第82話 噂×赤いメガホン鳥×事件
――Q・フォーレスト=エイデンと、ケディック=エイデンについて、どんな噂がありますか?
「フォーレ様達の噂?…そうねえ。やっぱりあれかしら……兄弟仲が不仲で、その原因が後継問題で、仲たがいをされてるとかなんとか。」
「フォーレスト?うーん…意外と人気急上昇感はあるかな?花嫁探してる?ないない!でも、シャルとのダンス、素敵だったしね。ケディックは…ま、通常運転というか、あの人はいつも変わらない感じ」
「フォーレ先輩の噂は…あんまりよくわかんない。でも、すごく人気あるよね。ケディック先輩の方はファンが多いみたいだけど」
(噂って…ほんっと無責任だよね…)
メガホン鳥のように、勝手に増殖しては、消えたりくっついたり。
そして予想通り、大きなイベントごとが控えると同時に奴らも活発に動き出し始める。今現在…みんなの注目を集めているのは…【エイデン兄弟】、それも…特にフォーレストのほうである。
さて、女性三人から集めた情報を基に、今流れている彼らの噂を総合すると、大体こんな感じ。
フォーレスト=エイデン人気急上昇!!次の侯爵家の後継、遂に決まるかも?!…からの、女生徒たちの憧れとか夢とかが合わさって生まれた噂が【きっとエイデン侯爵家を継ぐから、その準備に入られて…花嫁候補を探しているんじゃないかしら?!だって最近すごくかっこよくなったもの!】と、言うことかもしれない。
(…理想の王子様あらわる?!って感じ?ま、現実の王子様がカシオス様とイリシユじゃあねぇ)
エイデン兄弟は双子なのにあまり似てないという話を聞くけど、私が知る限りちょっと違うと思っている。二人とも「お互いに正反対の方法を用いながら、たどり着く結果が同じ」。
それこそ同じ青でも、空の青と海の青が違うような…そんな印象だ。
そのフォーレはと言うと。
(うわあ…すご)
窓の外から見守る、大小さまざまなメガホン鳥の群れ。
びっしりと壁に張り付いているくせに、フォーレに近づこうとしないのは、現実の乙女たちとよく似ている…あれ一つ一つに乙女の夢や男子生徒の嫉妬が詰まっているとなると、ちょっと気持ち悪い。
「あれ?シャル」
「あ?!ふぉ、フォーレ…」
「珍しいね。生徒会室に何か用?」
「あ、ええと、フォーレがいるのが見えたから」
「え、…その、俺に会いに?」
あ、そう言うことになるのか。
別に否定する理由もないし…そうだ。
「あ うん、前学校の見回りやってるって言ってたじゃない?まだ回ってるのかなって」
「!!その…今から南側の方回ろうと思うんだけど…い 一緒に行く?」
「うん!」
「!ホント?あ、ごめん、今すぐ用意してくる」
(用意?行く直前だったわけじゃないのかな?…にしても、すごい鳥の数)
一丁前に逃げ回るから、少し面倒だ。
ふらふら飛んでいるのをパチンと指ではじくと…流れてくるのは、フォーレに対する夢や憧れ、願望等々。
「人気者だね…フォーレってば」
「何の話?」
「あ、何でもないよ。行こ?」
「……うん!」
そう言えば…あのメガホン鳥、放置しっぱなしにしたらどうなるんだろう。なんか別のものに進化するとか?それは怖いな。
一度前を向いて、再度振り返り…驚いた。
黄色のメガホンはだんだん膨らんでいって…赤い色に変わっていく。
(え??なんか急にでかくなってない?しかも…色が赤くなってる)
「シャル?」
「あ!ご、ごめん」
(まずい。今は投げ武器を持ってない…後で必ず退治しないと)
後ろ髪をひかれる思いだが、フォーレの横に並んで、気づく。
「あれ…フォーレ、背、伸びた?」
「え…?!ほんと?」
「うん!そっか、デビュタントの時は私、高めのヒールの靴だったから気が付かなかった!」
「…今度は、俺も正装でシャルと…その、踊ってみたい」
「そうなの?」
「せ、制服じゃあ……シャルに失礼だし、釣り合わないから」
「そんなことはないよ?……あ、でも。私、フォーレの正装まだ見てない!子供の頃は見てるけど…もうだいぶ大人になったものね!」
すると、フォーレはなんだか変な表情をした。
「……時々、シャルは随分大人びているというか…その」
「老けてるってこと…?」
「あ?!ち、ちがう!でも…まあ、親戚の泊母と話している気分になるときがある」
(そ、それは…気をつけよう)
「そう言えば…アーチェリー部、入ったって聞いた」
「あ、うん!……それがね、入部時期遅いし、気にしてなかったんだけど。来月のグラン・トゥルノワに出場しなきゃいけないらしくて……今週の土曜から、ケディに乗馬を教えてもらうことになったよ」
「……ケディ、と?」
「うん。私…さすがに乗馬はやったことないのよ。なんだかんだで危険だからって、お父様も許可を出してくれなかったし…」
そう。弓は赦してくれても、馬術は危ないからと、うちの騎士の皆にも全力で止められた。
「馬を乗らずとも、馬車に乗ればいい!!なんならもっと快適さを追求する」とまで言われてしまった。
「……俺も」
「ん?」
「俺も、得意だよ。馬術」
「そのなの?…やっぱりエイデン侯爵家の騎士団て、かっこいいものね!さすが」
「なら…俺とケディ、二人で教えたらもっと上達早いんじゃないかな?」
「でも、二人の時間を貰うわけには」
「そんなの…全然。シャルが良ければ…どうかな?」
「それはありがたすぎるくらいだけど…」
「じゃあ、決まり」
ニコッとフォーレはしっかりとした笑顔で頷いた。
あれ?何だろう。…こんなに強引だったかな?
(なんだか…デビュタントが終わってから、みんなちょっとずつ様子が違うような…気のせい?)
その後、フォーレについていって回ると、壊れかけたドア、錠が抜けた部屋……華やかな外観の裏に隠れた、隠し切れない経年劣化な個所がいくつも見つかった。
どれも、生徒からの報告だったり、先生方からの情報だというのだから、驚きだ。
「これで良し、と」
あまりにも危険な場所は、立ち入り禁止のロープを張り、しっかりと鍵をかける。
「すごいね…まるで便利屋じゃない」
「生徒会なんてそんなものさ。東側の校舎は一度改装も入っているけど…こちら側は、装飾も豪華で下手に手を出せないというのが本音らしい」
「確かに…どの扉も、すごく凝った模様や装飾ばかり。年季が古すぎて、直せる職人がいないってこと?」
「人が寄り付かないのをいいことに、さぼる生徒もいるらしいし…それのチェックも兼ねているよ。……この間のシャルみたいに」
「え?!ああ……べ、べつにいつもさぼってるわけじゃないよ?実演とかの授業はちゃんと受けてるし!」
「でも、座学は違うだろ?」
「う…まあ」
「この間、歴史学の教官にルドヴィガ令嬢は身体が弱いのか?と聞かれたよ」
「……に、2・3回くらいは体調不良だったかなー…?」
「全く……次で最後。この南館の図書室を見てから戻ろう」
やって来たのは、南の校舎の奥にある日の当たらない古びた図書室だった。そっと中を覗くと――夕方の薄暗さもあって、全体的にうすぼんやり赤い光が差し込んで、雰囲気抜群。
ほこりを防ぐためだろうか。私よりも背の高い本棚は、白い布が被さっていてなんとも不気味だ。
「ここの噂は…?」
「うーん…ここは」
そこまで言って、フォーレは口を閉ざした。
「?…どんな噂なの?」
「シャルって…怖い話は得意だっけ」
「怖い話…?あ、そっち系の噂?」
「白い布が外れて水浸しの女性に襲われた、というのと……閉じ込められたっていう話」
「ふうん。白い布…この本棚のこと?」
ぐ、と引っ張ると、何かに引っかかっているのか、布は外れなかった。だが。よく見ると……天井の一部が黒くくすんで、腐敗しているように見えた。
「あ。噂の正体分かったかも」
「正体?」
「それって」
すると、どこかでバン、と何かの音が聞こえた。
「?」
2人で顔を見合わせると…開いていたはずの扉が閉まっていた。
「あれ?なんで……」
「まずいかも……」
フォーレがドアに駆け寄るも…しっかりと扉が閉まった状態で、ドアノブがすっかり抜けていた。
「開かない…っ」
「…このドアも噂があったよね?」
「ドアと言うか…この部屋に閉じ込められるってのは、聞いたけど」
「………」
(この間の…イリシユの時と状況が似てる。)
あの時外れた窓は、もともと「ガタついてるからいつか落ちるんじゃないか」という噂があったと聞いた。これは仮説だけど、何かの拍子でそれが現実になるんだとしたら?
ここに来るまでの間、メガホン鳥に遭遇しなかった。
もしかして、何らかの意思でどこかに隠れていて…時を見計らって、爆発して噂を現実にした?
(でも、何のために…あ)
密室に放課後二人きり、それが何時間も閉じ込められていたまま。例えば、教官とかにみつかったとしたら…と、なると。もしかして元々あった噂に、人の感情が乗って化学反応を起こす、とか?
――噂の二人に、よくないことが起こればいい、と。
無責任な、小さな悪意が「噂」に重なったとしたら…?!
「……私、前科があるしなあ」
「シャル?」
「いや…なんか昔もこんなことあったよね」
「ああ……うん。あの時は、三人だったけど、今は」
言い終える前に、フォーレはカッと顔が熱くなって…思い切り顔をそらした。
(え。なんで、そんな新鮮な反応しちゃうの?!)
「!ご、ごめん、シャル」
「え、いや……ええと」
その時、ガタン、とどこかで音がした。
「フォーレ!危ない!」
本棚がゆっくりとこちらに向かって倒れてきて…私は咄嗟に、フォーレの腕を引っ張った。
そして、次の瞬間には…なぜか私がフォーレを押し倒してた…!
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