだけだ……わかりきっている)
せっかくのレストランの食事も味がしないだろう。
ダニエルと父が顔を合わせるのは説教の場ばかり。
家でも、家族が揃う食事の時間にはいつも文句を言われていた。
いくら親だからと言って、何もかも許せるわけではない。
しかし、「行かない」という選択肢はダニエルの中になかった。
なんだかんだ真面目なので、つい、親の言うことに従ってしまうのだ。
(意気地なしの自分が嫌になるな)
外はとてもいい天気だというのに、自分の心の中はどんより暗雲が垂れ込めている。
沈んだ気持ちでレストランを訪れると、既に父は到着していた席で息子を待っていた。
白いテーブルクロスの掛かったテーブルが並ぶ店内の再奥にある個室で、黙って着席している。
室内には上品な花が飾られ、卓上には磨かれた銀のカトラリーがきっちりと並べられている。
いかにも父の好きそうな、一流を謳う店っぽい雰囲気だった。
店員が引いた椅子にダニエルが座ると、グラスに水が注がれる。
先に来ていた父は、既にワインを注文していた。
(これは、面倒だな)
酒が入ると、父の説教は支離滅裂で激しいものになる。
(うんざりだ……)
気を紛らわせようと、視線をテーブルに移す。
ちょうど前菜が運ばれてきた。
前菜は大きな皿の中央に、彩り豊かな野菜がちょこんと盛られたものだ。
ダニエルたち人魚族に配慮したのか、中央には海の幸である白い貝柱が乗せられ、柑橘系の香りがするソースがかけられている。
まだ何も言い出さない父の様子を窺いながらそれを口に含むと、胡椒とオリーブオイルのいい香りもした。
(うまいな……)
料理に罪はない。
父はまだ何も言い出さず、それが帰って不気味だ。
身構えながら全盛を食べ終えると、白い湯気の立つ温かなスープが運ばれてくる。
これも、人魚族が好む魚介の出汁をベースにし、数種類の香草を合わせたもののようだ。
「ところで、ダニエル……」
ようやく、父が話を切り出した。
ダニエルの全身に緊張が走る。
「生徒会のメンバーには選ばれなかったようだな」
「それは……」
メイン料理は香ばしい白身魚のムニエルだったが、父のせいで味がしなかった……。
「アヴァレラ魔法学校の生徒会は、入学試験の上位二名がなる決まりだから……」
「だからなんだ。それを押しのけ立候補し、生徒会メンバーの座を奪い取るくらいしたらどうなんだ」
(いや、無茶すぎるだろ! ただの迷惑な奴だろ、それは!)
そんなことが出来るのは厚顔無恥な、この父親くらいのものだ。
ダニエルには同じ真似をする度胸はない。
「我がリヴァラクタ家の者が、人間族や羽虫ごときに後れを取るなど許されない」
「…………」
羽虫というのは、妖精族に対する悪口である。
彼らが羽を出して飛び回る姿が、虫に似ていなくもないからだ。
「いいか、次の中間試験では必ず一位を取って、生徒会メンバーの資格を手に入れろ。私も協力する」
(余計なことは、もうやめてくれ!)
本当はテーブルをドンと叩いて抗議したい。
しかし、ダニエルにそれをする勇気はなかった。
気質的にもそうだが、学費も一人暮らしの費用も、全部親の世話になっている身だからだ。
何も言い返せない。
完全に自立するためには、自分で自分が生活していくための、お金を手にしていかなければならない。
(親父に内緒でバイトでもするか)
あの父に知られると、「我が家の者が雇われの身に成り下がるなど、みっともない!」と騒ぐだろう。
面倒なこと極まりない。
父は言いたいことだけ言うと、ワインを飲み干し、興奮した状態で席を立ち、「私は忙しい!」と告げ、さっさとレストランを出て行ってしまった。
本当はそれほどでもないが、忙しいアピールが好きなのだ。
(自己中すぎる大人だ……)
だが父は我が家の中で、それが許される身分だった。
(……親父が学校で余計なことをしなければいいけど。肩身が狭い思いをするの、通っている俺だし)
残されたダニエルは一人でデザートを平らげてからその場をあとにした。
やはり、料理に罪はないので。




