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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第8章 人生、狩られる前に先手必勝!

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第87話 金色×深紅×紺碧


その声は、冷たいのに良く響いた。

金色の瞳は観察するようにこちらをとらえ、長い指を顎に当て作り物のような笑顔を見せる。


「初めまして、レディ・ルドヴィガ」

「あなたは……」

「ふうん……君が、例の」


長い脚が一歩踏み出し、私の前を壁のようにふさいだ。セフィールよりも背が高い。大きな体躯はそれだけで迫力がある。でも。

――目が笑っていないし、人をまるで見下すようなその表情ははっきり言って失礼だ。ちらりとみると、ルビエルはひどく怯えた表情をしている。

なら、私が引くことはない。


「私の名前はリッハシャル=ルドヴィガ……お名前も伺えぬままでは、ご挨拶のしようがありませんわ。」


すると彼は、ははっと乾いた笑みを浮かべた。


「ふむ、面白い」

「兄上」


(兄…と、言うことは。この人が、次期後継の?)


しばし、何かを確認するように動いていた視線は私に止まる。

そして、ぐっと距離を近づけてきた。


「!」

「オルフェイ=ヴァラモ―――我がヴァラモにようこそ。リッハシャル、君を歓迎するよ」

「歓迎…痛み入りますわ。小公爵様」


こういう奴は、怯んだら何かがくじけてしまう。だから、私は引かない…ただただ礼儀正しく、慎ましい令嬢として、笑顔で。


「彼女は俺の客人です」

「ふ…いいだろう」


ぴしゃりとセフィールが言うと、オルフェイは一歩引いた。


「君に免じて、今日は帰る。……ルビエル」

「は、はい……お兄 っお、オルフェイ様」

「決まったよ」

「!」

「王宮に行け」

「……」

「冠を飾る薔薇の花…それがお前の仕事」


(それって、つまり……)


まるで嵐のようにオルフェイは去っていった。

彼が去った後は、あんなに美しく見えた白薔薇も、怯えたように光を失う。

一度息を整えると、沈んだ表情のセフィールが見えた。


「すまない。……兄は、少し変わっていて」

「私は平気です。でも……その」

「申し分ありません。……驚かせてしまったようで」


(ここで、大丈夫ですか…なんて聞いていいものかしら)


詳細を知るわけでもないのに、予想で何かを言うのは変だ。それに、本当に落ち込んでるとか、何か不調がある人間に、その言葉は使いたくない。それは時に言葉の刃になる。

…全て、経験談だけど。なら、私はそのまま椅子に座り、先ほどと同じようにお茶を飲む。


「……ねえ、ルビエル様」

「…あの、私はもう」

「このお茶、なんというお茶なんでしょう?」

「え…?」

「!…リッハシャル。冷めてしまったね、淹れなおそうか」

「はい、お願いします。っ…あら、セフィール様ご自身で入れて下さるんですか?!」

「ああ…スコーンも、温めなおそう」


慣れた手つきで茶葉をポットに入れる。

しなやかな指が躍るようで、まるで一種のパフォーマンスのようだ。


(おお…!すごく有能な執事みたいな手つき)


「…ルビエル、せっかくだから、お茶の名前をもう一度説明してくれるかい?」

「あ…ローズ・ヒップティー……なくなった祖母の、特別なレシピなんです」

「まあ!どうりでバラの花びらが赤だけではないんですね」

「これは、祖母が疲れた時によく飲んでいたらしい。香りにリラックス効果があるとか……さあ、もう一度、仕切り直しだ」

「……お兄様。はい」


セフィールがそう言うと、ルビエルの表情も和らぐ。そして、滞っていた時間が動き出した。


(こういうところは、さすが)


「…そうだ、あなたからいただいた蜜蝋に火を灯すのもいいね」

「!はい。ぜひ」


やがて、日が傾きかけた頃…メイドさんたちが、持ってきた銀の燭台にそっと火を灯す。

炎は揺らぎ、青から赤へ不思議なグラデーションを彩った。


「へえ…赤いのに、青い炎?」

「ええ。私のルドヴィガの紋章であるブルースターの花ビラを練り込んでいるんです」

「……まあ!今までこんな匂いを感じたことがないわ…不思議な、甘い香り」


夕焼けのせいか、目元が少し赤く見える。

でも、表情は徐々に穏やかなものになっていくので、安堵した。


「……日も暮れてきた。残念だが、そろそろ時間だね」

「あ、本当」

「何なら泊っていっても」

「あら、まだ私は学生の身です。外泊は当然禁止項目ですわ」


すると、一瞬セフィールの顔が崩れた。


「そう言えばそうだった…つい、忘れてしまうね」

「あの…ルビエル様」

「はい」

「その、私が差し上げたノート、最初の一ページ…私と一緒に書きませんか?」

「え?」

「今日…とても楽しかったので、記念に」


うう…こういうのちょっと恥ずかしい、けど――それはどうやらあちらも同じようで、少しだけ頬が赤い。そして、やがて小さく頷いた。


「え、ええと、その。私で、良ければ」


(うわああ…すごい破壊力っ!可愛い人のこういう顔って癖になりそう)


「あ、でも…何をかけば」

「せっかくですもの。楽しかったことを書きましょう?」

「楽しかった…こと?」

「スコーンが美味しかったとか、セフィール様の淹れて下さったローズヒップティーが格別美味しかったとか!」

「…そこまで喜んでくれるなんて、準備した甲斐があった」

「あ…」


しまった、食べ物のことばかりになってしまう。

あ、しかも二人に笑われた…ちょっと恥ずかしい。すると、流麗な字でさらさらと「HAPPY]の文字が書かれた。


「私は…リッハシャル様とこうしてお話しできて、とても楽しかったですわ」

「なら、私も」

「随分楽しそうなことをしている。…俺も書かせてもらっても?」

「勿論ですわ、お兄様」


結局なんだかんだで、一ページはまるまる三人の文字で埋まってしまった。

でも、それも含めて、楽しかったな。…帰るのが、名残惜しいくらい。


「リッハシャル様。今、お約束の香水をお持ちします。そこでお待ちなさっていて」

「わかりました」

「……シャル」

「!」


突然、セフィールが私に頭を下げた。


「え?え…あの」

「ありがとう…妹を、気遣ってくれて」

「……ええと、もしかして。王宮って……」


今、現状二人の王子に婚約者のような存在はいない。

そうなると……ルビエルの相手として、考えられるのは。


「……私は、あのイリシユ王子殿下はあまり好きではありません」

「………うん」

「ヴァラモ公爵家のそう言う考えは…伝統のような物でもあるのでしょう。でも、私は…あの歪んだいびつな白い花の紋章だけは、今思い出しても不快になる」

「………」

「なんて…セフィール様を責めても無意味なのはわかっています。でも……花は花でも、美しいと言われ続けると、本来の美しさを見失ってしまうもの…だと思います」

「!」


ふ、と顔をあげたセフィールは…何かに気づいたような不思議な表情だ。


「本来の美しさ……?」

「だって、魂のこもっていない誉め言葉は、心を傷つけていく…そんな気がしてしまうんです。同じように、自分を律するための【美しい】という言葉も……」


私は美しい…美しくなければならない。そう言い続けたあの女性は、全てを諦めていた。


「そうなると、その言葉はもう…ただの呪いです」

「…シャル」

「ルビエル様と話していて…少しだけ、哀しくなりました。だって、彼女の言葉に彼女自身のための言葉がなかったから」

「ルビイの言葉……」

「…リッハシャル様」


はっとなる。…ルビエルだ。


「あ…」

「香水、お持ちしました。……喜んでくださるとうれしいですわ」

「……ええ。ありがとうございます…っあの」


そのまま、私は両手をがしっとつかんでルビエルに詰め寄った。


「私達、お友達になりませんか?!」

「え…おとも…だち?」

「はい!文通したり、買い物行ったり!!ええと…美味しいスコーンをまた一緒に食べたり!」

「あ……あの」


カッと顔が赤くなり…うつむき加減で目を伏せる。

…ちょっと待って、この人何でこんなにかわいい顔してるの?!不本意ながら、イリシユがこの子を虐めたくなる気持ち、少しだけわかってしまった。


(あ、だめ、変態の第一歩、だめ、絶対)


「は…はい」

「!やった。なら、お手紙書きますね!!ちゃんとお返事ください!待ってますから!」


こくん、と何度も頷く。

可愛いお友達、ゲットしたわ!と、心の中でガッツポーズを決める。


「なんだか羨ましい。…俺もどうだろう?リッハシャル」

「あら、仮にも先生であらせられるセフィール様が、生徒一人を特別扱いしてはいけないと思いますわ!」

「そう来たか…なら、ヴァラモの公子としては?レディ・ルドヴィガ」


す、と懐に入り込むのは、卑怯だと思うわ。


「か、考えておきますわ」

「そうだ、あなたにこれを返さないと」

「返す…?」


そっと私の手に乗せたのは…デビュタントの時になくしたと思っていた、アンクレットだった。


「!これ…片方なくしたと思っていたのに」


しかし、よく見ると…ブルースターの宝石はそのまま、赤いロゼット型の長いチェーンが追加されたものに、そして、金色の薔薇のモチーフが追加され…なんとも美しいネックレスに変わっていた。


「パーツが外れていたみたいだから、少しだけ手を加えた。…気に入ってくれるといいけど」

「あ、ありがとうございます…綺麗」

「喜んでくれたみたいで、良かった」


うーん、なんともスマートなやり方…こういうのって、なくしたときめきのような物がちくちく刺激されてしまう。気を付けないと……


「今日はありがとう」

「!…そ、それはどうも?」

「失礼、レディ」

「あ!」


そっと指が伸び、するりとスカーフが解ける。途端に、吹いた風に私の髪が舞う。


「…その黒い髪、俺はとても好きだな」

「!?」


耳元で聞こえた声に思わず赤面する。


「貰った」

「あ…私の髪飾り」

「また、誘う口実ができたな」

「~~勝手に持って行ったのは、セフィール様でしょう…もう」

「ふふ、……また、招待状を送るよ。レディ」

「ご、ごめんあそばせ!」


バタン、と閉じた馬車にもたれかかり、大きく息を吐く。


「…は――も――心臓が持たない……なんなの、あの人」

「ま、魔性の方ですね…お嬢様、しっかり!」


(絶対…わかっててやっていたわ、セフィールめ)


そして、私は力なく頷いた。





読んでいただき、ありがとうございます!…この世界、公用語は英語なのか……


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