第90話 悪巧み×新聞×素敵な名案
「見た?剣術大会の出場者受付が始まったみたいだ!」
「今年の優勝は…やっぱり、ケディック様?それとも…カシオス様も出場なさるのかしら?」
「王家の方は、やっぱり」
―――色々な噂が飛び交う。
害のなさそうなぷかぷか浮かぶ鳥をぼーっと見つつ、私は窓の鍵を閉めた。
「はあ…ぺちゃくちゃ煩い」
最近、彼らは進化したのか?
メガホン鳥の中には、誰かの声を真似て噂をしゃべっている奴を見かけることが増えた。
そのメカニズムはよくわからないが、こいつらの行きつく先はどこになるんだろう。ちなみに今現在私がいるのは、アーチェリー部の部室。
一応このエストランテ学院では、部活ごとに豪華なサロンのような一室がそれぞれ設けられていて、ここはその一画だ。
そして、机に並べられた新聞を見ながら、私はため息をついた。
見出しは「ヴァラモの令嬢とイリシユ王子殿下、お似合いの二人」というものだった。
(…婚約は、本当だったのね)
別に婚約とか描かれているわけではなくて…ただ、二人の関係がより派手に、美しく、ロマンティックに…そういうシナリオが展開されている、ということ。
そして、もう一つ。
勢いよく入り口のドアが開かれた。…そして閉めるまでがワンセットなのは、恐らく
(今度はケディか……)
「シャル!!どういうこと?!セフィール公子と付き合ってるの?!」
「今日でそれ、聞かれたの三度目だわ、ケディ」
「だって…これ」
「ついでに言うと、一人目はカシオス様、二人目はラシーよ」
そう、カシオス様はなぜか私の教室の前に仁王立ちして待っていたのだ…あの人は、もう少し自分の注目度と言うのを今一度見直してほしい。
彼の周り半径12メートルを中心に、ドーナツ状の空洞が遠巻きに見詰める生徒たちによって作られているほどである。
「……それで?!」
「それでって…アフターヌーンティーの招待状をいただいたの。ヴァラモの馬車も寄越してくれたけど…丁重にお断りしたわ」
「何っ茶会?!……くそ、油断してたな。そう来たか…」
ケディはぶつぶつひとりで何かを言ってる。
「じゃあ!僕も。今度……」
「?今週はケディとフォーレで馬術を教えてくれるんでしょう?」
「!!……フォーレも?まあ、いいけど」
(あれ?フォーレ…あの時の事、ケディにしゃべってないのかな)
でも、そう言えば報告する理由もないような気もする。
「それにしても…やってくれるわね」
私は、再び新聞を見る。
横のところに「ヴァラモの公子とルドヴィガの令嬢のロマンス」まですっぱ抜かれているので、この新聞社は絶対ヴァラモの息のかかった会社に違いないわ。
「なんでもないなら…いいけど、さ」
そう言って、ケディは新聞の逆側を開いて見せた。
「僕はこっちの方が気になるな」
「こっち?…王家主催、剣術大会の一般参加者募集」
「そう!どんな奴が来るかな?って。この剣術大会、各家門と王家の直轄騎士団のスカウトも兼ねてるって話をしたよね」
「う、うん。一般参加もあるなら、ある意味一世一代のチャンスよね」
そう、エイルも言っていたけど、色々な家門の「騎士団」に所属するのが出世への近道で、王家の騎士団に入団できれば、一代限りと言えど爵位ももらえる可能性も出てくる。
「だから、学院外のやつと手合わせするの、たのしみなんだ!」
うーん。勝利がどうこうより、ケディはどんな奴と対戦するかな?が楽しみみたい。…さすが
「募集要項は――年齢制限あり、20歳以下のみ…優勝賞品は、王家請願権利…??なにそれ」
「あれ。知らない?王家の請願権ってのは……要するに国王陛下直々に何かを請願できる権利ってこと」
「それってどの範囲まで?」
すると、ケディは少し何かを考えたのち、繋げた。
「そうだな…去年は確かどこかの令嬢との結婚だったな」
「え?一般市民が??」
「そう」
「あ、去年はケディも出たの?」
「まあね。…でも、優勝はしなかったかな」
「そうなの?」
あら、少し意外。
向かうところ敵なしという感じだったのに。昔は違ったのかしら?
軽く返事をして、すぐに声を潜めた。
「実はさ、去年は優勝者に勝利を譲ってくれって頼まれたんだ」
「え?!」
一瞬、耳を疑った。…でも
「了承したの?」
「うん」
「でも、勿体ないじゃない?!だって、無理難題を聞いてくれる権利ってことでしょ?」
しかしケディは首を左右に振った。
「いらないよ、そんなの。欲しいものはなかったし」
「欲しい物って…」
「別に結果にも、優勝賞品に興味はなかったし」
なんとも、あっさりとした回答。
いかにもケディック=エイデンらしい…というか、単純に自他ともに実力があるのを理解してるだけかも。周りの評価は、ケディにとっては大した問題じゃないんだろうな。
(実際この目で見て、すごいと思ったもんね。ケディの実力って)
「でも…ケディも出るんでしょ?部活内でも予選トーナメントがあるって」
「勿論!」
「ねえ。今年だったら、何をお願いするの?それとも、また勝ちを譲っちゃう?」
ちょっと意地悪な質問だったかな、と思ったけど、ケディは即答だった。
「僕と欲しい物と同じものを欲しがるなら、容赦しない」
「欲しい物?」
「ま、まあそれより。シャルだったらどうする?」
「え?」
「何でも無理難題を聞いてくれる権利ってやつ、もらったら?」
「無理難題……」
ふと、思う。
わたしだったら、何を願うだろう?と。結果は。
「どこかの阿保と令嬢の婚約も破談、とか……」
「え?」
言いかけて、はっとなる。
…ケディは何か、いいたげにこちらを見ている。
「…ちょっと。何、企んでるの?」
「た、企んでるわけじゃないわ?結婚もありなら、破断もありなのかなって、思っただけよ」
「破断ねえ……何?ぶっ壊したい人でもいるの?」
「ぶっ壊したい…と言うか。まだ決まったわけでもないし」
「……もしかして、こっちの記事を気にしてる?」
そして、目線を合わせるようにケディは屈むと、先ほどのルビエルの記事を指さした。
「シャル、舞踏会、ルビエル令嬢と踊っていたもんな」
「…よく見てるね、ケディ」
「シャルの事だから。……僕の感想としては、非常にヴァラモらしい選択だと思う」
「ヴァラモらしい選択…?」
「正気の沙汰じゃないよ。姪っ子と自分の息子を結婚させようとするなんて、ね」
「……うん」
「だからこその、物語的演出、だろ?」
こういう時、ケディは本当によく物事をフラットに見てるって思う。
政治的駆け引きとか、そういうものにとても敏感なのだ。
「私ね、ルビエルと友達になったの」
「?!」
すると、目玉が飛び出るくらい驚かれてしまった。
「…何よ、その反応」
「だって……ルビエル=ヴァラモ令嬢と言えば、「赤い薔薇」だよね?」
「……その言い方、好きじゃないわ」
「あ、ごめん。ええと……でも、意外だなって」
「ま、まあ……私も最初、嫌わてるかなって思っていたし」
「そっか…でも、結構この結婚話、覆すのは難しいんじゃないか?だって、そう言う家だろ?」
「うん……」
やっぱり、ケディもそう思うのね。でも……
ふと、募集要項を見てあることを思いついた。
「!!…そうか」
そう。全方向を解決しつつ、私の望みもかなえるステキな案を思いついたのだ。
(そうだ……!!私が出場すればいんじゃない?!!)
出場条件は、一般参加は20歳以下まで。性別は問わないが、学生は禁止。それならば。
「ちょっと、シャル?…何考えてるの?言っとくけど、学生は出れないからね?剣術クラブは別だけど!」
「わ、わかってるよ……」
と、言いつつその記事から目が離せない。
(だって、つまりは学生じゃなければいいんだよね?そうよ、一般参加枠があるじゃない?!)
「……なんかさ、絶対ろくでもないこと考えてないだろ!?シャルっ」
「あら?何の事?」
「はあ…無茶、するなよ?」
「しないしない!!」
そうと決まれば…何かプランを考えないと!
―――などと、私は一人盛り上がっている中。
裏で、予想外な出来事がひそかに動いていた。
「これはまた、面白いことになってる」
カシオスは、例の新聞を思いきり机の上に投げ出した。
(ヴァラモ公爵家とセルリアの縁談、か……)
「セルリア王家は、ヴァラモにその血を明け渡す決意をしたわけだ」
「その話ですが……どうも、肯定派と否定派に分かれているようです」
「否定するまともな奴もいたのか」
「ええ…ここ最近、ヴァラモ公爵家に関して……あまり良くない話が広まりつつあります」
レイル=クオンタは、最近護衛と言いつつ、秘書のような仕事になっているなと感じつつも淡々と任務をこなす。
「よくない噂?……シャルとセフィールの事以外で?」
一気に言葉の温度が下がり、小さくため息をつく。
「……そのセフィール様が、ルビエル令嬢とイリシユ殿下との結婚に難色を示しているようなのです」
「!……彼が?」
「それと、どうも……ヴァラモ公爵家のフィリックス公爵の周辺が、少し荒れています。最近、ヴァラモ公爵家の使用人の一人が退職されたのですが…それが、どうも、フィリックス公爵の側近のうちの一人だったようなのです」
「……愛想をつかした、訳ではなく。解雇?」
レイルは頷き、書類を見せた。
「はい…金銭管理を一任されている、会計士です。彼は、その三日後……アズレアの近海で遺体となって発見されました」
「……口封じ、それとも脱走?」
「わかっておりませんが……彼の退職を境に、別の者が来月行われる剣術大会の金銭的支援の契約書を提出、決定されたようです」
「ふうん……」
瞬間、何かを考え込む、そして。
「その大会。僕も出ようかな」
「え?!」
驚くレイルを見て、カシオスは二っと笑った。
「面白そうじゃないか」
「い、今までに王族の出場は、前例はございませんが……」
「じゃあ、僕がそうなるとしよう。学生の特別枠でもいいだろう?権力は、こういう時に使わないと」




