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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第8章 人生、狩られる前に先手必勝!

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第94話 薔薇の騎士×男装×推し活


アズレアの港は大きい。

他国のからこの港に到着し、一番に目に入るのは、白煉瓦で積み上げられた土台の上に立つ大灯台。

ウミネコが水上を掠め、白亜の壁と青色の屋根は空に良く映える。この場所は、アズレアを代表する有名な観光地となっている。

アズレアは歴史が長い。港は増築と改修を繰り返しており、湾岸地区はいくつもの倉庫と、大きな船が停泊するドックも年々増えていく。国の発展と共に景色は変化し続けているが、建国当時より唯一変わらない場所がある。

それが、市街地へ続くメインストリートとなる【ポートエリア】とは逆方向にある海浜公園だ。

赤や青、白や茶といったカラフルな煉瓦が敷き詰められた道は、レトロな雰囲気はそのまま、その先にある【コロッセウム】に通じている。

普段は静かなこの場所も、この時期はじわじわと人が集まり始める。

一年のうち、数えるほどしか開かないコロッセウムの大門が今、まさに開かれようとしているのだ。



コロッセウムの受付では、二人の男が常駐しているが、朝からひっきりなしに続くエントリーゲストたちの対応で疲れ切っていた。


「今年は景品が豪華なせいか…出場者が多いなあ」


受付の一人、髭の年配の男は山のように積み重なったゲストの名前が書かれた束を見て、ため息をついた。


「だって、王家請願権が二枚ですよ?王家の騎士団への入団交渉権……そりゃ、みんな食いつくよ」


もう一人の若い受付は、大きく伸びをしながら時計を見た。


「エントリー締め切りまで、あと3分……やっと終わりかな」


ほっとしたのもつかの間、終了一分前で、一人の騎士滑りこんできた。


「すまない、まだ時間は間に合うか?」

「ああ、はい。こちらは、グラン・トゥルノワ剣術大会一般参加の受付です。…まずは、推薦状をお見せいただけますか?」

「わかった。これで」

「あ…はあ。ん?これは、ヴァラモ公爵家?!あ……し、失礼いたしました!」


赤い葡萄の印章を見た青年は息をのむ。


「ああ。構わないよ」


ちら、とその騎士を見る。

背はあまり高くはないが、大きな羽根つき帽子に、ちらりと見える髪の色は灰色だった。えんじ色の長いロングコートに、腰に帯びているのは、銀色の剣。

騎士は派手な仮面をかぶっていて、表情はうかがえない。

だが、その仕草からどこかただものではない雰囲気が感じられた。そして、さらさらと流麗な字で書かれた名前は―――


「ローゼネイ=グラント……?」

「ああ。さあ、これでエントリーは済んだかな」

「あ、は。ハイ…ええと、こちらはトーナメント戦になっております。大会の本番に行われるのが決勝戦で…その一般参加の部は三日前から開催されます。試合表は当日入り口掲示板に張り出せますすので……ご自身の名前と時間をお間違いないように30分前までにはこの会場の待機所で待機を願います」

「……わかった」

「もし、30分前の点呼で不在の場合は、出場失格となりますので、お気を付けください」

「了承した」


一通り説明したのち、大会出場権のチケットとなる赤い紐のついた銀色のタグを手渡す。

騎士が裏を確認すると、番号が振られていた。


「これは?」

「参加者全員に配られる名札です。なくされた場合も失格となりますので」

「ふうん……わかった、ありがとう」


くるりと踵を返した騎士を見送りと同時に受付は終了した。


「なんか……派手な騎士様だなあ。あんな細腕で勝てるのかね」

「見掛け倒しじゃないといいけど」



大きな轟音を立て、コロッセウムの大門が閉じた。

同時に、19時を知らせる時計の鐘が鳴り響く。入り口に待機していた黒塗りの馬車に乗り込むと、セフィールが笑顔で迎えてきた。


「守備は?」

「上乗です。……出場権も手に入れました」


革のグローブでピン、と銀色のカードを指ではじく。


「これ、なくしたら失格ですって。気をつけないと……」


扉をバタン、と締め大きな羽根つき帽子と仮面を外し、大きく息を吐く。


「ふう……」

「それにしても……よく、一晩でよく衣装を準備したね」

「ああ。それは…ククナの趣味ですから」

「……レディ・ルミノ?」

「はい……ククナは、なんというか。私のファンなので」

「ファン……」


昨日、何とか滑り込みで寮についた後、私は早速準備に取り掛かった。


「お嬢様!どこに行かれていたんです!!もお、侍女の私を巻くのは辞めてください、と何度言えば…」

「ごめんごめん!そうだ!エイルって、普段から男装が好きだよね?!」

「それは…はい。まあ…趣味ですから」

「何か、こう……騎士の衣裳とかそう言うの持ってる?!」


すると、エイルはじとっとこちらを見つめた。


「何をされるおつもりで?」

「え」


そして、私は考える。

言うべきか、否か……だけど。


(もう、約束しちゃったし)


「実は……私、男装をして剣術大会の一般部門にエントリーしようと思って」

「へ?」


瞬間、エイルの表情は固まった。

そして、しばし何かを考えて……振り切るようにぶんぶんと頭を左右に振る。


「ダメです!」

「あはは!だよねーー!」

「何考えてるんですか?!一般て……男装?!お嬢様……一体どういうおつもりで」

「あー……ちょっと、準優勝以上の景品が欲しくて」

「王家請願権ですか?!…そんなもの、カシオス様に頼めばいくらでも――」


と、言いかけて、何かを察したように目を見開いた。


「まさか……ヴァラモの令嬢の」

「そう!正解っ」


ビシッと人差し指でさすが、ぐにゃりと折られてしまった。


「何が正解ですか!!ヴァラモ公爵家に関わらないでくださいって旦那様からも」

「お父様には言わないで!!」

「ええっ?!」

「お願い……!今回だけは見逃して!ほら、命のやり取りがあるわけでもないし…!」

「でも怪我でもしたら大変です!!」

「しないようにするし、正体バレも絶対しない!!……だから」

「ダメです!!」


珍しく、エイルが本気で怒っているのが分かった。


「お嬢様……どうして、そこまで?」

「それは……」


(そう言えば、確かに私、どうしてここまでやろうとしてるのかしら。勿論、イリシユの結婚は阻止したいし、ルビエルにも幸せになってもらいたい、でも)


「決められた…未来って、なんか、哀しいからかも」

「え?」

「だって……もしかしたら、私がなっていたかもしれない、道だから。……私はとても恵まれているよ」

「お嬢様……」

「勝手に自己投影しちゃって恥ずかしい。でもね、可能性はなくしたくないと思って。令嬢でも、自分の道は自分で決められるってね」


そう、結局これが本音。

この世界は、身分だの性別だの、何かを下げて何かを上げる――そう言う文化が根強い。それがなくなることが永遠に来ないのはわかっていても。

誰か一人でも、身近な人が決めることを応援したい。


「はあ……残念ながら、私は男装が趣味ではありますが、騎士の衣裳はさすがに持っていません。ですが」

「ですが?」

「いるじゃないですか、お嬢様を最推しにしている、手芸が得意な令嬢がひとり!」

「あ、ククナ!」

「ククナ様なら、何かしら案をくださるんではないでしょうか?」

「!ってことは……認めてくれるの?!」


エイルは少し迷った風を見せるが、しっかりと頷いてくれた。


「でも、危ないと思ったら必ず引くこと!…お嬢様は確かにお強いです。うちのルドヴィガの「鷹」の訓練をしっかりこなせるくらい!!」

「うん!毎年夏季の強化訓練には参加してるしねっ!!」

「そ、それも…普通の令嬢にはありえないことですが…」


勿論、雇い主の令嬢だもの。

騎士達もある程度の気は使ってくれているけど、一番きついと言われる夏季訓練の日程分は毎年必ずこなしている。


「だから、信じます。いっそ、華麗な剣捌きで、あまねく野郎どもをぶっ倒しちゃってください!」

「うん!!ありがとう!エイル!!」


そう、私は5歳の頃、一度誘拐されかかってからというもの、自分の身は自分で守ることに決めたのだ。


(全てはガチャをぶっ壊すために、私自身のために)


ガチャを壊すという目標はかなわずじまいではあるけど、続けた努力は無駄になっていない。

むしろ、身体は丈夫になるし、メンタルも強くなるし、なんだかんだで程よい筋肉は身体全体が締まって見えるし、いいこと尽くし。

努力って最高!筋肉って最高!!その境地に達した。

それからの衣裳がそろうまでは……ほとんど一瞬だった。

こっそり、ククナの寮にこっそり夜這い(?)を仕掛け、かくかくしかじか事情を話すと、彼女はとても喜んでくれた。


「男装…?シャルちゃんが……」

「う、うん。その、みんなにはひみつに」

「嘘……それほんと?!」

「へ?」


すると、ククナは確かあっちに、とかなんとか言って別室に駆け込んだ。

そして、物の数分で黒いマントとタキシードスーツ、そして羽根つき帽子を持ってきた。


「見てシャルちゃんコレ!!」

「ええと、どうしたの、これ?」

「あのね!秋に文科系のクラブで評価発表があるでしょ?その時のための衣裳を作っていた最中だったの!あとはほつれたところを直せば、すぐに着れるよ!!」

「あ、でもサイズが」

「大丈夫!シャルちゃんのサイズで作ってみたから!!」


(……つまりは、私は遅かれ早かれ、これを着る運命だったのだろうか)


「あ、もし仮面とかあれば」

「そんなもの、私が一晩で作りあげるわ!!シャルちゃんのために!!」


永年の経験上、目がキラキラモードのククナを誰にも止められない。

そして、次の日…ギンギンの目で完成されたこの衣装を持って来てくれたのは、言うまでもない。


「……数年前、彼女を一般クラスから特待生に上げるように進言したのは、正解だったようだね」

「!」

「【正しきことに使え。才能は金で買えない】……レディ・ルドヴィガ。これは君の言葉だろう?」

「よく覚えてらっしゃいますこと」


そう言えば、数年前のマーケット・プレイスの事件…そんな内容のメッセージを託したことがあったけど。それを、この人が持っているとは。

心に灯がともる……私のしたことは、間違っていなかった、と。


(まずは…一回戦突破ね)



読んでいた抱き、ありがとうございます!評価やブックマーク嬉しいです。精進します!

ククナは推し活に全財産と労力をぶっ込むタイプですね、ある意味最強スポンサー

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