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60:生徒会のお知らせ

 放課後――リロとエリゼは二人揃って校長室に呼び出されていた。

 落ち着いた雰囲気の部屋の中、並んでソファーに座って、校長のクリストファーの話に耳を傾けている。


「……というわけで、入学試験で主席だった二人には生徒会に参加する義務があります。ってわけで、よろしくねー」

「……なんのこと?」


 いきなりの話に、リロとエリゼは顔を見合わせた。

 エリゼは仏頂面で立ち上がる。


「……断る。俺はそんなに暇じゃない」


 案の定、エリゼは渋面を浮かべて抗議した。

 彼は他人に興味がないし、面倒ごとを嫌う性格だ。

 生徒会に入るなんて、もっての外だろう。


(……言うと思った)


 リロもまた、断りたいと考えていた。


 人間族の自分が生徒会に参加しても、各方面からやり玉に挙げられ、問題の種が大きくなりそうなだけの気がしたのだ。

 優しくリロを受け入れてくれる人だけではないと覚悟はしているが、下手に騒ぎになって、卒業が危うくなったりしたら困る。


 リロには、いい成績で学校を卒業し、魔法島の限られた人にしか読むことが許されない書物の閲覧権限を手に入れるという目標があるのだから。


 そんなリロを見て、クリストファーがすかさず口を開いた。


「ちなみに生徒会への参加も、成績加算のポイントだよ。優秀な成績で卒業するための条件の一つでもあるねえ」

「やります」


 気付けばリロの口は勝手に動いていた。

 しまったと思ったが、もう遅い。


「お、リロは即答だね。嬉しいよ」

「あ……」


「じゃあ二人とも、これから今年度最初の集まりがあるから、頑張ってね」

「えっ、これから?」


 リロとエリゼが固まっている間に、クリストファーはパチンと指を鳴らす。

 気付けばリロたちは揃って校長室から別の場所へ転移していた。


 ※


「ここは……?」


 どこだかわからない。

 小さな四角い部屋で、真ん中に丸い机があり、周りを囲むように椅子が並んでいる。

 壁際にある木製の棚には書類っぽい紙の束が無造作に突っ込まれていた。


 戸惑っていたら、扉が開いて誰かが入ってくる。

 その人物を目にし、リロは「ああっ!」と声を上げた。


「お、お兄ちゃん!」


 現れたのは、なんと兄のロバートだった。

 ロバートもリロを見て驚いている。


「リロ、なんでここに?」

「校長先生に飛ばされたの。お兄ちゃんはどうしてここにいるの? ここはどこ? お兄ちゃんは学校の外で実習中じゃないの?」


 妹からの立て続けの質問を受けて、ロバートは困ったように眉尻を下げた。


「あー……なるほど。校長が俺に説明を丸投げしたってわけか」


 何かを理解したように、ロバートが呟いた。


「ここは生徒会室だ。で、俺も生徒会に所属していて、生徒会の用事のために一時的に実習から戻ってきてる」

「お兄ちゃん、生徒会の人だったんだ……」


「毎年学年の成績優秀者上位二名は、生徒会の参加が義務づけられている。リロたちは入学試験の成績がよかったから、校長にここへ飛ばされたってことだな」

「なるほど……」


 ロバートの説明は分かりやすかった。

 知らない場所に飛ばされて不安だったが、兄がいることで、少しリロの緊張がほぐれる。


 話をしていると、ほかの生徒たちも入室してきた。

 先ほどロバートが言ったとおりで、それぞれの学年から二名ずつ選ばれているみたいだ。

 つまり、生徒会は合計六人で回すということらしい。


「生徒会って、何するの?」

「……いろいろだな。学校のパシリって感じだ」

「ぱしり?」


 首を傾げていると、先ほど入ってきた生徒の一人が会話に入ってくる。

 眼鏡をかけた、真面目そうなドワーフ族だ。


「学校行事の企画や運営をしたり、生徒たちの相談に乗ったり、非常事態に生徒たちを仕切ったり……という感じだ」

「ありがとうございます。なんとなく、想像できたかも……」


「それはよかった。ちなみにそこのロバートは生徒会長だ。それで私は副会長のガイゼル・ヘイリスという……三年生だ」

「一年生のリロ・リオパールです」


「君がロバートの妹か。兄に似ず、素直そうでよろしい。ひとまず皆、席に着いてくれ」


 ガイゼルの指示で、リロたちは近くの椅子に座る。


「君たちが今年度の生徒会メンバーだな。右隣の彼は生徒会長のロバートで、私は副会長のガイゼルだ。知っている顔ばかりだが、一年生もいるのでまずは自己紹介をしよう」


 成績優秀で生徒会に選ばれるような生徒は、あまり変動がないようだ。

 二年生と一年生で自己紹介をし合う。


「エリゼ・フィアーユだ」

「リロ・リオパールです」

「会計担当のジャクリーン・ハウエルよ。リロとは寮が一緒ね」


 そう言って、ジャクリーンが微笑む。

 彼女はマーガレット寮の寮監でもあるのだ。


「広報担当のフェン・ククルだよ」


 もう一人は、なんだか軽そうな感じの男子生徒だった。

 角があるので、魔族の可能性が高い。レアな種族だ。


「リオパールって、会長の身内? 白い豹耳だし」


 リロは頷く。


「わー、似てないねえ。会長と違って可愛いじゃん。彼氏はいるの?」

「……いませんけど」


 びっくりしていると、ロバートがリロとフェンの間に割って入る。


「リロに手を出したら、魚の餌にするからな」


 今まで聞いたことのないような、ドスのきいた声だった。

 フェンは堪えていないようで、ヘラヘラしている……。

 しかし、それ以上、リロには絡んでこなかった。


「一年生には、渉外か書記を担当してもらう」


 副会長のガイゼルが告げる。


「渉外は主に学校内――教師と交渉する仕事だ。外部との交渉は会長が行うからな。書記は……まあ言うまでもないな、会議の記録をとってもらう」


 リロはチラリとエリゼを見た。


(絶対に、先生とのやりとり……向いていなさそう……)


 エリゼはそういうのが好きなタイプではない。

 なので最終的に、リロが渉外でエリゼが書記を担当することになった。


「さて、役割も決まったし、次の議題に移るぞ。新学期が始まり、最初の学校行事が迫ってきている。急いで準備を始めなければならない」

(学校行事……?)


 リロは黙って話の続きを待つ。エリゼは眠そうだ。


「アヴァレラ魔法学校最初の行事は、『魔法料理大会』だ。材料を自分たちで調達し、魔法だけを使って調理するんだ。四つの寮対抗で、学年ごとの勝負になる。生徒会のメンバーも運営しつつ、大会自体には参加するから、そのつもりでいるように」


 リロはちらっとロバートを見た。


(お兄ちゃんに料理で勝てる気がしないから、学年別なのはよかったかも……)


 一応料理全般は出来るし、家事もひととおりやっていたが、ロバートのほうが何かと器用で凝った料理を作りがちなのである。


(……頑張ろう)


 密かに決意していると、思い出したようにロバートが言った。


「あ、そうそう。一年生はクラブ活動決めもしなきゃだな。入らなくてもいいけど、入ったほうが成績が有利になるみたいだ」

(成績……)


 リロの目が密かに光る。

 続いて、ガイゼルが告げた。


「料理大会のあとは、中間試験もあるから、気を抜かないようにな」


 することがいっぱいだ。

 それでもリロは、これからの生活に希望を感じていた。


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