第97話 三頭&三人の関係性=?
私の名前はセナ。
愛らしい白い葦毛に、輝くような白銀の鬣。そう!私は美しい馬。
今日は、一番鬣を綺麗に透かしてくれる子のお願いで、この黒髪の子を乗せてあげてるわ。
「うわあ…セナ、大人しいね。鬣も綺麗!」
ふふん、ほめるの上手じゃない。
この子たちに褒められるのは嫌いじゃないわ。それにしても…前を歩く黒馬と鹿毛の子。二人とも中々に美しいわ。乗ってる子たちも、とっても素敵。
ただ、気になるのは、馬上の三人のバランス…みたいなもの。
「シャル、大丈夫?」
「うん全然平気だよ?フォーレの書き込みにもあるでしょ?目線は上、姿勢を正しくってね」
「シャルは身体鍛えてるから。僕としてはフォーレの方が心配だけど」
「余計なお世話だよ……俺だって、一応エイデン家の人間だからね」
何を話してるかわからないけど、この鹿毛の上の子、少し心配し過ぎじゃない?
私に乗る女の子、二人が思うよりも体がしっかりしているし、身体の芯がぶれない……鍛えてるのねえ。へたくそな子は、みんな私の上でふらふらするから、手綱を握る手が弱いの。
「ケディは本当に運動神経がいいのね。そのまま鎧を着て剣を振りかざして突進されたら、勝てる気がしないわ……」
「別に、馬がしたいようにするだけだよ……エルトは賢いし、付き合いも長いから。うちの家って、成人したらまず馬を贈ってもらう。そのために、いい馬をずっと前から準備しているんだ」
「へえ、じゃあ、ちゃんと世話もしてるのね?」
「俺は、乗りこなすのに最初は苦労したから…兄さんが特別なだけだって」
あら、ほらまた。
鹿毛の上の子は、自分のことを悪く言う癖でもあるの?
黒毛の子はまったく気にしてないみたいだけど…私の上の子は、普通に楽しいというのが伝わってくるからいいけど。
「……別に僕が特別ってわけじゃないよ。フォーレはすぐにそう言う」
「そう言う、つもりはないけど……」
あら、あらら。
雲行きが怪しいわ。あ、空気を察したわね、黒毛の彼。
一度嘶いて、走り出したわ。
「あ、こら。エルト!」
「え?お、おいライカ!」
それに感化されてか、鹿毛の子も鼻息荒く、走り出したわ。競争心が強い子ねえ……で、私のこの子はどうするのかしら?
「あ!よおし!負けないわよッ」
……あらあらあら。
この子はあまり細かいことに気が付いていないわね。
しょうがないわ。ほらほら、手綱を握りなさいな!あの二頭には負けないわ!!!
「わ!走ってくれた…ありがと―セナ!いい子だね!」
うーん、のんき、ねえ。
**
「ちょっと待てって…どうどう」
ヒィン、と嘶いて歩みが遅くなるが、同時に後ろから物凄い勢いでフォーレが飛んできた。
「わ!なんだよ、急に!どうしたフォーレ!」
「いやっ…ライカが」
ヒン!ブルル!とライカは勢いを緩めない。そして、エルトを抜いた後でどや、という表情で振り返る。
「ああ、こら!」
「負けず嫌いが出た、か。やれやれ……それにしても、フォーレが一緒に来るって言いだして、ちょっと驚いたよ、僕」
「驚いた…って、なんで?」
「だって、らしくないなって。外に出るの好きじゃないだろ?」
「………それは、そうだけど。一緒に、来たかったから」
何処か歯切れの悪い言葉に、首をかしげる。
(一緒に…って。それは、僕と?それとも)
普通なら聞けるはずの言葉が、なぜか出てこなかった。
微妙な沈黙が流れる。眉間にしわを寄せたまま、フォーレは続けた。
「俺が…シャルと。ケディと二人きり…が嫌だったから」
「え?それなら、言ってくれれば」
(言ってくれたら…僕はどうしたんだろう)
「言ったら、どうなった?…兄さん」
「!…そりゃ、勿論」
勿論…どうしたんだろう?
「また、引いたの?」
「……引くって」
「知ってたよ。兄さんは……俺が前に出ると、いつも下がるって」
「それ、は……だって。お前が出るなら。僕は」
必要ないだろ?と、言いかけて、なぜか言葉が出なかった。
それを見てか、フォーレは少し悲しげな表情をした。
「ほら、そうやって……また、距離を取る」
「フォーレ…?」
分かっていた。
だから、対等になりたいと思って、お前も前に出ろ、とそう言った。
なのに。
(なんだ、これ?僕は……)
「キャーーー!」
「?!シャルっ」
「どうしたの?!」
バッと同時に降り返ろうとして…超速急でシャルの白い馬が二人の間を駆けていった。
「ねえ!!見てみて!砂浜だよ!すーなーはーまーーぁ!!!」
いつの間にか、人馬一体の如く息があったのか。一人と一頭は楽しそうにはしゃいでいる。
それを見て…二人は絶句した。
「乗りこなしてる……」
「なんだよ、それ……ちょっとシャル!一人で突っ込まないで!」
すると、エルトよりも血気盛んなライカは、追い越されたのが腹立たしかったのか、また走り出す。
(距離を取る…なんて)
「はあ、ライカの方が正直じゃん、フォーレの奴」
馬同士の相性か、息がぴったりに楽しそうに駆けていく。
その様子を離れたところで見ていると、なぜか内側がざわついてきた。
(なんだろう、これ。……悔しい?違う。不快?それも違う)
ざらっとした……多分これは、焦り、だ。
そう思った瞬間、心よりも体が早く反応して、二人を追いかけた。
でも追い付かず、そのまま離れていく。
(何で、隣にいるのが僕じゃないんだろ。)
「だって、そうか……僕は今、フォーレの言う通り退いて、【譲ってる】んだ」
エルト、と声を出すと、心得たとばかりに一声鳴いて棹立ちになり、あっという間に二人の元へ駆け抜けた。
「バカじゃん、僕……それに、何の意味がある」
三人一緒だと、楽しい。
でも、家を継ぐのも一人、シャルの隣に立つことができるのも、ひとりだけ、なんだ。
―――15歳になった時、父は二人を呼んだ。
「お前たちのどちらかに、このエイデン侯爵家を任せようと思ってる」
「……はい」
「うん」
その頃から、後釜を狙う連中から招待状やら婚約申し込み状やらが頻繁に届いていた。
それはどれも「ケディック=エイデン宛」が多く、婚約申し込みの方は「フォーレスト=エイデン宛」が多かった。
それが意味することは、兄の方が家を継ぐのが妥当だろう、と言うもので……婿にするなら次男が欲しい。そう言った大人の欲望が垣間見えるものばかり。
それを憂いた父や母は、そう言った類の紙は全て暖炉に放り込み…あるいはそのまま送り返していたらしい。
「うちの息子たちは物ではない。……このような連中、相手にすることはないさ」
「ですが、父上……向こうにも失礼では」
「フォーレ。お前が気にすることじゃないよ」
そんな会話を、フォーレは頻繁に父としていたように思える。
それが理解できずに、よく
(何で、僕はしたいことがあるのに、みんな邪魔するんだろう)
そんな風に思ったことさえあった。
その頃から、剣術の才能は開花しており、騎士団に混じって訓練していても違和感がないほどに身体も成長していた。
何をしても失敗はしない……要領を掴むのが容易いから。
新しいことを始めても、すぐに飽きてしまう……器用だから。
でも、剣術はそうじゃなかった。
失敗ばかりだし、新しい技も動きもどんどん無限大に増えてくる。それが楽しくて、夢中になるものに初めて出会うことができた。
馬術もそう、剣術も……頂点は遠く、難しい。
その間、フォーレは社交に出ては色々な人と関わって……その度に「弟さんだけなの?」と、そう聞かれていたらしい。
それが結局僕は……いつの間にか「罪悪感」に変わっていた。
ふと、以前シャルに言われた言葉を思い出す。
「ホントは、嫌なものは嫌だって、辛い時は辛いって言ってよかったのに。でも口に出したら、不幸になりそうな。そんな風に感じてて…ケディもそうだったのかなって」
「僕は……あ、そうか…フォーレにちゃんと、言葉にして伝えたこと、なかった、かも……」
「意外と口に出したら…みんな助けてくれたり、教えてくれたりするのにね」
(そうじゃない…僕はまだ、やっぱりわかってなかった)
お前がやるなら、本気でやる。だなんて……そんなの口先だけだった。
どこかで、まだフォーレを認めてなかった、本気を出したら、あいつには負けないって。
「あ―――くっそお――――!僕のバカヤロ――――!!!」
「わ?!」
「き、急に何…?」
そして、二人に追いついて、その間に割り込んだ。
「こらフォーレ!」
「なんだよ?!」
「何邪魔してるんだよ!今日は僕とシャルが二人だけで来る予定だったのに!」
「そ、そんなの嫌だからに決まってるだろ!!俺だって…ふ、二人きりがよか」
バシャン!と二人に水がかかる。
「しょっぱっ!」
「何これ?!み、みずっ」
「あはは!みずでっぽーう」
「あ、ちょ」
さすがの命中率というか、なんというか。
シャルの繰り出す水の矢は的確に嫌なところを当ててくる。
「この!やったな!!」
「キャーー!協力技、反則だよ!!」
「フォーレ、右から攻めろ!」
「わかった!じゃあケディは左な!」
(ああ、だめだ、やっぱり三人でいるの、楽しすぎる)
でも、もしここでフォーレとシャルが二人きりでいたら…と考えると、胸が苦しい。
例えばそのまま、一緒になるとか…考えたくない。
双子だからこそ、わかる。きっと、フォーレはシャルが選んだら、誰よりも強くなるし、どんな難関もきっと乗り越えてしまうだろう。
でも、それは僕だって同じだ。
「負けたくない……なら」
戦うしか、ないじゃないか。
シャルはきっと誰よりも強くて綺麗な大人になる。
その時、選んでもらえるように……隣でいられるその場所は、やっぱり譲りたくない。
(だから、いつまでも一緒ではいられないんだ)
そう、痛感した。
あんなーにいっしょだったーのに…読んでいただき、ありがとうございました!精進します!




