第79話 ラストダンスはあなたと
「教えてあげないって…」
「あら、だーってあまりにも面白くない答えなんですもの、可哀想になっちゃって」
(可哀想…)
ダイアナの容赦のない言葉に、唖然としてしまう。
その様子をさも面白そうに見やり、煙草をふかす姿は、呆れるほど悠然としている。
「知ってる?ランザの大王には……ええと」
少し間が空き、続けた。
「30人くらい?の妻がいるけれど、みんな等しく「幸せだ」って言うの。……50人以上いる子供たちと妃を全員幸福にするのはとても難しい!と、良くぼやいているわ」
「……」
「面白いことに、財政だったり国政だったり…そう言う業務は幸福度が高い人ほど、成果が上がるらしいわよ?だって、国は人でできてるもの」
「それは……そうでしょう。同時に、国を壊すのも、人だ」
「……王子様」
(そう、人は生きてるから、難しい)
感情があって、心があって…命を賭して守ることもあれば、花を折るように簡単に人を陥れる。
でも、生き続けるのは見えないモノが内側にあるからだろう、とも思う。
「あなたはきっと難しい人生を歩いてきたのね」
「別に、今更です」
「あら、今更だなんて…まだ若いんだもの!知ってる?人生の失敗は、未来の自分へのギフトよ?」
「嫌な贈り物ですね」
「うふふ。そう思うのは、まだその途中だから、よ。アー・シャルだってまんざらでもなさそうだし…まあ、ライバルはたっくさんいるみたいだけど?」
すると、ダイアナはすっと道を開ける。
「ま、気張りなさい!」
そしてひらひらと手を振り、その場を去っていった。
少し歩いていくと、王家の象徴とも言われる「アズール・ロサ」の薔薇園に入る。…そこに、彼女がいた。
「!!……シャルとセフィール」
思わず近くの物陰に隠れてしまう。
(何で隠れる必要が……)
出ていこうか逡巡していると…一瞬、言葉を失う。
流れる音楽に合わせて踊る二人は、とても美しい。
まるで、そこだけ舞台の1シーンの完璧で…足首に巻かれたハンカチが少し気になるが、それを感じさせないようなステップにターン。
羽根のように軽やかなセフィールのリードに、嫉妬を感じてしまう程。
「僕の時は…あんな風に笑っていなかった」
先ほどダイアナとの会話が脳内に何度も再生され、じわじわと効いてくる。
―――その後、カシオスがダンスホールに現れることはなかった。
**
「あれ?…カシオス様がいない」
ホールに再び入ると、丁度9曲目の音楽が流れている最中だった。
幾人か知っている顔を探してみるが、どこにいても360度目立ちそうなカシオスの姿が見当たらなかった。
(別に…何か用があるわけじゃないけど)
喉が渇いたな、と思いテーブルの元へ行こうとすると…厄介な人物に遭遇してしまった。
「やあ、リッハシャル!」
「……」
無視をするわけにもいかないので、無言で礼をする。
イリシユだった。
「あ、ま 待って!…その、この間のお礼を言いたくて」
「…礼?臣下として、当然のことをしたまで」
「そんなことを言わずに…君のおかげで、オレの尊い命は救われたんだ。命の恩人と言っても過言ではないさ」
「大げさです、…では」
「あ、ちょちょ!」
(しつこいなあ)
振り切りたいところだけど…と考えていると、イリシユが動いた途端。グラスを持ったウェイターにぶつかってしまう。
「!あぁッ」
「ん?」
「っ!」
ぐらりとグラスが傾き…ウェイターの青い顔がパッと目に入る。
(こ…この人、王族相手なんかに粗相をしたら…)
多分、きっと絶対怒られる。最悪、クビ?!
そう思ったと同時に、イリシユの腕をがっしりと掴む。
へあ?などと言う間抜けな声が聞こえると、そのまま腕を引っ張り、不本意ながらもダンスホールまで連行した。そして…
「お礼は結構です。それより、人ごみではあまり大仰に動かぬようになさって。危ないでしょう?」
「は、ハイ…」
「ダンスは?」
「あ、あまり得意では」
「仕方ありませんね」
「あっ……」
くる、と右足をかばいつつ軽くターン。
何度からしいステップを踏むと……音楽が終了した。ちらりとみると、先ほどのウェイターは、シルバートレイ上の洪水だけで済んだようだ。
(ふぅ。頑張る人は応援したい…!)
「あの…」
「!…では、これにて失礼いたします」
「……す、素敵だ」
回れ、右。とそのまま振り返らずに歩いて行ったので、イリシユの最期のつぶやきは聞こえなかった。
(あの人が絡むと、男女逆じゃない?的なトラブルが多いような)
「シャル」
「あ!…お父様」
「大活躍だったね。…足は大丈夫かい?」
「何とか。セフィール公子様が応急処置をしてくださいました」
その名を出すと、レイドックが一瞬真顔になる。
「ふむ。……ヴァラモの小増か」
「あはは…それより、お父様。ラスト・ダンスは私が選べるのでしょう?お願いしてもいいですか?」
「ああ、勿論。……娘の晴れ舞台の締めをまかせていただけるとは、光栄だ」
そして…夜は更けていく。
ラスト・ダンスの音楽が流れる中、カシオスはダンス・ホールが見渡せる場所で、手に持った二つの指輪を並べ、眺めていた。
「……君なら、レイドックを選ぶと思ったよ」
(本当に、こうしてみているだけで幸せなのに…どうしてこう、彼女の前では、制御できない)
こうしたら、どんな反応をするだろう?
笑ってくれる?それとも…怒るかな?
反応をくれるのが嬉しい。言葉を返してくれるだけで。
「でも…それじゃあ、自己満足だ」
ダイアナの先ほどの正解は、もうわかってる。
―――気が付いてしまった。
「難しいな…全く」
悲喜交々。
色々な感情が交差した、リッハシャル=ルドヴィガのデビュタントは、こうして幕を下ろした。
**
「はあ……」
ゴロン、と横になり、今日一日起きたことを反芻してみる。
(色々あったなぁ……人生で一番踊りまくった一日だったわ)
楽しいことも、面白かったことも。
トルソーに飾ってあるドレスを見ると、ついにやけてしまう。
「ホント、綺麗なドレス……ちょっと、夢みたい」
どこかふわふわしているような、そんな幸せな気持ちになる。
ただ、同時に明日から起きる出来事を考えると、自然とため息が出る。
帰り際、ご機嫌のラシーから思いがけない情報を貰ってしまった。
「シャル、明日の新聞の見出し、楽しみだね!!」
「え…それって」
「何言ってるの。現在トレンド真っ最中!な男性陣がこぞってシャルとのダンスを競い合ったんだもん。新聞記者が見逃すわけないじゃん」
「え?!だって…一応デビュタントって外部の人は立ち入り禁止で」
「そんなモンみんな守ってると思う?」
「そ、そう言うもの??」
と、言うわけで。ラシーは華々しい社交界デビューだね!などと笑っていたのだが。
(まあ……しょうがないかぁ……それよりも)
そう。楽しかったことは変わりない…でも、問題も増えた。
―――ガチャを、誰かが私の替わりに動かしている。
あのガチャが現われたせいでトラブルが増えたのか、元々そう言うありえないトラブルを自分が呼んだのか?とにかく。濃厚なイベント?が多かったように思える。
(こればかりは、ガチャのせいとは言えないし…そうだ)
本当は触りたくもないが、例の日記を手に取ってみる。
「やっぱり更新されてる…内容は、【素敵だった。】…… …阿保がッ。ん?」
無言で床に投げつけようとするが、ちらりと開いた前のページを見て、目を疑った。
「あの子、メイド服に合うかな」のくだり。
「あの子、メイド服似合うかな」
コメントが追加されました。
--どんな子?画像希望
--なになに?異世界系に行ってる系?マジ?
--創作にしては良作。フォローしてやる
見るたびに髪のページに文字が浮き上がり、自動的に刻まれていく。
「ウソでしょ…、これ、どこにつながってるの?」
それ以前のページをめくっても、変化はない。
突然、今日からその「コメント」は追加されているみたいで、とても不気味だった。
(もしかして…これもガチャの何かの効果ってこと?!なにそれ)
思い返せば、今日遭遇したガチャはどこか違うように見えた。
『さあ!ギャラリーはあなたのヒロインとしての行動を期待してます!もしやここで、大番狂わせ薔薇の貴公子様きた?!もう一人の幼馴染?それとも我らが主人公?!』
そう…ガチャは、【ギャラリー】という言葉を使っていた。
つまり…この一部始終を見ている者がいるということ。最初は、その会場にいる全員のことか、もしくは神様とかそう言う類と思っていたけれど、もしかして。
「このコメントする人たちが【ギャラリー】……」
考えたくはないけど、このガチャを引いている人物が何かの物語を進めていて…それに自分が巻き込まれているのかもしれない。
「物語性を持った人…?うーーん……」
現段階では、主人公らしき行動している人はいまいちよくわからない。
何しろ、もし何かの物語に巻き込まれているのだとしてても、そのジャンルはおろかどういう結末のストーリーなのかすら、想像できない。
あまりにも、情報が少なすぎるのだ。
(今更、物語の中でしたーって言われても。……そもそも、このガチャを回している奴が、私と同じところにいたとは限らない)
日記の内容からして、近くにいる人物のように思えるけれど。
「せめてこの物語のタイトルとか…ジャンルだけでもわかればいいのに」
暦は6月。
あとひと月もすれば、サマータイムバケーションの季節になり、学院から遠のく。
「よし…夏休みまでに、この日記の主を絶対見つけよう」
そして、決意を新たに…床に就いたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます!精進します!




