第91話 不穏×正体=イリシユ?!
エストランテ学院・裏の廃園――
壊れた噴水の前で、少年が三人一斉にカードを開いた。
そして…一人が「よし!オレの勝ち!」とガッツポーズを決める。
「あーークッソ負けた!強いなロン!!」
「へっへー、コイン貰うぜ?」
ロンと呼ばれた少年は、二人のコインを回収し、懐にしまった。
「なあ、次は2・5倍!!」
「いや……ここは、オッズは1・0倍にしようぜ?」
「ち、しけてんな…まあいいか。じゃあ数が大きい奴な。ほら、ヴァイカ、お前が投げろ」
「う、うん」
ヴァイカと呼ばれたそばかすの少年は、おぼつかない手つきで賽子を振る。
「ねえ、そろそろやめようよ…僕、もう手持ちが」
「あー?一度勝てば取り戻せるだろ?」
「でも」
「そーそー。エストンの言う通りだって」
それが何度か繰り返された後、エストンと呼ばれた角刈りの少年がぼやいた。
「カードも飽きたな、なんか、面白いことないかな」
「あ…じゃあ、これどうよ?イリシユ殿下は結局どの女を選ぶのか!ってやつ」
「本命はルビエル=ヴァラモだろ?」
「ええ?あの黒髪のルドヴィガも狙ってるらしいじゃん、あの王子」
「いやいや、本人たちは乗り気じゃないそ」
「ねえ。君たち」
突然聞こえた低い声に、全員びくりと肩を揺らし、慌ててカードとコインを背中に隠した。
「だ、だれ?」
「いいね、賭博」
現れたのは…黒いフードを被った男がひとり。
こぼれたカードを一枚拾うと、ピン、と指ではねた。
「こんなカードより、もっと面白いの、あるよ?」
「お、面白い物…?」
「初回は無料にしとこうか」
フードを被った男が見せたのは……金色の硬貨が一枚。
それを、少年たちの前に放り投げた。
「な、なにこれ」
「天才も、凡人も、努力も全部。この硬貨の前じゃ平等」
少年たちは、互いの顔と、硬貨を交互に見た。
「……一度勝てば、世界が変わる」
「ほんとに、変わるの?」
「ああ。…運命は、結構簡単に手に入るものさ」
「じゃあ、僕が…する」
ぎょっとして、仰ぎ見るロンとエストンを横目に、ヴァイカは息をのむ。
そして…そのコインに手を伸ばした。
***
「嘘」
ここは私の部屋。
寮に帰り、改めて剣術大会の一般参加枠の募集要項を見た。
(……伯爵位以上の、推薦状必須ぅ?!学生は推薦状不要って)
これは、予想外だった。
一般参加というくらいだから、だれでも参加できると思ったのに。
「お嬢様!おかえりなさいませ!…あら、剣術大会の広告?あ、もうそんな時期なんですね!」
「エイル……」
「今年もまたケディック様が出場されるんでしょう?応援に……って。お嬢様、すごい顔」
「あ…そ、そんな顔してた?」
「はい、がっかりとどうしようが混ざった表情です!」
エイルの表現はなんとも適格。
「……なんだか、景品が多くなったせいか今年から大会ルールが変更されたみたいなの」
「景品が多く…あら、本当だ。総合優勝枠と、準優勝の景品が二つ…請願権が二つもあるんですね」
「王家へのお願い、安売りしすぎじゃない?」
「…でもまあ、多くの一般参加の皆さんは、勝てなくても王国騎士団のスカウトを狙ってる方も多いです。一般参加も多そうですねえ」
「あ、やっぱそうなんだ……今年から、伯爵以上の推薦状が必要なんだって。これって結構な難易度じゃない?」
「確かに……歴代優勝者の中には、スラム街出身の者で大出世もした方もいるくらいですのに」
「これじゃ、貴族とのコネがないと大会にも出られないってことでしょ?……困ったな」
すると、エイルは私の方を穴が開くほどジー―っと見つめている。
あ、やば。
「どうして、お嬢様が困るんでしょう」
「え?!ええと……ち、チャンスは平等にあるものじゃない?!」
「それはその通りですけど。…どなたか推薦したい方でも?それとも、まさかお嬢様は出るおつもりだったりするんでしょうか」
「ちょ、怖い怖い。瞬きしないの怖いって!……いやあ、ええと。ほら、私学生だし!」
「……ではなぜ困る、と?」
「あーー……うう ええっと」
すると、エイルは一度額に手をやる、腕組をした。
「白状してくださいますか?黙って実行なされて後から怒られるのは私です。もし、何かお考えがあるなら、聞かせてください?」
「……反対、しない?」
「事によります」
さて、ここで私は考える。
それは勿論、打算と計算という名の計画である。
(ここでエイルに協力をしてもらう…と色々助かりはするけど。でもまあ……)
「実は……その王家請願権ってやつ。実は事情があ」
「どのような?」
「……最近、お友達になった人がいるの」
すると、エイルは腕組をほどき、今度は腰に手を当てた。
「ルビエル様、でしょう?…お嬢様の狙い、当ててみましょうか」
「う、どうぞ」
「イリシユ様との結婚を阻止しようとなさってる!…違いますか?」
「……その通りよ」
「また無茶なことを……ヴァラモ家に関わるなと、旦那様に言われていらっしゃいませんか?」
「それは、そうだけど……でも」
「貴族の姫である以上、政略結婚は皆さま覚悟の上です。……それこそ、お嬢様と立場は違うこと、ご存じですよね?」
「わかってるわ……」
そう、夕暮れの図書室で、カレンシアも言っていた。
――私はどうせ、他の方の元へ嫁ぐことになるから。
(私は、エイルの言う通り、彼女たちと立場が違うのはわかってるつもり)
例えばこれが、どこかの大貴族の公子様だというなら、納得はできると思う。でも、相手があのイリシユなんだとしたら。
……何か、嫌な予感がする。言葉にはできないけれど……金属を爪でひっかいた音を聞いた時みたいな。
「今回ばかりは、お嬢様が何かしようとなさっても…覆すのは無理なことです!…お判りください」
「うん……」
(エイルが言うのはもっともだ……)
私は、ルビエルからもらった手紙を読んで、ため息をつく。
セフィール公子も、ルビエルも…会ってみたら全然お父様が言うような危険な感じはしなかった。あの二人が特殊なのかもしれないけれど―――でも、あの後継…オルフェイだけは、あまり関わりたくないと思った。
(人をひととも思わないあの感じ…すごく嫌)
本日、ポストに届いていたルビエルの手紙には、先日のお礼と、楽しかった、と書いてあった。
……婚約のことは書かれていないけれど、先日の様子から察するにそう簡単に割り切れるものじゃないんだろう。そして、このアズレア自体血縁結婚に関しては、あまり良くないと言われている。
血が濃くなりすぎると、王家が傾く、ということわざもあるくらいだ。
「はあ……なんでこんな」
バサッ。
突然聞こえた音に驚いた。
「…?」
恐るおそる振り返ると…落ちていたのは、例の「キモイ日記」だ。
「……なんでここに」
実は、この日記、妙なコメントが増えるのも気持ち悪いし、中身も気持ち悪いので、捨てようかどうしようか迷っている。
ただ、内容が内容で…捨てきれず、目に見えない場所に置いといたつもりだったんだけど。
(目の前に落ちてくるってどういうことよ。しかも…光ってるし)
妙な淡い光を放っていて、まるで「読め」と言わんばかり。
仕方なくページをめくり、中身を見て愕然とした。
『ヒロインモブAと婚約決定☆……これで、赤いバラは俺にのめり込む。物語はまた進むし、好きなように教育できるのも悪くないよな』
(こいつ、最低。ヒロインモブA……って、赤いバラって、ルビエルじゃ)
今までの内容から、こいつの言うヒロインは「私」を指しているような気がした。
そう言う何か…ゲームか小説のような、設定ありきな世界をエンジョイしているキモイヤツ。これが私の認識だけど。
思い当たる人物の条件は三つ。
女好きで私を知っている人、そして、最近婚約話が浮上した社交界の人間…!!
「まさか…こいつ、イリシユ=セルリア?!」
まって、でも確信がない。
もし、この日記の主はイリシユだと仮定して。何か…決定打的なものは。
(そうだ!昔、初めて会ったとき、あいつ私に空飛ぶ車がどうとか、地震がどうとか…いろいろ言っていたもの)
それなら、あいつが今まで私になぜか絡んできた理由も察しが付く。あいつは、別の世界からやって来た人間で…私をヒロインだと思ってるってことだ。
(私と同じ…なら、もしかしてガチャも?)
それに、デビュタントの時に飛んでいたガチャは、誰かが引いた後だったみたいだし。
まさか、神様ガチャの権利も…今はこいつが持ってるの?!
「嘘でしょ」
こうなると、色んなことが結びつく。
あいつが妙に女にもてる理由、あれってもしかして…私の脳内スマホと同じ、スキルとかの一種なんじゃないのだろうか?
カシオスも、ケディさえも言っていた。「あの人の周りにいる女性は、みんなどこかおかしい」って。
あの進化するメガホン鳥も、突然どこかから湧いて出た。
それも、あのイリシユが影響してるなら…?!
「えーーと。えっと、そうだ!神様ガチャが言っていた!オーディエンスは消費できる物語を集めてるって、面白ければいいって……じゃあ」
こいつが勝手に言っている「物語」ってやつは、疑似ハーレム形成ラブストーリー……ってこと?
ぞわぞわと身の毛がよだつ。
(あいつが?あの女たらしでメイド好きな変態日記の主が……イリシユ!!!)
あの人を見て感じていた違和感の正体がこれでわかった。
確証はないけど、でも―――正直、あのガチャの恩恵を貰ってるのだとしたら…考えたくない。
「これは…ダメだ、絶対、ルビエルとの結婚阻止しないと…!!」
(一番手っ取り早いのはあの大会の請願権だ)
伯爵以上の貴族の推薦が、あればいいのよね?
そうだ……一番確実で、一番力になってくれそうな人、いるじゃない!!
よし、あの人に頼もう!!
そう決めた矢先の事…次の日、いかにも「イリシユ主人公的に美味しいイベント」起きてしまった。
読んでいただき、ありがとうございます!




